ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
【第64回日本推理作家協会賞受賞】
このこぢんまりとした酒場に入ったのは、偶々(たまたま)のことだ。そこで初対面の男に話しかけられたのも、偶然のなせるわざ。そして、異様な “賭け”を持ちかけられたのも──あまりにも意外な結末が待ち受ける、一夜の密室劇を描いた表題作ほか、極北の国々を旅する日本人青年が遭遇した二つの美しい謎「北欧二題」ほか、本格の気鋭が腕を揮ったバラエティ豊かな短編ミステリの饗宴。第64回日本推理作家協会賞受賞作を表題とする、5つの謎物語。著者解題=深水黎一郎
目次:
「人間の尊厳と八〇〇メートル」
「北欧二題」
「特別警戒態勢」
「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」
「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」
(東京創元社公式HPより)
<感想>
表題作『人間の尊厳と八〇〇メートル』は「第64回日本推理作家協会賞【短編部門】」受賞作品です。
ネタバレ書評(レビュー)してますね。
詳しくはこちらの過去記事をどうぞ!!
・『人間の尊厳と八〇〇メートル(ザ・ベストミステリーズ2011収録)』(深水黎一郎著、講談社刊)
・第64回日本推理作家協会賞発表!!
表題作については過去記事をご覧いただければお分かりの通り、傑作です!!
読んでいて興奮したほどの作品。
そして、それは短編集『人間の尊厳と八〇〇メートル』に収録された他の作品も同様のこと。
過去記事では『蜜月旅行 LUNE DE MIEL』もネタバレ書評(レビュー)しています。
・『蜜月旅行 LUNE DE MIEL』(深水黎一郎著、東京創元社刊『人間の尊厳と八〇〇メートル』収録)ネタバレ書評(レビュー)
そこで今回はそのひとつ『完全犯罪あるいは善人の見えない牙』をネタバレ書評(レビュー)。
完全犯罪の意外な結末を描いた佳作です。
深水黎一郎先生は稀代のストーリーテラーと言えるでしょう。
ただし、管理人のあらすじでは良さを上手く伝えきれていません。
あらすじで興味を持って頂けたならば、是非、本編を読んで頂きたい作品です。
◆「深水黎一郎先生」関連過去記事
・「五声のリチェルカーレ」(深水黎一郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
<あらすじネタバレ>
完全犯罪は難しい―――世間ではそう思われている。
だが、完全犯罪それ自体は条件を満たすことが出来れば簡単に達成できる。
ちなみにここで語る完全犯罪とは未解決事件のことでは無い。
トリックを用いて挑戦するなど言語道断だ、リスクが高過ぎる。
私がこれから語るのは事件にすらならない―――事件とは思われない自然死に見せかけた完全犯罪のことだ。
では、条件を明かして行こう。
まず、完全犯罪を行ったことを誇示しないこと。
自身の有能さを証明したいばかりに、つい犯行を自慢してしまう。
これが一番危ない。
そして、必ず被害者は1人に留めておくこと。
成功に味を占めて、繰り返すと必ず露見するからだ。
最後に、それらしい死因を用意し、あまりやる気のないサラリーマン医者に死亡診断書を発行して貰うこと。
彼らは死因が明確ならば、そこまで執拗に調べはしない。
つまり、完全犯罪を達成するには、自然死として不思議がられず、成功しても誇らず、目立たず、1度きりであることが求められるのだ。
私はこの条件に合致する完全犯罪を行った。
そして、犯罪には成功したものの、とある事情により収監される立場となった。
そう、私の完全犯罪は露見してしまったのだ。
若い頃、私は美貌を活かし多くの男性と交際して来た。
だが、結局は誰か1人に絞り切ることが出来ず、婚期を逸した。
その後は、相手に恵まれず少しでも良い条件の結婚相手を捜し続けた。
そこで、あの人と出会った。
あの人とは夫のことだ。
夫は善意の人で、周囲の評判も大変良かった。
私はその好意を自身も受けられると信じて結婚した。
これが誤りだった。
夫の評判の良さ、それは無私から来るものだった。
夫は自らを犠牲にし、人に尽くしたのだ。
そして、それを妻となった私にも強いた。
私にとって苦痛の日々が始まった。
やがて、私は耐え切れなくなった。
離婚も考えた。
だが、このまま離婚しても、夫に具体的な非がないことは誰よりも私が知っている。
慰謝料は得られない。
そこで、私は夫の殺害を考え始めた。
もちろん、夫には保険金をかけてある。
受取人は私だ。
殺害方法は毒殺。
その具体的な名前は此処では明かせないが、少しずつ長い時間をかけて摂取させることにより肝機能を破壊し死に至らしめる薬とだけ述べておく。
これを夫に少しずつ盛った。
やがて、夫は体調を崩した。
死期を悟った夫は私に介護させることを遠慮し、離婚を切り出した。
私は渡りに船とそれに応じた。
保険金は離婚しても受け取ることが出来るからだ。
とはいえ、夫のもとへは毎日通った。
献身的に尽くした。
周囲の証言は私を嫌疑の眼から守ってくれる筈だ。
同時に毒を盛り続けた。
やがて、夫は死亡した。
医者は碌に調べることもせず、死亡診断書にサインした。
私の計画は完璧だった……ここまでは。
最後の最後で夫の善意が私に牙を剥いたのだ。
夫は私に黙って献体の申込みをしていた。
気付いた時には遅かった。
離婚してしまっていた私に献体を止める術は残されていなかった。
献体された夫の遺体は研究所で実験に使用され、すぐに薬の存在に気付かれてしまった。
こうして、私の完全犯罪は崩壊した。
恐ろしきは善意の人の見えない牙である―――エンド。
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