2012年04月21日

『蜜蜂のデザート』(拓未司著、宝島社刊)

『蜜蜂のデザート』(拓未司著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

『蜜蜂のデザート』以外に『禁断のパンダ』についてもネタバレしています、注意!!

<あらすじ>

神戸の人気洋菓子店で相次ぐ食中毒事件の謎。

グルメ界のホームズがパティシエ業界の華やかな裏側に迫る!

『このミス』大賞、絶品のグルメ・ミステリー

甘〜いデザートにも毒がある!?『このミス』大賞受賞作家が、美味しいデザートとパティシエ業界を舞台に描くグルメ・ミステリーです。神戸でフレンチ・スタイルのビストロを営む料理人・柴山幸太は、デザートに力を入れようとスイーツの研究に励む。<スイーツ・グランプリ>県代表の「テル・カキタ」に家族で食事に行ったところ、息子・陽太に異変が。店には、以前にも食中毒を起こしたというパティシエがいて……。意外な犯人とその動機に、グルメ界のホームズが迫ります。
(宝島社公式HPより)


<感想>

文豪における食とは池波正太郎作品におけるそれが大変に有名ですが、ミステリでも負けてはいません。

食と関連したミステリとしてまず思い出すのが、美食探偵ネロ・ウルフ。
他にも、『くまのパディントン』の著者で知られるマイケル・ボンドが手掛けた『パンプルムース氏』シリーズ。
国内では、近藤史恵先生『ビストロ・パ・マル』シリーズも有名ですね。

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そんな食とミステリの歴史に新たな1ページを刻んだ作品がありました。
それが『禁断のパンダ』。

この作品は『特別料理』でラストを締めたのですが、実はシリーズ続編が出ていました。
それがこの『蜜蜂のデザート』。

本作は3件の食中毒事件の謎に、あの柴山幸太が挑みます。
ちなみに、『禁断のパンダ』の青山刑事も登場するのでファンは是非、読んでおくべきでしょう。

ミステリとしては特に伏線が重要な意味を持つといった類の作品とは必ずしも言い切れず、どちらかといえばサスペンスに近いかなと思われますが、十分に面白いので読んでみるのもアリでしょう。

<ネタバレあらすじ>

神戸でフレンチ・スタイルのビストロを営む料理人・柴山幸太。
スイーツ・グランプリ県代表になった「テル・カキタ」に家族で足を運ぶ。
ところが、そこで息子・陽太に異変が発生。
「テル・カキタ」には以前に食中毒を起こしたパティシエ・坂本がおり、彼が疑われるが、実は幸太はアレルギー体質だった。
坂本は自身の配慮が不足していたと謝罪、幸太も許す。

その直後、坂本がチカという女性にナイフで襲われる。
逃げ出したことで事無きを得るが、坂本によると日常茶飯事らしい。
坂本とチカは元恋人同士。
別れた後に、チカに結婚話が浮上。
相手は資産家の息子で玉の輿に乗る筈だった。
だが、チカが相手の家族に挨拶した際に手土産として持ち込んだスイーツにより食中毒被害に遭ってしまった。
結局、これが原因で破談になってしまったが、このスイーツが坂本の手によるものだった。
チカは坂本が故意に妨害したと考え、復讐の機会を狙っているらしい。

店の従業員・涼子から坂本について話を聞く幸太。
それによれば、涼子の友人であるタケちゃんが坂本と同じ店で働いているらしい。

幸太はアレルギー体質を持つ陽太が安全に食べられるデザートを作ろうと奮闘。
遂に完成にまで漕ぎ着ける。
ところが、これを「テル・カキタ」の柿田に盗まれてしまう。
柿田は幸太のデザートで第1回スイーツ・グランプリを優勝することに。

許せなかった幸太は柿田に事実の公表と謝罪を要求する。
坂本はこれまでに柿田が行ったかもしれない不正を幸太に明かす。
実は、柿田にはこれまでに2軒ほど邪魔になった店で集団食中毒を起こした疑いがあったのだ。
そのうちの1軒は坂本の元勤務先でチカの破談の原因となった例の食中毒こそがそれであった。
坂本は、坂本を引き抜く為の柿田の陰謀を疑っていたのだ。

