2011年01月25日

「光と影の誘惑」(貫井徳郎著、東京創元社刊)

「光と影の誘惑」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

光と影の誘惑


銀行の現金輸送車を襲い、一億円を手に入れろ──。鬱屈するしかない日常に辟易し、二人の男が巧妙に仕組んだ輸送車からの現金強奪計画。すべてはうまくいったかのようにみえたのだが……。男たちの暗い野望が招いた悲劇を描く表題作ほか、平和な家庭を突如襲った児童誘拐事件、動物園での密室殺人、ある家族が隠し続けた秘密など、名手・貫井徳郎が鮮やかなストーリーテリングで魅せる、珠玉の傑作中編ミステリ4編。解説=西澤保彦・香山二三郎

目次

「長く孤独な誘拐」
「二十四羽の目撃者」
「光と影の誘惑」
「我が母の教えたまいし歌」
(東京創元社公式HPより)


<感想>

再読です。
集英社版「光と影の誘惑」以来、4年ぶりくらいになるのかな?
すると、驚いたことに初読時に比べて感想がだいぶ変化していました。

収録内容は表題作「光と影の誘惑」含む4篇。

自他共に仕事が出来ると認められた主人公。
ある日、息子を誘拐されてしまう。
彼は誘拐犯に別の子供の誘拐を命じられるが……「長く孤独な誘拐」。

男性が動物園のペンギン舎の前で銃殺死体で発見された。
凶器の拳銃は発見されたが、指紋は検出されない。
犯行時刻にペンギン舎に近付いた者はおらず捜査は難航。
目撃者はペンギン舎に住むペンギン24羽のみだった……。
この事件に挑む私立探偵の主人公。
さまざまな推理を組み立てるが悉く失敗してしまう。
真相は果たして……「二十四羽の目撃者」。

主人公は銀行員。
妻子からは軽んじられ日々に行き詰まりを感じていた彼は、ある日、出会った男と共に勤め先の現金強奪を企てる。
計画は成功し、万事上手くいったかに思われたが……とある難題が持ち上がる「光と影の誘惑」。

東京で暮らしていた主人公に父の訃報が。
田舎にひとり残された母を案じた主人公は故郷に帰る。
父の葬儀の席で父の友人という弔問客から姉・初音の近況について尋ねられるが主人公には答えられない。
何故なら、主人公は姉・初音の存在など知らなかったから……。
これは、一体どういうことなのか?「我が母のおしえたまいし歌」

これらの続きはネタバレあらすじからどうぞ!!
では、感想の続きです。

当時は読んでも「傑作」との印象を受けなかったのですが、今回の東京創元社版の出版を機に再度読んでみたところ、意外や意外。
それぞれの中編が如何に工夫されているかに気が付きました。
流石に貫井先生の代表作「慟哭」や「プリズム」ほどでは無いにしろ、充分に貫井先生のカラーは出ています。

読後感についても当時は「何やら重苦しい」としか感じられなかったものが、今回は何やら別の感情が沸々と沸き起こります。
こう……この4年間のことが思い返されるような……。
言うなれば本作は「大人の味」のする小説だったのでしょうか?
これが分かるようになっただけでも、管理人が多少は成長したことの証でしょう(自画自賛)。

特に印象に残ったのは「長く孤独な誘拐」と「我が母の教えたまいし歌」。
初読当時は「2時間サスペンス」的と思っていた4篇でしたが、今回読み直してみてこの2篇に関してはぐっと胸に来るものがありました。
中でも「我が母の教えたまいし歌」については、一種の幻想文学的な趣きがありその点でも高評価となりました。
<ネタバレあらすじ>でも特に力を入れてます。
多少は雰囲気が伝わると良いのですが、やっぱり小説には敵わないようで1割も伝えられてない感じ。
これはもう、「光と影の誘惑」自体を読んで下さいとの啓示でしょう。
読む価値はあると思う。

◆「貫井徳郎先生」関連過去記事

「乱反射」(貫井徳郎著、朝日新聞出版刊)ネタバレ書評(レビュー)

「慟哭」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

<ネタバレあらすじ>

ここから完全にネタバレです、注意すること。


◆「長く孤独な誘拐」

自他共に仕事が出来ると認められた主人公。
ある日、息子を誘拐され、誘拐犯に別の子供の誘拐を命じられる。
命令のままに誘拐を実行した主人公だったが、誘拐した子供は「施設から養子に貰われた」と語るほど苦労を知る善良な子供だった。
可哀想に思う主人公だが自身の子供の命には代えられない。
そのまま誘拐犯の意に従うことに。

しかし、少しづつ誘拐犯の命令に奇妙なものを感じ始める主人公。
どうも、誘拐犯は被害者の全ての行動を予期していた節があるのだ。
どういうことなのだろうか?

