ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
サイバーセキュリティのプロが描いた「自殺幇助サイト」の闇と謎。
サイトに登録したばかりにストーキングに怯える女子高校生とサイバートラブル解決屋の主人公が
思いも寄らぬ事件に巻き込まれていく――。
(原書房公式HP)
<感想>
及第点は満たしています。
デビュー作としてはなかなかではないでしょうか。
ちなみに、内容上、読後感は良くない……むしろ、悪いので注意。
管理人は、同じく第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作である「鬼畜の家」と合わせて読んだのですが、この2作とも傾向が似ています。
「家族の1人が自身の所属する家族を壊す」との構成も設定も近いです。
で、「鬼畜の家」にはタイトルから結末へ向けての心構えを持って挑めたのですが、あちらがそれほど衝撃を受けなかったのに対し、こちらはタイトルはともかくあらすじ的に油断していて、思い切り不意を突かれました。
おかげで、精神的に大ダメージを被りました。
もっと、タイトルに注目していれば良かったんだよなぁ……。
ネタバレあらすじを書いていても気分が悪くなりました……。
毒が強過ぎる……。
もう、内容よりそちらが印象に残るぐらい。
これについてはネタバレあらすじを読んでもらえれば分かる筈。
それにしても……最近のミステリは暗めな結末のものが多いですね。
作中にて殺人を扱う性質上、陰惨を極めるのは仕方がありませんが、精神衛生上好ましくありませんね。
特に本作はその傾向が強いように思います。
まさに「毒」を持った作品と言えるでしょう。
この「毒」は「読」に通じ、読者に影響を与える点では、湊かなえ先生の「告白」と同種の「毒」であります。
湊かなえ先生の「告白」が好きな方はこちらも読んでみるのもアリかと思います。
なお、もう一度念を押しておきますが、本当に「救い」がない物語です……。
読者にとっては、君島とみのんが唯一の希望なのですが、それすらラストのアレで打ち砕かれてしまう……。
感情移入しやすい人ほど、読後は背中に嫌な汗をかいていることに気付くでしょう。
ちなみに「檻の中の少女」というタイトルですが、同名の作品が大石圭先生により角川書店から出版されていますね。
タイトルについては一考の余地があったのではないでしょうか。
◆関連過去記事
・第3回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作決まる!!
・「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」第1回優秀作「少女たちの羅針盤」です。
「少女たちの羅針盤」(水生大海著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・本作と同種の読後感が味わえます。
「告白」(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
サイバーセキュリティ・コンサルタントの君島のもとへ老夫婦が依頼にやってきた。
老夫婦によれば、「自殺したとされる息子だが自殺支援サイト・ミトラスに殺されたのでその真相を突き止めて欲しい」と言う。
なんでも、その息子―――有樹はミトラスに多額の金を振り込んでもいたらしい。
ミトラスは自殺志願者とその幇助者をネットを介在して結び付け、志願者が希望通り自殺出来た際に手数料が振り込まれるというシステム。
ミトラス自身はその仲介で多額の手数料をとっていた。
この依頼に応じた君島は早速、調査を開始。
その過程でみのんという名の少女と出会う。
彼女を狙うミトラス主催者の影。
さまざまな情報を集めた君島は、やがて彼の見つけた「真相」へと辿り着く―――。
そこにあったのは、ミトラス主催者の不正だった。
老夫婦へと報告した君島だったが、直後にミトラス主催者が殺害されてしまう。
しかも、あの老夫婦の夫の手によって。
さらに、その夫自身も変死。
君島はみのんと共に用意された「真相」の奥にある本当の「真相」へと辿り着く。
それは「エピローグ」へと繋がる物語だった。
みのんは有樹の娘。
そして、依頼人である老婦人・美代子の孫だったのだ。
すべてを仕組んだ真犯人は―――美代子だった。
美代子こそはタイトルにある「少女」だったのである。
すべてを美代子が仕組んだと知った君島。
美代子はみのんに父を死に追いやったのは自分だと明かし、自分を殺すようみのんを唆す。
しかし、美代子の狙いを悟った君島はそれを阻止。
みのんを連れ出すのだった。
ここから、もの凄い真相に突入します!!
読後感は非常に悪いです。
あらすじにするに当たって、かな〜〜〜り希釈しましたがそれでも毒が濃いです。
覚悟のある方のみ進むこと!!
