ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
現役弁護士
鮮烈! デビュー作!
私は弁護士に戻る決心ができていなかった。
あの女に会うまでは。
離婚調査を依頼する美女、
不可思議な殺害現場と医療ミス……
闇に葬られた事件の真相に弁護士探偵が迫る!
第10回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作。「法曹関係の圧倒的ディテール、そして司法と検察、弁護の馴れ合いを糾弾する作者の筆致が、実に素晴らしい。(茶木則雄)」と選考委員も絶賛の、現役弁護士が描く法曹ミステリーです。舞台は福岡。「殺した記憶はない」母子殺害事件の容疑者・内尾は言った。裁判のあり方をめぐって司法と検察に真っ向から異を唱えたことで、弁護士の「私」は懲戒処分を受ける。復帰して間もなく、事件で妻子を奪われた寅田が私の前に現れた。私は再び、違和感を抱えていた事件に挑むことに。その矢先、心神喪失として強制入院させられていた内尾が失踪。さらに周囲で不可解な殺人が起こり……。
(宝島社公式HPより)
<感想>
第10回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
受賞時タイトルは「エンジェルズ・シェア」。
受賞時筆名は保坂晃一。
受賞後『エンジェルズ・シェア』から『懲戒弁護士』にタイトル変更されており、最終的に『弁護士探偵物語 天使の分け前』に決まったと思われる。
なお、『懲戒弁護士』については原誠先生の著作に同名作品がある。
興味のある方は本記事下部にアマゾンさんへのリンクがあるのでどうぞ!!
同じく第10回の優秀賞は、友井羊先生『僕はお父さんを訴えます』。
隠し玉には、岡崎琢磨先生『また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を(仮)』と矢樹純先生『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと(仮)』が選ばれている。
では、早速感想を。
ハードボイルドものですね。
意図してのことだと思われますが、台詞回しが些かクドク思われました。
でも、この台詞回しこそが本作のカラーと言えるでしょう。
目新しい点は、ハードボイルドものだと主人公としてアウトローなタフガイタイプがつきものですが、本作は意表を突いて(法を順守する側である筈の)弁護士がそれをこなす点でしょうか。
まぁ、主人公はアウトローよろしく後半以降は完全に逸脱してしまうワケですが。
それ以外は、特に尖ったところもなく驚くほど堅実な作り。
むしろ、手堅くまとまり過ぎているぐらいか。
なので、必読!!……ほどではないが読んでみるのも十分にアリ。
結論として、ハードボイルドの方法論は十分に盛り込まれており、ハードボイルド好きな人には堪らないのではないでしょうか。
<ネタバレあらすじ>
弁護士の「私」は、母子殺害事件の被告人・内尾を弁護することに。
内尾は「殺した記憶はない」と主張するが、認められない。
結局、内尾を救おうとした「私」は1年間の業務停止処分を受ける。
傷心の「私」は復帰後、別居中の夫・佐藤に生活費の請求をしたいという美女の依頼を受ける。
さらに、母子殺害事件の被害者である夫・寅田まで現れる。
こうして、巻き込まれるように事件に挑むことに。
矢先、心神喪失として強制入院させられていた内尾が失踪。
さらに不可解な連続殺人が起こる。
美女との交流を経て、寅田、内尾と殺害されていく―――そして、「私」が辿り着いた事件の真相とは!!
すべての発端は佐藤にあった。
佐藤は岡山が院長を務める病院が偽薬を用いていることをネタに脅迫、これを言いなりにした。
金銭はもちろん、患者の中で気に入った女性がいれば差し出すよう要求。
乱暴すると「心神喪失」として口封じしていたのだ。
ところが、ある日、調子に乗った佐藤は若い看護師にまで手を出してしまう。
看護師は患者のように泣き寝入りはしなかった。
困った佐藤は岡山たちに泣きつく。
佐藤は岡山が保険金目当てに患者を自殺に見せかけ殺害していることも知っており、さらに脅迫。
これに屈した岡山は若い看護師を自殺に見せかけ殺害した。
ところが、この事実に看護師をしていた寅田の妻が気付いた。
寅田の妻は告発すると訴えるが、佐藤に乱暴され口封じされてしまう。
しかも、この際に寅田の妻は佐藤の子供を身ごもってしまう。
佐藤と夫、どちらの子供か悩んだ寅田の妻は出産するが、子供は佐藤の子供であった。
寅田の妻は夫を裏切ったことに耐えられず、再度、告発を決意。
またも困った佐藤は岡山を脅し、患者であった内尾を利用し寅田の妻を子供ごと殺害したのだった。
これが過去の事件の真相である。
しかし、岡山は佐藤の存在を重荷に感じていた。
そこで、姪のショウコに命じて「私」に近付くと佐藤も動かし、共倒れを狙ったのだ。
寅田と内尾が殺害されたのもこの為だったのだ。
そして、佐藤の妻を名乗った美女こそショウコであった。
ところが、友人である看護師の死に責任を感じていたショウコは、岡山の策の範疇を超え暴走。
佐藤を殺してしまう。
しかも、この際に佐藤から岡山がショウコすら道具としてしか見ていないことを聞かされる。
岡山は過去の経営難にショウコの祖父母を殺害し、保険金を充てていたのである。
これに憤ったショウコは―――。
一方、私は用済みとして岡山たちの手で口封じされようとしていた。
そこへ現れたショウコ、その手には拳銃が。
こうして岡山たちはショウコに殺害されてしまう。
ショウコは私を助けると姿を消した。
私はショウコのことを己の胸の内に留めることに決める。
佐藤と岡山、悪党同士が同士討ちしたことにしたのだ。
こうして、真相は闇に葬られたのだった―――エンド。
◆関連外部リンク(外部サイトに繋がります)
・「このミステリーがすごい!」大賞公式HP
http://konomys.jp/
◆「このミステリーがすごい!」関連過去記事
・第10回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作
『僕はお父さんを訴えます』(友井羊著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・第9回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
「完全なる首長竜の日」(乾緑郎著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・第9回 「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作
「ラブ・ケミストリー」(喜多喜久著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・第9回 「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞作
「ある少女にまつわる殺人の告白」(佐藤青南著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・第8回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
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・第7回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
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