2011年12月08日

『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(奥泉光著、文芸春秋社刊)

『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(奥泉光著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『モーダルな事象』のクワコーが帰ってきた

その日暮らしの気安さに下流生活に甘んじる大学教師・クワコーの周辺で起こる怪事件に文芸部の女子大生たちが挑むユーモア・ミステリー

日本一下流の大学教師、クワコーこと桑潟幸一と女子大生探偵たちの活躍を描くユーモア・ミステリー。たらちね国際大学に首尾よく職を得たものの、薄給と田舎暮らしに意気上がらないクワコー。そのうえ顧問をつとめる文芸部の部員たちはファッションがゴスロリだったり、学校の裏庭でホームレスのような生活をする変わり者ぞろい。だがそんな彼女たちが抜群のチームワークで、クワコーの周囲で発生する怪事件を次々解決していく。(AH)
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

『シューマンの指』で知られる奥泉光先生の作品です。
クワコーの自虐ネタとゆる〜〜〜いギャグに思わず頬が緩みます。

本作はシリーズものの2作目。
このシリーズは、桑潟幸一(クワコー)が主役であることから「クワコーシリーズ」と呼ばれています。
シリーズには前作『モーダルな事象』と本作『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』、未収録短編『海のクワコー』があり、収録済みの作品については文芸春秋社から出版されています。

さて、本作の感想。
本作に収録されているのは次の3篇。

・『呪われた研究室』
・『盗まれた手紙』
・『森娘の秘密』

そのどれもがクワコー中心に進みますが、クワコーは解決に何の貢献も果たしません。
実際に推理するのは部員の1人、ジンジンの役目。
これが本作の特徴でしょう。

独特な文章が小気味イイです。
最初こそとっつきにくいかもしれませんが、慣れると癖になりそう。
クワコーの自虐ユーモアもなかなか面白く効果を発揮しています。
万人受けするかと問われれば、人を選ぶ作品と思えますが、一度は試してみて欲しい作品です。
興味のある方はネタバレあらすじに目を通して頂ければ物語の結末についての傾向は掴めるかも。
ただし、本作のメインはあくまで文章とその運びだと思われます。

ちなみに、クワコーシリーズは『オール・スイリ2012』にてドラマ化が予告されています。
情報によればテレビ朝日系列とのことですが、果たして。

奥泉光先生『クワコーシリーズ』が2012年ドラマ化決定!!

◆関連過去記事
奥泉光先生「朝日新聞」にて取り上げられる!!

「このミス!2011」5位の「シューマンの指」が音楽CDに!!さらに著者である奥泉先生がコンサートを!?

<ネタバレあらすじ>

・『呪われた研究室』

元ローン会社の敏腕回収マンだった異色の経歴を持つ鯨谷に誘われて、大学を移った我らがクワコー。
ところが、そこは給料が安かった。
こうして、生活という大いなる敵と戦うこととなったクワコー。
彼の明日や如何に!?

……で終わってはマズイので続きを。

早速、研究室409号を貰ったがそこは幽霊の出る研究室だった。
さぁ、大変!!

おどろおどろしい声に悩まされ続けるクワコー。
そんなクワコーに救いの手を差し伸べたのは、彼が顧問となった文芸部の部員たち。

なかでも、推理力抜群で段ボールハウスに住む“ホームレス女子大生”こと神野仁美、愛称:ジンジンの推理によりあっさり解決をみる。

409は女湯の覗きに最適な部屋だったのだ。
学内関係者の男達は此処を利用して覗きを繰り返していた。

しか〜〜〜し、そこに我らがクワコーが入ってしまったので利用しづらくなり、追い出すつもりで幽霊騒動を起こしたのだった。

こうして事件はあっさり解決。

そして、クワコーは思う。
早く双眼鏡を手に入れなければと。―――エンド。

・『盗まれた手紙』

相変わらず、生活費と愉快な2人3脚を踊り続ける我らがクワコー。
金が欲しい、1円でも欲しいとのクワコーの願いが天に通じたかどうかは知らないが、そんなクワコーに50万円の依頼が届く。

なんでも先代からの襲名を願う男が、先代から自分を指名した筈の手紙が此処に届いている筈だからそれを守って欲しいと依頼して来たのだ。

50万円は絶対に欲しい。
普段のやる気のなさは何処へやらクワコーは学生たちを雇い、手紙を死守するべく行動する。
意表を突く狙いで段ボールハウスに住むジンジンに預けることに。

ところが、盗まれてしまう。

逃した魚を想い涙するクワコーだったが、ジンジンは策士だった。
封筒だけをそこに残し中身を移していたのだ。
しかも、この盗難が依頼主の自作自演であることも見抜いてしまう。

依頼主は自分が襲名できるよう、自身を名指しした偽の手紙を作成。
依頼時にクワコーの研究室に紛れ込ませると、先代の手紙であることに信憑性を持たせるべくクワコーに見つけさせておいて、自分で盗んだのだ。
手紙自体は処分し、クワコーの口から自身の正当性を主張させるつもりだったのだ。

依頼人の真意を知ったクワコーは、なんとなく手紙を持っていることに恐れを為して依頼人に手紙を送り付ける。

ところが、依頼人は何を誤解したのか、クワコーを自分の策を見抜いた名探偵だと思い込んだ。
後日、騒がせてしまった謝礼(と言う名の口止め料)として5万円がクワコーの口座に振り込まれるのだった。
もちろん、クワコーが躍り上がって喜んだことは言うまでもない。
もっとも、そのうちの1万円は部員たちへの報酬として消えるのであるが―――エンド。

・『森娘の秘密』

定員割れの危機を避けるべく、学生数確保の為に入学生候補の名簿を購入した鯨谷。
定価50万円の貴重な名簿らしい。
そこで、信用できる人間としてクワコーが選ばれ管理を任されることに。

結論は容易に想像できるであろう。
そう、クワコーは金庫にしまった筈の名簿を盗まれてしまう。

50万円の弁償を申し渡されたクワコーは絶望のあまり、泣きだしてしまう。
大の男の流す涙に同情したのだろうか、部員たちは犯人探しに協力することに。

そこへ切り札・ジンジンが登場。
またもあっさりと犯人を指摘する。

犯人は鯨谷だった。
鯨谷の購入した名簿は数年前のもので役に立たない。
つまり、鯨谷は詐欺にあっていた。
学校の金で購入した手前、引っ込みもつかず、これがバレれば今後の学内政治にも差し障りがある。
そこでクワコーに管理を任せ、自分で盗みだすと罪を被せたのだ。

ジンジンは動かぬ証拠まで握っていた。
鯨谷のロッカーから名簿を奪い返していたのだ。

結局、ジンジンたちから知恵を借りたクワコーは堂々と鯨谷に名簿を返却することで後難を避けた。

これで一安心のクワコーだったが、部員たちから報酬を要求されてしまう。
そこで一言。
ローンは効きますか?―――エンド。

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posted by 俺 at 13:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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