2011年04月04日

「感染遊戯」(誉田哲也著、光文社刊)

「感染遊戯」(誉田哲也著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『ストロベリーナイト』のガンテツ。
『シンメトリー』/「過ぎた正義」の倉田。
そして、捜査一課姫川班最若手だった葉山。

捜査一課殺人犯捜査係のガンテツこと勝俣健作が手がけた、製薬会社サラリーマンの殺人事件。

息子の起こした殺人事件によって刑事の職を追われる直前、倉田修二がかかわることになった、二人の男女を襲った路上殺傷事件。

姫川玲子班解体直前、殺人犯捜査第十係に所属していた葉山則之が担当した、世田谷の老人同士の小競り合い。

事件の規模も様相もさまざまだが、共通している点が、ひとつあった。
それは、被害者の個人情報を、犯人は何らかの手段で手に入れているらしきこと。

事件の背後には何があるのか!?
(光文社公式HPより)


<感想>

遂に出たシリーズスピンオフ作品。
4作品からなる連作短編集となっており、3つの独立した短編が最終的にラストの物語へと向かうことになる。
収録作品は『感染遊戯/インフェクションゲーム』、『連鎖誘導/チェイントラップ』、『沈黙怨嗟/サイレントマーダー』、『推定有罪/プロバブリィギルティ』。

それぞれ―――。

『感染遊戯/インフェクションゲーム』が勝俣編。
『連鎖誘導/チェイントラップ』が倉田編。
『沈黙怨嗟/サイレントマーダー』が葉山編。
『推定有罪/プロバブリィギルティ』が上記3人(主に勝俣)と姫川による物語となっている。

短編集と思って読んでいると、各話がそれぞれ繋がっておりラストの怒涛の展開に雪崩れ込むのはお見事。
サプライズを求める方には向きませんが、ストーリーに酔いたい方にはオススメです。

しかも、本作は玲子のライバル・ガンテツこと勝俣や倉田に葉山という男たちがメイン。
熱いけれど華が無い面子だ……と思いきや、物語上の華を魅せます!!
油断大敵ですよ〜〜〜。

そんな作品タイトル『感染遊戯』、タイトルの意味はおそらく次の2つ。

@文字通り大友の娘・麻由が感染の被害に遭ったこと。
Aアンマスクによる殺意の拡大(感染するように拡がる)。

この二つが絡み合い浮かび上がる真相は本当に上手い。
作家さんの面目躍如でしょう。

内容としては葉山君の今後が気になります。
姫川か勝俣か……どちらになっても気苦労が絶えなさそうです。
まぁ、シリーズ要員としては姫川側なんだろうけど。

その意味でも、シリーズの今後が気になる作品です。

かな〜〜〜り、オススメの「感染遊戯」。
ただし、ひとつだけ注意点が。
本作はシリーズを既読の方向けです。
特に倉田の章である『連鎖誘導/チェイントラップ』は、短編集『シンメトリー』収録の『過ぎた正義』を読んでいないとポカンとするでしょう。
その代わり、知っていればラストに愕然とさせられます。
本作を読む前にシリーズ作品を読破することをオススメします。

そして、『推定有罪/プロバブリィギルティ』では『過ぎた正義』の後日談も語られます。
ですが、個人的には『過ぎた正義』はアレで完結しており、後日談は蛇足だった気もします……。

それと、物語上に瑕疵がひとつ。
表題作『感染遊戯/インフェクションゲーム』で勝俣が口にする共通点ですが、実は共通点ではありませんでした。
勝俣はパソコン通信で長塚の個人情報が洩れたことにより長塚が殺害されたと思っていましたが、実は真犯人が直接大友に教えていました。
つまり、そんな事実は端から無かったことになります。
ここら辺は連作短編である構成上、仕方がないことだと思いますが、ちょっとモヤッとしますね。
短編の『感染遊戯/インフェクションゲーム』はコレも含めて完成度が高いだけになぁ……。
まぁ、それでも全体的に展開が上手いです。

「インビジブルレイン」の超展開に肌が合わなかった管理人。
しかし、こちらはすんなりと読めました。
シリーズ……特に1作目の「ストロベリーナイト」を好まれる方は「感染遊戯」もオススメです。

ちなみに、シリーズについてはネタバレあらすじの後にネタバレ書評(レビュー)があるので、興味のある方は注意!!

