2011年08月13日

『人面屋敷の惨劇』(石持浅海著、講談社刊)

『人面屋敷の惨劇』(石持浅海著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

論理(ロジック)×狂気(マッドネス)!!
閉ざされた館の中、驚愕の秘密が「侵入者」を襲う。
気鋭・石持浅海のミステリー2011年進化型

東京都西部で起きた連続幼児失踪事件。我が子を失った美菜子はじめ6人の被害者家族は、積年の悲嘆の果てに、かつて犯人と目された投資家、土佐が暮らす通称「人面屋敷」へと乗り込む。屋敷の中で「人面」の忌まわしき真相を知った親たちの激情は、抑えがたい殺意へと変容。さらに謎の美少女が突然現れたことで、誰もが予想すらしなかった悲劇をも招き寄せていく!!
(講談社公式HPより)


<感想>

石持先生の新作です。
う〜〜〜ん、思ったよりはパンチが効いていない印象。
読後にコレというポイントがない。
なんだか、石持先生の作品らしくない感じ?

正直、館モノとしてもサスペンスとしてもイマイチかなぁ……。
館モノとしてはトリックがアレだし、サスペンスとしても展開が弱いし。
屋敷にも特異性があるワケでもないし。

何より、テーマ自体が重いので最後まで重いままで良かったのに、最後の最後で恋愛テイストを盛り込んだのが痛かった。
美菜子の恋愛を入れたことで子供か恋人かで大きくブレた気がします。
人間の繋がりを描くにしても、あくまで美菜子は子供を中心にした方が良かったのでは?

土佐の狂気の描き方は上手かっただけに、もっと石持先生ならば完成度の高い作品となったと思うんだけどなぁ……。

◆石持浅海先生関連過去記事
「見えない復讐」(石持浅海著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)

「温かな手」(石持浅海著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「ミステリ愛。免許皆伝!メフィスト道場」&「ミステリ魂。校歌斉唱!メフィスト学園」(講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
美菜子:主人公、家族会6人のメンバーの1人。
中川:家族会6人のメンバーの1人。
藤田:家族会6人のメンバーの1人。
秀一:家族会6人のメンバーの1人。
土佐:誘拐殺人犯と目されている男。
亜衣:土佐の娘を名乗るが……。

美菜子は息子を誘拐された。
容疑者は土佐という男。
土佐は他にも多数の子供を誘拐した疑いが持たれていた。
だが、幾度も疑惑を持たれようとも彼が捕まることは遂に無かった……。

痺れを切らした家族会は取材と称して土佐の家に乗り込み、自分たちの手で家探ししようと考える。
この計画に乗った6人が行動を共にすることに。
子供を捜す美菜子、中川、藤田たち5人に、弟を捜している大学生・秀一である。

6人は土佐宅を訪問、この襲撃は奏功し土佐は彼らを招き入れる。
あわよくば、6人で圧力をかけ罪を認めさせた上で、子供の居場所を告白させようと考えていた。

だが、土佐の性格は彼らの想像を遥かに上回っていた。
土佐は6人の素性を知っても動じることなく、余裕を見せたのだ。
逆に6人が土佐に威圧される羽目となった。

土佐から大広間に通された6人はそこに誘拐された子供たちの似顔絵が飾られていることに驚愕する。
土佐は公開捜査時の画像をもとに描いたものだと説明するが、美菜子はそれが嘘だと気付いていた。
なぜなら、美菜子が公開捜査用に用意した写真は誘拐されるよりも数年前の物だったにも関わらず、こうして飾られている似顔絵は誘拐直後の物だったからだ。
しかも、その似顔絵は微笑んでいた。

土佐こそが誘拐犯であると確信した美菜子だが、その傍らでは異常事態が発生していた。
自分の子供の似顔絵を見た藤田が錯乱し、土佐を刺殺してしまったのだ。
こうして、子供を捜す手掛かりは永久に失われてしまった……。
藤田を除く5人は協議の末、家探しが終われば藤田を警察に引き渡すことに決める。

