ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
「ここにはSFの未来を変える原石の輝きが満ちている」──堀晃(ゲスト選考委員)
オール新作アンソロジー・シリーズ!
●堀晃氏(ゲスト選考委員)――「ここにはSFの未来を変える原石の輝きが満ちている。」(「序」より)
“虫愛(め)づる姫君”をめぐって平安朝世界に生じる綻び。頭のてっぺんに花をはやした少年と、人類を襲う謎の怪物との闘い。未来予知用に造られた生命体と若き研究者の秘めたる日々。30年ぶりに訪れた町で体験する冬の奇跡。漏斗形の街に暮らす異様な人々の青春。第2回創元SF短編賞の最終候補作から佳作をはじめ7編と、受賞者による新作を収録。心温まる佳編から衝撃的意欲作まで。
目次
空木春宵「繭の見る夢」(第2回創元SF短編賞 佳作)
わかつきひかる「ニートな彼とキュートな彼女」
オキシタケヒコ「What We Want」
亘星恵風「プラナリアン」
片瀬二郎「花と少年」(第2回創元SF短編賞 大森望賞)
志保龍彦「Kudanの瞳」(第2回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
忍澤 勉「ものみな憩える」(第2回創元SF短編賞 堀晃賞)
*
酉島伝法「洞(うつお)の街」(第2回創元SF短編賞 受賞後第1作)
第2回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・堀晃・小浜徹也
(東京創元社公式HPより)
<感想>
『原色の想像力2』に収録された作品群。
重厚な作りのものが多い中で、ライトな筆致で読み易かった本作が一際印象に残りました。
結末自体は比較的予測出来るものでしたが、其処に至るまでの読み易さと全体的なバランスの良さで面白く感じました。
なかなかの作品だと思います。
さらに、もっと「仕組まれた世界」であることを強調し悲劇性を演出しても良い中で、あえてあのラストに留めたのは高評価。
作品全体のトーンとラストとのギャップによりサプライズを与える作品は多いですが、この作品の場合は、全体のトーンとラストを統一して正解だと思います。
終始一貫して流れる「ほんわかムード」が心地よいです。
総評として、決して突出しているワケではないものの、全体的なバランスの良さとシンプルな構成をフルに利用した破壊力、それに伴う分かり易さこそが特徴の作品と言えるでしょう。
◆関連過去記事
・『時計じかけの天使(「原色の想像力 創元SF短編賞アンソロジー」収録)』(永山驢馬著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「量子回廊 年刊日本SF傑作選」(大森望/日下三蔵 編、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
雅志:一流大学を卒業したが、就職できず困っている男性。
美優:短大を卒業し保育士になったが、彼氏がいないことが悩みの女性。
超就職氷河期が訪れた未来。
国営の単身者向け公団住宅に住む雅志は、部屋の電子機器一切を取り仕切るネットワークサービス型サーバ「マッチメイカー」に愚痴をこぼしていた。
その画面上には可愛らしい女性の姿が映っている……が、もちろん人間では無い。
入居時に雅志が答えた100のアンケート結果からコンピュータが自動生成したグラフィックスである。
一流大学を卒業したものの、就職できない状況を嘆く雅志。
「マッチメイカー」は雅志の愚痴を聞きつつ、彼を励ます。
雅志はいつしか恋愛に近い感情を抱くようになっていた。
一方、別の単身者向け公団住宅に住む美優もまた、満たされぬ自身の境遇を同じようにこぼしていた。
美優は就職氷河期を保育士になることで切り抜けた。
だが、恋人が出来ないことを悩んでいたのだ。
そんな美優を、こちらも入居時のアンケートをもとに生成された男性型のグラフィックスが慰めていた。
美優は、そのグラフィックスを「まーくん」と呼び、「まーくんと結婚できたらいいのに」と呟くのだった……。
そんなある日、「まーくん」が美優に気分転換を兼ねたお出かけを勧める。
服装から行く先まで決められた美優は「まーくんが言うなら」とその勧めに従うのだった。
その出先、そこで美優は「まーくん」そっくりの男性と出会う。
「もしかして、まーくん?」思わず呟く美優に、相手の男も驚いた表情を見せる。
その男こそ雅志であった。
雅志が驚いたのも当然である。
目の前には雅志宅の「マッチメイカー」に表示されたグラフィックスそっくりの女性が立っていたのだから。
2人は互いに初めてとは思えぬ相手に意気投合。
性格もマッチしたのかとんとん拍子に交際が進み、やがて結婚することに。
数日後、新居へと引っ越すこととなった雅志。
もちろん、そこには美優が居る。
雅志は長く暮らした自宅の「マッチメイカー」に別れを告げる。
雅志は美優と出会ったことで、就職先企業の志望を転換。
すると、あっさりと就職が決まった。
給料は安いが、2人で働けば暮しには困らないだろう。
雅志はそれまで抱いていた疑問を洩らす。
美優との出会いのすべてが仕組まれていたことだったのではないか。
雅志も美優も共に国営の単身者向け公団住宅に住んでいた。
もしも、互いの「マッチメイカー」がリンクしていたら。
そもそも、入居時のアンケート自体が結婚相談所のそれと同じく相性の良い男女を入居者の中から捜すためのものだとしたら。
これこそが少子化対策の切り札だとしたら……。
もちろん、「マッチメイカー」はそんな疑問には答えない。
それでも、雅志は「たとえ仕組まれていた出会いだとしても、今は幸せだ」と断言するのだった。
雅志は部屋を去った。
「マッチメイカー(仲人)」は新たな入居者を迎え入れる為に雅志と美優のデータを消去するのだった。
すべては、新たな入居者をマッチメイクする為である―――エンド。
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