ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
「探偵でも怖いものは怖いのです」
頼りなさげな謎の女探偵・猫柳と探偵助手めざす大学生が孤島のゼミ合宿で殺人に巻き込まれた!?
“波乱万丈”大学生活! 青春“北山猛邦”ミステリ!
大学の探偵助手学部に通う君橋(クンクン)と月々(マモル)の気分はどん底だった。名門ゼミ入り審査に落ち、悪ふざけで希望を出した知名度ゼロの猫柳ゼミ行きが決まったから。そう、指導教官は功績不明かつ頼りなさげな女探偵・猫柳十一弦。彼女の下では立派な探偵助手になれないのか(涙)? だが名門ゼミとの合同研修が決まり、人生大逆転めざし孤島の館へ。その合宿中、奇怪な殺人事件が発生する!
※この作品は「メフィスト」2010 VOL.1〜2011 VOL.1に掲載された『不可能犯罪定数』を改題し、加筆修正したものです。
(講談社公式HPより)
<感想>
これはシリーズ化すべきでしょう。
どこまでも、誇り高く心優しい猫柳。
そんな猫柳のゼミ生、クンクンとマモルなど。
キャラクターが立ってて面白い!!
続編が是非読みたい作品です。
本作で扱うのは「ミッシング・リンク」。
被害者を繋ぐ共通項は何か?
早期に猫柳の口から法則として明かされたソレに読者は興味を惹かれることでしょう。
明かされる「ミッシング・リンク」それ自体については些か無茶かなと思わないでもありませんが、明かされるまでとても楽しめました。
それと、「不可能犯罪定数」についてはもっと早くに提示されていても良かったかも。
そして何よりテーマが秀逸。
名探偵の在り方について触れた作品は数あれど、助手の在り方について触れた作品は珍しい気がします。
もちろんゼロではない筈ですが、それでもコレは大きな特徴です!!
さらにもう1つ。
本作は7つのミッシング・リンク(実際は8つ)を扱いながらも、殺害されるのは最初の2人のみという点も注目すべきポイントでしょう。
一部に弱い点(雪ノ下の遅行性の毒について、CCの意味など)があり、他にもロジック的には強引な点(容疑者の排除方法や、中井のアリバイ崩しにおける雨笠の証言が後出し)も見受けられますが、猫柳とクンクンの関係性も気になりますし、是非続編が読みたい作品です。
◆関連過去記事
・「私たちが星座を盗んだ理由」(北山猛邦著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・北山猛邦先生書き下ろしミステリイベント開催決定!!タイトルは『オリオン山荘殺人事件』!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
猫柳十一弦:若くして探偵となった女性。見た目は頼りない。
君橋君人(クンクン):私、助手を目指す学生。
月々守(マモル):私の友人、同じく助手を目指す学生。
雪ノ下樹:数々の難事件を解決した名探偵らしいが……。
千年館宮子:雪ノ下ゼミ生。千年館家のお嬢様。
中井練:雪ノ下ゼミのリーダー格。探偵を輩出する家に生まれながら助手を志した男。
貴崎通:雪ノ下ゼミ生。一般の家に生まれながら助手を目指す男。
雨笠聖一:雪ノ下ゼミ生。医大生から転属した変わり種。
倉沢辰巳:雪ノ下ゼミ生。有名小説家を父に持つマッチョ男。
緒方みのり:雪ノ下ゼミ生。政界に影響力を持つ社長の令嬢。
小田切美奈:雪ノ下ゼミ生。コンピュータの天才。
古井戸:記録整理と速記の得意な探偵。
日辺:元警官の探偵。
君橋と月々は鮟鱇荘に下宿する大学生。
大学に進学し探偵助手を目指す彼らはゼミ選択で、不本意ながら無名の猫柳ゼミに配属される。
猫柳ゼミの主・猫柳十一弦はうら若き女性だった!!
