ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
中学二年のふたりが計画する「悲劇」の行方
親の無理解、友人との関係に閉塞感を抱く「リア充」少女の小林アン。普通の中学生とは違う「特別な存在」となるために、同級生の「昆虫系」男子、徳川に自分が被害者となる殺人事件を依頼する。
(集英社公式HPより)
<感想>
「若気の至り」という言葉があります。
数年(早ければ数日)して、「ああっ、あのときなんであんなことをやったんだろう(思ったんだろう)」と赤面しながら後悔するアレです。
まぁ、後悔すること自体は大人になった今でも日々ありますが……それは置いといて。
得てして、若かりし日々は早々と過ぎ去り行くもので後悔する機会は少ない。
何故なら、若さとは未来に実行しうる可能性の量そのものだから。
未来に残されている時間を考えれば、後悔するより、謝罪するなりなんなり次の行動に移した方が良い。
そして、将来を見据えれば自然と過去を振り返ることも少なくなります。
しか〜〜〜し、歳を重ねてふと振り返ると、さぁ大変!!
若かりし日に気付かず、大人になってから当時の自分を振り返った際に浮かぶのが冒頭の感想となります。
さて、あなたは次のように思ったことはありませんか?
誰しも若い頃は「自分は特別だ」などと思ったことがある筈です。
根拠もなく「自分は他人とは違う」などとと思ったことはありませんか?
えっ、ない?
それはありえません。
必ず何かあった筈です。
例えば、「自分にはなんとなく出来る」という自惚れ。
例えば、「他人に比べて私はなんでこんなに苦労しなければいけないのだろう」との自己憐憫。
例えば、「あの人はなんでこんなことも出来ないのだろう」との傲慢。
すべては若さゆえ。
それは決して悪いことではありません。
少なからず持っていなければ、人として生きてはいけない要素です。
しかし、何事も過度であることは問題。
それが過ぎれば毒となります。
さて、本作『オーダーメイド殺人クラブ』の主人公アンと徳川君もそうでした。
主人公アンは、つまらない母親を軽蔑し、変わり映えのしない同級生を嫌悪した結果、自己の特別性を証明する為に「記録」と「記憶」に残る「死に方」を選択します。
そして、その実行犯として自分に近い徳川君を選びます。
アンと徳川君は“少女A”“少年A”になろうとするのですが果たして……といった物語。
最終的に“ある結末”へと進み、そこに著者である辻村先生のメッセージを見出したとき、きっと「若いっていいなぁ」と戻れぬあの日への羨望を胸の奥に抱く筈です。
アンにとって“死の象徴”だった「臨床少女」を彼女から奪い、彼女の死の姿を描き続けた徳川。
すべては彼女を死の誘惑から断ち切る為だったのでしょう。
アンと徳川の若気の至りは決して無駄ではなく、彼らの未来を紡いだと考えると胸にグッときます。
若い読者の方には“現在”を思う存分楽しんで貰いたいなぁ……とか似合わぬ台詞を臆面もなく管理人に口にさせるだけの力を秘めた作品です。
老婆心が芽生えたよ……。
それと、本作を読んで「小市民シリーズ」を思い出しました。
あちらも、青春の痛みを伴う男女の物語。
興味のある方は過去記事よりどうぞ!!
・「夏期限定トロピカルパフェ事件」(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
他にも「古典部シリーズ」もこれに近いか。
・「ふたりの距離の概算」(米澤穂信著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
そして、一言。
結論!!自分にとって自分自身は常に“特別な存在”なのです!!
ボーイ・ミーツ・ガール万歳!!
ちなみに同じく辻村深月先生原作『本日は大安なり』がNHKさんにてドラマ化されるそうです。
放送は2012年1月10日(火)からスタートとのこと。
原作ネタバレ書評(レビュー)もありますね。詳しくは過去記事をどうぞ!!
・『本日は大安なり』(辻村深月著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・辻村深月先生原作『本日は大安なり』がNHKさんにてドラマ化!!
