ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
伊賀忍者団vs.織田信雄軍。騙し騙され討ち討たれ最後に誰が残るのか――。大ヒット『のぼうの城』の著者による痛快無比の歴史エンターテインメント。
時は戦国。忍びの無門は伊賀一の腕を誇るも無類の怠け者。女房のお国に稼ぎのなさを咎められ、百文の褒美目当てに他家の伊賀者を殺める。このとき、伊賀攻略を狙う織田信雄軍と百地三太夫率いる伊賀忍び軍団との、壮絶な戦の火蓋が切って落とされた──。破天荒な人物、スリリングな謀略、迫力の戦闘。「天正伊賀の乱」を背景に、全く新しい歴史小説の到来を宣言した圧倒的快作。
(新潮社公式HPより)
<感想>
歴史エンタテインメント作品の登場です。
映画化すれば、妙な改変でもしない限り面白いことは折り紙つきの作品と言えると思う。
これから歴史物を読もうと考えている人には、文句なくオススメ。
まぁ、正確には歴史物(史実に忠実)よりは歴史エンタテインメント物(フィクションも含む)に分類されると思うけど、歴史物への間口としては申し分ない。
読み易いし、面白いし、入門書としてもバッチリだろう。
ここからは内容で印象に残ったことをつらつらと。
銭が中心だった無門がお国の死で小茄子を叩き壊すところはゾクッとした。
それだけ、お国が大事だったんだなぁと思うと胸を打たれた。
そして、伊賀滅亡直後の大膳の意味深な台詞。
あの台詞の意味は、今後、利己心に駆られる者が多くなるとのことだと思いますが、現在にも繋がるワケで何とも言えません。
金銭目当ての筈の伊賀忍の代表でもある文吾が、無門への復讐に燃え仲間を募り襲いかかろうとするラストも衝撃。
伊賀の復讐というワケで、仲間意識も薄く利益でしか動かない忍びがそれ以外で動いている以上、文吾もまた無門同様に、それまでの伊賀者の範疇から逸脱してしまったのかなと思いました。
だからこそ、忍びでは無く盗人として後の石川五右衛門となる。
つまり、大膳の発言とラストから察するに、伊賀者とそれ以外の人々とが平均化されてしまったのかもしれません。
それが現在に続いていると。
だからこそ、利益のみに生きる人もあれば、それを度外視して生きる人もいる。
そう考えると複雑だなぁ……。
そう言えば、柘植と平兵衛の宿願である伊賀滅亡が奇しくも両者を破った無門(柘植は間接的に)の手により為されていることも重要かもしれません。
結果、意図せず柘植と平兵衛は目的を達しました。
ここらも複雑だなぁ……。
複雑と言えば、ラストもそう。
文吾が伊賀者の範疇を超えたかも知れない事はもちろんのこと。
無門と文吾、どちらが勝ったのか?
普通に考えれば石川五右衛門である文吾が勝ったと思えるんだけど、どうしても、無門が負ける姿は思い描けない。
無門がその場を逃げ出したとしても、復讐心に駆られた文吾がそのまま放置しているとも思えない。
いずれかは命を落とすのではないか?
だとすると、やはり、文吾が勝ったのか?
いや、無門は負けそうにないし……。
ひょっとして無門が文吾を破り、文吾の代わりに石川五右衛門を名乗ったのか?
