<あらすじ>
【特集】小説で知る「戦国の姫」たち ◎インタビュー 諸田玲子 ほか 連載小説】乾くるみ「カラット探偵事務所の事件簿 Season2」/宮部みゆき「桜ほうさら」/山本兼一「まりしてん?千代姫」/朱川湊人「箱庭旅団」/ヒキタクニオ「紅い三日月」 ほか
(PHP研究所公式HPより)
<感想>
管理人の通う書店では女性作家の棚に並ぶ乾くるみ先生。
で・す・が、れっきとした男性です(これもある意味叙述か)!!
乾先生、市川尚吾名義で評論もされてます。
その著作のひとつにして、意外なサプライズでラストを締め括った「カラット探偵事務所の事件簿」がシーズン2を迎えました。
そう、乾くるみ先生「カラット探偵事務所の事件簿 Season2」が「文蔵」にて連載中!!
2011年2月号には第2回が掲載されました。
・シーズン2第1回「小麦色の誘惑」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(1)小麦色の誘惑(文蔵2010年11月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
そこで今回は第2回「昇降機の密室」についてネタバレ書評(レビュー)しちゃいます!!
しかし、「事件簿1」を知る身としてはあの壮大なラブレターオチ(詳しくは本記事最下部にネタバレあり)がある限り続編は難しいのではないかと考えていただけにこのシーズン2自体が大きなサプライズです!!
早速、第1回に引き続き第2回も読んでみましたが軽妙な語り口やストーリー展開は今回も健在。
今回も拍子抜けするようなラストですが、このシリーズに限ってはお約束でしょう。
むしろそれが味になってるし、シリーズを通じての伏線にもなっています。
ただ、今回はコレが難点だったと言えなくもないのが残念。
ラストのアレを活かす為に、完璧な密室であったことを証明する必要があり、その説明として「岡持ち論理(ロジック)」などが通用しないことを証明し穴が無いと示して見せたのだと思うのですが、結果から明らかなミスリードと分かるロジックが中盤の大勢を占めるのはどうでしょうか。
短編なので、あり得ない「岡持ちロジック」がページを大幅に取るのは抵抗がありましたし、あそこは読まなくても本筋は通用してしまうような気がします。
それでも、「岡持ちロジック」が別のロジックで否定されるならアリですが、電話確認のみで否定されるのもモヤモヤ。
結局、最初と最後を読むだけでもある程度の話が完成されてしまうのはちょっと……と思うのですが。
もちろん、あれがあるからこそラストのサプライズが映えるわけなんですが、そのラストも抜群とも言い得ないからなぁ……。
個人的には第1回の方が好きでした。
第2回はちょっと首を傾げるかな?
とはいえ、まだ物語(シーズン2)は途上の筈。
早く次の話が読みたい!!
蛇足:今回のシーズン2は今の所2回とも「密室」ネタ。
第3回も「密室」ネタならば、シーズン2ラストにて意外な大仕掛けがあるかも……と予想してみる。
◆「乾くるみ先生」関連過去記事
・「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(1)小麦色の誘惑(文蔵2010年11月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
古谷が探偵事務所を構えているビルでエレベーターの点検が行われることに。
事情をすっかり忘れていた6階の店子は、うっかり非常階段から外へ出たところ戻ることが出来なくなり4階の古谷に助けを求めて来た。
点検が終わるまで場所を貸すことで落ち着いた一同。
ところが、無事点検も終わり6階に戻った件の店子からSOSの電話が。
なんでも、「とても高価なもの」が無くなってしまったらしい。
盗まれたのかもしれないと嘆く店子の為に古谷が一肌脱ぐことに。
早速、現場の6階へ出向くことにした古谷。
途中、5階の歯科医院も覗くが異変はない。
つまり、異変は6階でのみ起こったわけだ。
とりあえず、6階の店子から事情を聞いたところ、盗まれたかもしれないものは「内容は明かせないが非常に大切で高価なもの」らしい。
6階の店子が席を外したのは古谷を頼って事務所に居たエレベーターの点検時のみでそれ以前には確かにその高価なものは存在していたと言う。
しかも、6階の店子が戻れなかった以上、他に6階へと向かう方法は存在しない。
密室だったのだ!!
ひとしきり「密室」との言葉に酔いしれる古谷。
やがて、頭をフルに回転させると「岡持ち犯人説」を唱える。
6階の店子が一月以上前に出前を取った際の器。
その回収が未だ為されていないことを発端としたロジック。
流石に一月経過したので回収しに来た岡持ち。
1階でエレベーターの点検に気付くが、エレベーターの点検員は岡持ちの姿を見て出前の邪魔は出来ないと遠慮。
結果、エレベーターに便乗させて貰い6階までやって来た岡持ちは、そこで宣伝がてらガチャリと扉を開け6階のテナントに侵入。
そこで「高価なもの」を見つけた岡持ちはそれを奪い逃走。
自身の来訪を隠す為に器は回収しなかったとの説だ。
もちろん、古谷の中では「エレベーター点検員犯人説」も浮かんではいるが、どうしても突飛な犯人を捜したいらしい。
そこで、エレベーターの点検員に電話で確認をとるが「岡持ちは居なかった」と言う。
しかも、この電話で点検員が2人おり、到底盗みを働けるような状態では無かったと判明する。
こうして、完璧な密室が完成してしまった……。
崩すべき穴を見出せないか……と頭を抱えかけたそのとき!!
6階の店子の腕に長さ7メートルはあろうかというアメリカパイソンが絡みついた。
アメリカパイソン……つまりは蛇である。
そう、店子が盗まれたと主張していた高価なものとはこの蛇のことだったのだ。
流石にビルから借りているテナントで蛇を飼育していたと打ち明けるのは心情的に辛かったがための苦肉の言い回しだった。
つまり、高価なものは盗まれたのではなく脱走したのだ。
こうして事件は解決した。
古谷は語る。
「あれ以外にもたくさん飼っているに違いない」と。
とりあえず、古谷が言わないので記述者が此処に今回の事件についての感想を記す。
「ヘビーな事件だったぜ!!」と―――エンド。
◆「カラット探偵事務所の事件簿1」のラストについて
注意、ネタバレです!!
上にラブレターオチとあるけどその通り。
実はこの事件簿自体が壮大な告白の一環だった……とのラスト。
これに男性だと思われていた記録者こそが実は女性だったとの叙述トリックが絡む。
多少、蛇足気味ではあるが結構効果的だった。
ある意味、乾くるみという女性的なペンネームで実は男性というのに通じている。
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