2011年08月22日

『死なれては困る』(夏樹静子著、徳間書店刊)

『死なれては困る』(夏樹静子著、徳間書店刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<「死なれては困る」あらすじ>

ゴルフ場で倒れ、そのまま植物状態となった会社社長の病室に何者かが忍び込み殺害を図るが、発見されて逃亡。警察の執拗な捜査にもかかわらず、”死なれては困る”者はいても、”死んでもらいたい”者は皆無なのだ! 意表をつく結末の傑作集。
(徳間書店さんより)


<感想>

4本からなる短・中編集です。
収録作品は「酷い天罰」、「死なれては困る」、「女子大生が消えた」、「路上の奇禍」。

表題作でもある「死なれては困る」を筆頭に、それぞれにワンアイデアが用いられており、右かと思えば左との著者ならではの技の冴えを味わうことが出来ます。

「最後の一撃(フィニッシングストローク)」ほどの破壊力はありませんが、意外なラストを味わいたい方向けの一冊と思われます。
さくさく読めるのもありがたいです。

ちなみに中編である「路上の奇禍」はドラマ化が予定されており、2011年9月2日に霞夕子シリーズの新作『夏樹静子サスペンス・検事霞夕子〜無関係な死〜』として「金曜プレステージ」にて放送予定。
詳しくは下記過去記事よりどうぞ!!

金曜プレステージにて「3週連続 罪と女とミステリー」放送決定!!

・金曜プレステージ版「霞夕子シリーズ」1作目はこちら。
金曜プレステージ 夏樹静子サスペンス・検事・霞夕子「首吊り死体が歩いた!悲劇の始まりは1年前の交通事故…歯科医の死体!残された親指の指紋の謎が解けた時…事件の真相が明らかになる(森を歩く死体)」(2月4日放送)ネタバレ批評(レビュー)

<ネタバレあらすじ>

・「酷い天罰」

地元で有名な乱暴者の若者が殺害された。
死体の頭部に複数の打撲痕があり、何者かに乱打された揚句の死と思われた。
被害者を恨む者は多く、捜査は難航する。

そんな中、ゴルフ場にある休憩所のウェイトレスの登場により事態は意外な展開を見せる。
彼女は犯人を目撃していたのだ。
だが、それが誰かまでは分からないらしい……。

しかし、次の一言が犯人を明らかにした。
最近になって、滅多に見かけないお客によく声をかけられるようになったと言うのだ。
そのお客こそ、地元で交通安全の御利益を擁する神社の神主だった―――。

こうして、容疑者となった神主。
取り調べの結果、真相が明らかになる。

実は、被害者は交通事故死だった。
神主が運転する車が被害者を轢いてしまったのだ。
御利益として交通安全を謳っている手前、事故を起こしたことは表沙汰に出来ない。
被害者がそのまま死亡したことで神主は一計を案じる。

普段から多くの人々に恨まれていた被害者。
ならば、事故ではなく何者かによる殺害に見せかけることも出来るのでは?

