2012年05月07日

『魔性の子』(小野不由美著、新潮社刊)

『魔性の子』(小野不由美著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

教育実習のため母校に戻った広瀬は、教室で孤立している不思議な生徒・高里を知る。彼をいじめた者は“報復”ともいえる不慮の事故に遭うので、“高里は祟る”と恐れられているのだ。広瀬は彼をかばおうとするが、次々に凄惨な事件が起こり始めた。幼少の頃に高里が体験した“神隠し”が原因らしいのだが……。彼の周りに現れる白い手は? 彼の本当の居場所は何処なのだろうか?
(新潮社公式HPより)


<感想>

『十二国記』シリーズの外伝にして、本シリーズの先駆けとなった作品です。
『十二国記』のファンタジックな世界観が現世ではどう捉えられるか……そんな試みが盛り込まれています。

本作でも後の『十二国記』に繋がるテイストは健在。
群体として生きる“人”の本能と、それに馴染めず自分の特別性を信じる“人”という種の弱さを、“人ならざる者”を介して描いています。

ちなみに、本作は『風の海 迷宮の岸』、『黄昏の岸 暁の天』と密接にリンクしています。

『風の海 迷宮の岸』:本作で語られた神隠し事件について描かれる。
『黄昏の岸 暁の天』:本作で語られた高里の帰郷が「十二国」側から描かれる。

「十二国記」シリーズ中で高里が直接登場するのは上記2長編と短編『冬栄』(『華胥の幽夢』収録)のみ。
『冬栄』は『黄昏の岸 暁の天』の前日譚となっているので、こちらも押さえておくべき作品でしょう。

<ネタバレあらすじ>

教育実習生として母校に戻って来た広瀬。
彼は自分が所属するこの世界に何処か相容れない想いを抱き続けていた。

そんな彼が担当したクラスに彼の注意を惹く男子学生が居た。
その名は高里。

高里はクラスの中で1人孤独であった。
周囲の者は彼を侮るでもなく、蔑むでもなく、ひたすら恐れていた。

彼らは高里に関わることで起こる報復を恐れていた。
報復とはいっても、高里が恫喝するワケではない。

彼らはそれを“祟る”と呼んだ。
高里を直接的に傷付けたものは必ず何らかの被害に遭っていたのだ。
それは、時に命を落とすことにも繋がっていた。

だが、高里はそんな現状にも関わらず淡々としていた。
まるで、人と関わらないことで周囲の人々を守ろうとするかのように。

しかし、そんな距離感は所詮は危うい均衡の上に成り立っていた。
そんな均衡を崩す事件が起こる。

高里の噂を聞きつけ、面白がった学生が高里に暴力を奮ったのだ。
そして、彼はその身を以て噂が正しかったことを証明してしまう。

恐慌状態に陥るクラス。
ある者は高里にへつらい、ある者は高里をさらに迫害する。
そして、彼らは等しく祟りの力を体験することとなった。

遂に恐怖のあまり、高里を排除しようと考えたクラスメイトたちは高里を校舎から突き落とすが……。
しかし、高里は無事だった。
逆に、クラスメイトたちが集団投身自殺に追い込まれる。

事態の推移を当事者の1人して目の当たりにした広瀬は高里を救おうと奔走する。

だが、高里は既に世の中に身の置き所の無い立場に陥っていた。
家族からも級友同様な扱いを受けていたのだ。
やがて、マスコミもこれを嗅ぎ付ける。
マスコミは高里を追い回す。

そして、その度に祟りが起こるのだ。
それはどんどん大きな報復に変化していた。
質と規模が拡大していく中、高里はこの世界に否定されて行く。

広瀬は高里を自室に匿うことに。
その夜、何者かに味方かどうか尋ねられた広瀬は夢現の中で「味方だ」と答えるが……。

翌日、高里の家族が皆殺しに遭ってしまう。
広瀬という新たな庇護者を得たことで家族は用無しと判断されたのだ。
これがさらに騒動に拍車をかける。
もはや、高里は人類の敵とみなされていた―――。

一方、町内では夜な夜な怪奇現象が起こっていた。
不思議な女性やそれに従う1つ目の犬が「キ」を捜し、彷徨い歩いていたのだ……。

広瀬に匿われ続ける高里だが、自身の置かれた状況は良く理解していた。
彼は何故、こんなことになったのか自身でも理解できず苦しんでいた。
そして、遂に自殺を思い立つ。
必死に押し留める広瀬だが、その目の前に例の不思議な女性が現れる。

彼女は高里を“泰麒”と呼び、共に来るよう誘う。
「キ」とは「麒」のこと、王に仕える者を指していた。
高里は本当にこの世界の存在ではなかったのだ。
すべてを思い出した高里はこの世界を去ろうとする。

そんな高里の前に広瀬が立ち塞がる。
広瀬は自身を異邦人だと思っていた。
そこへ、本物の異邦人である高里が現れた。
広瀬は高里と自身の気持ちを分かち合うことで無聊を慰められていた。
だが、その高里は広瀬を置いて故郷へ帰ろうとしている。
一人ぼっちは嫌だ!!広瀬はエゴを爆発させてしまう。

広瀬の真意を知った高里の目には憐憫の情が浮かんでいた。
高里の帰郷は天災が伴うものだった。
大津波が来ることを教え、避難するよう促す高里。
高里はそのまま海の中に消えて行くのだった。

大津波は町を洗い流した。
多くの人々が波間に消えた―――エンド。

◆関連過去記事
小野主上による『十二国記』シリーズ、新潮社より再始動!!ファン待望の新作書き下ろし長編も発売予定!?

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