小柄で頼りなさそうな姿に実力に対しての疑惑を抱かざるを得ない2人。
この人の指導で立派な助手になれるのだろうか……その疑問は晴れないままだった。
ゼミ配属から半年、意外にも猫柳はその見た目に反し有意義な講義を行っていた。
とはいえ、あくまで見た目に比べてのことであるが。
そこで、君橋と月々は猫柳に合宿を提案。
生徒2名からなる弱小ゼミである猫柳ゼミは大手のエリートゼミである雪ノ下ゼミと合同で合宿することに。
雪ノ下は名探偵として知られていた。
合宿の舞台は、雪ノ下ゼミのメンバーの1人・千年館の所有する孤島である。
参加メンバーは、猫柳ゼミからは猫柳とクンクンにマモルのゼミ生2人を合わせた3人。
雪ノ下ゼミからは雪ノ下本人と千年館、中井、貴崎、雨笠、倉沢、緒方、小田切の8人。
それぞれ、千年館宮子が千年館家のお嬢様。
中井練はゼミのリーダー格、探偵を輩出する家に生まれながら助手を志した男。
貴崎通は一般の家に生まれながら助手を目指す男。
雨笠聖一は医大生から転属した変わり種。
倉沢辰巳は有名小説家を父に持つマッチョ男。
緒方みのりは政界に影響力を持つ社長の令嬢。
小田切美奈はコンピュータの天才。
といった精鋭揃いのエリート集団である。
11人で孤島に上陸したその夜、早速事件が発生してしまう。
被害者は千年館宮子。
死体は蓄光塗料に染められ棺の中で太い杭により胸を串刺しにされた状態で発見された。
そして、もう1人の被害者が。
こちらは緒方みのり。
館の地下室でアクリル板の立方体に閉じ込められた状態で死亡していたのだ。
死因は一酸化炭素による中毒死と思われた。
犯人は何故、千年館を蓄光塗料に染めたのか?
どうやって、緒方みのりを殺害したのか?
そして、もちろん犯人は誰かの謎がある。
こちらは、小田切を除く全員にアリバイがあった。
では、小田切が犯人なのか?
謎が謎を呼ぶ中、猫柳は犯人による法則を看破。
それに則り、次の犯行を身体を張って未然に防ぐ。
ライター爆弾による倉沢殺害を火傷を負いながらも阻止すると、電流による貴崎殺害も感電しながらも阻止。
猫柳の献身的な行動に倉沢と貴崎は猫柳を信頼するように。
もちろん、我らが猫柳ゼミ生であるクンクンとマモルも猫柳の能力に感服するのだった。
突如、小田切が行方不明に。
雪ノ下たちが動揺する中、小田切のものと思われる腕が発見される。
小田切の所有するPCの指紋認証で小田切の腕と確認されるが、小田切も殺害されてしまったのか。
ここで遂に猫柳は犯人に気付く。
猫柳によれば「次は雨笠が危ない」らしい。
雨笠は自室に閉じ籠ってしまっている。
早速、駆けつけようとする猫柳たちだが、その前にボウガンを手にした雪ノ下が現れる。
貴崎を雪ノ下の矢から庇い、またも負傷する猫柳。
犯人は雪ノ下だったのか?
愕然としつつも雨笠の部屋に辿り着いたメンバーが見たものは。
ハンマーで雨笠を殺害しようとする中井の姿だった。
犯人は中井だったのだ。
中井は隙を突き猫柳を人質にする。
そんな中井の後ろに現れる影。
小田切である、実は猫柳の策により身を隠していたのだ。
小田切と思われた腕は、千年館の腕だった。
小田切に逃げられた中井が法則を守るために遺体から切断したのだ、まさに苦肉の策。
では、PCの指紋認証は?
そちらは簡単。
小田切はPCに指紋認証などかけておらず、中井が千年館の指紋を小田切の名前でPCに登録したのだ。
小田切は命を拾った―――これもすべて猫柳の深慮遠謀が功を奏したことになる。
小田切とマモルの活躍もあり、猫柳を取り戻した彼ら。
中井が逃走した後、猫柳に真相を尋ねる。
これを受けて、猫柳は自身の推理について語り始める。
まずは何故、中井が犯人だと分かったか。
まず猫柳ゼミは犯人ではない、これは大前提。
犯人は雪ノ下ゼミの中に居ることになる。
千年館と緒方は既に死亡しているので除外。
小田切はアリバイを持たないので逆に犯人ではない。
法則は殺人が完遂されなければ成立しない。
そこで狙われた倉沢、貴崎も犯人ではない。
ここで雨笠が犯人ならば、小田切の腕を千年館の腕だと思い込ませる為に自身の医学知識を利用する筈だ。
ところが、雨笠は閉じ籠ってしまった。
雨笠も犯人ではない。
残るは雪ノ下と中井の2人だが、雪ノ下には千年館の遺体を損壊する時間がなかったので犯人ではない。
よって、犯人は中井である。
では、中井はどうやって千年館と緒方殺害時にアリバイを持ったのか。
実は緒方を殺害したのは千年館だった。
もちろん、それと知らずにである。
千年館は雪ノ下の演習プログラムの一環であるとの中井の説明を信じ、その言葉通りに行動したのである。
まず、千年館は緒方を地下室に閉じ込めた。
暗闇の中、閉じ込められた緒方の目に夜光塗料で書かれた「毒ガス注意」の文字が止まる。
そこへ、これまた千年館がガスを投入する。
このガスは無毒なものである。
ところが、警告を目にした緒方は狼狽。
安全を求めて、部屋の中央にあった気密性の高いアクリルのボックスに入った。
毒ガスはこの中に入っていた。
かくして、緒方は一酸化炭素により殺害されてしまう。
演習だと信じ込んでいる千年館は緒方を殺害してしまったことも知らず、中井の指示通り外へ。
暗闇の中、次の指示を待った。
その服には蓄光塗料の目印が塗られている。
中井は雨笠の隙を突いて、それを頼りにボウガンの矢を打ち込み射殺したのだ。
矢傷を隠すために杭を打ち込み、塗料を隠す為にさらに塗料を使った。
こうしてアリバイを確保したのだ。
中井はアリバイ成立後に遺体を装飾していたのである。
アリバイトリックは殺害と死体の装飾にかけた時間を分割したことにより生まれたものだった。
この際に使用したボウガンを雪ノ下が見つけ、利用したのだ。
では、雪ノ下の乱心の理由は何か?
