2012年01月07日

『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)

『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。『犬はどこだ』の著者の代表作となった、清新な力作。解説=鷹城宏
(東京創元社公式HPより)


<感想>

後の「ベルーフシリーズ」に繋がる1作目にして、2012年現在シリーズ唯一の長編です。
管理人的には短編主人公の名をとって「太刀洗シリーズ」と呼んでいます。
ちなみに「ベルーフ」とはドイツ語で「天職」の意だそうです。

さて、この『さよなら妖精』。
本来ならば「古典部シリーズ」でやる筈だったそうです。
結果として、新規のシリーズが立ち上げられることとなり、ファンには喜ばしいことになりました。

本作のテーマは「若気の至り」かな。
「若さゆえの万能感」、「特別な自分への憧れ」、「満ち足りていることに気付かない自分」など、一度は誰もが経験したことが守屋の視点を通じて語られます。
それと、1人であることの無力についても描かれているように感じられるのは管理人だけでしょうか。

ただ、テーマと反することになりそうだけど、太刀洗の万能ぶりは凄い……。
結論は変えられないけど、ほぼすべてを見抜く慧眼ぶりは既に大成してますね。
老成の域というべきか。
そんな太刀洗にも壁がある。
この虚しさは胸に来るなぁ……。

ちなみに、ラストまで読んでみれば分かるのですが、マーヤとの出会い以前の時点で太刀洗は既に結末に類することを口にしています。
文庫版27ページです。
あのエピソードがラストに繋がることを考えると苦い結末だなぁ……。

守屋、太刀洗(センドー)、文原、白河いずる。
キャラクターも魅力的だし、本作は必読の一冊と言えるでしょう。
ミステリ的にも、何気ないマーヤの一言一言があの結末に収束していく様子は見事です!!
他にも、ある意味「古典部シリーズ」のもう1つの姿とも言えるのもポイントです。

2012年、シリーズとしては『さよなら妖精』以外に次の4作品が発表されています。

『失礼、お見苦しいところを』
『恋累心中』
『ナイフを失われた思い出の中に』
『名を刻む死』

『ナイフを〜〜〜』と『名を刻む死』については過去にネタバレ書評(レビュー)してますね。
興味のある方はどうぞ!!

【太刀洗シリーズ】
「名を刻む死(ミステリーズ!vol.47掲載)」(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「蝦蟇倉市事件2」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
(ナイフを失われた思い出の中に)

<ネタバレあらすじ>

1992年現在―――守屋路行は太刀洗万智に電話をかけ、そして予想通り失望した。
「あの娘のことは忘れなさい」
そう、一方的に告げられたからだ。
分かっていたことではあるが、やはり実際に口にされると堪えるものだった。
守屋は太刀洗のそんな態度を冷たいと感じた―――。

数時間後、守屋と白河いずるは1人の外国人の少女の安否を案じていた。
それは、この場に居ない太刀洗万智や文原も含めた4人共通の想い……の筈だった。
やがて、居てもたってもいられなくなった白河は少女の帰国先を突き止めることでその安否を確認しようとする。
しかし、はっきりとした手掛かりはない。
そこで、手掛かりを求めて守屋の日記に当たることとなった。
果たして、2人は少女の行方を推理することが出来るのか?

すべてはあの日から始まっていた……。

1991年4月、守屋と太刀洗は雨宿りをするひとりの少女と出会う。
少女の名はマーヤ、ユーゴスラヴィア連邦からやって来た異邦人で父の知人を頼って来たが当人が死亡してしまったので途方に暮れていたらしい。
「義を見てせざるは勇なきなり」か「情けは人のためならず」か、守屋はマーヤの為に力を貸すことに。
旅館の娘である白河の了解を得て、マーヤを置いてもらうことにしたのだ。

守屋に鮮烈な印象を与えたマーヤ。
彼女の強さに憧れた守屋は、自身も特別な何かになれるかもしれないとマーヤとの関わりを深める。

マーヤとの日々は過ぎ行く。
マーヤは日本という異文化に対して様々な疑問を持った。

雨の日に傘をささず走っていた人物の謎。
その人物は壊れた傘を不燃ゴミに捨てに行っていただけだった。

的を外しながらも褒められた謎。
それは弓道など「道」を求めるスポーツならではの「結果ではなく過程を求めたため」だった。
文原も加わり、マーヤを囲む輪は4人になった。

神社に餅を供えようとしていた2人の男の謎。
彼らはトリモチを使い賽銭泥棒を行おうとしていた。

墓前に供えられた紅白饅頭の謎。
供えた人物は死者を恨んでおり、遺族に見せつける為にこんなことをしたのだ。

「いずる」の漢字の謎。
名前が矛盾するというそれの正体は「逸留」だった。

そのたびにマーヤは、時に神妙に、時に笑顔でそれらを学習し覚えていった。
守屋たち4人はそんなマーヤの人柄に惹かれ、彼女の力になろうとした。

マーヤは時に冗談も口にした。
その多くは理解されなかったが。

例えば「日本とツルナゴーラが戦争中」だとか。
マーヤ自身はツルナゴーラの出身ではないらしく友人に日本に行く際には気を付けるよう言われたそうだ。

マーヤと親しくなってからは、マーヤがマケドニアを訪れた際の話や、マーヤが州都よりも大きい都市に住んでいることなども話した。
マーヤの街は中央を川が流れているらしい。
しかし、何故かマーヤは出身地について具体的な名前を出すことだけは避けていた……。