でもそれも、文吾が石川五右衛門であると地の文に記載されているから無いだろうし……。
う〜〜〜ん、ラストひとつでここまで考えさせられる歴史エンタテインメント物も珍しいかもしれない。
◆関連過去記事
【和田竜先生の作品はこちら】
・「のぼうの城」(和田竜著、小学館刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
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<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧
無門:主人公、伊賀随一の忍び。お国に頭が上がらない。
お国:無門の妻。安芸国の侍大将の娘。
織田信雄:織田信長の息子。伊勢の国司・北畠家に婿養子に入り乗っ取った。
日置大膳:北畠家の元家臣、現在は信雄に仕える。豪胆な将で知られる。左京亮は親友。
左京亮:北畠家の元家臣、現在は信雄に仕える。勇猛な将で知られる。大膳は親友。
柘植三郎左衛門:信雄の家臣。元伊賀者。伊賀を憎んでいる。
平兵衛:伊賀忍者。弟を無門に殺されたことで伊賀を棄てる。
文吾:伊賀の下人。無門をライバル視する。
木猿:伊賀の下人。老忍者。土遁の術を得意とする。
百地三太夫:伊賀の地侍。十二家評定衆のひとり。
大名を名乗る者が乱立し生存と繁栄を求めて争い合っていた戦国時代。
この弱肉強食の世の中で、一際輝く異色の集団があった。
彼等は物事の中心を銭に置き、その為には昨日の友を討つ事も歯牙にかけない虎狼の輩であった。
その者たちこそ、伊賀忍びである―――。
伊賀に隣接する伊勢国では、織田信長の息子・信雄が、伊勢の旧国主であり妻の父にあたる北畠具教を殺害し、伊勢の実権を奪っていた。
具教の元部下である有能な侍大将・日置大膳と左京亮は、心ならずも信雄の命に従い旧主を討ってしまう。
この情報を入手した伊賀を統べる十二家評定衆の1人、地侍の百地三太夫は狂喜乱舞する。
彼にはある企みがあったからだ。
早速、三太夫は下人を従え、同じく十二家評定衆の1人を攻めることに。
一方、百地家の襲来を察知した平兵衛たちは迎撃するも、百地家の抱える稀代の忍者・無門の前に大敗を喫する。
無門とは、その名の通り門など無きが如く行動できる身軽にして凄腕。
結果、無門の手にかかり平兵衛は弟を失ってしまった。
怒りに燃える平兵衛は無門に闘いを挑むが、他の十二家評定衆の仲裁により両家はあっさり和睦してしまう。
人死にが出ているのにも関わらず、スポーツの様な感覚であっさり事を終えた父の姿に失望した平兵衛は、行動基準を銭にしか持たず命すら軽んじる伊賀者を根絶やしにすることを誓い出奔。
「おのれらは人ではない」と言い置いて、信雄に仕える柘植三郎左衛門を頼る。
柘植も平兵衛と同じく過去に伊賀者に失望し、その根絶を誓った元伊賀者だったのだ。
柘植は平兵衛を同志と認め感激、共に伊賀を滅ぼそうと働きかける。
手始めに信雄を煽り、伊賀へ侵攻の橋頭保を築くべく築城することに。
銭で釣った伊賀者自身の手で築城させようと目論んだのだ。
しかし、この目論見は見抜かれており、銭を取られた揚句、城は焼き討ちされてしまう。
一方、無門は愛妻・お国に頭が上がらなかった。
お国は安芸の国のとある侍大将の娘だったが、無門が見初めて頭を下げて嫁にしたという経緯があった。
以降、お国は無門に多額の金銭を要求。
その条件を満たさない限り、夫婦生活を送る気は無いと常々語っていた。
その為に、せっせと銭を稼ぐ無門。
本来、伊賀者にとって余所者の存在は禁忌であり、お国もすぐにでも抹殺されかねないところだが、無門の実力から手出しが控えられていた。
城を焼き討ちされたことで、尚更侵攻の決意を固める信雄。
「お国への銭を稼ぎ出さなければならないのに、一銭にもならない防衛戦など困る」と考えた無門は信雄を説得するべく忍び込むが、その技に恐怖した信雄により、逆に火に油を注ぐことに。
もはや、伊賀への出兵は回避できないところまで迫っていた。
その頃、日置大膳は信雄との仲がしっくりいかず伊賀への出陣を渋っていた。
強敵を望む大膳にとって伊賀者は銭で左右される小者らしい。
だが、平兵衛や柘植から事の発端を聞かされた大膳は伊賀者の策略を看破し、強敵と認めた上で出陣を願う。
その策略とは、大膳が出陣していなければ伊賀が勝つというものだった。
つまり、伊賀は自分たちに有利な状況で開戦すべく環境を整えていたのだ。
大膳によれば、平兵衛の弟が無門に討たれ、平兵衛が出奔することも計画のうちに違いないと言う。
実はその通りだった。
三太夫ら十二家評定衆は伊賀の名を高め下人の派遣料を上げるべく、当時勢力を伸ばしていた織田家に目を着けた。
信長自身を破ることは難しいが、その息子・信雄を破ることで織田家に勝ったと喧伝するつもりだったのだ。
この計略の要が大膳の不参加だった。
しかし、大膳が出陣してきたことで計算は狂う。
