ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
祝! 日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)受賞後第一作
悪徳銘探偵(メルカトル)と五つの難事件、怜悧な論理で暴く意外すぎる真実の数々!
ある高校で殺人事件が発生。被害者は物理教師、硬質ガラスで頭部を5度強打され、死因は脳挫傷だった。現場は鍵がかかったままの密室状態の理科室で、容疑者とされた生徒はなんと20人! 銘探偵メルカトルが導き出した意外すぎる犯人とは――「答えのない絵本」他、全5編収録。麻耶ワールド全開の問題作!!
(講談社公式HPより)
<感想>
これまでに発表された短編4本に書き下ろし新作1本を加えた全5本を収録した短編集。
短編5本ともに惜し気も無くロジックが盛り込まれており、それをあっさりと捨てているのが凄い。
5本のうち「メフィスト」掲載の2本は過去にも書評(レビュー)してますね。
[メルカトルと美袋シリーズ]
・「メフィスト 2010 VOL.1」より「メルカトルかく語りき 第二篇 九州旅行」(講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「メフィスト 2010 VOL.3」より「メルカトルかく語りき 最終篇 収束」(麻耶雄嵩著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
なんといっても注目は、上記の「収束」、「答えのない絵本」、「密室荘」の3本。
これらはメルカトルだから許されるのであって、他のどんな探偵でも許され得ないオチでしょう。
中でも「答えのない絵本」は著者の過去作「木製の王子」を彷彿とさせるロジック、ロジック、ロジックの嵐。
そして、あの肩すかしのような結末。
ミステリ好きなら絶対にあのロジックの穴を捜してしまうでしょう。
さらに、書き下ろしの「密室荘」。
これまたメルカトルならではの解決法に唖然……毒気を抜かれるとはこのことでしょうね。
まぁ、「収束」も「答えのない絵本」も「密室荘」も「フーダニット」に意味があるのではなく、その特殊な結末にこそ意味があるのでしょう。
そう考えると、他の2編もそうなるのか……。
つまり、この「メルカトルかく語りき」の本当の意味は○○にこそあるということですね。
(○○には読者がそれぞれ感じた言葉をお入れ下さい)
それにしても、メルカトルばかりを批難するけど美袋も結構エグイよなぁ……。
特に「密室荘」のラストでそう思った。
流石にメルカトルと親交を結んでいるだけある。
常人ぽく見せているが、美袋もまた常人ではない。
今更ながら、美袋の存在にも注目すべきと気付いた短編集でした。
<ネタバレあらすじ>
・「死人を起こす」
1年前の事故死の真相を巡り集まった同級生たち、そこで新たな殺人が発生!!
「ドレミファソラシド殺人事件」を軽く解決し、1年前の真相追究の為に呼ばれていたメルカトルが事件解決に乗り出すことに。
事情を聞きあっという間に事件を解決してしまうメルカトル。
メルカトルによれば犯人は1年前の死者だと言う。
彼の死は蝶を怖れたことによる事故死だったが、今回の犯人も同じ性癖があったからだ。
呆気にとられる同級生たちだが、有無を言わさぬメルカトルのロジックに沈黙せざるを得なくなる。
ところが、これはメルカトル特有のペテンだった。
現場は陸の孤島でも何でもなく出入りは自由。
したがって、別に誰が犯人でもおかしくはなく、容疑者は全世界に居るのだ。
容疑者を絞り込むポイントはただひとつ、死者と同じく蝶を苦手とすることのみだった……。
犯人を捜せば見つかるだろうが、時間と労力がかかると言うメルカトル。
もちろん、最初から捜す気は無いのだった。
・「答えのない絵本」
メフィスト学園で殺人事件が発生。
依頼を受けたメルカトルは美袋と共に現場へ急行。
刑事にその推理を語って聞かせる。
次々と展開していくロジック。
消去法で容疑者が消えていき、遂には1人も残らなくなってしまう。
その意味するところは……「確かに他殺であるにもかかわらず犯人はいない」というトンデモないものだった。
・「密室荘」
メルカトル所有の別荘へとやって来たメルカトルと美袋。
一晩を過ごし次の朝、美袋はメルカトルが電話をかける声で目を覚ます。
「あぁ、セメントが欲しい。大至急だ……」
ただならぬメルカトルの様子に違和感を覚えた美袋は別荘内で何かが起きたと気付く。
案の定、別荘の地下には他殺死体が1つ転がっていた。
「一体、誰が犯人なんだ!?」
興味を抱いた美袋。
さぁ、メルカトルの出番だと意気込むが、当のメルカトルは気乗りしない様子。
尋ねてみると事件は解決していると言う。
ところが、この推理が問題だった!!
メルカトルによれば容疑者は2人しかいないらしい。
密室荘は外界へと通じるすべての出入り口が内側から施錠されていた為にその名の通り密室。
つまり、犯人は屋内に居たメルカトルか美袋しか居ない。
メルカトルは「自分が犯人ではない以上、美袋しか居ない」と断言。
だが……このまま美袋を犯人にしてしまえば、大切な友人を失ってしまう。
そこで、無かったことにしようと決めたらしい。
はたと思い当たる美袋。
「だから、セメントか!?」
メルカトルは罪体である死体を地下室ごとセメントで埋めることにより、犯罪の発生それ自体を隠滅しようとしていたのだ!!
確かにそうすれば、被害者が居ないのだから加害者も居ないが……。
あまりと言えばあまりの結論に狼狽した美袋は「犯人が分からないメルカトルの単なる逃げだ」と主張するが、メルカトルによればセメントで埋めない限り犯人は美袋だと譲らない。
しかも、反対したところで埋めることは決まっているらしい。
結局、不承不承、いつもどおりメルカトルのアイデアに乗る美袋。
こうして、地下の死体はそれと知られず埋められることとなった。
美袋は思う。
メルカトルにとっては人の死体も虫の死体と変わらないのだろう。
自分なんて死体が埋まっているなんて考えたら安心できないけどなぁ―――エンド。
◆麻耶雄嵩先生関連過去記事
・「貴族探偵」(集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「隻眼の少女」(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・話題の新作「TRICK×LOGIC(トリックロジック)」収録シナリオが明らかに!!
・オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)
【関連する記事】
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