ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
ここから夢に羽ばたいていく、はずだった。
誰も信じなくても、自分だけは信じよう。
加賀シリーズ最高傑作
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。
帯には、「加賀シリーズ最高傑作」と謳っていることだろうと思います。その看板に偽りなし、と作者からも一言添えておきます。――東野圭吾
(講談社公式HPより)
<感想>
加賀恭一郎シリーズ9作目。
シリーズには他に「卒業」、「眠りの森」、「どちらかが彼女を殺した」、「悪意」、「私が彼を殺した」、「嘘をもうひとつだけ」、「赤い指」、「新参者」がある。
【加賀恭一郎シリーズ】関連過去記事
・シリーズ7作目「赤い指」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「赤い指」(東野圭吾著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シリーズ8作目「新参者」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「新参者」(東野圭吾著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・ドラマ版「新参者」ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
「新参者」(TBS、2010年)
・ドラマ版「赤い指」ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
東野圭吾ミステリー 新春ドラマ特別企画「赤い指 シリーズ人気No.1ドラマ化最愛の人が殺人を犯したら!?加賀が解く涙の連鎖・家族の絆とは “新参者”加賀恭一郎再び!」(1月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)
では、早速「麒麟の翼」の感想を。
本作はモチーフを「赤い指」に重ねている。
これは明らかに意図的なものだろう。
どおりでドラマ版「赤い指」の放送直後にタイトルが発表されたワケだ。
プロモーションの仕方が考え尽されているなぁと感じた。
やるな、講談社!!
おっと、話が逸れた。
さて「麒麟の翼」だが、そのテーマは「親子の愛情」。
「赤い指」で全てが示されたと思われていた加賀父子の内面であったが、この「麒麟の翼」作中においても深く掘り下げられている。
それと、被害者である青柳武明とその息子・悠人の関係を加賀父子とだぶらせているのも特徴。
特に被害者である青柳が何故、日本橋の麒麟の像まで移動したかがキモ。
あの移動は若い芽を摘んではならないとの犯人への配慮だけでは無いだろう。
息子に最後に伝えたいメッセージがあれだったんだろうなぁと思うと胸を突いた。
さらに「赤い指」に登場した看護師・金森登紀子も見どころのひとつ。
加賀の父・隆正を看取った登紀子だが、何故か加賀父子に関わって来ている様子。
これは浅岡未緒とのヒロイン交代もアリか?
加賀ファンはやきもきしそう。
他には、タイトル「麒麟の翼」の使われ方も良かった。
ちなみに、ミステリとしてのトリックは特に見受けられなかったように思われる。
あくまで人間関係を主眼においた作品と言えるだろう。
総評として、「麒麟の翼」は本格ミステリファンには受け容れられにくいだろうが、社会派好きには堪らないような作品に仕上がっている。
ただ、確かに完成度はそれなりに高いが、東野先生の作品としては多少不満が残る。
ましてや、先生の最高傑作とは間違っても言えないだろう。
シリーズの一作としてはアリだが、単独ではそこまで力強いとは思えなかった。
「赤い指」の姉妹篇と考えるのが本作の正当な読み方ではなかろうか。
蛇足:印象的な表紙の麒麟。
あれは日本橋に実際ある物です。
日本橋中央部にある柱に置かれている麒麟像の一部がそれ。
制作したのは彫刻家の渡辺長男先生。
鋳造には渡辺先生の義父・岡崎雪聲先生が携わられました。
ちなみに、この麒麟は東京都公文書館HPのロゴにも使われています。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
加賀恭一郎:主人公、刑事。
松宮:加賀の従兄弟、今回も加賀とコンビを組む。
金森登紀子:加賀の父・隆正を看取った看護師。
加賀隆正:加賀の父、故人。「赤い指」で病死。
青柳武明:被害者。
青柳悠人:隆明の息子。中学校時代に水泳部に所属していた。
杉野:悠人の中学校時代の同級生。悠人と同じ元水泳部員。
黒沢:悠人の中学校時代の同級生。悠人と同じ元水泳部員。
糸川:中学校時代に悠人の所属していた水泳部の顧問。
吉永:悠人たちの中学校時代の後輩。事故で意識不明に。
吉永の母:意識の戻らぬ吉永を支える母親。
加賀は父・隆正の三回忌の手伝いの件で隆正の最期を看取った看護師・金森登紀子と会食していた。
「赤い指」以来、加賀と登紀子は直接顔を合わせることこそないものの、メールを通じてやりとりしていたらしい。
そこで、加賀が隆正の三回忌を行おうとしていないことを聞きつけた登紀子が加賀に隆正の意志を伝え損ねていたのではないかと考え、自身が手伝う代わりに実施を踏み切らせようとしていたのだった。
登紀子の意気込みに押し切られる形になった加賀は渋々それを了承する。
そんな折、日本橋の麒麟像の付近にて男性が刺殺体で発見される。
被害者は青柳武明。
不思議なことに刺された場所から死体発見現場まで自ら移動してきた形跡があった。
なぜ、青柳は助けを呼ばずそんなことをしたのだろうか?
