ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
冤罪で人生の全てを失った男は、復讐の荒野へ踏み出した。貫井ミステリーの新たなる頂点。
身に覚えのない殺人の罪で、職場も家族も日常も失った男は、復讐を決意した。刑事、検事、弁護士――。七年前、無自覚に冤罪を作り出した者たちが次々に殺されていく。だが男の行方は杳として知れず、宙に消えたかのように犯行現場から逃れる。彼が求めたものは何か。次の標的は誰か。あまりに悲しく予想外の結末とは。
(新潮社公式HPより)
<感想>
『ハーシュソサエティ』シリーズも好調な貫井徳郎先生の作品です。
読んでみましたが、後味は悪いです。
内容が内容なので当然と言えば当然なのですが。
ただ、それを抜きにしてもちょっと微妙な出来かも。
確かに悪くはないんだけど、貫井先生の作品として考えるともっと高いレベルが求められると思う。
何しろ、これまでの作品と比べて特徴として挙げられる点が少ない。
構成上、似た展開が多く、結末も貫井先生の他の作品で目にしたような印象。
余りにあからさまに泣かせようとしているのもちょっと引っかかりました。
悪くはないんだけど、何処か違う。
何処とは言えないけど、何処か違う。
物凄くもどかしい。
全体的に漂うコレジャナイ感も大きい。
少なくとも貫井先生の作品としてベストではない。
同じ貫井先生作品で、似たテイストの作品ならば『乱反射』の方を推す。
全体的な構成も近いので、そちらを読んだ方が良いと思う。
ラストで得られる印象も、似たような傾向ならば『慟哭』、『光と影の誘惑』の方が上。
ちなみに貫井先生は『ななつのこ』で知られる加納朋子先生の旦那様でもあります。
最近ではNHKさん「探偵Xからの挑戦状!」に「殺人は難しい」を提供していらっしゃるのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
そんな貫井先生の著作について興味をお持ちの方は本記事下部に過去作のネタバレ書評(レビュー)があるのでどうぞ!!
<ネタバレあらすじ>
刑事、検事、弁護士が殺害された。
捜査を担当する刑事の山名は、彼らがある事件で繋がっていることを突き止める。
それが江木雅文の事件であった。
江木雅文は自分の身にそのような事態が降りかかろうとは露ほども考えていなかった……。
顔に痣があり、それが原因で多少内向的な性格であった江木。
だが今、彼は幸せだった。
恋人も出来、プロポーズに成功したからである。
彼の未来は彼女と共に見た虹のように輝けるもの……の筈だった。
ところが、ある殺人事件がそんな彼の未来を捻じ曲げた。
江木はその殺人事件の犯人とされたのだ。
目撃者まで現れ、彼の罪は容赦なく追及された。
幾度となく法廷で争われ、遂には最高裁まで達したが、そこでも江木は罪を問われた。
結局、江木は罪を償うことになった。
だが、彼はこの殺人について全く身に覚えが無かった―――冤罪だったのである。
失意の中、6年が過ぎた。
犯してもいない罪を償った江木は社会に戻ることとなった。
だが、そこからも地獄だった。
戻って来てみれば、彼の父は自殺し、母・聡子は世間から冷遇されていた。
姉とも絶縁状態になった。
恋人は彼の無実を信じながらも、彼から去って行った。
仕事も見つからず、周囲からは白い眼で見られる日々。
何度となく叫び出したくなるが、それをグッと堪える。
だが、忍耐も限界だった。
疲れ果てた江木は自殺を図る。
次に目が覚めたとき、目の前には母が居た。
母は涙ながらに江木に生きるよう訴えた。
江木は死ぬことも出来なくなった。
目的もなく、逃げ場も無い。
そんな江木に残された出来ることはたった1つだった。
江木はそれを達成するために動き始めた。
そして、連続殺人事件が起こった。
弁護士以降も被害者が出ていた。
江木について調べた山名は彼が罪に問われた事件が冤罪であった可能性に気付く。
山名は、この連続殺人が犯してもいない罪を背負わされた江木の復讐であると確信していた。
矢先、目撃者として江木の犯行を証言した会社員・雨宮が自身の目撃証言をブログで記事にしていることを知る。
雨宮はドラマティックな出来事として自慢していたのだ。
次に狙われるのは雨宮かもしれない……。
そう考える山名。
一方で、復讐殺人を繰り返している筈の江木の姿が何処にも見当たらないことに不安を感じていた。
しかも、弁護士以降の殺人では犯行を果たした後の犯人は煙のように消えていたのである。
姿なき殺人者となった江木に対し、山名は警戒心を募らせる。
雨宮と接触した山名は、7年前に彼が江木を確認していなかったことを知る。
雨宮の心無い証言が江木を罪に陥れたと知った山名は怒りを覚える。
山名は聡子に雨宮の証言が誤っていたことを伝え、江木の無実を伝える。
だが、聡子は「もう遅い」と繰り返すばかり。
そのときは、江木が復讐殺人を行ってしまったことを指しているのかと思った山名。
たが、聡子宅を出たところで殺害された弁護士と関わりのあった組関係者を見つけ、ある推論を組み立てる。
同時に、復讐者が煙のように消えた理由に思い当たるのだった。
雨宮に協力を依頼し、囮捜査を仕掛けた山名。
そこへ案の定、復讐者が現れる。
その正体は、江木の母・聡子だった。
江木が犯人だと思い込んでいた為に、他の人物の犯行はノーマークだったのだ。
煙のように現場から消え失せたのも、犯人が江木ではなかったからだった。
聡子の語った「もう遅い」との言葉の意味。
それは、江木が既に殺害されていることを示していた。
弁護士に復讐した江木だったが、組関係者の報復に遭い殺害されていたのだ。
以降の殺人は江木の遺志を継いだ聡子の犯行だった。
組関係者に襲われた江木だったが、死の直前に逃走し聡子のもとで命を落としていた。
組関係者も江木の死を確認しておらず、結果、死亡していた江木を生きていると思い込み、聡子宅を監視していたのである。
山名や組関係者が追っていたのは江木の亡霊だった……。
取調室にて。
山名は聡子の雰囲気に呑まれていた。
過去、聡子と同じように大切な人を失っていた山名。
だが、彼は倫理観から復讐を諦めた。
しかし、目の前の聡子はその一線を悠々と踏み越えた。
その違いは何だったのか?
聡子に羨望の念すら抱く山名に「なんであの子は死ななきゃならなかったんですか。あの子はどうすれば良かったんですか」と涙ながらに訴える聡子―――エンド。
・2012年5月19日、本作がスペシャルドラマとして実写化されました。
ドラマ版ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
ドラマスペシャル「灰色の虹〜刑事、検事、弁護士…7年目の殺人連鎖!!浮かび上がる全てを奪われた男!?暴かれる姿なき殺人者の驚くべき真実!!全てを奪われた家族の結末とは…」(2012年5月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【貫井徳郎先生関連過去記事】
・「乱反射」(貫井徳郎著、朝日新聞出版刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「慟哭」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「光と影の誘惑」(貫井徳郎著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『憑かれる(「崩れる 結婚にまつわる八つの風景」収録)』(貫井徳郎著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『オール・スイリ2012』(文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・探偵Xからの挑戦状!「殺人は難しい」(貫井徳郎著)本放送(4月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・ドラマスペシャル「灰色の虹〜刑事、検事、弁護士…7年目の殺人連鎖!!浮かび上がる全てを奪われた男!?暴かれる姿なき殺人者の驚くべき真実!!全てを奪われた家族の結末とは…」(2012年5月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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