しかも、下人たちはタダ働きは御免とばかりに逃亡者が続出。
到底、戦が出来ない状態にまで至りつつあった。
この事実を、三太夫は知らない……。
遂に信雄が侵攻開始。
元伊賀者の柘植と平兵衛の活躍や大膳の参戦、下人の逃亡により、伊賀勢は追い込まれる。
この頃、無門はと言えばお国を連れて国から逃げ出そうとしていた。
しかし、お国に叱咤激励されたことと、具教の娘から父の復讐の為に茶器・小茄子を信雄殺害の報酬として受け取ったことで考えを変える。
銭に釣られて動く伊賀者の心理を利用して小茄子を売却して発生するであろう大金で敵の首に賞金を懸けたのだ。
ここに、これまで脱出や日和見を決め込もうとしていた伊賀者たちが動き出す。
押し込まれつつあった三太夫ら伊賀勢。
そこへ、無門の提示した報酬に釣られた下人たちが参戦。
銭の執着は凄まじく、形勢は逆転する。
唯一、この流れを断ち切れるであろう日置大膳も無門との一騎打ちに手を取られ動けない。
後の石川五右衛門となる文吾や老忍者・木猿の活躍により、あっという間に信雄勢は押し切られ始める。
しかも、大膳は鎖帷子を脱いだ無門のスピードの前に敗北を喫してしまう。
事此処に至り、退却を決めた信雄勢。
柘植は自身の責任を感じ、殿を買って出る。
柘植はこの撤退戦で奮闘したものの、銭のことしか考えていない文吾や老いたゆえに労わるよう柘植に言われたことを侮られたと逆恨みした木猿に首を討たれてしまう。
退却した信雄、大膳、左京亮、平兵衛だったが、無門の待ち伏せに遭い全滅に追い込まれる。
戦が三太夫らの策略によるものであることを無門に教える平兵衛だったが、無門は引かない。
平兵衛は信雄たちを救うために自身が犠牲になることを決意し、伊賀者に伝わる「川」という決闘法を無門に申し込む。
これは互いの背後に線を引き、そこから一歩でも後ろに下がれば忽ち仲間の手で殺されるという決闘だった。
必ず敗者が二本線の中央に斃れることから「川」の名がついたのだ。
自身が勝てばこのまま逃げることはもちろんのこと、負けたとしても引き換えに信雄たちを見逃すことを無門に約束させる平兵衛。
しかし、伊賀者にとってはそのような口約束など何の効力もない。
無門も気軽に引き受けるが……。
決闘が開始。
必死の平兵衛は無門と互角の戦いを繰り広げる。
しかし、平兵衛の羅刹の如き闘いぶりも、少しづつ実力の差により追い詰められていく。
無門の刀が平兵衛の首筋を貫き、此処に決着した。
死が近づいて尚、先の約束の履行を迫る平兵衛。
無門は、何故か平兵衛との約束通り信雄たちを見逃すことにする。
大膳に平兵衛を伊勢の地に葬るよう依頼して。
その頃、戦に勝利し浮かれる三太夫ら十二家評定衆。
お国は無門が帰らぬことを心配し、周囲に安否を尋ねるが伊賀者の常で無門は死んだと嘘を教えられてしまう。
失って初めて無門の大切さを知ったお国。
そこへ生きていた無門が帰って来る。
無門は理由の分からぬ憤りから十二家評定衆に対して反乱を起こす。
三太夫は無門を討ったものへの褒美を約束。
これに、文吾や木猿らつい先程まで無門と共に信雄勢と戦った者たちがあっさりと無門を殺害する側に回る。
そこにこれまでの自分の姿を見出し、まさに虎狼の輩であると自嘲する無門。
このままでは無門が殺されると思ったお国。
報酬となる小茄子を盾に無門を助けようとするが、文吾や木猿らの手によりあっさり殺害されてしまう。
泣き叫ぶ無門は初めて自分がお国を欲していた理由を知る。
それは、お国が虎狼の群れの中で無門が人らしく生きる為に必要な存在だったからだった。
そして、平兵衛の生き様を思い出した無門は、何故、信雄らを見逃したのかにも気付く。
いつの間にか平兵衛の考え方に心動かされていたのである。
こうしてお国を失い怒り狂った無門。
小茄子を叩き壊すと「おのれらは人ではない」と言い置いてその場を去る。
無門は復讐鬼に変じたのだ。
信長の前へと現われた無門。
信雄の時と同じく自身の技を見せつけることで伊賀の危険性を説くと、そのまま姿を消してしまう。
これに脅威を感じた信長は伊賀攻めを決意。
大規模な軍勢を繰り出し、伊賀者を虐殺する。
三太夫は左京亮に斬られ、木猿は土遁の術を用いる最中に死亡。
無門は、伊賀の中で平兵衛に近い考え方の持ち主だった鉄という少年のみを救いだすと再び姿を消した。
此処に伊賀は滅亡したのである。
虎狼の輩は滅びたと語る左京亮に、滅びたのではなく分散しただけでいずれ我らの子孫に奴らの血が混ざるだろうと予言する大膳。
数年後、京の町。
其処に鉄と無門の姿があった。
無門はお国の墓参りを毎日欠かさず行っており、鉄から見ればまるで余生を送っているかのような風情だった。
そんなある日、お国の墓参りへと向かった無門の前に虚無僧姿の集団が現われる。
伊賀滅亡の発端となった無門への復讐に燃える文吾たちである。
無門と文吾たちの姿が交差する。
双方が獲物を抜いた―――エンド。
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