本作以外に東野圭吾先生「名探偵の掟」についてネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
2010本格ミステリ・ベスト10 第1位――本作続編『密室殺人ゲーム2.0』(講談社ノベルスより絶賛発売中)
2004年版『葉桜の季節に君を想うということ』に続き、2回目のNo.1達成!!
<頭狂人><044APD><aXe(アクス)><ザンギャ君><伴道全教授>。奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである……。リアル殺人ゲームの行き着く先は!?歌野本格の粋を心して堪能せよ!
(講談社公式HPより)
<感想>
ぶっとんだ設定に注目されがちの本作。
だが、本作にはもうひとつの顔がある。
本作は、東野圭吾先生「名探偵の掟」と同種の閉塞感に満ちている。
「名探偵の掟」では、最終的に「意外性のある犯人とは誰か?」から「ミステリがどこへ行き着くのか?」まで話が展開した。
本作でもそれは同じで、ひたすらトリック重視になっていき、意外性を求めて先鋭化していけばいくほど先細り追い詰められていく姿がそれとは明記されていないが読みとれるようになっている。
ラストの頭狂人の行動などはまさにそれを象徴しているだろう。
それはさながら、ミステリ作家が新しいトリックを考案し貪欲な読者に供するに似ている。
我々読者は意図せず、このゲームの参加者のようにあれもダメ、これもダメと作品の品評を行う。
そして、作者はそれに応ずるべく意外性に次ぐ意外性を求めて作品を深化させ、結果は意外性や斬新さばかりが注目されるようになり、作者自身が追い詰められていく。
本作のプレイヤーは作者であり、読者である。
そんなメタファが本編には満ち溢れている。
単なる殺人ゲームに留まらない所が本作の魅力ではなかろうか?
「名探偵の掟」では「シリーズ探偵が犯人」となったが、本作では「シリーズ探偵が被害者」とでも言うべき結論を迎えている点も見逃せない。
続編「密室殺人ゲーム2.0」と併せて読むとさらに思う所があるだろう。
・「密室殺人ゲーム2.0」(歌野晶午著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
ちなみに2010年12月現在、雑誌「メフィスト」(講談社刊)にて「密室殺人ゲーム・マニアックス」が連載開始されました。
新たなサプライズがあなたを待つ……かも。
2011年1月10日追記:
「密室殺人ゲーム・マニアックス(前編)」(歌野晶午著、講談社刊、メフィスト2010 vol3収録)ネタバレ書評(レビュー)追加しました。リンクよりどうぞ!!
・後編はこちら(2011年4月14日追加)。
「密室殺人ゲーム・マニアックス(後編)」(歌野晶午著、講談社刊、メフィスト2011 vol1収録)ネタバレ書評(レビュー)
蛇足:本作に登場する5種のハンドルネーム。
これ、実際にネット上に存在しています。
本作を模したのかオリジナルなのかは不明ですが……。
特に「044APD」さんは割と多い。
検索してみれば一目瞭然。
あなたもネット上で出会うことがあるかも……。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
頭狂人:プレイヤーのひとり、映像はダースベイダーのマスクを着用。愛称は「ベイダー卿」。
044APD:プレイヤーのひとり、映像はプジョー505。愛称は「コロンボ」。
aXe(アクス):プレイヤーのひとり、映像はホッケーマスクに手斧の怪人。
ザンギャ君:プレイヤーのひとり、映像はカミツキガメ。
伴道全教授:プレイヤーのひとり、映像は口に含み綿をした白衣の人物。
ネット上で殺人ゲームを出題し合うハンドルネーム「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」の5人。
ここまでなら普通(?)の光景かもしれない。
だが、彼らは普通では無かった。
彼らの殺人ゲームはすべて彼等自身が犯人として実行したリアルな事件ばかりだったのだ。
しかも、既にそれぞれがゲームの出題者として参加しており、これはプレイヤーが全員殺人者であることを示していた。
そんな、ある日の問題。
出題者は「aXe」。
出題は連続殺人のミッシングリンクを捜すこと。
これがなかなかの難問で、被害者多数の上、半年にも渡る長期戦に。
しかし、「044APD」通称「コロンボ」がそれぞれの関係性「モノポリー」と「干支」に気付き終止符がうたれた。
数ヵ月後、出題者は「ザンギャ君」。
名前通り首と胴体を切り離した残虐な犯行がそれである。
出題はアリバイトリック。
被害者の悲鳴が聞かれた時間、彼は他のメンバーと話をしていたというもの。
この完璧なアリバイに「頭狂人」は記者を名乗り被害者周辺を聞き込む。
被害者の同僚である鶴巻によれば見慣れない小包が当日室内にあったらしいが……。
聞き込んだ内容を披露し、一歩リードしたかに思われた「頭狂人」だったが、自説はハズレ。
結局、「コロンボ」により胴から切り離した首を楽器に見立て気化したドライアイスを利用し悲鳴を作りだすとの驚天動地のトリックが見抜かれることに。
さらに数ヵ月後、出題者は「伴道全教授」。
海外に居た教授が、日本は静岡のサービスエリアに居た被害者をどうやって殺害したのか?
