ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
『硝子のハンマー』の興奮再び! 防犯探偵・榎本が4つの密室に挑む!
築百年は経つ古い日本家屋で発生した殺人事件。現場は完全な密室状態。防犯コンサルタント・榎本と弁護士・純子のコンビは、この密室トリックを解くことができるか!? 計4編を収録した密室ミステリの傑作、登場!
防犯探偵シリーズ第2弾!
防犯探偵・榎本と弁護士・純子のコンビが、究極の密室トリックに挑む、傑作ミステリ!
長野県の旧家で、中学3年の長女が殺害されるという事件が発生。突き飛ばされて柱に頭をぶつけ、脳内出血を起こしたのが死因と言われた。現場は、築100年は経つ古い日本家屋。玄関は内側から鍵がかけられ、完全な密室状態。第一発見者の父が容疑者となるが……(「狐火の家」)。表題作ほか計4編を収録。防犯コンサルタント(本職は泥棒?)榎本と、美人弁護士・純子のコンビが究極の密室トリックに挑む、防犯探偵シリーズ、第2弾!
(角川書店公式HPより)
<感想>
『硝子のハンマー』に続く防犯探偵シリーズ第2作目、中編集です。
シリーズには他に上記『硝子のハンマー』と『鍵のかかった部屋』がある(2012年3月現在)。
・『硝子のハンマー』(貴志祐介著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『鍵のかかった部屋』(貴志祐介著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
収録作は全4編で次の通り。
『狐火の家』
『黒い牙』
『盤端の迷宮』
『犬のみぞ知るDog knows』
本作で1番は『黒い牙』かな。
あのトリックは驚嘆すべきものです。
とはいえ、他の3作もなかなか凄い!!
感情を揺さぶる『狐火の家』。
ロジック系の『盤端の迷宮』。
コメディ系の『犬のみぞ知るDog knows』。
全体的に見てもバランスがとれており、楽しめる1冊と言えるでしょう。
ちなみに同シリーズがフジテレビ系列月曜21時枠にてドラマ化が決定しています。
榎本役は嵐の大野智さん。
詳細は下記過去記事をどうぞ!!
・貴志祐介先生『鍵のかかった部屋』(角川書店刊)ドラマ化決定!?
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
榎本径:防犯探偵その人。実は泥棒。
青砥純子:弁護士。榎本に良い感情を抱かない。
『狐火の家』
中学生の少女が殺害された。
発見者はその父。
犯人と思われた被害者の兄は、密室から忽然と姿を消してしまったが……。
真相は辛いものだった。
密室から消えた兄。
それもその筈、兄は生きて部屋を出ていなかった。
室内で兄は殺害されていたのだ。
娘を殺害したのが息子だと知った父は怒りのあまり手を下してしまったのだ―――エンド。
『黒い牙』
純子のもとに、とある依頼が舞い込んだ。
依頼主によれば、ある生き物が死の危機に瀕していると言う。
なんでも、飼い主が死亡した後にその生き物を相続した妻が、抹殺しようとしているらしい。
動物愛護法違反の疑いがあると乗り出した純子だったが、当の生き物は蜘蛛だった。
蜘蛛では、法律の対象には該当しないが今更あとには退けない。
下手に退いてしまうと虚偽を口にしたということで懲戒処分になりかねないのだ。
しかも、飼い主の死に殺人の疑惑まで浮上。
飼い主は蜘蛛の餌となるコオロギを与えていて、毒蜘蛛に刺されて死亡したことになっていたが、どうも様子がおかしいのだ。
ピンセットで餌をやっていた以上、中指は畳んでいた筈だが、その中指を刺されていたのである。
誰かに殺害されたのかもしれない。
ところが、事件現場である部屋は密室だった。
相続した妻の立ち会いのもと、現場を確認する純子。
妻は蜘蛛を害虫と呼び、駆除する気満々である。
だが、依頼主に度々妨害されていたらしい。
既に事件後1週間が過ぎ、妻も依頼主も互いに敵愾心を募らせていた。
この展開に純子は逃げ出したくなるが、逃げられる筈もない。
現場で元気なのは餌となるコオロギぐらいだった。
こうなれば困った純子が頼れるのは……榎本だけである。
ところが、榎本は遠距離に居りすぐには来られない。
そこで電話越しに状況を説明することに。
すべてを聞いた榎本は2つの仮説を導き出す。
それぞれの仮説は故人の妻と依頼主、それぞれを犯人と指し示していた。
果たしてどちらを信じれば良いのか?
