2012年04月07日

『長い長い殺人』(宮部みゆき著、光文社刊)

『長い長い殺人』(宮部みゆき著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

轢き逃げは、じつは惨殺事件だった。被害者は森元隆一。事情聴取を始めた刑事は森元の妻、法子に不審を持つ。夫を轢いた人物はどうなったのか、一度もきこうとしないのだ。隆一には八千万円の生命保険がかけられていた。しかし、受取人の法子には完璧なアリバイが……。刑事の財布、探偵の財布、死者の財布――“十の財布”が語る事件の裏に、やがて底知れぬ悪意の影が!
(光文社公式HPより)


<感想>

『小説宝石』1989年12月初冬号より、1991年2月号まで連載された作品。
目次は次の通り。()内は雑誌掲載年度。

1.刑事の財布(『小説宝石』1989年12月初冬号)
2.強請屋の財布(『小説宝石』1990年1月号)
3.少年の財布(『小説宝石』1990年5月号)
4.探偵の財布(『小説宝石』1990年9月号)
5.目撃者の財布(『小説宝石』1990年12月号、「親友の財布」改題)
6.死者の財布(『小説宝石』1991年2月号)
7.旧友の財布(『小説宝石』1991年5月号)
8.証人の財布(『小説宝石』1991年12月号)
9.部下の財布(『小説宝石』1991年2月号)
10.犯人の財布(書き下ろし)
11.エピローグ 再び、刑事の財布

以上でお分かりの通り、財布の視点からみた連続殺人事件という構成。
それぞれの財布は、持ち主に応じた性格となっており、その語り口から持ち主の性格を察することが可能となっている。
本作はこの試みと、犯人の動機が特徴と言える。
この2点が肌に合えば、楽しい読書体験が出来るだろう。

本作でも宮部先生特有の考えさせられる作品性は健在。
人間の弱さと強さを遺憾なく描き切っている。
ラストまで読んだとき、あなたは何を思うでしょうか。

それと、本作の「あとがき」にも記載されているが、この動機は後のある宮部作品(映画化もされた『○○○』のこと)に通じるモノがあり、プロトタイプと言える点も注目すべきだろう。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
響:森元隆一殺害事件の担当刑事。
河野:私立探偵、早苗に調査を依頼された。
雅樹:早苗の甥。早苗が大好き。
塚田:早苗の夫。
法子:隆一の妻。
逸子:塚田の前妻。
一也:???

会社員・森元隆一が殺害された。
その妻・法子が夫の保険金を受け取ることが判明。
さらに、法子に愛人が居ることも明らかになり、容疑者と目されるが……。
法子には完璧なアリバイがあった。

この事件を担当した刑事・響だったが、どうしても法子の犯行を立証することが出来ない。

それから半年後、新婚直後の若妻・早苗が殺害される。
その夫・塚田は早苗にかけられていた保険金を受け取ることに。
実は、法子の愛人こそ塚田だった……。
ところがやはり、こちらも完璧なアリバイがあったのだ。

マスコミは2人を疑惑の人物として取り上げ、塚田たちは一躍時の人に。
交換殺人も噂されるが、彼らは共に完璧なアリバイを持っていた。
こうして、疑惑の人から一転、不当に疑われた被害者として彼らは時代の寵児となるが……。

大好きだった叔母・早苗を殺害された雅樹はショックを受けていた。
彼は早苗と塚田の結婚に反対し続けており、塚田の正体を暴こうとしていた。
結局、間に合わなかったのだが……。

一方、探偵の河野は早苗から夫である塚田についての調査を依頼されていた。
早苗は塚田に不信感を抱いていたのだ。
河野は調査により、塚田の前妻・逸子が轢き逃げで殺害されていたことを知る。
ところが、こちらの事件も塚田と法子にはアリバイがあった。
限りなく塚田と法子は怪しい。
だが、どうしても犯行を立証できない。

そんな河野に「我こそは犯人である」と名乗る人物が接触して来るが……。

やがて、響、河野、雅樹たちの辿り着いた真実とは!?

犯人を名乗った人物は騙りだった。
注目を浴びることを望む予備校生だったのだ。

だが、響と知り合った河野はこの偽の犯人を利用して真犯人を誘い出す計画を立てる。
この計画は大成功。
自身の犯行を我が物顔で語る偽物に腹を立てた真犯人は彼を殺害しようとして響に逮捕される。

真犯人の名は一也。
彼は自分が特別な人間であるとの想いから、就職しても人間関係で長続きしなかった。
そこで、司法試験を受験するが挫折。
自身が決して特別ではないとの事実を受け入れられなかった一也は、その鬱憤を晴らすように通り魔的な犯行を繰り返していた。

そんなある日、一也は通りがかった塚田を襲撃し失敗する。
ところが、塚田は一也に意外な提案を持ちかける。

当時、塚田は前妻・逸子の処遇に困り果てていた。
そこで、法子と共謀し逸子を殺害する計画を立てていた。
だが、一也と出会ったことで可能性の幅が大きく広がった。

塚田は一也に共にスターになろうと提案。
直接的な繋がりのない第3者である一也に殺害実行を任せ、自分と法子はアリバイを作るとの手法を確立させる。
この手法により、塚田と法子は脚光を浴びるようになった。
そして、謎の真犯人として一也も自身のプライドを満足させたのである。

こうして、一也は逸子、隆一、早苗、法子を脅迫したホステスの4人を殺害したのだ。
一也が逮捕されたことで事件は解決した……。

それから数日後の夜、雅樹が家出してしまう。
この報せを聞いた響は早苗の遺体発見現場へと向かう。

雅樹は其処に居た。
大好きだった叔母を殺害された雅樹は、響に一也たちの処分を尋ねる。
だが、響には明確に答えることは出来ない。
傷心の雅樹に寄り添うことしか出来ないのだった。

其処へ新たな影が……。
響と同じく雅樹を捜しに現れた河野である。

2人は雅樹をそっと支えるのだった―――エンド。

・ドラマ版はこちら。
月曜ゴールデン「TBSスペシャルドラマ企画 宮部みゆき・4週連続“極上”ミステリー 第三夜 長い長い殺人〜史上“最凶”頭脳犯による連続殺人!疑惑の人妻には完璧なアリバイと3億円の保険金が…!壮大トリックの真相」(5月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)追加しました。

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