坂本の主張を裏付けるように幸太宛てに柿田から脅迫状が届けられる。
脅迫に屈しないと決める幸太だが……。

矢先、幸太の店で食中毒が発生。
被害に遭ったのは1人の女性客だった。
涼子は休みを取っており、幸太は対応に苦慮する。

意気消沈する幸太だったが、そこへ旧知の青山からチカが殺害されたと聞かされる。
どうやら、チカのストーカー被害に遭った人間が彼女を殺害したらしい。
真っ先に、坂本の顔を思い浮かべる幸太だが……。

当の坂本が来店。
そこへ現れた青山に、幸太は坂本が犯人であると告発しようとするが……既に犯人は捕まった後だった。
どうやら、チカ殺害は坂本ではなかったらしい。
なんでも、チカは食中毒が原因で別れた資産家の息子に復縁を執拗に迫っており、それを恐れた彼が殺害したそうだ。
正当防衛を主張していると言う。
失敗に頭をかく幸太。

こうして信頼関係を強めた2人は、幸太の店の食中毒も柿田の差し金ではないかと疑う。

食中毒事件の最初の被害者と思われる店を訪れた幸太。
店は事件が原因で閉店していたが、オーナーであった山本夫人は何処かほっとした様子だった。
もともと、店は夫婦2人の小さいもので坂本が来てから大きくなったものの、それまでの顧客が寄り付かなくなったことに寂しさを覚えていたらしい。
そこへあの事件が起こったのだ。

幸太は山本夫人からある人物が出入りしていたことを聞き驚く。
その人物は幸太の店にも出入りしていたからだ。

その人物とは食材搬入業者の高城。
彼ならば、サンプルに細菌を混ぜることで食中毒を引き起こせる。
しかも、幸太の店の食中毒の日に、被害女性の隣の席に座っていたのは彼だった。

坂本と相談した幸太は高城に罠をかける。
わざと隙を見せ、高城にもう1度犯行を行わせようとしたのだ。
ところが、高城は犯行を行わないどころか、何も知らない様子。
幸太はまたも自分が重大な勘違いをしていたことに気付く。

もっと犯行が可能な人物が居たのである。
それは、被害者自身だった―――。
そして、幸太には彼女の正体にも見当がついていたのである。

坂本と共に彼女を待ち構える幸太。
坂本はやって来た人物を見て驚きの声を上げる。
それは、彼の良く知る人物……タケちゃんだったからだ。
タケちゃんこと、吉武カナこそが食中毒事件の犯人だったのだ。

まさか、信じられないと呻く坂本。
彼にはカナが柿田の手先だとはどうしても思えなかった。
それもその筈、今回の事件は柿田は関係していなかったのだ。

カナは坂本に恋していた。
坂本を守ろうとしていたのである。
まず、商売敵になりそうな相手を食中毒で潰した。
次に、告発すると主張した幸太に脅迫状を送り付けた。
坂本の所属する店に傷をつけない為だ。
それでも、幸太が屈しないと分かると自身が被害者となり食中毒騒動を起こしたのだった。

こうして、事件は解決したかに見えた。
だが、幸太はカナが山本夫人の店だけは関与していないことに気付いていた。
そして、何故、カナがそれを明かさないのかも。

カナが自身で食中毒となったように、山本夫人も自身で食中毒を仕掛けたのだ。
夫人は坂本により客層が変わってしまったことに困っていた。
店を辞めたかったが、坂本の手前言い出しにくい。
そこで、閉店する口実を作ったのだ。

カナはこれを知れば、坂本が傷付くと考え黙っていたのである。
真相が明かされ、カナは自ら出頭することになった。
出頭の直前、カナは坂本に自身が起こそうとしていた新しい店を委ねる。

数ヶ月後、幸太は陽太と共にある店を訪れようとしていた。
その店の主は第2回スイーツ・グランプリを圧倒的な力で優勝していた。
ちなみに、第1回は優勝者が謎の辞退を行った為に優勝者なしとなっている。
幸太は第2回の優勝作品に軽い嫉妬を覚えていた。
それほどの作品だったのである。
そして、その店主の名は―――エンド。

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