悩む純子。
やがて純子が辿り着いた真相とは―――驚くべきものだった。
犯人は妻だった。
妻は蜘蛛を愛する夫との離婚を望んでいたが、今の状態で離婚したところで慰謝料は取れない。
そこで、夫を事故死に見せかけ殺害することを目論んだのである。
妻が採用した殺害方法はこうだ。
まず、毒蜘蛛とそれと同じサイズの蜘蛛の皮を剥ぐ。
つまり、普通の蜘蛛の着ぐるみを作ったのだ。
この着ぐるみを毒蜘蛛に着せ、一見普通の蜘蛛に見える毒蜘蛛が完成。
これを普通の蜘蛛の水槽に入れる。
やって来た夫はそれと知らず毒蜘蛛に触れる。
皮を着せられた毒蜘蛛は苛立っており、夫を噛む。
夫は外見から普通の蜘蛛に噛まれたと判断、慌てることなくそのまま放置する。
結果、気付いた時には毒が身体中に巡っており、絶命したのだ。
では、当の細工された蜘蛛は何処に行ったのか―――。
純子が、本来は蜘蛛の餌である筈のコオロギのケースを調べると……そこにはボロボロに喰いちぎられた蜘蛛の死体があった。
弱った蜘蛛は餌である筈のコオロギに逆襲されていたのだ。
だから、コオロギは元気だったのである―――エンド。
『盤端の迷宮』
棋士が宿泊先のホテルで殺害された。
その前にあった将棋盤には殺害時刻に別の場所で行われていた勝負が再現されていた。
盤上の棋譜を見た榎本は犯人に辿り着く。
だが、榎本の指摘する犯人を純子は認めない。
こうして、純子と榎本は対立するように。
犯人は女流棋士だった。
彼女は詰めが弱く、それを補う為に市販の将棋ソフトを利用しカンニングしていたのだ。
事前に仲間と符号について打ち合わせておき、鞄の中に携帯電話をバイブ機能をオンにして忍ばせておくと揺れで最良手についての合図をやり取りしていたのだ。
この事実を被害者に知られ、奴隷のように扱われた為に殺害したのだった。
榎本は盤上の棋譜から、同時刻行われていた勝負を知る方法があった筈だと考えた。
だが、この勝負はテレビ放送もされず、ネットでしか状況を知る術はなかった。
ところが、殺害現場にはノートPCも携帯電話も無かった。
つまり、何者かが盗み出したのだ。
当然、盗み出す必要があったことになる。
そこから、カンニングしていた者が犯人との推理に辿り着いたのだった―――エンド。
『犬のみぞ知るDog knows』
劇団の座長が殺害された。
座長宅には番犬が繋がれており、第一発見者は番犬に噛まれるとの被害を負う。
それだけ凶暴な番犬の目を盗み、犯人はどうやって犯行を達成しえたのか。
頭を悩ませる純子だったが、榎本はあっさりと謎を解いてしまう。
むしろ、分からないのが不思議だと述べる榎本。
彼が指摘した犯人こそは第一発見者だった。
何故なら、死体を発見する為には屋内に入らなければならない。
つまり、発見者は番犬に噛まれずに屋内へ入ったことになる。
発見者は番犬に懐かれていたのだ。
だが、懐かれていることを知られれば犯人として疑われてしまう。
そこで、犯行後に犬にのみ聞こえる不快音を鳴らし、犬に嫌われるように仕向けたのだ。
噛まれたのはその直後だったのだ―――エンド。
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