2011年06月09日

「真夏の方程式」(東野圭吾著、文芸春秋社刊)

「真夏の方程式」(東野圭吾著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

ガリレオシリーズ待望の最新長篇!

夏休みに美しい海辺の町にやってきた少年。そこで起きた事件は、事故か殺人か。少年は何をし、湯川は何に気づいてしまったのか

ファンの皆さま、お待たせしました! ガリレオシリーズ最新長篇の登場です。小学生の恭平は、海辺の町で旅館を経営する伯母一家のもとで夏休みを過ごすことになった。一方湯川も、ある仕事でその旅館に滞在する。翌朝、もう1人の宿泊客が変死体で見つかった。これは事故か、殺人か。その男は、なぜこの町にやって来たのか。湯川が気づいてしまった真相とは――。子供嫌いだったはずの湯川と少年の交流、そして感動のラストは必読です。(YB)
(文芸春秋社公式HPより)


<感想>

2011年6月時点でのガリレオシリーズ最新作です。
ストーリーが2時間ドラマのシナリオっぽいです。

ガリレオシリーズと言えば、「不可解な事象を合理的に解釈する」ストーリーがメインでしたが、今回はむしろ例外に属するような人情物です。
そう、加賀シリーズに類するようなつくりとなっています。

正直、何故これをガリレオシリーズで作品にしたのか不思議で仕方ありません。
主人公として加賀の方が相応しかったように思われます。

当然、そこには何らかの理由がある筈。
そこで、考えると次のような理由があげられるかと思われます。

@加賀は現在、日本橋限定なので海がメインの本作の舞台にそぐわないから。
A子供が苦手な湯川と恭平との関わりを通じて湯川の人間らしさを引き出そうとした。

@ならば、新しいキャラクターによる新作にすればよい以上、Aが主な理由でしょう。
つまり、「真夏の方程式」は湯川のキャラクターに更なる深みを持たせる為のものと言えそうです。
エピソード重視と言うよりキャラクター重視かな。

従って、これまでの湯川を知らなければ楽しめません。
本作はガリレオシリーズのファンならば読むべき、そうでなければガリレオシリーズの入門書としては不適だと思われます。

さらに、東野先生のファンならば2011年3月に発売された「麒麟の翼」も読んでいる筈で、刊行順に読んでいくと2作続けて人情物ということで、本格的なミステリを期待していた身としては多少がっかりするかもしれません……。

いろいろ問題があるとされている「容疑者Xの献身」ですが、管理人はそちらの方が大好きなだけに次に発売が予定されている「マスカレード・ホテル」にはそういった要素を期待したいのですが、果たして!?

・「容疑者Xの献身」問題についても触れています、ネタバレ書評(レビュー)です。
容疑者Xの献身(文春文庫版)&映画版

蛇足:内容的には、真犯人である“あの人物”の行為は許されざるものだと思う。
意味を理解していない他者を利用したのは許され難い。
ただ、真犯人があの人を利用したのは、自身を裏切った節子への復讐もあったのかもしれない……。
真犯人と利用された人物とは、節子を通じて親族関係にあったわけだし。
それでも、罪深いけど。

それと、事の原因となった節子もどうかと思う……。
ひとつひとつの行動が罪深い。

湯川がそこらを放置したのはちょっとひっかかる……。
それとも、それこそが湯川なりの裁きだったのかな。
こう考えるとガリレオシリーズだったことにも、前述した以外の意味があるのかも……。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:

湯川学:主人公、会議の為に「緑岩荘」へとやって来た
柄崎恭平:小学五年生、夏休みを利用して「緑岩荘」に宿泊し自由研究を行っている
川畑重治:「緑岩荘」の経営者、足が悪い
川畑節子:重治の妻
川畑成実:重治、節子夫妻の娘。沢村と共に海を守る活動に従事している活動家
沢村元也:環境保護活動家、成実に好意を抱いている
仙波英俊:塚原が過去に逮捕した殺人事件の加害者
塚原正次:元警視庁捜査一課の刑事、被害者
草薙俊平:湯川の友人、上司の依頼で塚原殺害を調べる

夏休みを利用して伯母一家の経営する「緑岩荘」にやって来た小学五年生の恭平。
海辺の町ライフを楽しんでいた。

一方、会議の為に海辺の町へとやって来た湯川。
「緑岩荘」に宿泊することに。

こうして、恭平と湯川は出会った。
その夜、恭平は重治らと共にロケット花火を楽しむ。

翌日、「緑岩荘」の宿泊客の1人・塚原が堤防で死体で発見される。
湯川の友人・草薙はその上司から塚原の死について調べるよう依頼を受ける。

ペットボトルロケットの実験を通じて親しくなっていく湯川と恭平。
そこで、湯川が気付いた真相とは!?

ここから完全にネタバレです。
未読の方は注意!!


