ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
ミステリ界最高・最強のラインナップ!
日本推理作家協会が選び抜く、2010年に発表された短編推理小説のベスト12!
日本推理作家協会賞短編部門受賞作、深水黎一郎「人間の尊厳と八〇〇メートル」に加え、日本推理作家協会賞長編部門受賞の米澤穂信、吉川英治文学新人賞受賞の辻村深月、直木賞受賞の道尾秀介ら最高、最強のラインナップでお届けする、究極のミステリ・アンソロジー。
本書は、過去一年間に発表された短編ミステリの中から、特に優秀だと判断された作品を収録したものです。選者は日本推理作家協会が依頼したプロの読み手たちで、作品のレベルに関しては自信をもって保証いたします。
時代の流れと共に、新たな書き手が続々と生まれ、ミステリも多様化しています。本書により、読者の皆様にとって良い出会いがあることを確信しております。――日本推理作家協会理事長 東野圭吾
巻末に千街晶之氏による『推理小説・二〇一〇年』、さらに推理小説関係の受賞作を網羅した「受賞リスト」を掲載。
ミステリファン必読必携、完全保存版の一冊!
日本推理作家協会賞短編部門受賞作 「人間の尊厳と八〇〇メートル」――深水黎一郎
「原始人ランナウェイ」――相沢沙呼
「殷帝之宝剣」――秋梨惟喬
「アポロンのナイフ」――有栖川有栖
「義憤」――曽根圭介
「芹葉大学の夢と殺人」――辻村深月
「本部から来た男」――塔山郁
「天の狗」――鳥飼否宇
「死ぬのは誰か」――早見江堂
「棺桶」――平山瑞穂
「橘の寺」――道尾秀介
「満願」――米澤穂信
(講談社公式HPより)
<感想>
「第64回日本推理作家協会賞【短編部門】」受賞作品です。
詳しくはこちらの過去記事をどうぞ!!
・第64回日本推理作家協会賞発表!!
それにしても、これは物凄い短編が現れました。
一読して圧倒されるその内容。
如何にもなミステリでこそ無いものの、面白さは間違いない。
そして、ラストのアレ。
どれもが光ってる、これなら受賞も頷けます。
著者の持ち味である淡々とした文章の中に籠る熱はもちろん。
短編に必要とされる切れ味の鋭さはそのままに、グイグイ引っ張って止まないストーリーテリングも加わり本当に凄い。
『五声のリチェルカーレ』のときも感嘆するばかりだったのですが、今回もそれです。
・「五声のリチェルカーレ」(深水黎一郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
とりあえず、損は無いと思う。
本作『人間の尊厳と八〇〇メートル』を読むべし。
ちなみに『人間の尊厳と八〇〇メートル』は、東京創元社さんより2011年9月30日に短編集として発売予定です。
・『蜜月旅行 LUNE DE MIEL』(深水黎一郎著、東京創元社刊『人間の尊厳と八〇〇メートル』収録)ネタバレ書評(レビュー)
詳しくは本記事下部にあるアマゾンさんのリンクよりどうぞ!!
2011年11月19日追記:
公式HPよりの社名部分に訂正がありました。
詳しくはコメント欄をご確認ください。
Hurryさん、ご指摘ありがとうございました(^O^)/。
<あらすじネタバレ>
とある小さなバーで「わたし」は初対面の男に声をかけられた。
男は「期待値の低い出来事にあえて参加しそれを達成することで自身の尊厳を確認することが出来る」と自説を展開。
「わたし」に「800メートル走で勝負し賭けをしないか」と持ちかけて来る。
男の説によれば、まずこのバーで2人が会ったこと自体が低確率で、その2人が賭け勝負を行うことは尚更確率が低い。
それだけ、自身の尊厳を確認できると言うのだ。
困惑する「わたし」をよそに男は「わたし」の所持金5万円を賭け金として要求。
代わりに男は、都内一等地の土地の権利書を差し出して来た。
男の言葉に納得しつつあった「わたし」はその勝負に応じようとしてしまう。
そこへ、向かいのカウンターから声がかけられた。
相手はカウンター越しに上半身だけ見ても鍛えられていると分かる筋骨隆々の男性。
その男は賭けを持ち出した男を真島さんと呼ぶと、自身も賭けに参加させてくれと主張する。
男によれば、自身が参加することで3人となり、真島の説をより補強する筈だと言うのだ。
ところが、真島はこれを頑なに否定。
先程までの余裕はどこへやら、不思議に思う「わたし」を前に第3者の介入を執拗に拒む。
それに対し、男は真島が元陸上選手であることを指摘。
さらに、土地の権利書だけでは意味がなく、実印と印鑑証明を加えるように要求。
その代償に賭け金として自分の命を差し出すと訴える。
これを聞いた真島は顔面蒼白、ほうほうの態で逃げ出した。
逃げ出す真島を見ていた「わたし」はこの男性に救われたことに気付く。
真島は元陸上選手、800メートルならお手の物だった。
最初からアンフェアな勝負だったのだ。
しかも、真島が賭けの対象として提示したものは実際に効果を発揮しないものだったのである。
そう、実印と印鑑証明が無い限り、権利書だけでは正当性を主張できないのだ。
「わたし」を助けた男性は、真島が尊厳を口実に賭けへと誘い込み、カモから金を巻き上げていたと指摘。
しかも、彼が助けてくれた理由はもうひとつあった。
それは私がバイク事故で義足になっていたことだった。
最近でこそ支障のない生活を送れるようになっていたが、彼にもそして真島にもどうやら見抜かれていたようだ。
つまり、真島は絶対に勝てる自信を持って賭けに誘ったことになる。
「わたし」は助けてくれた男性に大変な好意を持った。
お礼にここの勘定を払うことにした「わたし」に、最初こそ遠慮していた彼だったが「わたし」が懇願したこともあって受け入れてくれることとなった。
その代わりに彼はある秘密を「わたし」に明かしてくれた。
その秘密を知ったとき、「わたし」は彼こそが真島の口にしていた「人間の尊厳」を達成した人物だと確信した。
なぜなら、彼がもし真島との800メートル走に挑んでいたならば確実に負けていただろうからだ。
しかし、彼は自身から賭けの参加を提案したにも関わらず、走ることなく相手に勝った。
まさに、不可能を可能にしていたのだ。
「わたし」の目の前で、彼はカウンターから降りていく。
まずは地面にスケボーを降ろすと、上半身を腕の力だけでその上に乗せた。
そして、カヌーを漕ぐ要領でスケボーを操作しその場を後にするのだった―――エンド。
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コメントありがとうございます(^O^)/。
管理人の“俺”です!!
ああっ……確かに社名を間違ってますね(汗)。
早速、訂正せねば……ご指摘ありがとうございます(^O^)/。