そこへ、高校生くらいの少女が飛び込んで来る。
少女は土佐の死体を発見すると「お父さん」と絶叫。
少女の名は亜衣。
実は彼女こそ誘拐被害者の1人だった。
幼くして誘拐された亜衣は土佐に育てられていたのだ。
亜衣によれば、土佐は両親に虐待を受けたり、愛情を注がれていなかった子供を救うべく誘拐していたと云う。
亜衣自身も両親を憎んでおり、土佐を慕っていた。
そんな亜衣によれば、子供たちは屋敷で養育され、適応しきれなかった子供たちは自ら命を絶ってしまったらしい。
この言葉に悲鳴を上げる家族会の面々。
自身の子供が死んでしまったのでは……と動揺する面々をよそに、亜衣は家族会の6人を殺人犯として警察に通報すると通告する。

ここで、秀一と中川が事情を説明。
殺人犯は藤田1人であること。
その藤田も子供さえ見つかればすぐに引き渡すこと。
何より、今騒ぎになれば亜衣の嫌いな両親がやって来てしまう、などと巧みに言い含める。
この説得に亜衣は屋敷内の探索を了承。
ただし、捜索範囲については亜衣に確認すること、また土佐たちに配慮して行動することを条件として認めることとなった。

ところがここで、藤田が逃げ出そうとしてしまう。
だが、藤田の行動をいち早く察していた秀一により藤田は取り押さえられる。
逃げ出そうとした藤田は応接室に拘束されることとなった。

その夜、秀一が父親を亡くした亜衣を慰める為に彼女の部屋へ向かったのを皮切りに、藤田を除く残る家族会メンバー5人は別行動をとる。
美菜子と中川は子供の居た形跡を捜して靴箱やキッチンに足を運ぶ中、残った2人は他のメンバーの反対を押し切り土佐の書斎を探索する。

そして、数時間後―――藤田が死体で発見された。
逃げ出さないよう手足を拘束された藤田は気道すべてをティッシュで塞がれ窒息死していた。
まるで、罪を裁かれた罪人のように。

明らかに殺人である。
では、誰が藤田を殺したのか―――色めき立つ面々。

父親と慕っていた土佐を殺害されたことで藤田を憎んでいた亜衣が疑われるが、亜衣は秀一と共に居たと証言。
美菜子と中川も共に居た為、アリバイ成立。
残った2人に容疑が集中するが……。

そんな中、土佐が描いたと思われるスケッチブックが発見される。
その中身は想像を絶するものだった。
おそらく、亜衣と違い土佐に懐かなかったのであろう子供が惨たらしく殺害されて行く姿が克明に描かれていたのだ。

これが引き金に新たな悲劇が!!
スケッチブックに描かれた子供が自身の子供であると気付いた家族会の1人が狂乱状態に陥り、刃物を手に暴れまわり事故死してしまったのだ。
しかも、これに巻き込まれる形でもう1人死亡してしまった。

既に4人の死亡者が出たことで中川は警察を呼ぶべきと提案。
秀一たちは、藤田たちを殺害した犯人が半狂乱の末に死亡したと口裏を合わせて届け出る。
工作の甲斐もあり、疑われることもなく事情聴取のみで釈放される中川たち。

ほっと胸を撫で下ろす美菜子の前で、中川は藤田殺害の真犯人を指摘する。
真犯人は生きてこの場に居ると云うのだ。

美菜子と亜衣が互いに顔を見合わせる中で、中川が指名したのは秀一だった……。

秀一は亜衣と共に居た筈と混乱する美菜子、亜衣自身も秀一のアリバイを保証する。
だが、中川は「秀一が亜衣と共に部屋で過ごしたのは間違いないが、その前に既に藤田を殺害していた」と断言する。