<ネタバレあらすじ>

・『感染遊戯/インフェクションゲーム』

ガンテツこと勝俣は、現在抱える事件について姫川と話し込んでいた。
そこでふと出て来たのは過去の長塚淳殺害事件。
勝俣は、大友という名の男性が犯人だったこの事件と今回の事件が同じだと言う。
大友は淳では無く、その父親である厚生省の役人・長塚本人を狙ったが誤って淳を殺害してしまったのだ。
その動機は、長塚が非加熱血液製剤を認可したことにより、被害を受けた大友の娘が自殺したことへの復讐だった。
そう、共通点は―――ネット上で過去の不正を含む個人情報を曝された官僚が殺害されたということだった。

・『連鎖誘導/チェイントラップ』

刑事時代の倉田の物語。
息子・英樹がその恋人を殺害し逮捕されたとの報を受けた彼は激しく動揺していた。
自身の信じる正義、それが根底から覆されかけていた為である。

矢先、路上殺傷事件が発生。
被害者は2人で、外務省職員の松田は命を取り留めたが、野中紗枝子は死亡してしまう。

捜査に参加する倉田だが、英樹に対する想いが錯綜し刑事を辞めることに。
一方で、痴漢の罪を犯したとして記者を退職した川上紀之こそが殺傷事件の犯人であると突き止める。
川上の痴漢事件は冤罪であった。
彼は正義を求め、松井を襲撃したのだ。

川上にとって松井を殺害することこそが正義の道であると気付いた倉田は共感し、彼に松井殺害の機会を与え見逃す。
そして帰宅した倉田を待っていたのは妻の死体であった(『過ぎた正義』のエピソード)。

・『沈黙怨嗟/サイレントマーダー』

『インビジブルレイン』事件にて、姫川班が解散された。
所轄に異動となった葉山は、ある老人同士の傷害事件を担当することに。

それは、元厚生省の官僚で現在は特殊法人の理事長を務める谷川正継が、将棋仲間の堀井辰夫にいきなり殴られたとのものであった。
将棋中に「待った」をかけたところ、殴られたらしいが……。

正継の周囲を調べる葉山だが、正継の評判はすこぶる悪い。
その横柄な態度が災いし、孫娘の谷川千尋も祖父に批判的であった。
温厚な堀井だからこそ、交流出来ていたのだろうとまで述べる。
さらに、千尋から事件当時に堀井が「お前が殺した!!」と叫んでいることを聞いた葉山は、深い事情があるに違いないと捜査を続行する。
そこで、明らかにされた事実とは―――。

正継は官僚時代に「年金のゴッドファーザー」と呼ばれるほどの影響力を持っていた。
その彼が、意図的に年金受給の条件に手を加えていたのだ。
本来ならば、法律上は「退職の翌月」となるべきところを解釈を変え「退職の翌々月」になるように工作していたのである。
これにより受給が遅れたことで、堀井の妻は生活費を賄う為に自身の薬代を節約し病死していたのである。

堀井はこれを恨みに思っており、正継が「待った」をかけたことに「(受給を遅らせたことに加えて)これ以上、何を待てと言うのだ!!お前が妻を殺した」と怒りを爆発させたに違いない―――そう結論づける葉山。
葉山からそれを聞かされる正継だが、特に悪びれる様子もない。

正継宅を辞去した葉山は堀井と出会う。
ふと、疑問が浮かぶ葉山。

そもそも葉山の推測通りならば、堀井は正継が官僚であることを知っていなければならない。
だが、2人の間でそのような会話はされていなかったらしい。
ならば、堀井は何処でそれを知ったのだろうか?
そんな葉山の隣で堀井は静かな微笑みを浮かべるのであった。

