2010年12月13日

「スプリング・ハズ・カム(放課後探偵団収録)」(梓崎優著、東京創元社刊)

「スプリング・ハズ・カム(放課後探偵団収録)」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

放課後探偵団


1980年代生まれ、創元デビューの新鋭5人が書き下ろす学園推理。

『理由あって冬に出る』の似鳥鶏、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞した相沢沙呼、『叫びと祈り』が絶賛された第5回ミステリーズ!新人賞受賞の梓崎優、同賞佳作入選の〈聴き屋〉シリーズの市井豊、そして2011年の本格的デビューを前に本書で初めて作品を発表する鵜林伸也。ミステリ界の新たな潮流を予感させる新世代の気鋭5人が描く、学園探偵たちの活躍譚。

目次
似鳥 鶏「お届け先には不思議を添えて」
鵜林伸也「ボールがない」
相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」
市井 豊「横槍ワイン」
梓崎 優「スプリング・ハズ・カム」
(東京創元社公式HPより)


<感想>

「放課後探偵団」は青春ミステリで固めたアンソロジー集。
5編とも高校生時代のエピソードが事の中心となる。

中の一篇、梓崎優先生「スプリング・ハズ・カム」は卒業式から15年後の同窓会を舞台に卒業式当時に起こったある事件の真相(犯人)を突き止める物語。
その過程でほろ苦い事実が浮かび上がる構成は見事。
タイトル「スプリング・ハズ・カム」の意味もラストで判明し、その際にはある感動に包まれるだろう。
本作に仕掛けられたトリックも上手い。
流石は「叫びと祈り」の作者!!と手を打つこと請け合いだ。

端的に表現すれば同作者の「凍れるルーシー」のハートフル版かな?

◆関連過去記事
「叫びと祈り」(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ批評(レビュー)

・梓崎優先生「叫びと祈り」が席巻。
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<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
鳩村:男性、放送部のひとり、主人公
支倉:女性、放送部のひとり
志賀:男性、放送部のひとり、現在は教師
石橋:女性、放送部のひとり、現在は保険外交員
沼:男性、当時ボーカリストを目指していた
熊先生:男性、放送部顧問

卒業式より15年後、同窓会が行われた帰り道、駅のホームでのこと。
鳩村は隣に座る支倉に「犯人が分かった」と語りかけた。

数時間前、鳩村は同窓会の会場に居た。
15年の月日は若者たちを年齢相応の大人に変えていた。
それは鳩村が在籍した放送部のメンバーも同じ。
鳩村を除く放送部3人のうちの1人、志賀は結婚し教師になっていた。
同じく、石橋は保険外交員として活躍していた。
ひとり昔と変わらないのは支倉くらい。
かくも15年は長いのか―――中には15年の間に事故で命を落とした者も居ると言う。

15年前、皆で埋めたタイムカプセルが掘り出される。
同窓会が盛り上がり始めたその頃、当時の恩師で放送部顧問だった熊先生が壇上でタイムカプセルから無作為に選んだメッセージカードを読み上げ始めた。

「おや?」熊先生が戸惑いながら5枚目を拾い上げる。
5枚目に読み上げたそこにはある犯行声明文が書かれていた。
それはある事件の犯人を名乗る者からの手紙だった。

ある事件―――事の発端は15年前の卒業式に遡る。

当日、放送部は式に合わせた音源を確認していた。
そこへ支倉が「燃え北」のCDを持ち込んで来た。

「燃え北」とは「燃えよ北高 バーンバーンバーン」の略で、鳩村たち放送部が詞を提供、バンド志望だった沼が曲とボーカルを担当し出来た歌だった。
ほんの軽い気持ちだったが、これが大受け。
放送部の一番の仕事と評価された歌となった。
もちろん、卒業式で放送することはご法度。
そのまま何事も無く済む筈だった。

