日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season10(ten)」第4話「ライフライン」(11月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)。
<ネタバレあらすじ>
「帯川運送」の社長・帯川(林和義)が死体で発見された。
会社の経営に行き詰まっていた帯川はあちこちに借金のある多重債務者だった。
凶器はカッターナイフ、他殺と思われたが……。
ただ一点、深々と刺さったそれを被害者が抜いた形跡があったことが疑問とされた。
財務分析が絡んで来る事件の為、本来ならば捜査2課の出番だったが、捜査2課は別件に手が取られていて動けない。
そこで、元捜査2課の経歴を持つ右京(水谷豊)へとお鉢が回ることに。
右京は相棒である神戸(及川光博)と共に早速、帯川運送へ。
帯川運送では、最近になって杉田哲明という社員が辞めていた。
財務分析の結果、明らかな赤字経営と判明。
1千万円の借り入れの存在まで発覚する。
増えて行く借財―――しかも、それは現在進行形で進んでいたらしい。
間違いなく倒産すべき経営状況と断じる右京。
右京は借入先の中に1件だけ「1000%の金利」の会社があることに注目。
どう考えても暴利のそれ、闇金業者である。
伊丹たちは、帯川に3000万円の生命保険金がかけられていたことから、借金の連帯保証人になっていた妻の郁美(立原麻衣)が保険金目当てで殺害したのではと疑惑を抱くが……。
一方、財務分析のみで終わらないのが右京と神戸である。
止められていたにも関わらず、やっぱり捜査に乗り出すことに。
被害者の携帯に着信履歴のみで発信履歴のない電話番号を見つけた右京は、米沢に調査を依頼。
さらに帯川の携帯からは、新潟は寺泊行きの小包の写真が見つかっていた。
帯川の会社では使用するカッターの刃先を欠けさせておく慣習があった。
カッターの刃が折れて荷物に紛れこまないようにとの配慮である。
ところが、凶器にそれがなかった……どういうことなのか?
郁美から話を聞く右京たち。
生前の帯川は「鬼になる!!鬼になって社員をクビにして会社を潰し故郷へ帰る……」と口にしていたらしい。
それ以上については、半狂乱となった郁美から聞き出すことは出来なかった。
辞去しようとする右京たちの背中に声がかかる。
帯川の娘・みさきである。
みさきは父の部屋から「緊急互助会 会長・須磨健太郎」の名刺を発見したと神戸に渡しに来たのだ。
神戸は力になるから連絡するようにとみさきを励ます。
父の死後、初めて優しい言葉をかけられたからだろうか?
みさきは泣き出すと「父が自殺ではないと知り、ほっとした」と口にし「父を殺した犯人を見つけてください」と依頼する。
右京は郁美親娘に同情を見せる。
帯川の借入先の1つ「緊急互助会」。
それは、無利子で金を貸し出す同業者の組織だった。
「緊急互助会」では、貸出金の返済後、謝礼として借主が10%を納入していた。
右京は違法性があるのではと指摘するが……。
米沢の調べた電話番号がプリベイド式携帯によるものと判明。
さらに、みさきから帯川が携帯で誰かと揉めていたとの情報が寄せられる。
電話の相手はプリベイド式携帯ではなく、退職した杉田哲明だった。
杉田によれば、新潟から東京までの大きな仕事が杉田が辞めた為に人手不足で叶わなくなり、断らざるを得なかったと先輩社員の沢村から連絡が入ったと言う。
そこで、一時的になら協力できるからと申し出たらしい。
だが、帯川に断られたとのことだった。
帯川に代わり仕事を受けたのは「青木配送センター」。
「緊急互助会」副会長の青木誠(青山勝)の会社だった。
帯川が写真を撮影していた新潟への小包と100円ショップの運送を譲って貰ったらしい。
伊丹は、100円ショップの運送料の欄が空欄だったことから、相手先の任意の値段で仕事を受けていたのではと推理。
青木が帯川の顧客を奪っていたと疑う。
だが、青木は帯川が譲ってくれたと主張。
証拠として帯川自筆による仲介料の領収書を提出して来る。