塚原の死が一酸化炭素中毒による死亡と判明。
塚原は堤防ではなく旅館で死亡していたのだ。

死体を発見した後、環境保護活動に従事する沢村の発案で成実たちが死体を外へ運び出したのだ。
塚原が事故死したと考えた沢村たち、活動と旅館に影響が出ないように配慮した結果だった。

さらに明らかになる新事実。

塚原が死の直前、自身が過去に捕まえた仙波という男性の世話をみていたことが分かったのだ。
過去に仙波はとある女性を殺害したとされており、塚原に逮捕されていた。

仙波により事件は新たな側面を見せ始める。

実は、成実は仙波と節子の娘だった。
当時、仙波には妻があり節子と結婚出来なかった。
そこで、節子はそれと知らせず妊娠したまま、重治と結婚してしまう。
もちろん、重治にも事実は明かされていない。

ところが、仙波は節子の嘘に気づいた。
しかし、名乗り出ることはせず遠くから見守ることに。
やがて、仙波の妻が死亡。

それでも、仙波はじっと耐えていたが……とある拍子に成実が節子と仙波との間の娘だと別の女性に知られてしまう。
その女性は節子を脅迫すべく、節子が留守とも知らず川畑家を訪れる。
そこには、中学生の成実が居た。

見知らぬ女性から一方的に自身の出自を聞かされた成実は混乱し、今の生活を守る為に相手を殺害してしまう。

ニュースを目にした仙波は事態を察し、節子と謀った末に罪を被ることに。
こうして、女性殺害の罪で逮捕された仙波。

節子は成実にすべてを明かし、沈黙を貫くよう指示する。
こうして、罪の重さに耐えかねた成実は、これ以後、贖罪のように環境保護活動に没頭するようになる。

そして、現在。
仙波は病気の為に余命幾許もなくなっていた。
仙波の犯行を疑問視していた塚原は仙波を保護すると信頼関係を築き真相を聞き出す。
そして、仙波に同情した塚原は、成実との最後の別れを果たさせるべく「緑岩荘」へとやって来たのだ。

そこで事故に見せかけ殺害されてしまった。
旅館での死は事故では無かった。
何者かの意思による他殺だったのである。

湯川は草薙に自身の掴んだ真相を明かすと、成実を訪ね真実を語る。

塚原を殺害したのは重治だった。
重治はすべてを察していたのだ。
塚原の来訪により、過去の秘密が暴露されることを怖れた重治は塚原を「海原の間」で一酸化炭素中毒で殺害した。
屋上にある煙突を塞いで不完全燃焼を起こさせたのだ。

しかし、煙突は足の不自由な重治では塞げない位置にある。
ここで、恭平が利用されたのだ。

意味もわからぬ恭平に「ロケット花火が飛び込むといけないから」と旅館の窓をすべて塞がせた重治。
当然、煙突もそれには含まれていた。
こうして、知らず知らずのうちに恭平は殺人に利用されてしまった。

ところが、恭平は薄々自身が何をやってしまったのかに気付きつつあると湯川は語る。
罪には問われないが、このままでは心が耐えられなくなってしまうかもしれない。
そう考えた湯川は恭平が事の重大さを理解し受け止められる年齢になり、秘密を尋ねて来た場合に隠さずすべてを教えて欲しいと依頼するのだった。
湯川の意図を察した成実はその依頼を受ける。

一方、草薙は上司に真相を報告。
成実の犯罪は過去のことゆえ不問。
塚原殺害も塚原の遺志を汲んで、事故で終わらせることに。

恭平が「緑岩荘」を去る日がやって来た。
湯川は恭平に「心を強く持つこと」、「恭平の行為に対し自身も君と一緒に悩んでいる、決して1人ではない」と励まし、ペットボトルロケットの研究成果を手渡すのだった―――エンド。

2011年12月7日追記

コメントにてご指摘を頂き、間違っていた記載箇所を訂正いたしました。
ひろりんさん、ありがとうございます(^O^)/。

追記終わり


◆東野圭吾先生関連過去記事
【「白夜行」&「幻夜」&「夜明けの街で」映像化ニュース】
東野圭吾先生「白夜行」映画化に続き、「幻夜」がWOWOWにてドラマ化決定!!

東野圭吾さん原作「白夜行」日本版映画化決定!!

東野圭吾先生原作「夜明けの街で」が2011年映画化、キャストは近日公開!?

遂に加賀恭一郎が映画に!!「麒麟の翼」映画化発表!!

フジテレビにて、東野圭吾先生「11文字の殺人」&「ブルータスの心臓」&「回廊亭殺人事件」の3作がドラマ化!!

