ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
どこにでもいる善良な大学生・白戸修にとって東京の中野は鬼門である。殺人の容疑者が飛び込んで来たり、ピンチヒッターで行ったバイトが違法だったり、銀行で強盗に銃を突きつけられたり…。だが次々に事件を解決する彼を人は「巻き込まれ探偵」「お人好し探偵」と呼ぶようになる。小説推理新人賞受賞作を含む、ちょっと心が優しくなれる癒し系ミステリー。
(アマゾンドットコムさんより)
<感想>
『福家警部補』シリーズ(東京創元社刊)で知られる大倉崇裕先生『白戸修の事件簿』シリーズ(双葉社刊)の記念すべき1冊目です。
実は大倉先生は、『ツール&ストール(白戸修の事件簿に改題)』にて「第二十回小説推理新人賞」を受賞して本格デビューしており、まさに記念碑的作品となっています。
シリーズとしては本作『白戸修の事件簿』とその続編『白戸修の狼狽』の2冊がある。
・続編『白戸修の狼狽』ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
『白戸修の狼狽』(大倉崇裕著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
本作『白戸修の事件簿』の収録作は次の5編。
・ツール&ストール
・サインぺインター
・セイフティゾーン
・トラブルシューター
・ショップリフター
それぞれ、専門用語をタイトルとしているのが本作の特徴。
これは続編『白戸修の狼狽』にも引き継がれている。
基本的に主人公である白戸が事件に巻き込まれるパターンが踏襲されているのも特徴。
それと、これは『事件簿』のみであるが、主人公でありながら白戸が解決する事件が少ないのも特徴と言えるだろう。
白戸が推理し解決したのは『サインぺインター』と『トラブルシューター』のみである。
まさに巻き込まれ型の面目躍如か。
ちなみに、本作は2012年1月よりTBS系列にてドラマ化が決定している。
気になるキャストは、白戸修役に千葉雄大さん、黒崎仁志役に本郷奏多さんとのこと。
黒崎はドラマ版のオリジナルキャラクターかな。
・大倉崇裕先生『白戸修の事件簿』シリーズ(双葉社刊)がドラマ化!!
大倉先生著作のドラマ化は、NHKさんで永作博美さん主演で2009年にドラマ化された『福家警部補シリーズ』の『オッカムの剃刀』以来のこと。
あちらはかなりのハイレベルでした。
こちらのドラマ版は如何に!?
<ネタバレあらすじ>
・「ツール&ストール」
白戸修は“お人よし”である―――。
こう書いてしまうとなんだか怪しいが、事実なのだから仕方がない。
そんな白戸が巻き込まれる今日の事件とは!?
『破産法概論』の試験に向けて対策を立てる白戸。
しかし、授業に出なかったのが祟って、有効な対抗策を打てないでいた。
1度留年し卒業が決まっている白戸にとって、この単位を落とすことは就職をフイにしてしまうことなのだが……。
そこへやって来たのは大学の同級生で1足先に卒業した八木。
八木は白戸に助けを求めに来たのだ。
八木によれば「猪田という古書店店主の殺人事件について自分に容疑がかかっている」と言う。
窮地の八木をそのままにしておけなかった白戸は八木の依頼を引き受けることに。
八木の依頼は「山野井という知り合いの元刑事に会って、スリの桑田を捕まえて貰う」こと。
事件当日に猪田の書店から書類を抱えて出て来る桑田を見たらしい。
桑田を犯人と考えているとのことだった。
依頼通り、山野井と接触する白戸。
山野井は白戸の苦手とする強引に引っ張って行くタイプ。
案の定、白戸は山野井に連れ回されてしまう。
なんとか桑田を見つけた山野井たちだったが、その目の前で桑田はスリの現行犯で逮捕されてしまう。
逮捕されてしまえば、本人から事情を聞くことは出来ない。
八木の無実も証明できなくなってしまう……。