鳩村たちは、音源の確認を終え卒業式へ。
ところが、事件は沼の卒業生答辞で起こった。
当初の予定を裏切り、「燃え北」が流れ出したのだ。
騒然とする場内。
呆気にとられていた沼だったが、急遽答辞に変えノリノリで「燃え北」を歌い出す。

慌てた鳩村たちは音源を確認すべく部屋へ向かう。
志賀の鍵で中へ入るとCDを取り出す鳩村たち。
その頃には答辞は終わり、式は異様な盛り上がりを迎えるのだった。

卒業式後、犯人捜しが行われた。
部屋には鍵がかかっていたが室内は無人。
もし、鍵を使って扉を閉めたとしても通路には放送部員が詰めていた。
見つからずに逃げることは出来ない。
そして、扉以外には窓しか出口は無い。
だが、窓から脱出するには高さがあり命の危険が存在する。
一種の密室だったのである。

そこで、真っ先に疑われたのは当の放送部の面々。
しかし、幸い卒業式だったこともあり、追及される時間もなかった。
鳩村はそのまま故郷を去り東京の大学に進学した……。

そして15年後の今、同窓会に参加。
こうして故郷の地を踏んでいるのだ。

犯行声明により期せずして異様な雰囲気に包まれる同窓会。
鳩村たちは犯行声明が誰からのものか、つまり、犯人は誰かを突き止めようとする。

それぞれがそれぞれの推理を述べて行く。

まず、鍵を持っていた志賀犯人説。
物理的に鍵が無ければ施錠出来ないことから生まれた説だ。
だが、部屋の扉は建付けが悪く鍵なしでも閉められることが判明し否定される。

次に、CDを持ち込んだ支倉犯人説。
支倉が事前にCDに無音部分を入れておき時限装置の代わりとした説だ。
だがこれも、熊先生が没収した当時そのままの「燃え北」CDをその場で再生したことで否定される。

そして、熊先生犯人説。
教師なら、幾らでもCDを擦り替えることが出来ることを根拠とする説だ。
しかしこれも、教師となった志賀が教員の志を持つ熊先生なら卒業式を台無しにしかねないことは絶対にしないと否定。

結局、あれやこれや意見が出たものの「子供らしい悪戯だけに生徒の中に犯人がいたのでは?」との推測に留まった。

一次会を終え、東京へ帰るべく一足先に会を抜けた鳩村。
志賀や石橋と別れを交わす。
そのまま駅へ―――そこで、鳩村は支倉を犯人だと断定する。

根拠は同窓会のあの場で犯人が名乗り出なかったこと。
既に15年が経過した上に、誰もが軽い悪戯程度の認識しかなかったこの事件。
それならば犯人は名乗り出ても良い筈だ。
だが、それをしなかった―――いや、出来なかった。
何故なら、犯人は既にこの世には存在しないから。

そう、支倉は既に死亡していたのだ。
大学時代に事故で命を落とした同級生こそ支倉だった。

鳩村の前に居る支倉は幽霊だったのだ。
しかも、彼女は鳩村にしか見えないらしい。
他の誰もが彼女を認めることが出来ていなかった。

素直に犯行を認める支倉。
動機はそのまま故郷を去る鳩村に想い出を作るため。

不可思議な密室の理由もひとつしかなかった。
支倉は若者らしい無邪気さと根拠のない自信から自身の生命の安全を確信し、窓を脱出ルートとして利用したのだった。
それは大人では恐怖が先立ち考えられないルート。

高校の制服に身を包んだままの支倉の幽霊は、同窓会で出会った仲間たちが自分を置いて大人になってしまったことを羨む。
そして、自身の存在が儚く消えてしまうことを悔やむ。

そんな支倉に「俺は忘れない」と力強く語りかけた鳩村は「そして皆も」と付け加える。
事件の犯人は不明のままだ。
今後も同窓会の度に、話題に上るだろう。
その度に支倉は甦る……。

その言葉に支倉は微笑むと姿を消すのだった―――エンド。

「放課後探偵団 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)」です!!
放課後探偵団 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)



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