2012年01月20日

『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)

『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

タイトルはおそらくモーリス・ルブランの創造した怪盗紳士ルパンが活躍する『813』をもじったもの。
本作はそんな本家に負けぬ暗号ものとなっています。

で、てっきり本家のイメージが先行した為に、暗号を解くという冒険系の謎解きかと思いきや、意外な真相が浮かび上がる秀作となっているところが凄い。
やっぱり、米澤先生は上手いなぁ……。

当初こそ甘い恋を感じさせた物語も、読み進むうちに雲行きが怪しくなり、最後には苦い結末が待つという……この展開が本当に上手い。

トリック自体は「図書分類番号」それ1つなのですが、これを活かし先輩の性格を悟らせるのも上手い。

図書館司書や図書委員の経験のある方、あるいは現在進行形でされている方は特に面白く感じられるのではないでしょうか。
興味のある方は、とりあえず読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

図書委員の堀川と松倉はその日、図書室で仕事をこなしていた。
欠損した蔵書の修復である。
その際に「国際十進分類法」について触れる松倉。
図書館に収納されている本の背表紙についた「913」などの数字のアレだ。
数字でジャンルやカテゴリを現し、それに続くカタカナで著者の頭文字を現すのである。
暫し、歓談する2人。

そこへ図書委員の先輩で引退した3年の浦上麻里がやって来る。
どうやら頼み事があるらしい。

麻里によれば、亡くなった祖父に託された金庫を開ける暗号を解いてもらいたいとのことだった。
堀川たちは以前に別の暗号を解いたことがあり、その経験を買われたのだ。
堀川は麻里に好意を抱いており、それを引き受けることに。

次の休日、麻里に招かれて浦上家を訪れた2人。
麻里や姉、その母親に案内され麻里の祖父の部屋へと足を運ぶ。
麻里によれば亡くなった祖父の暗号とは次のようなものだったらしい。

「大人になって祖父の部屋に入ったら分かる」

余りに抽象的なその謎かけに戸惑う2人。
だが、室内を見回した結果、あることに気付く。

本棚の蔵書の一部が明らかにおかしいのだ。
他は「時代小説」など老人らしい本が並んでいるのに、ある4冊だけは「確率論」など異質なものとなっていた。
もしかして、このパターンは―――堀川の脳裏に図書室での出来事が浮かぶ。
早速、答えを伝えようとする堀川だったが、松倉に止められる。
そのまま、調べる必要があると麻里に言い置いて外へ出る2人。

松倉によれば、麻里にはある疑惑があるらしい。
実は、浦上家に入ってから監視されていたと言う松倉。
監視していたのは麻里と姉、その母親だそうだ。
松倉はこのことから、何か彼女たちに後ろめたいところがあるに違いないと推理。
しかも、ある程度その内容についても見当がついているとのことだった。

麻里に好意を抱いていた堀川はどうしても麻里を疑えないが……。
かといって、松倉の言葉も信じられないわけではない。
そこでとりあえず、松倉の指示に従い麻里たちを試すことに。

浦上家へ1人で戻った堀川は麻里とその姉と母を呼び集め、暗号が解けたと伝える。
堀川は祖父の部屋で見つけた4冊が鍵であると言い、この分類番号で謎は解けると教える。
それぞれの本の分類番号を明かし、それを50音順に並べ替えると出て来たのは……。

「タスケテクレ」との言葉だった。

これに顔色を変える3人。
明らかに様子がおかしい、麻里などは堀川を睨み付けている。

そこへ、何故か救急車が到着。
屋内へと上がり込むと、ある病人を発見し助け出す。
その様子に慌てる麻里たち。
堀川は麻里に失望すると、その場を逃げるように後にするのだった。

松倉と合流した堀川は、松倉の推理が正しかったことを認める。
助け出された病人こそは、亡くなったとされている麻里の祖父だったのだ。
実は祖父は存命だった。
松倉は堀川が麻里たちの注意を惹いている間に、こっそり浦上家に侵入すると監禁されていた祖父を見つけ出し、救急車を呼んだのだ。

麻里が自身が祖父から聞いたと告げた暗号、それ自体が他の人物への暗号を横取りしたものだった。
つまり、金庫を受け取るべき正当な人物は別に居たのだ。
それを麻里たちが奪うべく今回のことを計画したのである。

もともとおかしかったのだ。
普通に金庫を開けたければ鍵屋を雇えばいい。
麻里だけならともかく、姉や母がそれに気付かない筈はない。
つまり、知っていて頼めない事情があった。
それはそうだろう、金庫の持ち主の許可を得ずに開けようとしていたのだから。

しかも、あの暗号は「大人になってこの部屋に入れば」解けるものではなかった。
現に堀川たちにも解けたのだから。
つまり、暗号には省略された前提があったのだ。
「大人になって司書になったら」との前提が。
この前提は麻里以外の幼い子供に向けてのものだろう。
おそらく、老人には他にも孫が居たのではないか。
その孫が「大きくなったら司書になる」と語っていたから、あの暗号になった。

堀川は今では麻里に幻滅していた。
あの暗号を解くとして麻里たちの前で明かした分類番号は嘘っぱちだった。
真面目に図書委員の仕事をしていればそれくらいは分かった筈だがそれすら分からなかったのである。

祖父の暗号は「タスケテクレ」ではもちろんなかった。
真の分類番号には金庫の暗証番号が秘められていた。

分類番号が数字を指し、著者名の頭文字が「ミ」と「ヒ」だったことで、回す方向の左右を表すのだ。

実はこっそりそれを試していた堀川。
金庫の中に入っていたのは、子供が描いたのであろう祖父の絵と子供の写真であった。
やっぱり、そんなところだと思ったよと笑い合う2人。
休み明けの麻里との接し方が頭が痛いところではあったが、今はそれも気にならなかった―――エンド。

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『913』が掲載された「小説すばる 2012年 01月号 [雑誌]」です!!
小説すばる 2012年 01月号 [雑誌]





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