2012年03月13日

『僕はお父さんを訴えます』(友井羊著、宝島社刊)

『僕はお父さんを訴えます』(友井羊著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

[2012年] 第10回
『このミステリーがすごい!』大賞
優秀賞 受賞作

想像の斜め上!
僕はこの本を推薦します。
…………………乙一(作家)

愛犬殺しの罪で父親を訴えた少年の真意とは……?

作家・乙一氏激励!「一気に読ませる手腕と、法廷シーンは一級品」(大森望)、「完成度が高く、ユニーク極まりない」(香山二三郎)、「新鮮な展開にページを操る手が止まらない」(茶木則雄)、「実の親を訴える前代未聞のアイデア」(吉野仁)。選考委員絶賛の第10回『このミステリーがすごい!』大賞、優秀賞作品です。何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の光一は決定的な疑惑を入手し、真相を確かめるため犯人を民事裁判で訴えることに。被告はお父さん!周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引き摺り出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!

目次

一 器物損壊

二 訴訟の準備

三 第一回口頭弁論期日

四 判決

エピローグ

解説 香山二三郎
(宝島社公式HPより)


<感想>

第10回「このミステリーがすごい!」優秀賞受賞作です。
受賞時タイトルは『僕がお父さんを訴えた理由』でした。

第10回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「懲戒弁護士」に

同じく第10回の大賞受賞作は、法坂一広先生『弁護士探偵物語 天使の分け前』。
隠し玉には、岡崎琢磨先生『また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を(仮)』と矢樹純先生『Sのための覚え書き かごめ荘事件のこと(仮)』が選ばれている。

『弁護士探偵物語 天使の分け前』(法坂一広著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

では、感想を。

内容としては「飼い犬が殺害された光一は同級生の沙紗や司法浪人生の敦、真季と共に飼い犬殺害犯として父親を訴える。だが、この先に思いもよらない展開が待っていた」とのもの。

文章にテクニックがあり、毒もなく爽やか。
構成、バランス共にしっかりしており、読み易かった。
技術面は高評価だと思う。

ただ、技巧に走り過ぎ、情感を疎かにしがちな印象。
これにより、ショッキングな展開であるにも関わらず、あまりショッキングではない。
本作に限って言えば「文章に毒がない」ことが逆に仇になっている感じか。

技術はあるものの、読者の感情を動かすほどの力が其処には込められていなかったように思う。
読んでいるとどことなく軽い。
内容は重いのだが、文章が淡泊すぎてそれが伝わって来づらいのではないか。
全体として悪くないだけに、ここが強調されてより一層惜しく感じられた。

ただ、それを除けば伏線の張り方も上手く文句はない。
読む価値は十分にあると思う。

<ネタバレあらすじ>

中学一年生の向井光一は愛犬・リクを殺害した犯人を捜すべく、同級生の原村沙紗と共に犯人捜しを始める。
沙紗の推理力は凄まじく、光一は犯人を断定する。
リクの仇を討つべく、司法浪人生の敦の力を借りると犯人を民事裁判で訴えることに。
訴えた相手は、母親を亡くした光一にとって唯一の肉親・父親だった……。

訴訟にあたり成人が必要だったことから、真季に依頼した光一。
以前に光一は同居していた真季を追い出した経緯があったのだが……。

周囲の困惑をよそに裁判が開始。
裁判官の花木のもと、裁判が続く。

あくまで、リク殺害を認めようとしない父親にリクが受けていたと思われる虐待の数々をつきつける光一。
やがて、父親は光一に認めてもいいとまで持ちかけるようになる。

それを聞いた光一は大変なショックを受ける。
翌日、光一はリクを殺したのは父親ではないと主張を翻す。
光一が語るリク殺害犯は光一自身だった。

大混乱する法廷。
光一はリクを日常的に虐待していたと述べ、結果的に殺害してしまったと告白する。

しかし、光一の告白には続きがあった。
光一がリクに行った虐待は父から光一が受けたものだったのだ。
光一は父から虐待を受けると、それをそのままリクに再現していた。
光一が真季を追い出したのは、いずれ行われるであろう父の虐待から救う為であった。

光一は裁判を通じて、父が正しいかどうかを判断しようとしたのだと言う。
リク殺害を最後まで否定し続けていれば父が正しい。
しかし、認めたならばそれは過ちである。
何故ならば、光一への虐待を隠す為に一時的に認めたに過ぎないからだ。
つまり、光一への虐待は隠さねばならない行為であると父自身が認めることになる。

否定する光一の父親だが、光一の告発はこれに留まらなかった。
辿り着いた先にあったのは、父による母殺害であった。

光一はボタンを動かぬ証拠として提出。
これにより父親は罪を認めざるを得なくなる。

家族を失くした光一。
父を告発した息子として批難を浴びる中、真季、敦、沙紗の力を借りて再生の道を歩むのだった―-―エンド。

◆関連過去記事
・第10回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作
『弁護士探偵物語 天使の分け前』(法坂一広著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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「僕はお父さんを訴えます」です!!
僕はお父さんを訴えます



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