・『推定有罪/プロバブリィギルティ』

現在―――淳の父親で厚労省の長塚、外務省の松井、財務省の岡田が次々と殺害されていた。
岡田に至っては、息子の嫁まで巻き込まれており、反響は大きかった。
この特異な犯行。実行犯はそれぞれ別人で既に逮捕されている。
実行犯によれば、とあるサイトの書き込みを見て怒りに駆られ凶行に走ったと言う。
被害者の不正の犠牲者あるいは、義憤からの犯行だったのだ。

そのサイトこそ「アンマスク」。
捜査本部はサイトの運営者である塾講師・辻内を監視する。
だが、辻内の背後関係が掴めず事態は紛糾する。
勝俣はいち早く、背後関係が無い事を看破し、逮捕することを主張するが受け容れられない。

そこで、勝俣はいつもの強硬手段をとる。
玲子の隙を突き、倉田が殺人者である証拠を玲子の資料から盗み見ていた勝俣。
倉田を脅迫し、自身の手駒にすることに。

倉田は玲子に裏切られたと思いながらも、渋々、勝俣の命令に従う。
辻内宅へ忍び込み、調査する倉田。
そこで、ある写真を発見する。

一方、辻内宅を監視していた葉山は辻内宅から出て来た不審な男……倉田を尾行するが、あっさり発覚。
追っ払われた挙句、勝俣へのメッセンジャーを押しつけられる。

倉田が入手した写真を目にした勝俣と葉山は、遂に事件の真相に行き当たる。

それは辻内が大友の娘の交際相手だったことだった。
大友の娘は非加熱血液製剤により感染症を発症。
当時の知識では感染経路が性交渉によるものとされていた為、恋人の不貞を疑った辻内は彼女を冷たく突き放してしまう。
しかも、大友の娘は外務省に勤務していた。
彼女に相手にされなかった松井が逆恨みから健康診断の結果を職場で暴露し、あることないこと噂に加えて追い込んでいたのだ。
結果、追い詰められた大友の娘は自殺してしまう。

その後、長塚淳から父親の不正と血液製剤の事を聞かされた辻内は自身の行為を後悔。
大友に自身の知るすべての情報を打ち明ける。
結果、大友は長塚本人と間違えてその息子・淳を殺害してしまう。

こうして、多数の人間の道を誤らせてしまったと感じた辻内は自分を責め続けた。
その憎しみは政治システム自体に向かう。
官僚機構とそれを構成する要員を批判するサイト「アンマスク」を立ち上げることに。
そこへ、復讐対象である長塚、松井の個人情報を書き込んだのだ。
同じく書き込まれたことで標的となった岡田たちは巻き込まれたに過ぎなかった。
結果、「アンマスク」を目にし義憤に駆られた者たち(少なくともそう思い込んでいる)により、長塚、松井、岡田らは殺害されることとなった。
「アンマスク」こそが、堀井が正継の身許を知った方法であったのだ。

この情報を掴んだ勝俣は辻内を揺さぶる。
自身の正義に悩みを抱いていた辻内は、「アンマスク」上に自身の個人情報を掲載する。

それを知った勝俣、葉山は焦りを覚えるが……。
案の定、「アンマスク」を見た岡田の息子が父親と妻の仇として辻内を襲撃、殺害してしまう。

こうして事件は誰も救われることなく終わってしまった……。

今回の件で、葉山の能力を買った勝俣は自身の部下として欲するように。
だが、玲子もまた葉山の能力を買っていた。
こうして、互いに葉山を引き抜こうと争うことになるのだった―――エンド。

・ドラマ版『感染遊戯』はこちら。
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「インビジブルレイン」(誉田哲也著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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『アンダーカヴァー(「宝石 ザ ミステリー」掲載)』(誉田哲也著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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シリーズから遂にスピンオフ!!
「感染遊戯」です!!
感染遊戯





「ストロベリーナイト (光文社文庫)」です!!
ストロベリーナイト (光文社文庫)





「ソウルケイジ (光文社文庫)」です!!
ソウルケイジ (光文社文庫)





「シンメトリー (光文社文庫)」です!!
シンメトリー (光文社文庫)





「インビジブルレイン」です!!
インビジブルレイン





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