ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
渋谷、スクランブル交差点で起きた大量無差別殺人。人質の救出、犯人の確保、全ては交渉次第。立てこもりを続ける犯人に、交渉人・渡瀬が迫る!!
交渉人シリーズの著者が仕掛ける、衝撃のラストシーン!
「明日。昼。渋谷で人を殺します」
インターネット掲示板“ちゃんねるQ”に書き込まれた犯行予告。翌日、一台のトラックが渋谷のスクランブル交差点に突入した。死者は11人。惨劇の犯人は、人質をとり立て籠った。極限の緊張状態にある犯人に対し、事件の早期解決を求める捜査本部。全ては交渉人・渡瀬に託された――。
「あなたはあなたのしたいようにすればいい。ただし、人質は全員解放してもらいます」
世間を震撼させた大量殺人事件、驚倒の結末。
(講談社公式HPより)
<感想>
ここから、批判が展開されます。
いつものアレです。
目にすると気分を害される怖れがあります。
そこをご了承の上、ご覧下さい。
「交渉人」シリーズを手掛ける五十嵐貴久先生の新シリーズ(?)です。
「交渉人」シリーズが交渉人・遠野麻衣子ならば、こちらは交渉人・渡瀬が主人公。
なぜ、シリーズに繋げず、新規キャラクターで立ち上げたのか。
なんだかこの時点でイヤな予感がします。
そんな本作は、明らかに現実で起こった事件を下敷きにしたサスペンス作品です。
内容については、<ネタバレあらすじ>を読んで貰えれば分かると思いますが、ワンアイデアです。
そのワンアイデアがラストシーン。
あらすじにある通り、驚愕の結末がこの作品の肝なのです。
それ以外は、何一つありません。
現実から題材を引いてきたにも関わらず、本当に何もありません。
ラストシーンありきなのは、ほぼ確実か……。
そのラストシーンにしても、本事件でもう1人「誰でもよかった」と思っていたある人物の保身に走る行動により、問題提起部分がぶれた為にスッキリ終わりません。
あそこは足掻くよりは、罪を認め世間に訴えるシナリオの方が問題提起として明確になっていたと思います。
残念です。
さらに、本作では不自然な会話文が多く、小説に集中出来ませんでした。
ところどころで素に戻ってしまうというか……。
地の文も他の作品に比べ、洗練されていません。
これをどこかで見たようなと思い記憶を探ってみたところ、以前、清水義範先生のある作品中にて紹介されていた方法を思い出しました。
兵隊に番号を言わせてページ数を稼ぐというアレです。
清水先生の作品では非常に捻った方法で使われており、笑うと共に唸ったものでしたが……本作ではどうみても本来の目的で使用されています。
これがどういう意味か……大体、ご理解いただけたでしょうか。
よもや、こんなところで実践例を目にするとは思いませんでした。
「誰でもよかった」というよりは作者の「(とりあえず出版出来れば)何でもよかった」的なところが透けて見えるように感じる本作。
考え過ぎかもしれませんが、少なくとも管理人にはそう思えるような出来でした。
ファンの方にはごめんなさい。
でも、事実なので譲れません。
個人的には本作はあんまりな感じです。
オススメできません……。
◆関連過去記事
・「交渉人・爆弾魔(交渉人 遠野麻衣子・最後の事件)」(五十嵐貴久著、幻冬舎刊)ネタバレ書評(レビュー)
・上記のドラマ版がこちら。
土曜ワイド劇場 特別企画「交渉人遠野麻衣子〜最後の事件・死刑判決で届いた謎の爆破予告!!電車、水上バス…爆破時刻に残り15分!!犯人はなぜ私を交渉人に!?」(6月26日放送)ネタバレ批評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
「明日。昼。渋谷で人を殺します」
インターネット掲示板「ちゃんねるQ」に犯行予告が書き込まれた翌日、一台のトラックが渋谷のスクランブル交差点に突入する。
予告の主・高橋は手当たり次第に凶行を繰り返し、死者11人を出す大事件に発展。
その後、追い詰められた高橋は、人質7人をとり立て籠ってしまう。
極限の緊張状態にある高橋。
事件の早期解決を求める捜査本部は交渉人・渡瀬に事件解決を任せる。
こうして渡瀬は犯人・高橋と交渉することに。
高橋の動機は孤独感を抱く若者ならではの刹那的な犯行。
孤独を解消する為の犯行であり、殺害する相手は誰でもよかったと言う。
ネット上では、この高橋の主張に同調する一部の若者たちが出現。
渡瀬は背筋にゾッとするものを感じる。
途中、横川課長の横槍により高橋の家族に説得を任せたところ逆に高橋の反撥を買うなど危うい場面もあったものの、渡瀬の粘り強い交渉により、高橋の信頼を得て譲歩させていくことに成功。
怪我人を出しながらも6人を解放させることに成功する。
しかし、高橋はどうしても最後の1人を解放しない。
それどころか、人質を抱えたまま強引に逃走しようとする高橋。
そこへ、横川の用意した狙撃犯の鉛玉が襲い掛かる。
高橋は3発の銃弾を浴び、出血多量で死亡。
こうして、交渉の余地はまだあったと憤る渡瀬をよそに、事件は強制的に解決させられてしまう。
この強引な解決方法について、横川は最終的に自身が辞職することで責任をとると発言し、周囲を驚かせる。
後日、横川を訪ねる渡瀬。
渡瀬は今回の狙撃が横川の意図的なモノであったと指摘する。
高橋が自身の孤独感を解消する為に被害者とする人物が「誰でもよかった」ように、横川もまた今後、高橋に続く者が出ないように見せしめで犯人を殺害する必要があり、その見せしめには「誰でもよかった」のだ。
高橋に同調する人物が居たように、不満の火種は燻っている。
いつ、火が大きくなってもおかしくはない。
それを危惧していた横川は、常々見せしめとなる犯人を捜していた。
そこで、たまたま今回の事件が起こった為に高橋が見せしめとされたのだ。
高橋の家族に説得を任せたのも、高橋の反抗心を刺激する目的だった。
すべて、高橋を公開処刑する為である。
渡瀬は今回の狙撃は殺人であると主張し、横川を批難するが証拠が無い。
しかし、「ありのままを報告書に記載する」と予告してその場を去るのだった。
渡瀬が去り、1人残された横川はすぐに渡瀬の上司に連絡を入れる。
そう、渡瀬に報告書を書かせないように念を押す為である―――エンド。
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