鑑定の結果、それは本物だった。
その頃、右京たちは正体不明のプリベイド式携帯の持ち主を闇金業者と断定。
帯川家に債権回収の電話が入ったことから、業者を逮捕するべく動く。
角田の部下の力を借り、業者の事務所へと乗り込む右京たち。
そこからは運転免許証が多数発見される。
債務者が逃げられないように握っているのだ。
こうして業者はその場で逮捕された。
帯川の借金が闇金業者であったことから返済義務が無いと知り、胸を撫で下ろす郁美。
闇金の顧客名簿に互助会の会長・須磨健太郎(中沢青六)の名前を見つける右京たち。
須磨も多額の借金をしていたのだ。
右京らは須磨に事情を聴くが、そこで帯川の意外な一面が明らかになる。
須磨を取り立てていたのは帯川だったのだ……。
闇金業者は客である帯川に債権回収をさせていた。
帯川は返済の延期を依頼したが、もちろん認められるわけがない。
自殺して生命保険で支払うよう揶揄されるが、帯川の保険は自殺では保険金が支払われないタイプ。
どうしようもない。
そこで、業者が取り立て代行を提案したと言う。
ギャラは出来高制、更なる融資も餌にしたらしい。
帯川の携帯から発信履歴のみの電話番号を発見。
それは須磨のものだった。
須磨に返済を求めた帯川、だが須磨に返済能力は無い。
帯川は須磨にトラックを売って急場を凌ぐよう提案するが、須磨は拒否。
「助けてくれ」と泣き落しをかける須磨に「変わるしかない」と帯川。
カッとなった須磨は帯川を激しく殴りつけたとのことだった。
そこへ須磨と帯川の関係を聞きつけた伊丹たちが現れる。
匿名の情報があったらしい。
須磨は伊丹たちから取り調べを受けることに。
債権者代理にして債務者、そして債務者の苦労はよく分かっている、分かっているからこそ取り立てせざるを得ない……。
帯川は両方から板挟みになっていたのだ。
帯川運送の社員・沢村に話を聞くことに。
新潟行きの荷物も100円ショップの荷物も他の業者に盗られた……と、力なく口にする。
この会社が好きだった……そう語る沢村。
話の最後に、それにしても偶然ってあるんですねと呟く。
なんと、最終的に100円ショップの仕事は杉田が所属する会社にまわっていた。
しかも、担当は杉田。
なんでも、荷物にカッターの刃が混ざっていた為に巡り巡って杉田のもとへ来たらしい。
そのカッターの刃には帯川運送特有の慣習が施されていた。
刃が欠けていたのだ。
これに右京たちは犯人が分かったと頷き合う。
犯人は青木だった。
100円ショップの仕事を帯川から譲り受けたのは青木。
帯川殺害の凶器となったカッターの刃が荷物に混入したとすれば、帯川殺害時しかありえない。
さらに、領収書の日時も帯川の殺害当日のものだった。
筆跡が帯川本人のものとすれば、青木と帯川はいつ会っていたのか?
そう、青木が帯川を殺害した際である。
右京は早々に犯人に気付いていたが、帯川の遺族を救うには闇金業者を摘発する必要があり、あえて逃がしていたらしい。
青木は真相を告白する。
帯川から仕事を譲り受けた青木は、仲介料を支払うべく帯川を訪ねた。
これで会社が助かると喜び、何度となく頭を下げる青木。
そんな青木に「礼をしたいなら殺してくれないか」と持ちかける帯川。
もう疲れた……助けてくれ……。
自殺では金が出ない、自殺では駄目なんだ。
繰り返す帯川に同じ社長として気持ちが痛いほど分かる青木は、それを実行してしまった。
もう、見ていられなかった。
自分を見ているようで辛かった……。
「ありがとうございます、ありがとう」
帯川は青木に感謝の言葉を述べながら死んでいったと言う。
帯川は青木の犯行を隠す為に渾身の力を振り絞りカッターの柄から自分で指紋を拭い去ったのだ。
「やっと、肩の荷が下りました……」
安らかな、本当に安らかな笑顔で連行されていく青木。
その後ろ姿に。
「なぜ、人を殺さねばならないのか分からない」
神戸は理解に苦しむと首を傾げる。
神戸には更に分からないことがあった。
新潟の荷物の写真を撮影したのは何故かということである。
右京は神戸に想像の話だが、と語って聞かせる。