山野井はこの件から降りると宣言、白戸は頭を抱えることに。
と、山野井が去った後、白戸の前に1人の女性がやって来る……。
数時間後、被害者が見つからなかったこともあって桑田は釈放された。
深夜の公園を1人歩く桑田に、近付く影がひとつ―――。
影は桑田を組み伏せると「証拠の書類を寄越せ」と迫る。
ところが、その影を囲むように複数の男達が現れる。
あっという間に逆に組み伏せられた影の男、その正体は山野井だった。
山野井を囲む男たちは「やっと証拠を押さえた」と口々に述べる。
猪田殺害の犯人は山野井だったのだ……。
女性は山霧純子と名乗った。
彼女から説明を受けて白戸は真相を知る。
すべては山野井を捕らえる為の罠だったらしい。
発案者は八木だった。
八木と猪田には親交があったのだ。
そして、猪田は元スリだった。
組織らしい組織は無いものの皆に慕われていた猪田が先頭に立って足を洗うよう奨めていたらしい。
ところが、山野井は元スリであることをネタに脅迫をかけてきた。
猪田は苦しむ仲間たちを見て山野井を悪徳警官として告発。
退職にまで追い込むが、山野井は方針を転換し現職スリを脅迫するように。
あくまで卑劣な山野井に義憤を感じた猪田は相討ちしてでも彼を倒すべく証拠書類を集めた。
この猪田の動きをいち早く察した山野井が猪田を殺害したのだった。
しかし、山野井は書類を見つけることが出来なかった……。
そこで山霧たちがそれを利用し山野井の犯行を立証しようと仕組んだのだ。
八木の登場から桑田が逮捕されたことまですべてが計画だった。
その最後のピースが白戸だったのだ。
この計画には山野井の傍で山野井の注意を引く人物が必要だった。
いわば、白戸を隠れ蓑に山野井の行動を制限し、目的を達したのだ。
スリが囮役(ストール)と実行役(ツール)に分かれて目的を達成するように。
すべてが終わり、自宅へと戻った白戸。
その目に八木の残したお土産が飛び込んでくる。
それは今回のことに対する八木の礼と『破産法概論』の試験問題だった―――エンド。
・「サインぺインター」
白戸のもとに友人の倉田から電話が入る。
怪我をしてしまい動けないが、どうしても休めないバイトがあるので代わりに行って欲しいと言う。
頼まれたら断れない白戸は引き受けることに。
しかし、このバイトはただのバイトでは無かった。
電柱に許可なく看板を立てる“ステ看”と呼ばれる違法なバイトだったのである。
「何でも屋」で白戸の雇い主である日比と共にステ看作業に勤しむ白戸。
警官の服部と長嶋に追われたり、縄張り争いで峰岸ともめ事を繰り広げるが……。
なんでも、峰岸とのもめ事は最近になって縄張りを無視して来た峰岸が原因らしい。
ところが、峰岸は峰岸で日比が縄張りを無視していると主張する。
第3者の悪意を察知した白戸は2人を仲裁し、あるアイデアを提案する。
見張ること暫らく、其処へやって来た2人組はステ看作業を始める。
証拠の録画を行い、現行犯で取り押さえられたのは……服部と長島だった。
服部と長島は自分たちが回収したステ看を再利用し、小遣い稼ぎをしていたのだ。
しかも、日比と峰岸を争わせることであわよくば両方を検挙しようとしていた。
こうして、真犯人を捕らえた日比と峰岸は和解。
白戸は自身のバイト代を倉田に渡すよう依頼するとその場を去るのだった―――エンド。
・「セイフティゾーン」
出海銀行にやって来た白戸。
口座から生活費を引き落とそうとするが、何故か残高が実際よりも減っている。
生活のかかっている白戸は苦情を申し立てて、特別応接室へと案内される。
笠口という担当者によれば、手違いがあったらしい。
生活費に事欠く白戸は1万円を貸してくれるよう頼むが、笠口は「支店長に話を聞いて来る」と離席したまま帰って来ない。
困っていると、森島というお客様担当者が1万円を貸してくれる。
森島に感謝しつつ、トイレに行きたくなった白戸はトイレを捜し彷徨うことに。
