ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
デビュー作の絵本がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は親友同士。共に幼いころ親に捨てられた過去を持つ。ある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐された。「真実」とは何か……。それに辿り着いたとき、ふたりの歩んできた境遇=人生が浮き彫りになっていく。人は生まれた環境で、その後の人生が決まるのではなく、自分で切り拓いていけるもの。人と人との”絆”や”繋がり”を考えさせられるヒューマンミステリー。今冬放送予定の、ABC創立60周年記念スペシャルドラマ原作。
(双葉社公式HPより)
<感想>
湊かなえ先生が手掛けたABC創立60周年記念スペシャルドラマ「境遇」の原作です。
ドラマについて詳しくは過去記事をどうぞ!!
・朝日放送制作、湊かなえ先生スペシャルドラマのタイトル判明!!その名も『境遇』に!!
・朝日放送創立60周年記念にて湊かなえ先生スペシャルドラマが放送予定!!
さて、そんな『境遇』について感想を。
あくまで管理人の個人的な感想であると前置きした上で。
正直、特に読むべき本ではありません。
作者の良さが活かされていないように感じました。
極論かもしれませんが、ドラマで充分……いや、ドラマでこそ視るべき作品で活字にするべきものではない。
湊先生の特徴であるあの“毒”がほとんどありません。
あの一人称の視点交代は健在ですが、それが効果を発揮していない。
結果、内容的に心を揺さぶられる作品の筈が、ひたすら単調なモノにしか感じられなくなっている。
本来、人情モノは湊先生の分野では無い気がする。
最近の湊先生の作品には人情を絡めたものが多いのですが、なんだか作品に生気が宿っていないような気がします。
誠に勝手ながら、個人的に湊先生には「意外な切り口から見える“毒”のある作風」を固持して欲しいと思います。
その意味でも本作は「失敗ではないか」と思われました。
「何か作品に対して縛りでもあったのではないか?」と疑うほどの完成度です。
ひょっとして、地上波で放送することを考慮した結果なのでしょうか?
だとしたら、メディアミックスは逆効果になっており、残念としか言えません。
『告白』、『贖罪』、『少女』などの“毒”こそが湊先生の真骨頂と信じている管理人にとっては、本作はどうにも受け入れられませんでした……。
そうそう、湊かなえ先生原作の映像化といえば、その著作『贖罪』のドラマ化、『二十年後の宿題』の映画化も予定されています。
こちらにも注目!!
・湊かなえ先生『贖罪』がドラマ化!!
・湊かなえ先生原作『二十年後の宿題』(『往復書簡』収録)が映画化!!そこには意外なエピソードが……
<ネタバレあらすじ>
デビュー作の絵本『あおぞらリボン』がベストセラーとなった陽子。
県会議員である夫・高倉正紀、息子・祐太と家族にも恵まれ順風満帆な人生を歩んでいた。
陽子には新聞記者の晴美という親友が居た。
陽子と晴美は、共に幼いころ親に捨てられた過去を持っていた……。
そんなある日、「真実を公表しなければ、息子の命はない」との脅迫状が陽子に届く。
祐太が誘拐されたのだ!!
陽子は祐太を救う為に晴美と共に犯人の言う「真実」を追う。
陽子と晴美が捨てられていた際に預けられた施設や、陽子の周囲に出没する橋本弥生など、謎が謎を呼ぶ中、陽子たちが辿り着いた真実とは!?
それは陽子自身も知らぬ出生の秘密―――陽子の父親が殺人犯だとの辛いものだった。
そして、母親はあの橋本弥生。
弥生は陽子の書いた絵本『あおぞらリボン』のエピソードを目にし、陽子を娘だと思ったのだ。
そう、『あおぞらリボン』に描かれた青いリボンのエピソードこそ親娘を繋ぐ絆だった。
陽子はテレビの対談番組にゲストとして呼ばれたことを機に、この事実(父親が殺人犯であること)を世間に明かそうとする。
正紀との離婚も覚悟して放送に臨んだ陽子だったが……。
すべてを生放送で告白した陽子。
そこへ正紀も現れる。
正紀は陽子自身も知らぬ陽子の過去について知っていた上で結婚したらしい。
陽子の行動を支持する正紀は自身が疑惑をかけられている不正献金疑惑についても明らかにする。
こうして、陽子と正紀は心をひとつにすることに。
そこへ誘拐犯人から連絡が。
陽子が真実を明かしたことで祐太を無事に帰すと言う。
その言葉通り、無事に戻って来る祐太。
陽子は誘拐犯人を知っていると語る晴美と共に犯人のもとへ向かう。
だが、そこには誰も居ない……。
いや、陽子以外に1人だけ居た―――晴美である。
祐太誘拐犯人は晴美だったのだ。
親友である晴美がなぜこんなことを!?
陽子の父とされる男が犯した殺人事件。
その被害者の遺児こそが晴美だったと言うのだ。
晴美は両親の仇討ちだと陽子に告げるが……その眼は涙に濡れていた。
陽子にとって晴美が親友だったように、晴美にとっても陽子は親友だった。
最初こそ、気分が晴れるだろうと起こした誘拐事件だったが、陽子の必死な姿を見ているうちに自身の行動が間違っていることに気付いたらしい。
晴美は陽子に謝罪。
陽子もまた晴美を許す。
だが、事件は終わっていなかった。
そこへ駆け付けて来た弥生は、『あおぞらリボン』のエピソードが誰のものかを確認する。
実は『あおぞらリボン』のエピソードは陽子が晴美から聞いた逸話をもとに書いたものだった。
そう、殺人犯の父を持つ弥生の娘は陽子ではなく、晴美だったのだ。
晴美は被害者の遺児ではなかったのである。
かといって、陽子も事件に関連する出自ではない。
もとより前提に間違いがあったのだ。
こうして、さらに後悔する晴美だったが陽子は許すことに。
改めて、世間へと真実を伝えることにする陽子。
だが、そこに晴美が祐太を誘拐した事実は含まれていなかった……。
十数年後、正紀が出馬を表明している席に成長した祐太も居た。
その場には陽子も居る。
同じ頃、とある手記が発表されようとしていた。
そこには祐太誘拐から解決に至るまでのすべてが記されていた。
その手記は、とある女性記者の手によるもの。
最後に「自身の罪を告発する」と締め括られていた―――エンド。
◆関連過去記事
・「告白」(湊かなえ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・コミック版「告白」(湊かなえ原作、木村まるみ画、双葉社刊)ネタバレ批評(レビュー)
・「贖罪」(湊かなえ著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「少女」(湊かなえ著、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・“本の雑誌”こと「ダ・ヴィンチ」にて湊かなえ先生特集が掲載、しかも古屋兎丸先生によるコミック版「贖罪」も!!
・2010年公開ミステリ系映画(「告白」、「悪人」、「インシテミル」)、DVD化続々
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