【エピローグ】
美代子は自身の計画が失敗に終わったことに落胆していた。
すべては夫とその一族への復讐だったのだ。
その為に、孫であるみのんを殺人者にしようとした。
しかし、みのんは君島に連れ出された。
でも、それでいい……美代子はニヤリと微笑む。
楽しみが後になっただけだ。
美代子が生きている限り仇なすことはいくらでも出来るのだ。
むしろ、みのんと君島がこれを機会に結婚し、子供まで作ってくれれば復讐し甲斐もあるものだ。
幸せの絶頂から追い落とすことは美代子の十八番だったから……。
美代子……いや、少女は嫁いでからこの日まで婚家を憎み続けていた。
夢見がちだった少女は嫁いで早々に夫から性的関係を求められた。
それはまさに道具のような扱い。
それが終われば、今度は家政婦のように扱われる。
さらに姑のいびりがそれに加わった。
少女はひたすらに耐え続けた。
やがて、少女は妊娠したが流産してしまう。
直後に、夫が愛人に産ませた子供を引き取ることに―――それが、有樹だった。
少女は、表向き愛情を注ぐようなふりをして有樹を憎み続けた。
小さな過失を故意に起こしては、幼い有樹の責任にし夫に虐待させるよう仕向けた。
血縁関係者同士が傷付け合うことに暗い喜びを見出していた。
それはやがて爆発することになる。
ある日、姑から夫の愛人を迎えに行くように命令された。
愛人が2人目の子供を身籠ったからだ。
怒りと屈辱に我を忘れた少女は事故に見せかけ愛人を殺害してしまう。
そこで道がついたのか―――今度は姑を同様に殺害。
姑を無くし、消沈している舅を嘲笑いながら介護することに。
だが、その舅から姑の嫁いびりの件で謝罪されたことで憤りを益々深めることに。
機会をみて舅を殺害しようと狙う少女。
だが、舅は寿命で亡くなってしまう。
少女の暗い心は、自身の家族へと向かう。
息子・有樹を追い詰め、夫を追い詰め、良き妻・母を演じながら家庭を追い詰める。
それに苛立ち、さらに復讐心に憑かれて行く少女。
やがて、有樹が死の直前まで迫った頃、有樹は彼の恋人を連れて来る。
そのまま、結婚し家を離れてしまう有樹。
嫁は明るく快活な人間で少女の矛先を悉く避け続けた。
少女の不満は日増しに高まった。
やがて、孫であるみのんが誕生。
幸せそうな家族の姿に少女の怒りは頂点に。
しかし、少女は諦めなかった、復讐心を押し殺し粘り強く待った。
天に祈りが通じたのか……嫁が死んだ、病死だった。
有樹の心の隙が少女には手に取るように分かった。
失意の有樹に近付くと、励ますふりで「ミトラス」を奨めた。
「ミトラス」へは事前に自分でパスを作っておいた。
既に有樹を精神的に追い込む根回しも済んでいる。
すべてはある計画のためだ。
案の定、「ミトラス」へと出入りするようになった有樹は日に日に追い込まれていった。
そして、ある日、少女は自身で止めを刺した。
有樹が自身の子ではないことを告げ、憎んでいることを教え、死んでくれと言い放った。
有樹はその日の晩に自殺した。
今度は夫の番だ。
夫へ「ミトラス」の存在を報せ、疑惑を煽りたてた。
さらに君島へと依頼させた。
君島も依頼人である自分は疑わない。
それとなくコントロールすると共に、「有樹の為だ」と騙しみのんも近付けた。
すべては少女に都合の良い情報だけを君島に与えるためだった。
結果、君島は少女の狙い通りの答えを報告書として送って来た。
夫はそれを見て、「ミトラス」主催者を殺害してしまう。
少女はせいぜい大怪我でもしてくれればと思っていただけにこれは大収穫だった。
復讐を果たしたと思い込んでいる夫に真相を伝えると、おかしくなった夫はそのまま外へと飛び出し死んでくれた。
そして、最期はみのんを殺人者とする為に真実を告げたのだった。
だが、どうやらまだ復讐を終えてはいけないらしい。
みのんは君島と共に行ってしまった。
1人だけとなった家の中で、少女は大きく伸びをする。
やっと手に入れた自由は満喫しなければならない。
その自由を今度はみのんたちに使ってみよう。
みのんと君島を結婚させるのだ。
そして、子供を産ませる。
1人目は君島の子だ。
そこで、金で人を雇いみのんを襲わせる。
望まぬ2人目の誕生。
最高だ!!
君島は悩むだろう、苦しむだろう。
そこで、1人目の子供を殺す。
ハハハハハハハハハハハハハハ。
やがて、傷から立ち直り始めた頃に2人目に出生の秘密を教えてやるのだ。
今度は立ち直れないだろうか?
なんなら、家族に憎しみを募らせるように持って行ってもいい。
きっと、いい結果を生むだろう。
そう、空想に耽る少女の未来図は少女にとって薔薇色のものだった。
ここで過去に戻る―――有樹の死の直前である。
有樹は以前から自分が母と血の繋がらないことを知っていた。
その上で母を愛していた。
その母から死を望まれた。
親孝行と思い実行することにした。
ただし、みのんだけは許して貰いたい。
その想いは強く、すべてを手紙にして残すことにした。
その手紙は未来郵便……配達日を3ヶ月後に指定して贈ることにした。
それから3ヶ月後。
少女の元へ手紙が届いた。
少女は手紙を開け、目を細めた。
少女の心にあるのはただひとつだけ。
(これは使える、いい道具を遺してくれた)―――エンド。
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