そう考えた神主は事故を殺人に偽装したのだ。

殺人を事故に偽装することはあれど、事故を殺人に偽装するのは珍しい。
この逆転の発想に捜査本部は惑わされていたのだった。

だが、目撃者の存在を知ったことで不安になり、確認の為に何度も足を運んだのが仇となり犯行が露見したのだった―――エンド。

・「死なれては困る」

ゴルフ場で倒れ、植物状態となっている社長の病室に何者かが侵入し殺害しようとする事件が発生。
幸い事件は未遂に終わり、犯人は逃走した。

だが、調べれば調べるほど社長を殺害しようとする動機の持ち主は現れない。
犯人が逮捕されたとき、捜査陣が知った意外な結末とは―――。

実は、犯人は間違えて社長を襲っていたのだ。
本来のターゲットは別に存在していた……しかし、事件はこれで終わらなかった。

社長が倒れたこと、それ自体が人為的なものだったのである。
捜査本部が殺人未遂事件を追ううちに突き止めた真相は次のようなものだった。

社長の妻は製薬会社の社員と浮気していた。
夫が居る限り、大っぴらに浮気できない。
かといって、夫を殺してしまっても疑惑が生じる為に浮気しづらくなる。

そこで、浮気相手である製薬会社の人間から死なない程度に昏睡させる薬を入手。
夫に使用し、生かさず殺さず放置しようとしていたのだった。

社長の妻はまだ知らない。
捜査陣がこの事実を掴みつつあることを―――エンド。

・「女子大生が消えた」

ある女子大生が殺害された。
彼女は普段からワープロ文書で父とやり取りし、多額の現金を送金して貰っていた。
父親はそんな娘の死を大いに嘆く。

しかし、この事件には裏があった。
実は、ワープロを用いて父親から現金を引き出していたのは別の人物だったのである。
そして、その人物こそ犯人だったのだ―――エンド。

・「路上の奇禍」

新聞記者の松尾は日課のジョギング中にある事件に遭遇する。
それはゴルフのスイング練習をしていた女性が別のジョギング男性を誤って殺害してしまった現場だった。

その女性・初音によれば、被害者・宇野が急に飛び出して来たので、スイングを止められず当ててしまったと言う。
こうして、事件は過失致死で終結。
初音は宇野の遺族に多額の慰謝料を支払うこととなった。

それから、数ヵ月後。
松尾は新聞紙上で別の過失致死事件の記事を見かける。

内容は、川辺という男性が老人を射殺してしまったとのものだった。
なんでも、川辺の所持する猟銃に弾が一発残されており暴発したらしい。
こちらも、過失致死として終結を迎えることに。

さらに月日が過ぎたある日、松尾は初音が経営するブティックが移転したことを知る。
そこは一等地だった。
多額の慰謝料の支払いに苦しんでいた筈の初音、どこからその費用が出たのか?
疑問を抱いた松尾が調べ始めると、意外な事実が浮かび上がる。

初音は川辺が誤射した老人の孫娘だったのだ。
つまり、初音は1件目の過失致死で加害者となり、2件目の過失致死で被害者側に立っていたのだ。
しかも、老人の死により多額の遺産を相続していた。

宇野が慎重な性格の人物で前を確認せずに走ることもないと判明。
加えて、宇野の妻が川辺と不倫関係にあることも突き止める。

初音が宇野を、川辺が初音の祖父を殺害したことによりそれぞれが利益を得ていた。
そう、2件の過失致死は事故に見せかけた交換殺人だったのだ!!

だが、2件とも既に判決が出ている。
一事不再理の原則により2度と裁かれることは無い。
割り切れない思いを抱いた松尾は宇野の妻から真相を聞き出そうとする。

だが、宇野の妻は松尾の話を聞くと顔面蒼白になり、ガタガタと震えだした。
どうも、交換殺人事態をしらなかったらしい。
驚いた松尾はその場を辞去する。

その夜、法律に詳しい友人と会食の場を設けた松尾。
これまでの調査結果を明かし、相談を持ちかける。

と、友人は笑って松尾の解釈が誤りであることを指摘する。
松尾は2件の事件が一事不再理となり誰も罪に問えないと思っていたが、それは間違いだったのだ。

確かに判決が出ている以上、初音の宇野に対する過失致死と川辺の老人に対する過失致死は罪に問えない。
だが、初音の祖父への殺人罪と川辺の宇野への殺人罪は、初音と川辺の共謀が立証できれば罪に問えるのだ。

翌日、松尾はニュースで宇野の妻が自殺未遂を起こしたことを知る。
おそらく、松尾の口から真相を知った宇野の妻が罪の意識に耐え切れなくなったものと思われた。

ニュースによれば、近日中に警察が宇野の妻に対し事情聴取するらしい。
これで、真実が明らかになる。
そう喜ぶ松尾だった―――エンド。

◆夏樹静子先生関連過去記事
【書籍】
「見えない貌」(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「てのひらのメモ」(夏樹静子著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「天使が消えていく」(夏樹静子著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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【ドラマ】
月曜ゴールデン夏樹静子原作「Wの悲劇」(1月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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