マーヤと出会い2ケ月が過ぎた。
1991年6月、マーヤの母国「ユーゴスラヴィア連邦」で独立戦争が勃発。
連邦に所属する6ヶ国の1つスロヴェニアが独立を宣言したのだ。
これに対しユーゴスラヴィア連邦は独立を阻止するべくスロヴェニアに侵攻する。
多勢に無勢、当初スロヴェニアは不利と思われていた……。
だが、この侵攻自体は「十日間戦争」と呼ばれるように十日間で終わる、スロヴェニアの勝利によって。
独立側が勝利した、それは連邦から求心力が失われたことを意味していた。
マーヤは「わたしの街も、いつか、戦いの場になるかも」と述べる。
その予感は的中、この後「ユーゴスラヴィア連邦」は崩壊することとなる……。

来日から2ケ月が過ぎたことで、マーヤは政情不安定な母国に帰ることに。
守屋はマーヤに「自分も連れて行ってくれる」ように頼む。
そんな守屋をマーヤは「観光目的として行くには危ないところです」とやんわり拒否する。
傷心の守屋にはそのままマーヤを見送ることしか出来なかった。

そして彼女が帰国して半年、1992年現在。
守屋たちの最大の謎解きが始まる。
マーヤはどこへ帰ったのか。
彼女は最後まで自分の帰国先を明かさなかったのだ。

マーヤの帰国先。
候補は「ユーゴスラヴィア連邦」を形成する次の6ヶ国。

スロヴェニア
クロアチア
セルビア
モンテネグロ
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
マケドニア

このうち、スロヴェニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニアならば大丈夫だろう。
だが、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナは戦争状態にあり危険である。

悩むいずる。
守屋はいずるに嘘を吐き、答えを誤魔化す。
守屋は答えに気付いていた。

まず、マケドニア。
マーヤはそこへ「行く」と語っていた。
つまり、「帰る場所」ではない。
マケドニアは除外。

そして、「州都よりも大きい」とのマーヤの発言から「首都に住んでいた」とすれば。
さらに、「十日間戦争」当時、マーヤは「わたしの街も、いつか、戦いの場になるかも」と言っていた。
つまり、この時点で戦場となっていたスロヴェニアも除外。

マーヤは出身地について「街の真ん中を川が流れている」と説明した。
残った4ヶ国の首都でこの条件に合致するのは2ヶ国。
除外されるのはセルビアとクロアチアだ。

残ったのはモンテネグロとボスニア・ヘルツェゴヴィナ。
モンテネグロならば良いが……。

そして、最後の条件。
マーヤは冗談で「日本とツルナゴーラは戦争中だ」と語った。
マーヤは「ツルナゴーラ」の出身では無いらしい。
ちなみに連邦の成立過程上、過去に日本に宣戦布告しえた国は2ヶ国。
セルビアとモンテネグロ。
マーヤはセルビアを「スルビヤ」と呼んだ。
つまり、「ツルナゴーラ」は……モンテネグロである。

こうして、消去法で導き出された答えは1つ。
マーヤが帰国したのは、ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエヴォだ。
もっとも、危惧していた展開であった。

その夜、守屋のもとに太刀洗から電話が入る。
ある決意を固めていた守屋は疎ましく思いながらも、有無を言わせぬ太刀洗の迫力に屈し呼び出しに応じる。
そこには真剣な表情の太刀洗が待っていた。

太刀洗は守屋の決意を一目で見抜く。
守屋はマーヤを追いボスニア・ヘルツェゴヴィナへ向かうつもりだったのだ。

そんな守屋を止める太刀洗。
彼女はマーヤがあることを心配していたと打ち明ける。

なぜ、守屋がマーヤの帰国先を聞かされていなかったか。
マーヤは守屋の願望を見抜いていた。
その上で、彼がやって来ることが彼の為にならないことも見抜いていた。
守屋の願望は幸せな者が持つある種の不満に過ぎなかったのだ。
それは、自身を特別な者とみなす過信と現実逃避―――。
マーヤは守屋が暴走することを恐れ、帰国先を隠していたのだった。

そして―――守屋にはさらに過酷な現実が突きつけられる。

太刀洗はマーヤからの手紙を持っていた。
正確にはマーヤの兄からの手紙である。
何故なら、マーヤは手紙を出せなかったから。

マーヤは動乱の中、若い命を散らせていたのだ。

手紙には守屋がマーヤに贈った髪留めが同封されていた。
それを抱いて守屋は慟哭する。
此処に至り守屋は自身の思い上がりと過ちに気付く。
だが、謝罪すべき相手は既に亡い―――。

初めからどうしようもなかったのだ。
だからといって、無力を知ってもどうしようもない。
太刀洗は1人でこの想いに耐えていたのだ。

守屋は思う、この痛切な感情すらマーヤにはもう感じられない。
守屋が得られたものをマーヤはもう得られない。
それは生きている者のみの特権だから。

痛みと共に夜風が過ぎ去って行く―――エンド。

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◆映画情報
米澤穂信さん原作の「インシテミル」映画化!!

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第10回本格ミステリ大賞・小説部門ノミネート作品発表!!
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