それが出題の内容―――つまり、時刻表トリックだ。
これまた「コロンボ」が「教授」は「集団旅行」を利用しチャーター機で移動できる立場にあったと看破。
教授は学校関係者で修学旅行に参加していたのだ。
そこから、時刻表に無い旅客機(チャーター機)を使用し国内に戻り殺害したことを指摘する。
次なる出題者は「044APD」(コロンボ)。
屋内は警備システム、屋外は警備員と周囲を壁に囲まれたある建売住宅での殺人事件。
「044APD」は如何にしてこの3重密室を突破したかが問題の内容。
頭を悩ます残りの4人だが、「044APD」の送りつけて来た小説をヒントに真相を突き止める。
それは、建売住宅が完成し居住者が入居する直前に家の屋根裏に忍び込み、1カ月以上そこで生活し機会を覗っていたという想像を絶するトリックだった。
壁が出来る前に中に入り込み、事件後に悠々と逃げ出したのだ。
この執念と驚異のトリックに絶句し脱帽する一同。
このまま「044APD」の圧勝かと思われたが、「頭狂人」には負けない秘策があると言う。
日を改め、出題者は「頭狂人」(ベイダー卿)。
とあるマンションで吾妻という男性が鍵のかかった自宅で殺害された。
ちなみに被害者には妹がいるらしい。
密室とはいえ、それだけで何の変哲もない出題に他のメンバーは不満気味。
「頭狂人」は「044APD」にも負けない名作と自負するが……。
当の「044APD」も現われず、問題の謎は解けないまま。
だが、「頭狂人」と1対1で連絡を取った「ザンギャ君」が真相を突き止める。
自らの正体が鶴巻であると明かす「ザンギャ君」。
以前の「ザンギャ君」による出題で、このゲームのプレイヤー以外は知りえない筈の情報を持ちリアルで鶴巻へとインタビューにやって来た自称記者が「頭狂人」であると見抜いていたと言う。
その自称記者を被害者宅のマンションで見かけた「ザンギャ君」は彼女の正体を知り、この問題の本意に気がついた。
この問題は「密室トリック」ではなく「意外な犯人トリック」だったのだと。
そう、「頭狂人」は被害者の妹だったのだ。
こうしてこの問いも終わりを告げた。
しかし、本当の驚異はこの直後に待っていたのだ。
「頭狂人」の兄、つまり殺された被害者こそが「044APD」の正体だったのだ。
二人は兄妹だったのである。
兄妹ゆえに影響を受け嗜好が似通ったのか?
ニッチな嗜好ゆえ二人は常に隣り合っていた。
「044APD」つまり、「コロンボ」と知らずに兄を殺してしまった「頭狂人」。
じょじょに彼女は狂って行く……いや、既に狂っていたのかもしれない。
「頭狂人」こと吾妻は他の3人を貸別荘に呼び出す。
遂にリアルで顔を合わせた4人。
ここでそれぞれの正体が明らかに。
「頭狂人」は女性の吾妻(東京人=東=吾妻から)。
「044APD」は吾妻の兄で故人(PCのパスワードから)。
「aXe」は警視庁会計課勤務の尾野(アックス、つまり斧のモジリ)
「ザンギャ君」は鶴巻(名前にちなみ映像が亀だった)。
「伴道全教授」は女子高生(名前は不明、坂東?)。
ここで「頭狂人」は自身の命を賭けた爆弾ロシアンルーレットを実行に移す。
自分と他のメンバー3人を含む4つの座席のうち、どれかひとつに爆弾のスイッチが仕掛けてあり、ランダムで設定した当たりに座っている人間が席を離れると「頭狂人」が爆発すると言う。
彼女が言うには「あくまで爆弾の被害は自分ひとりにしか適用されない」らしい。
既に座ってしまっている3人。
立てば「頭狂人」が死ぬかもしれない。
「これまでのような惰性の“ゲーム”では無く、リアルで最高の“ゲーム”」と主張する彼女を必死に宥めることに。
3人はそれぞれの理由(寝覚めが悪い、騒ぎが起こるのは困るなど)により必死に「頭狂人」を押し留めようとするが……彼女は止まらない。
果たして、誰が彼女を殺すのか?それとも、止めるのか?
未だ“ゲーム”は終わらないのだった―――エンド。
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