そこに、法則の謎を解く鍵があった。
法則―――つまり、ミッシング・リンクの正体は“単位”だった。
緒方は一酸化炭素により殺害された。
千年館は蓄光塗料により装飾された。
倉沢はライター爆弾。
貴崎は感電。
小田切は腕を斬られた。
そして、雨笠はハンマー。
猫柳によれば雪ノ下は時間を利用して殺害されるらしい。
これを置き換えると。
気体は物質量(モル)。
光は光度(カンデラ)。
熱は温度(ケルビン)。
電流は電流(アンペア)。
長さは距離(メートル)。
重さは質量(キログラム)。
時間は時間(秒)となる。
すべては単位だったのだ。
これを聞いた雪ノ下ゼミの学生は雪ノ下が提唱していた「不可能犯罪定数」を思い出す。
「不可能犯罪定数」とはすべての犯罪をある数値で理論化する方法で、これがあればあらゆる捜査方法が過去のものになるらしい。
この話に猫柳はすべてを察する。
これ以上、もう誰も死なせない!!
その決意のもと、他の面々と共に中井のもとへ。
当の中井は雪ノ下により殺害されかけていた。
雪ノ下からは既に普段の紳士の仮面は失われている。
「これがこの男の正体だ」叫ぶ中井。
実は、雪ノ下は中井の父の助手だった。
ところが、中井の父の実績すべてを奪い名探偵となったのだ。
そして「不可能犯罪定数」すら中井の父の考えたものだったのである。
雪ノ下は「不可能犯罪定数」を用い、歴史に名を残そうとしていた。
中井は父の奪われたものを取り返し、世界を雪ノ下から救おうとしたのだ。
その為に単位の見立てを施し、いずれ誰かが「不可能犯罪定数」に気付くよう工作した。
本来ならば、それは事後の筈だったが、無名の筈の猫柳の能力を侮った結果、看破されてしまったのだ。
中井を抹殺することですべてを闇に葬ろうとした雪ノ下だが、猫柳から既に完敗していると聞かされる。
中井が雪ノ下にあてた単位は時間。
つまり、遅行性の毒を盛られていると言うのだ。
もし、ここで中井を殺害しても雪ノ下も死亡する。
しかも、中井を殺せば中井の言葉を認めることになり、名探偵・雪ノ下の虚像は脆くも崩れ去ってしまう。
追い詰められた雪ノ下はボウガンで猫柳を抹殺しようとするが……間一髪、クンクンが身を呈して猫柳を救う。
一射目を外した雪ノ下は倉沢らに取り押さえられ、事件は終わった。
中井は雪ノ下により深手を負っていたものの、命を取り留めた。
中井は雪ノ下に殺害されるつもりだったのだ。
父親の遺した「不可能犯罪定数(CC)」が示す「クローズドサークル(CC)」の単位を表現するために。
雪ノ下も拘束され、その旧悪が暴かれた。
結局、雪ノ下には毒が盛られていなかったらしい。
猫柳は負傷を癒す為に入院することに。
そして、退院当日―――猫柳を迎えにクンクンとマモルがやって来た。
マモルが先に帰り、残された猫柳とクンクン。
千年館と緒方を助けられなかったことを悔やむ猫柳に、クンクンは問う。
「確かに被害者が出たのは辛いですが、そこまで悲しむのは何故ですか?」と。
そこで、クンクンは知る。
猫柳の探偵としての資質を。
猫柳はこれまで一度も被害者を出したことがなかった。
すべて未然に防いで来たために無名だったのだ。
千年館と緒方の死に責任を感じる猫柳。
クンクンは改めて問う。
「先生は自分の命と引き換えに犯行が止められると知ったらどうしますか?」
「確証があれば要求に従います」即答する猫柳。
それを聞いたクンクンは猫柳に宣言する。
「では、助手としてそんな先生を助けてみせます」と。
それは決意表明であると共に、厳かな誓いだった―――エンド。
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