2012年02月20日

『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』(大山淳子著、講談社刊)

『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』(大山淳子著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

満場一致で第1位! TBS・講談社第3回ドラマ原作大賞受賞作
この弁護士は、奇跡を起こす。

婚活中の天才弁護士・百瀬太郎は、毎日持ち込まれるやっかいな依頼に悪戦苦闘。――とにかく引き受けて、共に考え、解決の道を探したい。黄色いドアの向こう側、猫いっぱいの事務所で人と猫の幸せを考える日々に、新たな依頼が舞い込んだ。「霊柩車が盗まれたので取り戻してほしい!」すべてのピースがつながった後には、誰にも予想できない結末が待っている。笑いあり涙ありのハートフル・ミステリー!

百瀬は鼻水をこらえ、一瞬、太陽を見上げた。
それからゆっくりと正義と自由のドアを開けた。
(講談社公式HPより)


<感想>

TBSさんと講談社さんが共催する「ドラマ原作大賞」。
その第3回受賞作品です。
受賞時とドラマタイトルは「猫弁〜死体の身代金〜」となっています。
ドラマ放送については、2012年4月23日が予定されています。

「TBS・講談社 第3回ドラマ原作大賞大賞受賞作 猫弁〜死体の身代金〜ミステリーのニューヒーローはペット専門?の心優しき弁護士」(4月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)

TBS&講談社による「第3回ドラマ原作大賞」発表!!

では、本書の感想を。

なかなかの傑作ですね。
誘拐事件自体は天藤真先生の『大誘拐』を彷彿とさせるものですが、その後の百瀬の展開にてオリジナリティを発揮しています。
全体的にハートウォーミングな作品となっており、安心して読めるのも特徴。

特に百瀬とラストに出て来るあの人との意外な関係は良かった。
管理人的にはかなり面白かったように思います。

ネタバレあらすじに挑戦していますが、かなり端折っていることなどから、本作の本質を伝えきれてはいません。
是非、実際に読んで楽しんで貰いたい逸品です。

<ネタバレあらすじ>

頭脳明晰ながら、なぜかペットがらみの依頼が多く「猫弁」と呼ばれている弁護士・百瀬太郎。
百瀬は、施設で育った為に家庭に憧れており、結婚願望が強くかった。
そこで、結婚相談所に登録し見合いを繰り返していた。
余り営業向きではないのではないかと心配するほどドスのきいた声が特徴の相談所職員・大福亜子の指導を受けるも、何故か上手く行かず30連敗中である。

そんなある日、大手靴メーカー「シンデレラシューズ」の会長の葬儀場から、会長の遺体が乗っている筈の霊柩車が盗まれてしまう。
会長の息子・大河内は何故か警察に通報することなく、百瀬を頼る。
やがて犯人から身代金要求の電話が入り、百瀬は釈然としないまま事件に巻き込まれることに……。

捨て猫など哀れな事情を抱えた猫を見るとそのままにできない性格の百瀬は、事務所に10匹以上の猫と生活していた。
拾った猫に癒されつつ事件解決に動く百瀬。
プライベートでは、31番目のお見合い相手との交際にも漕ぎ着ける百瀬だったが……。

一方、霊柩車を奪った犯人グループは困り果てていた。
目を離したすきに車上荒らしに遭い、そこには空の棺しか残されていなかったのだ。
つまり、会長の遺体が無いのである。
困り果てた犯人たちの前に、靴磨きで生活している老女・三千代が近付く。
三千代はある方法を提案するのだった。

大河内に依頼され取引の代理人となった百瀬。
犯人グループの指示通り、取引場所を訪ねる。
そこは、大河内の社長室から目と鼻の先にあるホテルだった。

要求通り現金を渡した百瀬は遺体の確認を求める。
遺体として横たわっていたのは三千代である。
これを見た百瀬は真相に気付く。

そこへ飛び込んで来たのは大河内。
どうやら、社長室から状況を確認していたようだ。
大河内は「よくも、母を殺したな!!」と怒りのあまりに犯人に掴みかかる。
そんな大河内を叱りつける三千代。
三千代は、横になっていただけで生きていたのだ。

そう、三千代こそ死亡したとされていた会長だった。
経営方針を巡り対立していた大河内と三千代。
昔ながらの品質を重視する三千代と、大量生産による利益を重視する大河内。
対立は深刻化し、息子を信じられなくなった三千代は財産を持って家を出た。
残された大河内は、会社の実権を握るべく三千代を死亡したものと届け出たのだ。
この為に霊柩車が盗まれても警察に届けられなかったのだ。

つまり、犯人グループは大きな勘違いしていた。
初めから霊柩車に遺体は乗っていなかったのだ。

大河内も犯人も互いに決め手を欠いていた。
事件を知り、推移を窺っていた三千代が茶番を終わらせる為に自ら表舞台に現れたのだった。
三千代の正体を知った犯人グループは飛び上るほどに驚く。

結局、身代金はそのままに三千代は大河内の芝居通りに死亡したとして引退を決める。
三千代は母が殺害されたと思い込み犯人に掴みかかった大河内の姿を見て心情を見極めたのだ。
その上での判断であった。

結局、三千代は改心した犯人グループを連れ、自身の求める品質本位の靴を作る為に新たに起業することに。

一方、百瀬は31番目の見合い相手と上手く行くかと思われたが……相手には秘密があった。
実は人妻だったのである。
家庭での不満や鬱憤を、お見合いをし自身の価値を再確認することで晴らしていたのだ。
こうして、百瀬の恋は儚く散った。

同時に、資金が続かなくなったことから、百瀬は結婚相談所を退会する。
激しく動揺する大福だったが……。

こうして結婚を諦めた百瀬。
だが、猫の引き取り手を巡り大福と再会する。
いや、大福が猫の引き取り手として百瀬を訪ねたのだ。

普段のドスのきいた声を用いない大福。
どうやら、素の声はこちららしい。
大福の声に聞き惚れる百瀬に、大福は意外な話を切り出す。

32番目のお見合い相手を紹介すると言う。
しかも、相手は乗り気らしい。

退会した今、何故、新しい見合い相手を?
困惑する百瀬が紹介されたのは大福自身だった。

実は大福は中学生の頃に法廷で百瀬を見かけて以来、彼に恋心を抱いていた。
さらに偶然、3年前に百瀬が自身の勤める結婚相談所にやって来たことで運命を感じたらしい。
そこで、敢えてカップルが成立しないような相手を紹介していたのだ。

そんな馬鹿な……と相手にしない百瀬だったが、大福は本気だった。
そう言われてみると百瀬も満更ではなく、大福に強く惹かれる自分を感じるのだった。

こうして、百瀬にも春が来た。
多くの人々に支えられていることを確信した百瀬。
事務所の前で鼻水をこらえると、母の教え通りに一瞬、太陽を見上げる。
それからゆっくりと正義と自由のドアを開けるのだった―――エンド。

・続編はこちら。
『猫弁と透明人間』(大山淳子著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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