ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
その夜――。関沼慶子は散弾銃を抱え、かつて恋人だった男の披露宴会場に向かっていた。すべてを終わらせるために。一方、釣具店勤務の織口邦男は、客の慶子が銃を持っていることを知り、ある計画を思いついていた。今晩じゅうに銃を奪い、「人に言えぬ目的」を果たすために……。いくつもの運命が一夜の高速道路を疾走する。人間の本性を抉るノンストップ・サスペンス!
(光文社公式HPより)
<感想>
ルイス・キャロル『スナーク狩り』を下敷きに、追う者と追われる者の心境の変化や変貌を描いた作品です。
サスペンスとして非常に上質で、どんな結末へと向かうのか考えるうちに一気に読み終えてしまいました。
最終的に、追う者と追われる者の立場が入れ替わることになるのが、印象的でした。
憎悪という名の怪物を如何にして処理するのか、そしてどう飼い慣らしていくのか。
さまざまに考えさせられる作品。
ラストがとても切ないです。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
修治:釣具店の店員。
慶子:慎介と婚約していた。
織口:修治の年嵩の同僚。
慎介:慶子の婚約者、範子の兄。
範子:慎介の妹。
善彦:とある事件の加害者。
麻須美:善彦の仲間。
神谷:織口を通じ事件に巻き込まれて行く。
慶子は傷付いていた。
親友と思っていた友人に裏切られ、婚約者・慎介を略奪されたのだ。
しかも、当の慎介も打算的な男だった。
傷心の日々……そこへ2人の結婚式の招待状が届く。
怒りに駆られた慶子はライフルのライセンスを所持していることを利用し、裏切った2人の射殺を目論む。
もちろん、最後は自殺するつもりであった。
釣具店へ向かった慶子はそこで錘を購入する。
散弾銃に錘を詰めることで2発目を発射すると暴発するように工作する為である。
1発目で憎い2人を、2発目で自身の命を奪う為だ。
結婚式当日、会場へと向かった慶子。
射殺しようと散弾銃を手に飛び込もうとするが……。
其処へ1人の女性が立ちはだかった。
彼女の名は範子。
慎介の妹である。
招待状を送ったのは範子だった。
範子は裏切った兄を慶子に罰して欲しいと望んでいた。
だが、ギリギリになってどんな兄でも肉親であることに気付いてしまった。
範子は兄に代わり慶子に謝罪する。
これに毒気を抜かれた慶子は計画を取り止め、その場を後にするのだった。
一方、釣具店では、従業員の修治が慶子を心配していた。
錘の用途に不穏なモノを感じたのだ。
その傍らでは修治の年嵩の同僚である織口が何やら考え込んでいた……。
そして、事件は起こった。
慶子のことを気にかけた範子と修治が、それぞれ慶子宅を訪ねると慶子が倒れ込んでいたのである。
助け起こして事情を尋ねると、織口に襲われ散弾銃を奪われたらしい。
慶子は散弾銃に仕掛けがあり、暴発の恐れがあることを訴えると織口を助けてくれと依頼する。
修治には織口の行動に思い当たることがあった。
織口には過去に離婚した妻子があった。
その妻子が車泥棒に殺害されたのだ。
車泥棒は表面上の反省の色を見せ、病気を理由に病院に入院していた。
だが、織口はその反省を信じていなかった。
その車泥棒は善彦と麻須美という名の2人組であった……。
織口は彼らのもとへ向かったに違いない。
そう察した修治に、慶子は織口と渡り合う為にもう1丁の散弾銃を預ける。
こうして、修治と範子は織口を追うこととなった。
慶子は織口のことは伏せつつ、被害届を提出する。
その頃、織口は偶然に知り合った神谷父子の車を使い、一路目的地へと向かっていた。
織口は善彦と麻須美が本当に改心したのか試そうとしていた……。
一方、慶子の式場での行動を伝え聞いた慎介は邪魔になった彼女を殺害するべく、その住居に侵入していた。
慎介に殺されそうになる慶子だったが、慶子が誰かを庇っていると察した担当刑事が戻って来たこともあり事無きを得る。
慎介は殺人未遂の現行犯で逮捕された。
この事件を通じ、織口の行動を知った警察もその後を追う。
神谷と別れた織口に追いついた修二と範子。
だが、織口により散弾銃を奪われてしまう。
織口は彼らを連れ、目的地へと向かう。
同じ頃、織口に手配がかけられたことを知った神谷。
そんな人物に見えなかったことを気にかけて、こちらも織口を追う。
遂に善彦と真須美を発見した織口は散弾銃を手に彼らと対峙する。
立ち会うことになった修治、範子、神谷。
だが、警察も駆け付け、銃を手にしていた織口は射殺されてしまう。
この隙を突き、善人と麻須美は織口たちが所持していた2丁の散弾銃を奪う。
そのまま逃走する2人。
彼らは隙あらば脱走し自由になろうとしていた。
この姿を目にした修治は織口に代わり自分が試そうと決心する。
2人を追跡する修治。
追い詰められた善彦は池の畔で修治に銃口を向ける。
数分後、善彦は死亡していた。
追って来た警察に事情を説明する修治。
そこへ麻須美が残ったもう1丁の散弾銃を構えながらやって来る。
善彦の安否を尋ねる麻須美に、修治は「撃て」と叫ぶ。
そして、麻須美は引き金を引いた……。
瞬間、銃は暴発し麻須美は死亡した。
今度こそ、事情を説明する修治。
工作がされていた銃は麻須美のものだった。
善彦の銃は普通の散弾銃だったのだ。
撃たれる……そう覚悟した瞬間に、修治は自身に向けられた銃口を手に取り池に浸したのだ。
銃口が塞がれれば暴発する。
この場合、水が銃口を塞ぐ役目を果たしたのである。
織口の感覚は正しかった。
善彦も麻須美も試されたが、それを乗り越えることは出来なかった……。
神谷は今回の事件を通じ家族の絆を深めた。
慶子もまた、傷心の身ながら実家の兄に連絡を取った。
だが、修治は正当防衛として罪にこそ問われなかったものの、人殺しとして白眼視されるようになってしまったのである。
結果、修治は恋人を失ってしまう。
そんな修治を救おうと寄り添っているのは範子である。
しかし、そんな範子の献身も罪の意識を抱える修治を癒すまでには至らなかった。
範子は慶子への手紙に語る。
ルイス・キャロルの『スナーク狩り』では、怪物を斃したものは姿が消えてしまったと言う。
織口や修治、慶子たちも憎悪という名の怪物を抱えていたのではないか。
そして、修治はそれを解放してしまった。
世界には決して分かり合えない人間もいる。
私たちは被害者同士で傷つけ合ってしまったのかもしれない、と―――エンド。
・ドラマ版『スナーク狩り』はこちら。
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