事件の担当となった松宮と共に加賀が捜査に乗り出す。
直後に捜査は急展開を迎えることに。
容疑者と思われる青柳の勤め先の元従業員が現場近くで隠れていた所を発見されたのだ。
被害者から現金を盗んでいた彼は警察に追われ、逃げる途中で交通事故に遭いそのまま帰らぬ人となってしまう……。
一方、被害者である青柳の労災隠しが発覚。
青柳の息子・悠人は当初こそ父親に冷淡な態度をとっていたものの、ある日を境に父親を信じるような発言を繰り返すようになる。
そんな悠人によれば、青柳は労災隠しなど出来る人間ではないと言うが……。
加賀は容疑者に書店でのアリバイがあることを発見し、別に犯人が居ると確信。
容疑者は青柳から金を盗んだものの殺害までは犯していないと考えたのだ。
しかも、加賀は悠人の豹変に何か理由があると看破。
悠人の豹変が、松宮が青柳の死体発見現場が日本橋の麒麟像の付近であったことを教えたその日からであることに気付く。
さらに、被害者である青柳が水天宮を参っていたことを突き止める。
そこから悠人が中学校時代に水泳部であったこと、そこで起こった事故にまで遡って行く加賀。
事故に遭ったのは悠人の後輩・吉永。
先輩に紛れ1人レギュラーに選ばれるほどの実力の持ち主であったが、ある大会での惨敗を機に夜中に練習していたところ水に溺れ、以来意識不明の状態が続いているらしい。
悠人の水泳部時代の顧問である糸川に事情を尋ねるが、苦虫を噛み潰したような顔をするのみで糸川は真相を明らかにしない。
あくまで、吉永による勝手な事故だと言い張り続ける。
仕方なく、吉永の母を訪ねる加賀と松宮。
そこで吉永の母が息子の介護の日々を書き記したブログ「キリンノツバサ」を開設している事を知る。
そこには青柳がお参りしていた水天宮の写真が掲載されていた。
吉永の母によれば、その写真は熱心に励ましてくれるブログの読者から贈られたものだと言う。
もしや、青柳こそが写真の贈り主ではないか。
こうして事件が一本の線で繋がったことで、悠人に直接話を聞くことに。
その場は適当にあしらわれる加賀だったが、悠人が誰かを庇っていることに気付く。
一方、悠人は加賀たちから事情を聴かれたことで吉永の事故がなんらかの形で父殺害に絡んでいると考え、当時の事故の関係者である同級生の杉野と黒沢に連絡を取り、翌日の待ち合わせを約束する。
翌日、いつまでたっても待ち合わせに現れない杉野に苛立つ悠人。
同じ頃、事故当日に開催された大会のメンバーを調べ上げた加賀はそこに悠人と杉野、黒沢の名前を発見。
彼等に事情を聴くべく動き出す。
矢先、悠人から杉野のことを聞かされた加賀の表情が一変。
杉野の命に危険が迫っているとし、手配をかける。
ついに押さえきれなくなった悠人は事故の真相を加賀に教える。
当時、年下でありながらレギュラーに選ばれる吉永の才能を嫉んだ悠人、杉野、黒沢。
大会で惨敗した腹いせも兼ね、吉永に練習を強要、両足を拘束して泳がさせた為に事故に至ってしまったのだった。
顧問の糸川は真相を知りながら、悠人たちに将来の為と説明しこの事件を隠蔽してしまったのだ。
その後、悠人は日常に戻り吉永の事を忘れていたが、ある日、ブログ「キリンノツバサ」にて、吉永の病状を知る。
そこで悠人は罪の意識から励ましのコメントを記載。
それをきっかけに吉永の母とブログを介して交流するようになった。
勿論、吉永の母は悠人の正体を知らない。
時が過ぎ、水天宮を巡り写真を贈り始めた悠人。
ところがある日、父・武明にそれを見られてしまう。
悠人はこれを機に吉永の母との交流を終わらせることを決める。
一方、息子の態度に不審を抱いた武明は事故を調べ息子の関与を確信。
息子に代わり吉永の母へと水天宮の写真を贈り続けていた。