最終的に4階に辿り着いたとき、異音を耳にする。
異音の正体が分からず不思議に思っていた白戸の前へ暴漢が。
暴漢に襲われる白戸だったが、芹沢を名乗る清掃員に助けられるのだった。
芹沢によれば、暴漢は連続銀行強盗事件の犯人グループ4人組の1人らしい。
つまり、銀行は現在進行形で強盗に遭っており、残り3人の犯人により白戸たちは人質にされようとしているということになる。
そうこうしているうちに帰らぬ仲間を不審に思ったグループの1人が登場。
しかし、これも芹沢に倒されてしまう。
残りは2人。
ここで白戸の手違いから、残った犯人グループ2人と白戸が遭遇。
白戸を庇って森島が撃たれてしまう。
自分の所為で撃たれた森島を救わねば、と焦る白戸は芹沢に助けを求める。
残り2人を倒してくれと頼み込んだのだ。
しかし、芹沢は首を横に振る。
ならば、警察に連絡を……と主張する白戸だが、何故か芹沢はこれも拒否する。
「昼まで待ってくれれば」と繰り返す芹沢。
だが、白戸は聞く耳を持たず、電話で犯人グループと交渉しようとする。
この為に芹沢の存在が犯人グループにバレてしまう。
さらに1人襲撃に来るが、これも芹沢に捕まる。
その最中、白戸は気付いてしまう。
芹沢が指名手配犯・杉田であることに。
芹沢こと杉田は今日この日こそが時効の日だったのである。
だから、昼まで待ってくれればと繰り返したのだ。
しかし、森島の容態が気になる白戸は芹沢の懇願を無視。
残る1人と交渉すべく、勝手に階下に降りてしまう。
当然、白戸にどうこう出来るワケもなく……こうして白戸は人質となってしまう。
芹沢は白戸を見捨てることも出来ず、助けに赴く。
銃を突き付けられ万事休すの芹沢だが、ダイハードのあの秘策を用いて最後の1人を倒す。
芹沢の罪は殺人だった。
妻子を殺した男を復讐すべく殺害したのだ。
このままでは芹沢が捕まってしまう……オロオロするばかりの白戸に、芹沢は1つだけ秘策があると告げる。
芹沢は人質解放の混乱に紛れ、森島を連れ「怪我人だ〜〜〜」と叫びながら外へと飛び出して行く。
それを見送る白戸は栄養失調と緊張の糸が切れたことでその場に倒れ込んでしまう。
次に白戸が気付いたとき、そこは病院の中だった。
芹沢はどうなったのだろう……心配する白戸の目に手配書が映る。
そこにあった杉田の名前の横には時効成立とシールが貼られていた―――エンド。
・「トラブルシューター」
白戸は携帯電話を購入した。
その矢先、誰にも教えていない筈の携帯に電話がかかって来る。
白戸の脳裏を嫌な予感が過る―――。
悪い予感は当たるもの、白戸の予感は的中する。
電話は間違い電話、一方的に電話が切られてしまった為にそのことを伝えるべく白戸は足を運ぶ。
結果、北条と杉本という男女に関わることに。
北条は探偵、杉本はその依頼者だった。
なんでも、杉本は悪質なストーカーに悩まされており、北条が警護しているらしい。
杉本に実家に帰ったらどうかと奨める白戸だが、実家の母は再婚しており、今の父は義父だと言う。
杉本はその義父との間に辛い想い出があるらしい。
義父は杉本に性的関係を迫ったのだ、そこで義父から逃げるように上京したのだった。
同じ探偵社に所属するライバル・出川に馬鹿にされつつ、杉本を守る北条。
白戸は北条を助けたくなる。
推理を働かせた白戸はストーカーに罠を仕掛ける。
杉本に相手を動揺させたのだ。
その夜、ストーカーが出現。
強硬策を以て、室内に乱入して来る。
対抗する白戸と北条。
犯人は逃げるが、既に白戸の罠にかかっていた。
白戸は逃げる犯人に通話中の携帯電話を忍ばせたのだ。
結果、浮かび上がったストーカー犯人の正体は出川だった……。
出川と対決する北条、白戸。
出川の狙いは杉本を故郷の実家に帰すこと。
出川は杉本の義父に依頼されていたのだ。
義父は未だに杉本を狙っていた。
しかも、出川の行動は所長の意志でもあるらしい。