必死になって会社を守っていた帯川。
沢村たち社員と愛する会社を守るために必死だった。
闇金業者に金を借り、運転資金に充てていたがいずれ破滅を迎えることは明らかだった。
それでも、それしか道は無かった。
しかし、業者への返済は滞り、取り立ての代行までさせられた。
しかも、その取り立ての矛先は同じ立場の人間に向けられた。
闇金業者に踏みにじられ、同業者には裏切り者と罵られた。
まさに動物でも鳥でもない蝙蝠のように板挟みにあっていく―――もう、限界だった。
そこへ守るべき筈だった社員(杉田)にも辞められてしまう。
自分は理解されていない……これまで懸命に張っていた帯川の緊張の糸が切れた。
そこに望んで止まぬ故郷へと向かう荷物を見つけたとき、帯川の胸に去来した想いは……。
それこそが、帯川に写真を撮影させたのだった。
「久しぶりに、花の里へ行きませんか?」
息苦しさを覚えた神戸は、気分転換を申し出るが……。
「知らなかったんですか、花の里はやってませんよ」
無情な現実を右京に突きつけられてしまう。
こうして、神戸の誘いも虚しく終わるかと思われたが―――。
「代わりにナポリタンでもどうですか?」
右京にも思うところがあったのだろうか、神戸は大きく頷く―――4話了。
<感想>
シーズン10(ten)第4話。
脚本は「ボーダーライン」の櫻井武晴さん。
さて、今回はというと……。
その「ボーダーライン」の姉妹篇のような存在です。
・「相棒season9」第8話「ボーダーライン」(12月15日放送)ネタバレ批評(レビュー)
ただ、「ボーダーライン」ほどの破壊力は無かったような気がします。
その理由には次のものが挙げられるでしょう。
まず、余りに理性的にストーリーが展開し過ぎた為にどこか視聴者に距離を置かせてしまったこと。
これは、伏線の配置が「ボーダーライン」よりも多く、ストレートに理解しにくかったことが原因でしょう。
次に、「ボーダーライン」を意識させる話の運び方だったこと。
結果として比較させてしまうことになりました。
問題提起が多かったことも理由のひとつでしょう。
青木の運送料を客の任意にするダンピングや、「緊急互助会」(実在はしないがモデルはあると思われる)の謝礼についてなど、提起のみで解決が無く、本テーマが散漫になりました。
何より最大の要因は、今回の話の真価を理解出来るのが中小企業経営者の方のみだから。
本当の意味で理解できる層が意外に少なさそうなニッチな話でした。
ただ、板挟みの苦しみだけは理解できました。
債務者でありながら、債権者の代行もさせられる。
同じ立場の人間を虐げさせられるのは、物凄く苦痛です。
例えば、人事の中間管理職がリストラ案に沿ってリストラを実行させられるようなもの。
上からはノルマを達成するように迫られ、同僚からは非情の人として批難される。
だからと言って、自分の立場も安全ではなくリストラ対象にもなりうる。
相棒劇中で例を挙げれば、監察の立場もこれに近いでしょうか?
動物軍と鳥類軍との戦争で、「牙があるから動物だ」「羽があるから鳥類だ」と両軍を立ち回った蝙蝠は両軍で和平が結ばれると行く先を失ってしまいました。
帯川は蝙蝠のように狙って立ち回ろうとしたワケではありませんが、意図せず蝙蝠の立場に追い込まれた。
債権者では当然無く、債務者でありながら仲間からは債務者として扱われない。
まさに、動物でもなく鳥でもなかった蝙蝠のように板挟みにあっていく帯川の苦悩。
そして、守るべき者に理解されていないと感じれば……。
青木が「(帯川が)自分のように見えた」と語ったことは「経営者として追い込まれている点」についてだと思いますが、管理人には帯川を追い込んだのは誰にも理解されない孤独だったのかなぁ……と思われます。
だから、最後の最後で青木に願いを聞き入れて貰ったことで理解して貰えたと感じたのかも。
そこで感謝の言葉に繋がった―――こう考えるのは牽強付会でしょうか?
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