ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
人を殺した15歳のあの夜から、私は善いことだけ、積み上げてきた――。
注目作家、戦慄のノンストップ・ミステリ!
真面目で努力家の珊瑚。他人をアテにしてばかりの翠。中学時代に同級生だった二人は、修学旅行で、一人の男性を死なせてしまった。卒業以来二度と会わないはずの二人。だが、結婚を目前に控えた珊瑚の前に、なぜか翠があらわれる。次第に蘇る過去の記憶、身勝手な翠の振る舞い、突如連絡をよこす昔の不倫相手、そして、新たな惨劇とともに明らかになる15歳のときの事件の真相……。振り切れた善意が向かう結末とは――!?終わったはずの過去をめぐり、女たちは探りあい、騙しあい、奪いあう。ダークな笑いと皮肉に満ちた注目作家、戦慄のノンストップ・ミステリ!
(アマゾンドットコム公式HPより)
<感想>
映画化された「少女たちの羅針盤」。
その作者・水生大海先生の2011年8月現在最新作です。
慎重で計算を巡らせる珊瑚と、天然で欲望のままに動く翠。
この2人の対照的な主人公を軸に「悪事を犯してもその分だけ善行を積めば相殺される」との珊瑚の思考法が如何なる結末を生むのかを描いた作品。
天然ゆえに動きを予測できない翠、そんな翠に巻き込まれ続ける珊瑚。
そうして引っ張り回されるうちに、自然と珊瑚も翠同様に野放図な行動を取るように。
結果、思わぬ行動が積み重なって因果応報としか言いようのない結末へと突き進みます。
この作品の楽しみ方は、翠に振り回され続ける珊瑚に尽きます。
思わぬ台詞や伏線で示された翠の行動が明かされた時、読者は珊瑚同様の感想を得るでしょう。
ひょっとすると、最終的な結論さえも……。
特に終盤は、珊瑚視点と翠視点を上手く使い分けることで作品に深みを持たせることに成功しています。
やっぱり、イイですね!!
<ネタバレあらすじ>
珊瑚と翠は腐れ縁だった。
15年前、翠に巻き込まれる形で殺人の片棒を担がされた珊瑚。
以来、珊瑚は「罪を犯してもそれと同等かそれ以上の善行を積むことにより相殺される」と信じ、実行し続けて来た。
翠とはあの日以来別れたきりだった珊瑚だが、結婚相手の妹こそが翠だったことを知り愕然とする。
理性的な珊瑚は翠のペースに巻き込まれることを警戒しつつ、やはり巻き込まれていく。
翠と別れていた15年の間に、親会社の上司であった阿曽と不倫関係となり、その息子・真哉の家庭教師にもなっていた珊瑚。
こっそり真哉に「善行を積むことで相殺される」例の自身の考えを教えていた。
こうして、真哉は父の不倫相手とも知らず珊瑚を慕うようになる。
だが、阿曽との不倫の清算と共に真哉との師弟関係も消えていた。
だが、結婚を目前にして阿曽が珊瑚の前をちらつくようになる。
しかも、翠により事態は混迷の度を深めて行くばかり。
そのうちに、阿曽の妻・百合子が夫の不倫相手が珊瑚であると翠を通じて気付いてしまう。
間の悪いことに、阿曽と同席しているところを百合子に見られてしまう。
もちろん、これも意識していないものの翠の所為である。
結果、百合子は逆上。
珊瑚を襲い誤って死んでしまう。
困り果てた珊瑚と翠、そして阿曽。
ところが、またもや翠の行動がきっかけとなり阿曽までもが死んでしまう。
だが、珊瑚は諦めていなかった。
このような日の為に善行を為して来たのだ。
必ず救われる筈だと信じていた。
実は、15年前の殺人も被害者は死亡しておらず殺人にはなっていなかった。
その時のように今回も何らかの形で救済されると珊瑚は考えたのだ。
この信仰にも似た信念は報われることとなった。
百合子殺害後、悲観した阿曽が自殺としたとの結論に落ち着き、ほっと胸を撫で下ろす珊瑚。
ところが、翠は死亡した百合子の財布を着服し、珊瑚に無断でネットオークションに出していた。
どこから真相が明らかになるか分からないにも関わらず、この脇の甘い翠の行動に激怒した珊瑚は翠の殺害を目論むようになる。
翠の行動をそれとなく観察した結果、駅から突き落とし事故に見せかけることにした珊瑚。
下見の為に駅へと赴いたところ、後ろから声をかけられる。
そこには真哉がいた。
真哉はネットオークションで手に入れた百合子の財布を珊瑚に突きつけ事情説明を迫る。
真哉が財布を落札していたのだ。
翠は珊瑚の自宅のPCから取引を行っており、真哉は珊瑚に確信に近い疑いを抱いていた。
「信じてたのに……」と呟きながら珊瑚を突き飛ばす真哉。
こうして、珊瑚は翠を殺害する筈の方法で自身が葬られるのだった。
一方、当の翠もまた帰宅直前を真哉に待ち伏せされることとなる。
真哉の狙いは珊瑚と同じ……翠の抹殺。
真哉は珊瑚から教わったことを脳裏に思い浮かべる。
そう、罪を犯してもそれと同等かそれ以上の善行を積むことにより相殺されるのだ―――エンド。
◆関連過去記事
・「少女たちの羅針盤」本編のネタバレ書評(レビュー)です。
「少女たちの羅針盤」(水生大海著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「少女たちの羅針盤」の過去を描く短編です。
「ムーンウォーク(少女たちの羅針盤 新装版収録)」(水生大海著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「少女たちの羅針盤」続編のネタバレ書評(レビュー)です。
「かいぶつのまち」(水生大海著、原書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「少女たちの羅針盤」映画化から公開までの流れをまとめました。
映画「少女たちの羅針盤」公開までの軌跡
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)