悠人はそうとは知らず、父との間にわだかまりを抱えていた。
それが解消されたのは松宮から父の死体現場が日本橋の麒麟像の付近と聞かされた時だった。
吉永の母のブログとの関連性に思い至った悠人は父の行動を調べ、父があくまで正義を貫く人物であることを知ったのである。
そこで、父に対する態度が豹変したのだった。
その頃、杉野は電車に飛び込もうとしていた所を間一髪保護されていた。
青柳武明殺害は杉野の犯行だったのである。
青柳の殺害当日、吉永の父を名乗る青柳から電話で呼び出しを受けた杉野。
その態度から吉永の事故に秘密があることを指摘されてしまう。
結局、すべてを話した杉野に青柳は悠人を出頭させると語る。
当初は納得した杉野だったが、悠人が出頭すれば自身の罪も暴かれてしまう。
そこで青柳を殺害することに。
だが、悠人から事故の件に警察が興味を持っていると聞いた杉野は真相がバレるのも時間の問題と判断し、自殺を図ったのだった。
こうして事件は解決した。
改めて糸川に事情を確認する加賀と松宮。
今度は素直に事故の真相を明かす糸川だが、そこには反省の色は無い。
加賀は責任者としての怠慢ぶりを批難する。
それでも、あくまで生徒の為と主張する糸川に、遂に加賀が激怒。
保身に駆られたからこその行動が間違った身の処し方を子供たちに教えたと責めるのだった。
後日、糸川は学校を退職。
その頃、加賀と松宮は隆正の三回忌について話をつめるべく登紀子と食事をしていた。
事の発端となった悠人と黒沢は、吉永の母に謝罪すべくその家へと向かうのであった―――エンド。
◆東野圭吾先生関連過去記事
【「麒麟の翼」関連情報】
・東野圭吾先生による加賀シリーズ最新作(9作目)タイトル判明「麒麟の翼」に!!
・加賀シリーズ最新作(9作目)となる「麒麟の翼」は2011年3月3日発売予定!!
・【続報】期待の新作「麒麟の翼」あらすじ判明!!
【「白夜行」&「幻夜」&「夜明けの街で」映像化ニュース】
・東野圭吾先生「白夜行」映画化に続き、「幻夜」がWOWOWにてドラマ化決定!!
・東野圭吾さん原作「白夜行」日本版映画化決定!!
・東野圭吾先生原作「夜明けの街で」が2011年映画化、キャストは近日公開!?
【東野圭吾先生原作ドラマ関連】
・金曜プレステージ 東野圭吾スペシャル 探偵倶楽部「大ヒット原作ドラマ化!名探偵最強コンビ誕生!大物社長突然の失踪に隠されたセレブ一族の醜い骨肉の争い…消える死体…驚愕密室トリックを暴け!」(10月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・2夜連続ガリレオSP「ドラマレジェンド ガリレオエピソードΦ」(12月28日放送分)ネタバレ批評(レビュー)
・「流星の絆」(TBS系、2008年)
【東野圭吾先生著作ネタバレ書評(レビュー)】
・容疑者Xの献身(文春文庫版)&映画版
・「探偵倶楽部」(東野圭吾著、角川書店刊)
・「白夜行」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「幻夜」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「殺意取扱説明書(毒笑小説より)」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「夜明けの街で」(東野圭吾著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・米国版「容疑者Xの献身」発売される!!タイトルは「The Devotion of Suspect X」!!
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