不意を突き、誘拐犯を突き止めた主人公だったが、その正体に驚愕する。
自身の勤務先の支店長だったのだ。
返り討ちに遭い殺害されそうになったそのときに飛び込んで来る警察。
事態は急転直下の解決を迎える。

実は支店長は誘拐された子供の養父母の兄。
誘拐された子供には保険金が掛けられており、今回の誘拐は保険金目的の殺害をカムフラージュするための自作自演だった。
そのために間に主人公を挟み信憑性を増し、事後、主人公をも殺害するつもりだった。

誘拐された息子の安否を問う主人公に「既に殺した」と答える支店長。
主人公は絶望してしまう。

そんな主人公の耳に「お前は有能だったから選んでやったんだ」と支店長の声が響くのだった―――エンド。

◆「二十四羽の目撃者」

男性が動物園のペンギン舎の前で銃殺死体で発見された。
凶器の拳銃は発見されたが、指紋は検出されない。
犯行時刻にペンギン舎に近付いた者はおらず捜査は難航。
目撃者はペンギン舎に住むペンギン24羽のみだった……。

この事件に挑む私立探偵の主人公。
さまざまな推理を組み立てるが悉く失敗する。

やがて、主人公は被害者の娘に辿り着いた結論を告げる。
それは被害者は自殺ということだった。
どの推理も上手くいかない筈だ、そのどれもが被害者は何者かに殺害されたことを前提に組み立てられたものだったのだから。

拳銃に指紋が残されていなかった理由はこうだ。
被害者は拳銃で自殺する際にグリップ部分にビニールをあてていた。
そのビニールの先には動物園特有の風船を繋ぎ、死後、ビニール共々証拠が隠滅されるように図っていたのだ。

すべては、妻と娘に保険金を残す為の計画だった。
真相を白日の下に曝せば保険金は下りない。
主人公は故人の遺志を汲み、この真相を娘以外の誰にも明かさないことを決意するのだった―――エンド。

◆「光と影の誘惑」

主人公は銀行員。
妻子からは軽んじられ日々に行き詰まりを感じていた彼は、ある日、出会った男と共に勤め先の現金強奪を企てる。
計画は成功し、万事上手くいったかに思われたが……。

数日後、奪った現金の一部にある誘拐事件の身代金として用意されたものが混じった為に紙幣が控えられていると判明。
使用すればすぐにでも足がつくと分かる。

共犯の男にその旨を伝えるのだが、相手は納得しない。
揉み合う内に誤って相手を殺してしまう。
仕方なく奪った現金を持ちかえる主人公。

それから数年。
金は家の段ボールに隠されていた。
あの金さえあれば……と思うものの恐くて使えない。
今日も今日とてサービス残業をこなした帰り。
自宅へと辿り着いてみればやけに静かだ。

おそるおそる覗き込んだ主人公の目に妻子の死体が飛び込んできた。
直後に胸に感じる鈍い衝撃。
気付けば包丁に刺し貫かれていた。
主人公を刺した男は笑う。

「よくも親父を殺してくれたな。まぁいい、親父の取り分はあんたのも合わせて全部頂くぞ」と。
刺したのはあの死んでしまった男の息子だった!!―――エンド。

◆「我が母のおしえたまいし歌」

東京で暮らしていた主人公に父の訃報が届く。
田舎にひとり残された社交性の低い母を案じた主人公は、自身が恋人に堕胎させたことからその場を離れたい気持ちもあり急いで故郷に帰る。

帰りつき、年齢に比して若々しい普段通りの母の姿を見かけ安堵する主人公。
直後、父の葬儀の席で父の友人という弔問客から姉・初音の近況について尋ねられる。
だが、姉の存在など生まれてこの方聞かされたことがない。
寝耳に水の出来事に呆然としていると、傍らの母が「結婚してアメリカに住んでいまして」と代わりに応じていた。
母親の態度に異質な何かを感じた主人公は、自身が隠し事をされていたこともあり母を問い詰める。
そこで、初音は主人公が生まれる前に事故で死亡したと説明される。

「事故死ならば何故最初にそう言わなかったのか?」

腑に落ちなかった主人公は件の弔問客を訪ね詳細を聞く。
彼によれば、初音が死んだなど初耳だと言う。
以前、主人公の両親と初音の親子は東京に住んでおりある日を境に姿を消したとのことだった。
更に詳しい事情を聞く主人公に彼は当時の母と親しかった友人の連絡先を教える。

主人公は「もしや初音は殺害されているのでは」と夢想することに。

教えられた相手を訪ねたところ、初音は父の実子ではないことが分かる。
母の連れ子だったのだ。
母は若かりし日に乱暴され初音を身籠ってしまった。
それを承知で父が結婚したらしい。

さらに、主人公の一家が引っ越す直前には初音が17歳だったこと。
母が「初音と夫が仲が良過ぎて困る」と愚痴っていたことも判明する。

ここに来て「もしや……」と新たな夢想を巡らせる主人公。
堕胎させた彼女に結婚を申し込むものの、別れを告げられた主人公は傷ついた心を抱え母のもとへ向かう。

主人公は自身の夢想全てを母にぶつけることに。
殺されたのは初音ではなく、母ではないか?
当時の初音が父の子を妊娠しており、それが母に知られた為ではないか?

息子の問いにも顔色ひとつ変えない母。
逆に父亡き今、新たな大黒柱となった主人公に熱い視線を送り続ける。
主人公の中で自身の夢想が確信に至りつつあった。

「当時、僕を妊娠していたんだ。そうなんでしょ、母さん……いや、初音さん」―――エンド。

「光と影の誘惑 (創元推理文庫)」です!!
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