北条はクビを覚悟で出川を倒す。
杉本を個人的に守り抜いて見せると語る北条。
北条に寄り添う杉本。
そんな2人を見送りつつ、白戸は帰路に就くのだった―――エンド。
・「ショップリフター」
白戸は数日後に控えた入社に向けて丸三デパートの中にある『激安のキクマ』でスーツを新調していた。
そこで向山と出会う。
白戸は向山に嫌な想い出があった。
中堅出版社・世界堂の入社試験に合格したのは全くの偶然だった。
喜んだ白戸だったが、その喜びに水を注す者が居た、それが向山である。
向山は本来合格する筈だった自身の枠を白戸が奪ったと逆恨みし、入社試験が初対面だったにも関わらず付きまとうようになっていたのだ。
最近になってやっと諦めたかと思っていたのだが……。
ところが、今日に限っては向山はすんなりとその場を去って行く。
拍子抜けする白戸。
スーツの仕立て直しの時間を潰すべく、丸三デパートの中をうろつく白戸。
CDショップで少し時間を潰し、移動しようとしたそのとき。
万引き防止用ブザーが鳴り響いた……。
もちろん、白戸には全く覚えが無い。
ところが、現れた保安員の女性は白戸を犯人呼ばわりし、別室へと連れて行く。
やがて、根気強く説明を続ける白戸の弁明が聞き入れられたのか女性は白戸の無実を認めるが、今度は頼みごとを申し出て来る。
白戸は囮にされたに違いない。
本命の万引き犯が居る筈なので捕まえるのに協力して欲しいと言うのだ。
相手のペースに引き摺り込まれた白戸は渋々引き受けることに。
こうして、保安員・深田と共に白戸の捜査が始まった。
深田によれば、自分は顔を覚えられている可能性が高いので電話で指示を出すから白戸が怪しいと思う人物を教えてくれとのこと。
深田の指示に従い、デパート内をうろうろする白戸。
深田からの依頼が無ければ、あからさまな不審者である。
と、誰かにぶつかった白戸。
ふとポケットを見るとそこには「デパートから出るな!!」と記されていた。
何者かの陰謀を感じる白戸だったが、その目の前で万引きの実行犯を見つけてしまう。
咄嗟に追いかける白戸。
デパートの外へと出、女性から荷物を取り返すが……なんと、深田に捕まってしまう。
深田によれば、白戸は1日に2度も万引きを繰り返した悪質な万引き犯らしい。
すべては白戸を嵌める為の罠だったのだ。
追い詰められた白戸、万事休す。
そこへ天の助けが現れる。
「ツール&ストール事件」でお世話になった山霧純子である。
山霧は白戸を助け、深田を問い詰める。
深田は元スリ。
山霧とは知り合いらしい。
山霧によれば、深田は保安員の仕事の傍ら万引き犯を脅迫し、他には意図的に万引き犯を仕立てあげ脅迫することもあったらしい。
今回のことは誰かに依頼されていたのだ。
ちなみに「デパートの外へ出るな!!」のメモは山霧から白戸への警告だった。
依頼人に心当たりのあった白戸は思わず呟く。
「向山?」
向山は白戸を万引き犯として処断することで内定取り消しを狙ったのだ。
深田はそれを肯定すると、隙を突き逃げ去ってしまう。
こうして、今回も巻き込まれてしまっていた……いや、当事者だった白戸。
安堵から来る疲労感に包まれる白戸に山霧は意味ありげに呟く「天罰は下るわよ」と。
山霧に連れられて向かった先にあったのは―――女性用下着を万引きしたとして、衆人環視の中捕まる向山の姿だった。
もちろん、山霧の仕込みであることは言うまでもない。
山霧と別れ『激安のキクマ』で仕上がったスーツを手に帰路を急ぐ白戸。
しかし、スーツだけにしては妙に重い。
そっと中身を確認した白戸は目を疑う。
中にはスーツ一式、ワイシャツ、ネクタイに靴まで揃っていた。
そして、スーツは『キクマ』のものではなく『ポールスミス』に変わっていたのである。
もちろん、これも誰の仕業か言うまでもない―――エンド。
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)