ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
大林宣彦監督で映画化。2004年冬劇場公開。頂点をきわめた社会派ミステリーの新たな古典!
事件はなぜ起こったか。殺されたのは「誰」で、いったい「誰」が殺人者であったのか――。東京荒川区の超高層マンションで凄惨な殺人事件が起きた。室内には中年男女と老女の惨殺体。そして、ベランダから転落した若い男。ところが、四人の死者は、そこに住んでいるはずの家族ではなかった……。ドキュメンタリー的手法で現代社会ならではの悲劇を浮き彫りにする、直木賞受賞作。
(新潮社公式HPより)
<感想>
とある事件に関わった人々へのインタビューなどドキュメンタリー形式で構成された作品です。
管理人は最初に読んだときにはこの作品の良さを余り理解できていませんでした。
正直、作品の山場が何処にあるのか分からずに困惑したくらいです。
で、今回再読するにあたり、少しそれらが見えて来た気がします。
片倉一家や石田が抱く家族への愛情。
そして、ラストの得体の知れないものに抱く本能的な恐怖など。
そして、宮部先生は個人を描くのが圧倒的に上手い。
本作に登場する人物すべてが生き生きとしており、物語を進める為の単なる駒では終わっていません。
結果、個人を通してラストの社会全体への問題提議がリアルな重みを伴うものとなっている。
本当に凄い!!
改めて、宮部先生の凄さを認識した次第です。
ネタバレあらすじありますが、本作のエッセンスの100分の1も伝えきれていないでしょう。
これは本作を読まないと良さは分からないと断言出来ます。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
八代祐司:被害者の1人。ただ1人転落死していたが……。
宝井綾子:若い母親、康隆の姉。
石田直澄:殺人事件現場から逃亡した男。
宝井康隆:綾子の弟。
片倉信子:片倉ハウスの経営者夫妻の娘。
東京にある高級マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」2025号室で一家4人が惨殺された。
1人は転落死、残った3人は何者かにより殺害されたようだ。
警察は現場から逃げ出した石田直澄を追うが……。
数ヵ月後、簡易宿泊所「片倉ハウス」にて石田が捕まる。
通報して来たのは、片倉ハウスの経営者夫妻の娘・信子。
だが、信子によれば「石田は犯人ではない」らしい……。
一体、事件の真相とはなんだったのか?
事件解決から数年後、この事件を風化させない為にとある記者が関係者にインタビューを試みる。
そこから見えて来たのは意外で恐ろしい真相だった。
殺害された一家は血の繋がりのない他人の集まりだったのである。
彼らは競売物件となった2025号室を押さえるべく不動産屋に雇われた占有屋だったのだ。
そして、石田こそ競売で2025号室を競り落とした所有者だった。
競り落としたものの、祖母と夫婦とその息子を名乗っていた面々に居座られた石田。
困り果てていたところ、息子を名乗っていた八代祐司が実は家族ではなく占有屋であることを明かす。
さらに、他の面々を説得して立ち退かせてやるから1千万円をよこせと要求して来る。
当初は相手にしていなかった石田。
そのうちに八代は他の面々を殺害してもいいのかと脅迫して来る。
もしも殺した場合、殺害動機があるのは不法に占有されて困っていた石田しかいないと言うのだ。
まさか本気ではあるまいと考えていた石田だが、気にかかって仕方がない。
そこで、他の面々に八代の裏切りを伝えることに。
これがマズかった。
ある晩、八代から電話があったので現場に駆け付けてみると家族同然のように暮らしていた人々を八代が手にかけていた。
どうも、他の面々と揉めたらしい。
呆然とする石田に八代は邪魔者を消してやったのだから1千万円をよこすように要求。
突然のことに困惑する石田。
そこへ新たな来訪者が現れる。
赤ん坊を抱いた若い母親らしい来訪者は、現れるなり殺人を犯した八代を批難。
若い母親は名を宝井綾子と言い、赤ん坊は八代との間の子供だった。
八代と綾子は揉み合ううちにベランダへ。
そのまま、綾子は八代を突き落としてしまう。
自失状態の綾子を見た石田は赤ん坊のこともあり、自身が囮となることを引き受ける。
こうして、石田は逃走することになった。
だが、逃亡生活に入って数ヵ月。
体調を崩し疲れ果てた石田は片倉ハウスに流れ着き、そこで信子に石田であると見抜かれたことをきっかけに出頭を決意。
綾子へその旨を伝えることに。
連絡を受けた綾子は、以前から相談していた実弟・康隆や両親と話し合い、自首することに。
こうして世の中に事件の真相が伝えられることとなった。
あれから数年後、「ヴァンダール千住北ニューシティ」に幽霊が出るとの噂が立った。
出て来るのは八代に殺害された3人ではなく、八代自身の幽霊らしい。
血の繋がりこそ無かったとはいえ、家族同然に生活していた相手を邪魔になったからと殺害した八代。
なぜ、そんなことが出来たのか?
それが理解出来ない限り、彼の幽霊は異質な存在として現れ続けるのだろう。
何かを訴えるように。
いずれ、彼の幽霊が消えてしまう日が来るのだろうか―――エンド。
2012年5月7日追記:ドラマ版が放送されました。
・月曜ゴールデン「TBSスペシャルドラマ企画 宮部みゆき・4週連続“極上”ミステリー 第一夜 理由 直木賞受賞超大作を豪華キャストで完全映像化!犯人も被害者さえも正体不明4死体と7つの家族…謎と裏切りの真相!!」(5月7日放送)ネタバレ批評(レビュー)
◆宮部みゆき先生関連過去記事
【書評】
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・「パーフェクト・ブルー」(宮部みゆき著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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・『スナーク狩り』(宮部みゆき著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『長い長い殺人』(宮部みゆき著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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・「燔祭(鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまでより)」&「クロスファイア(上・下巻)」(宮部みゆき著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【ドラマ批評(レビュー)】
・金曜プレステージ「3週連続・罪と女とミステリー最終夜!宮部みゆきスペシャル 魔術はささやく〜大ヒット原作が今蘇る!大罪を犯した女を襲う復讐地獄…死の着信が私を今日殺す!姿なき悪魔は誰?」(9月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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・ステップファザー・ステップ「宮部みゆき原作ステップファザー・ステップ 大ベストセラー解禁!!泥棒が双子のパパに!?笑える!泣ける!ニセモノ親子の本物の絆…!!」(1月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【その他】
・宮部みゆきさんの「パーフェクト・ブルー」ドラマ化!!
・宮部みゆきさん「パーフェクト・ブルー」ドラマ化・続報!!
・宮部みゆき原作「パーフェクト・ブルー」ドラマ版が劇場公開決定!!
・映画「パーフェクト・ブルー」2010年11月24日DVD発売決定!!
・柳家花緑さん、宮部みゆき先生「我らが隣人の犯罪」を演ずる!!
・宮部みゆき先生新作「ペテロの葬列」が岐阜新聞で6月21日より連載開始!!
・宮部みゆき先生「火車」が韓国で映画化!!
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