ネタバレあります、注意!!
<感想>
晩秋のパリ郊外。時ならぬ嵐で雷鳴が轟き、バルビゾン村の古びた小さなホテルで停電となった。冥暗の中で、偶然出会った日本人の男女が過ごした夢のような時間。そして、誰にも明かすことのできない黙契が因で起きる動機なき連続殺人事件が、福岡につづき、箱根で。容疑者には完璧なアリバイが…。美しくも哀しい愛の行方。フランス犯罪小説大賞受賞作。
(アマゾンドットコムさんより)
<感想>
タイトルの由来は、アガサ・クリスティ作「第三の女」から。
そんな本作は「フランスで出会った見知らぬ男女。暗闇の中で出会った為に互いの容姿すら分からない。だが、男はそれに運命を感じた。2人は男女の仲となり、ある交換殺人を約束する。やがて帰国した男。女と約束した殺害したい相手が実際に殺されるに及び自身も約束を果たそうとするが―――」というもの。
何より切ないのはラスト。
真実の愛を貫いた筈が、貫いた故に破綻しており、しかも、それが為に裏切ったと誤解される立場に置かれるとは!!
なんとも、胸を塞がれるような結末です。
男女の愛が動機であり、結末である展開にも脱帽。
謎めいたオープニングから悲劇的なエンディングまで一気に読ませる力を持った作品でした。
オススメです!!
2011年12月2日追記:
『第三の女』がドラマ化されました。ドラマ版はこちらをどうぞ!!
・金曜プレステージ「夏樹静子・作家40年記念 第三の女 運命の出会いは交換殺人の幕開けフランスで愛しあったあの女は一体誰なのか禁断の恋はエリート准教授を転落させていく…」(12月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
大湖はフランスのパリで史子と名乗る女性と出会う。
折しもホテルは停電。
暗闇の中で顔も知らぬ2人はこの出会いを運命と信じ愛し合う。
やがて、互いに殺したいほど憎い相手が居ることが判明。
大湖は薬害の原因となった教授を。
史子は愛する人を死に追いやった女を憎んでいた。
大湖と史子は戯れ混じりに交換殺人を約束し合う。
帰国した大湖の前であの約束が現実の物となる。
憎むべき相手が殺害されたことで約束が真実であると確信した大湖は愛する史子の素性も知らぬまま、史子が指定した翠を殺害する。
こうして、交換殺人は成立。
捜査本部は被害者に恨みを持っていた人間を当たる。
だが、当然大湖にはアリバイがあるのだった。
やがて、大湖はあのフランスでの一夜を忘れられなくなっていた。
史子を捜し始める大湖。
そして、突き止めた意外な真実とは……。
翠の妹・茜に呼び出された大湖。
茜は自分こそが史子であると語り、大湖と関係を持つ。
だが、大湖は気付いてしまった。
確かに茜はあの夜の面影を持ってはいたが、史子本人ではないことに。
茜を問い詰めた大湖は遂に史子の正体を知る。
史子の正体は大湖が殺害した翠だった!!
過去、翠は不倫の果てに相手の男性を事故に見せかけ殺害しており、そんな自分自身が許せなくなっていた。
そこで、自分自身で自身の罪を裁くことを強く望んでいたのだ。
そんな折、大湖に出会った翠は大湖に自身を殺害してもらえればと望むようになる。
そこで、交換殺人を持ちかけると、大湖の望みをかなえた後に自身を殺害させたのだった。
自身が史子であることを大湖に明かさなかったのは、史子が生きていると思わせることで大湖の罪の意識を少しでも軽くしようとの考えからだったのである。
真実を知った大湖は驚愕し苦悩する。
そんな大湖に茜は交際を申し込む。
茜は死の直前の翠の様子に不審を抱いており、そこから大湖を突き止めた。
そして、大湖の史子……実は翠への愛を知り自身も本当に愛されたくなったのだと云う。
茜は罪の重さに悩む大湖に2人で罪を背負って生きようと告げる。
その頃、捜査本部では大湖と翠の渡航記録が調べられフランスでの接点が明らかになっていた。
これにより、交換殺人も露見。
しかも、卑怯にも大湖が交換殺人を反故にし保身の為に契約相手の翠を殺害したとの結論が導き出されてしまうのだった。
もちろん真実とは異なるのだが、これを覆せるだけの事実を大湖は持ち合わせていないのである―――エンド。
◆夏樹静子先生関連過去記事
【書籍】
・「見えない貌」(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「てのひらのメモ」(夏樹静子著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「天使が消えていく」(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ】
・月曜ゴールデン夏樹静子原作「Wの悲劇」(1月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・月曜ゴールデン 夏樹静子サスペンス「見えない貌〜イソ弁里村タマミの事件簿〜ダムに美しき水死体!出会い系美人妻の孤独と禁断愛…真相を追う母を襲う新たな殺人…真実のカギは親子愛」(6月7日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・NHKドラマスペシャル てのひらのメモ「あなたは本当にわが子を放置したの?裁判員に選ばれた一人の主婦がたどり着く真実」(10月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・土曜ワイド劇場「夏樹静子作家40年記念 天使が消えていく〜小さな命を守れ!欲望の街を走る女性記者!死者からの手紙!驚愕の結末とは!?」(10月30日放送)ネタバレなし感想
・金曜プレステージ「夏樹静子サスペンス弁護士・朝吹里矢子〜古都・おさない証言にゆらぐ老舗〜能登和倉温泉・目撃者は5才児金沢−東京繋ぐ犯行のシナリオ」(12月10日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・金曜プレステージ 夏樹静子サスペンス・検事・霞夕子「首吊り死体が歩いた!悲劇の始まりは1年前の交通事故…歯科医の死体!残された親指の指紋の謎が解けた時…事件の真相が明らかになる(森を歩く死体)」(2月4日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・土曜ワイド劇場「女刑事・左近山響子 90便緊急待避せよ 復讐殺人フライト!!ハイジャック未遂の罠隣席は、連続殺人犯!?立ち聞きされた密会」(5月7日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)