<あらすじ>
【特集】料理を楽しむ「美味しい小説」 ◎インタビュー 高田 郁/拓未 司 ほか 【新連載小説】五十嵐貴久/加藤実秋 【連載小説】宮部みゆき「桜ほうさら」/川上健一「ライバル」 ほか 【連作読切小説】乾くるみ「カラット探偵事務所の事件簿 Season2」
【読切連作小説】
●駐車場の入り口で言い争う、紳士と若者。車をぶつけたのはどっちだ!? 乾くるみ 車は急に…… カラット探偵事務所の事件簿 Season2 3
(PHP研究所公式HPより)
<感想>
管理人の通う書店では女性作家の棚に並ぶ乾くるみ先生。
で・す・が、れっきとした男性です(これもある意味叙述か)!!
乾先生、市川尚吾名義で評論もされてます。
その著作のひとつにして、意外なサプライズでラストを締め括った「カラット探偵事務所の事件簿」がシーズン2を迎えました。
そう、乾くるみ先生「カラット探偵事務所の事件簿 Season2」が「文蔵」にて連載中!!
2011年5月号には第3回が掲載されました。
・シーズン2第1回「小麦色の誘惑」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(1)小麦色の誘惑(文蔵2010年11月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
・シーズン2第2回「昇降機の密室」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(2)昇降機の密室(文蔵2011年2月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)
そこで今回は第3回「車は急に……」についてネタバレ書評(レビュー)しちゃいます!!
しかし、「事件簿1」を知る身としてはあの壮大なラブレターオチ(詳しくは本記事最下部にネタバレあり)がある限り続編は難しいのではないかと考えていただけにこのシーズン2自体が大きなサプライズです!!
早速、第3回も読んでみました。
第1回、第2回と「密室」がテーマだったので今回も……と期待して読んでみましたが今回は「2人のうちどちらが嘘をついているのか?」が謎になっています。
さらに、「何故、嘘を吐かなければならないか?」も。
この謎はトビキリ面白いです。
ただ、謎に頼り切りなところがあるかも。
それと、謎の登場が中盤以降になったのも苦しく感じた。
でも、この謎を解くロジック部分は本当に面白い!!
このシリーズは連作物なのでシリーズが完結するまでは各話がどのような意味を持つのか判断するのは早計かも。
なんらかの伏線の可能性はあるし。
軽妙な語り口やストーリー展開も健在。
ロジック部分で言えばこれまでで1番好みです!!
早く次の話が読みたい!!
◆「乾くるみ先生」関連過去記事
・「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(1)小麦色の誘惑(文蔵2010年11月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「カラット探偵事務所の事件簿 Season2(2)昇降機の密室(文蔵2011年2月号掲載)」(乾くるみ著、PHP研究所刊)
<ネタバレあらすじ>
古谷たちは、今日も今日とて事務所で暇な1日を過ごしていた。
そこで、ふと話題に上ったのは「映画」のこと。
10年以上、映画を観ていないと口にする古谷に最近の映画事情を説明することに。
映画料金が1800円であると聞かされた古谷はその金額に敵意すら抱く。
そこへ久しぶりの依頼客から予約の電話が!!
車でやってくると告げた依頼人の為に駐車場を空けるべくコインパーキングへと車を運ぶ。
目的地のコインパーキングでは揉め事が起こっていた。
揉めていたのは髭の見事な紳士・千頭とピアスが特徴的な若者・寒川。
対照的な2人が揉めていた理由はコインパーキングの入り口で互いの車が接触したためらしい。
先を行く千頭の車の後部が、後を行った寒川の車の前部と衝突したのだ。
千頭は寒川が突っ込んで来たと罵り、寒川は千頭がバックしてきたと批難する。
水かけ論にしかならない2人の言い争いをそのままに、一旦事務所に帰ることに。
ところが、予約の客は車を止めて歩きに変えたと言う。
仕方なく、再度コインパーキングへ車を取りに戻ってみると、2人はまだ言い争っていた。
今度はついて来ていた古谷。
遠くからそれと知られずに話を聞くと、ある推理を巡らせる。
それによれば、2人の証言が喰いちがっている以上、どちらかが嘘を吐いている。
そして、嘘を吐くからには普通では考えられない方が嘘を吐いており、嘘を吐かなければならない理由もある筈だと言う。
一方、近所の豪邸に住む資産家の千頭は弁護士を呼び、寒川を攻撃。
寒川は窮地に追いやられつつあった。
そこへ現れたのは古谷。
古谷は、最近このコインパーキングで不思議なことが起こっていると匂わせる。
途端、千頭の態度が豹変。
自身の非を認めると謝罪はしないものの後を弁護士に任せ、逃げるように帰ってしまった。
こうして、寒川は自身の主張を通すことに成功。
古谷へ礼を述べると去って行った。
ここで、古谷からネタばらしが。
古谷によれば「普通では考えられない」方とは、もし嘘を吐いていたとすれば「何故か、コインパーキングの入り口でバックした」ことになる千頭。
では何故、千頭はバックしたのか?
ここで、最近このコインパーキングで入場者数と料金を支払った人数が合致しないと相談を受けていたことを思い出した古谷。
入場者数と利用者数が合致しない原因は何か?
単純に考えれば、入場者は駐車券だけ取るとパーキングを利用せずに帰ってしまったのだ。
つまり、その人物は駐車券を手に入れる度に、中へ入らずそのままバックで帰っていたことになる。
そう、その人物とは千頭だったのだ。
千頭は駐車券だけが欲しかったのだ。
では何故、駐車券だけが欲しかったのか?
ここで、冒頭の映画の話題が重要となる。
ある映画館では利用者が駐車場を利用した際に、駐車券を確認できれば割引サービスを受けられる。
もちろん、映画館だけではなく、他にもその恩恵を受けられる施設は多いに違いない。
千頭はそのサービスを狙っていたのだ。
その為に近所に住みながらコインパーキングに出入りしていた。
千頭は駐車券を手に入れるとバックで脱出、自宅駐車場に車を停めると徒歩で出かけ、サービスの恩恵に与かっていた。
今回も脱出しようとしたものの、後ろから来る寒川を見落とし事故に繋がったのだろう。
それを古谷に指摘されかかったので慌てて逃げ出したのだ。
資産家なのに……と疑問に思うところだが、資産家だからこそだと語る古谷。
「そこまで出来たから資産家になれたんだ」と―――エンド。
◆「カラット探偵事務所の事件簿1」のラストについて
注意、ネタバレです!!
上にラブレターオチとあるけどその通り。
実はこの事件簿自体が壮大な告白の一環だった……とのラスト。
これに男性だと思われていた記録者こそが実は女性だったとの叙述トリックが絡む。
多少、蛇足気味ではあるが結構効果的だった。
ある意味、乾くるみという女性的なペンネームで実は男性というのに通じている。
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