中川の推理はこうだ。
秀一は一番最初に部屋を出ると、近くに身を潜めチャンスを窺った。
その後、他の4人が出払ったのを確認し藤田を殺害。
事を終えると、亜衣の部屋に向かいある物を見せることで亜衣の警戒を解いた。

中川は廊下に繋がる玄関で靴箱を捜していたにも関わらず、亜衣に部屋に入れて貰うよう説得する秀一の声が聞こえて来なかったことが何よりの証拠だと告げる。

では、秀一が見せ亜衣に警戒を解かせたモノとは何か?
それは……土佐が描いた幼い秀一の似顔絵だった。
つまり、亜衣と同じく秀一も土佐に育てられた子供だったのである。

秀一は中川の推論を認め、すべてを語り始める。

亜衣も知らなかったが、秀一は土佐の養子だった。
なぜ、土佐は誘拐容疑をかけられたにも関わらずこれまで逮捕されなかったのか?
その理由がここにあった。

土佐が最初に誘拐したとされた事件の被害者こそ、秀一だったのである。
秀一の両親は秀一を道連れに心中を図り、1人秀一だけが生き残った。
残された秀一は土佐に発見され、そのまま土佐の養子となっていた。
当然、秀一は恩人である土佐を慕った。
土佐の母も孫が出来たと喜んだ。

だが、これがまずかった。

「土佐は1人残された子供を助け育てている、決して誘拐犯ではない」
このことが土佐を善意の人物として周囲に誤った判断をさせる原因となった。
これに味をしめた土佐は以降、自分に懐く子供を探し誘拐を続けるようになった。
そして、自分に子供が懐かないとみるや急変し、子供を殺害したのだ。
土佐の母も最初こそ息子を守る為に協力していたが、遂にはついていけなくなり心労が祟ったのか別荘で病死したらしい。

土佐はこれに懲りたのか、亜衣を最後に誘拐を止めた。
もっとも、秀一に言わせれば亜衣が懐いたことで土佐が満足した為ではないかとのことだったが……。

秀一は亜衣とほぼ入れ代わるように土佐家を出て自立していた。
亜衣が秀一の存在を知らなかったのはこの為である。

その後、秀一は土佐の「子供を救う為に誘拐したのだ」との主張が正しいかどうかを確認する為に家族会に参加した。
そこで、秀一は土佐の言葉が必ずしも真実ではないことを知った。

秀一自身も土佐の異常性は理解していたのだ。
だが、それでも秀一にとっては土佐は大切な人物だった。
そこで、そんな土佐を殺害した藤田を許せず殺害することとなった。

さらには土佐の書斎を荒らした罪を償わせる為に例の惨たらしいスケッチブックを発見させるよう仕組んだ。
結果、さらに2人の死亡者が出たのだ。

秀一は悪びれる様子もなく淡々と事実を語った。
美菜子にはそんな秀一の姿が異質なモノに見えた……。

結局、この真相は明かされることはなかった。
亜衣は土佐に代わり秀一の保護下に置かれることとなった。
中川と美菜子は、秀一から自身の子供たちが例のスケッチブックに描かれていないことを聞かされホッと胸を撫で下ろした。

中川と美菜子がいよいよ土佐宅から辞去しようとしたそのとき、秀一から思わぬ情報が明かされる。
2人の子供の行き先かもしれない場所を知っていると言うのだ。
土佐の母は土佐についていけなくなり、土佐と別れて別荘で暮らしていた。
だが、別荘へと移動したのは決して1人ではなかったらしい。
土佐の母は土佐の犠牲となる子供たちを見かねて数人を連れていた可能性があるのだ。

この言葉と共に秀一から別荘の住所と鍵を渡された中川と美菜子。
2人は早速、そこへと向かうことを決める。
そんな2人に秀一は「あなたたちはもう1人じゃない、互いに互いがいる」と促すのだった―――エンド。

『人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)』です!!
人面屋敷の惨劇 (講談社ノベルス)





◆その他の石持浅海先生の作品はこちら。





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