<ネタバレあらすじ>
これは悲劇の記憶である。
中学2年生のアンは平凡である自分に疑問を抱いていた。
こんな筈じゃない、自分は違う筈だ……思いつめたアンは徳川が描いた絵を見て衝撃を受ける。
そこに自身に通じる何かを見出したのだ。
アンは、とある書店で見かけた『臨床少女』という本に心を奪われていた。
そこには様々な死の姿が記されていたのだ。
いつしかアンは“特別な存在”となる為に“特別な死に様”を望むようになっていた。
そこで、自身に感性の近い同級生の徳川を同志とする。
徳川に殺されることで猟奇殺人を演出し、その実、被害者であるアンも同意していたことを自らが動機を記した「悲劇の記憶」ノートで明かすことで“特別な死”を実現しようとしたのだ。
一方、徳川もまた家庭の事情によりある悩みを抱いていた。
しかし、アンはそれを知らない……。
こうして急接近した2人。
アンは自身の死に様を徳川に語って聞かせ、徳川もそれに応じようとする。
そして、12月。
遂に決行を決めたアンだったが、徳川の態度が素っ気ない。
初めて自分以外の誰かを気にかけたアンは徳川を追う。
徳川はサバイバルナイフを手にある女性を殺害しようとしていた。
その女性こそは徳川の父の再婚相手。
アンもよく知る女性教師だった。
彼女は妊娠しており、父親との再婚は確実だと言う徳川。
だが、徳川の妹は家族以外の異物を拒んでおり再婚を許していないらしい。
そこで、妹の為にも相手を殺すつもりなのだ。
アンはこれまで同志として接しながら、徳川の家庭の内情を一切知らなかった自分を悔やむ。
そして、徳川の真意が別にあることに気付く。
実は徳川はアンを殺したくなくなっていたのだ。
唯一無二、理解し合った同志であるアンと徳川。
もしも、徳川がアンを殺してしまえばこの世界にただ1人、孤独に残されてしまう。
それは絶対に嫌だったのだ。
そして、それはアンも同じだった。
だからこそ、徳川に殺して貰うことに固執した。
そうすれば、少なくとも1人になる苦しみを味合わずに済むから。
アンは徳川に「誰かを殺すくらいなら自分を殺してからにして!!」と訴える。
こうして、徳川はその日の凶行を思い留まるのだった。
その日以来、アンは徳川と会話することはなかった。
そのまま、アンは中学を卒業し有数の進学校へと進学した。
徳川は別の高校へと進学していった。
後日、アンはあの書店から「臨床少女」が無くなっていることに気付いた。
その書店も今は無い。
他の店舗に押されて消えてしまった。
1度だけ、徳川を見かけたことがあった。
ベビーカーを押しながら見知らぬ小さな女の子を連れていた。
小さな女の子は妹らしき少女をあやしていた。
どうやら、徳川家は上手くいっているようだ。
徳川があの夜、実行していたらどうなっていたのだろうか。
アンは高校を卒業し大学へと進学することになった。
無趣味で面白みのないと思っていた母が、実は物の価値を知る人だったことを最近知った。
母を軽んじていた当時の自分は物を知らなかったのだと改めて思った。
引っ越し当日、意外な人物がアンを訪ねて来た。
徳川である。
徳川はアンが当時書いていた「悲劇の記憶」ノートを持って来ていた。
そして、もう1つ薄い茶色の紙袋。
アンは徳川が東京の美大に進んだと噂に聞いたことを思い出した。
どうやら、徳川も進学の為に荷物を整理していてコレを発見したのだろう。
特に言葉を交わすこともなく、徳川は去って行った。
ノートを見返すアン。
今思えば……と当時を振り返りながらページをめくる手が止まった。
そこには徳川が描いた「臨床少女」の絵があった。
そのすべてのモチーフがアンに代わっていた。
一番最後のものはつい最近書かれたものだとすぐに分かった。
徳川はあれからずっとこれを描き続けていたのだ。
そのとき、アンはすべてを察した。
徳川が自分に好意を抱いていたことに。
そして、自分もまた彼に好意を抱いていたことに。
この薄い茶色の紙袋の中身は見なくても分かった、誰かに買われて行った「臨床少女」だ。
買ったのは徳川だったのだ。
アンの胸中をさまざまな想いが駆け抜けた。
咄嗟にアンは徳川のあとを追う。
誰彼憚らず彼の名前を呼ぶアン。
追いついたら彼に告げるのだ。
「良かったら東京の住所を教えてくれない」と―――エンド。
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