【東野圭吾先生原作ドラマ関連】
金曜プレステージ 東野圭吾スペシャル 探偵倶楽部「大ヒット原作ドラマ化!名探偵最強コンビ誕生!大物社長突然の失踪に隠されたセレブ一族の醜い骨肉の争い…消える死体…驚愕密室トリックを暴け!」(10月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「流星の絆」(TBS系、2008年)

【東野圭吾先生著作ネタバレ書評(レビュー)】
「探偵倶楽部」(東野圭吾著、角川書店刊)

「白夜行」(東野圭吾著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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【探偵ガリレオシリーズ】
容疑者Xの献身(文春文庫版)&映画版

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『虚像の道化師 ガリレオ7』(東野圭吾著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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2夜連続ガリレオSP「ドラマレジェンド ガリレオエピソードΦ」(12月28日放送分)ネタバレ批評(レビュー)

【加賀恭一郎シリーズ】関連過去記事
・シリーズ7作目「赤い指」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
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・シリーズ8作目「新参者」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「新参者」(東野圭吾著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ9作目「麒麟の翼」ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
「麒麟の翼」(東野圭吾著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・ドラマ版「新参者」ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
「新参者」(TBS、2010年)

・ドラマ版「赤い指」ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
東野圭吾ミステリー 新春ドラマ特別企画「赤い指 シリーズ人気No.1ドラマ化最愛の人が殺人を犯したら!?加賀が解く涙の連鎖・家族の絆とは “新参者”加賀恭一郎再び!」(1月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)

【その他】
米国版「容疑者Xの献身」発売される!!タイトルは「The Devotion of Suspect X」!!

「真夏の方程式」です!!
真夏の方程式



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posted by 俺 at 12:00| Comment(8) | TrackBack(1) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも楽しく拝見しております。最近「真夏の方程式」を読了したので来てみました。さて、ひとつ誤りがありましたので指摘させていただきます。塚原の殺害現場は風呂場ではなく海原の間です。また、塞いだのは風呂場の換気口ではなく屋上にある煙突です。
Posted by ひろりん at 2011年12月06日 11:10
Re:ひろりんさん

コメントありがとうございます(^O^)/。
管理人の“俺”です!!

確かに間違ってますね……(泣)。
早速、訂正せねば。
ご指摘ありがとうございました(^O^)/。
Posted by 俺 at 2011年12月07日 20:29
半年も前の記事に対する私のコメントへの管理人様の迅速かつ丁寧な対応に感謝しています。管理人様のこのブログへの真摯な気持ちを感じました。正直びっくりしています。これからも楽しみにしていますので更新を続けてください。

P.S. 管理人様はご自分のことを「若くない」と書かれていますが、おいくつくらいなのでしょうか。差し支えなければ教えてください。因みに私は40代です。
Posted by ひろりん at 2011年12月08日 18:04
Re:ひろりんさん

管理人の“俺”です(^O^)/。

こちらこそ感謝しています!!
指摘して下さらなかったら、間違えたままになるところでした。
それを思うと背中を冷や汗が……。
早とちりとミスの多い管理人ですが、これからも宜しくお願い致します。

年齢についてですが、記事を読んだ方のイメージにお任せしています。
というわけで、申し訳ありませんが年齢不詳でお願いします(^O^)/。
Posted by 俺 at 2011年12月10日 00:26
年齢の件は了解しました。さて、管理人様が書評等で取り上げた作家の中では、東野圭吾・綾辻行人・我孫子武丸・宮部みゆき等が好きです。それ以外では岡嶋二人・真保裕一・池井戸潤等が好きです。もし管理人様がまだお読みになっていないのであれば、お薦めします。また、漫画はあまり読まないのですが、弘兼憲史の「加治隆介の議」は読み応えがある作品だと思います。
Posted by ひろりん at 2011年12月14日 23:52
Re:ひろりんさん

管理人の“俺”です(^O^)/。

お薦めありがとうございます。

岡嶋先生は『クラインの壺』とか読みました。解散されてしまってからは話題になった作品だけ読んでます。
真保先生は『ホワイトアウト』『アンダルシア』とか映画原作は読んでます。他は未読です。
池井戸先生もドラマの原作になった作品は読んでます。
岡嶋先生は展開で、真保先生、池井戸先生は文章で読ませる作家さんですね。

弘兼先生は「ビッグコミック」の『黄昏流星群』ぐらいかなぁ。
それと、ペーパーバック版の『ハローはりねずみ』『人間交差点』とかは幾つか読んでます。
『島耕作』は途中で挫折しました。
『加治隆介』は読んでいないので今度チャレンジしてみますね。

Posted by 俺 at 2011年12月16日 23:37
ガリレオシリーズ史上、最もガリレオらしくない作品。
物語の題材、構成や展開は素晴らしいのは認めますが、

物理学者の湯川だからこその面白さを期待して劇場に来た人やDVDをみた人に、
「何とも言えない満たされない気持ち」を抱かせてしまう作品です。

やはり、海に拘らず、日本橋人形町シリーズで扱うべきものでした。

容疑者Xの献身がシリーズ最高傑作は今のところ揺るぎません。
Posted by とあるOL at 2014年06月21日 22:45
Re:とあるOLさん

こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!

感想でも述べた通り、管理人も『容疑者Xの献身』が大好きです!!

キャラを深めるとの点で『真夏の方程式』もなかなかですが、トリックにも拘った『容疑者Xの献身』もやっぱり素晴らしいです(^O^)/!!
Posted by 俺 at 2014年06月23日 22:31
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Excerpt: 小説「真夏の方程式」を読みました。 著者は 東野 圭吾 あのガリレオ 湯川シリーズ 新作長編です 今回もやはり読みやすく 引き込まれますね ただ、肝心のミステリーとしては普通 そこまでトリック..
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Tracked: 2011-12-25 18:08