2012年04月27日

『一続きの音』(『小説新潮 2012年05月号 Story Seller 2012』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)

『一続きの音』(『小説新潮 2012年05月号 Story Seller 2012』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

俺はもう、部下を殺したくなかった。なのにあいつは―――
(新潮社公式HPより)


<感想>

「古典部シリーズ」が「氷菓」としてアニメ化され好評放送中の米澤穂信先生の作品。
今月は『リカーシブル』の連載はお休み、代わりに「Story Seller」として短編『一続きの音』が掲載されました。

『一続きの音』は、「ある新人警官の発砲事件の真相に先輩警官である俺が迫る」というもの。

やっぱり米澤先生の作品はイイですね。
伏線が巧みで、かつ、綺麗に配されています。
特に伏線が浮くことなく、流れの中に沿っている点はまさに名手の仕事です。

そして、ほろ苦いラストも切ない。
この仕事に向かないと後輩を選別していた主人公が、その後輩2人の死により自身が失格の烙印を押されてしまう皮肉な結末。
しかし、決して主人公に非があるワケでもない。
寧ろ、主人公の判断が正しかったことは、ラストで明かされる秘密で明らかになっている。
此処が読者に疑問を投げかけている点も見事です。

ファンならば必読、ファンならずとも読んで損はない筈。

<ネタバレあらすじ>

部下が死んだ―――。

死んだ部下の名は川藤、派出所に配属されたばかりの新人警官だった。
もちろん、その上司である俺も警察官だ。
川藤は刃物で人質をとった男に対し発砲、相手を倒したものの自身も命を落としていた。
相討ちとなったのだ。

俺は思う―――川藤は警察官に向かない男だった、と。
過去、俺は刑事課に所属していた。
その頃にも向かない男を部下に持った。
名は三木。
三木の存在は仲間を危険に曝す類のものだった。
俺は三木を執拗に阻害し、遂には排除した。
その数日後、三木は自殺してしまった。
結果、俺は刑事課を逐われ派出所勤務になった―――。

川藤の発砲は全部で5発。
4発は相手に命中、1発は庭に落ちていた。
だが、マスメディアは川藤の発砲に好意的である。
川藤が発砲し、殺されることとなった相手・田原は過去にも事件を起こしていたのだ。
しかも、その内縁の妻・美代子が田原から日常的に暴力を受けていたこともあって、田原の死は肯定的に受け入れられていた。

だが、俺は川藤の発砲にある疑惑を抱いていた。
川藤は警官に向かない男だったからだ。

例えばこんなエピソードがある。
管轄内のバーで喧嘩が起こった。
単なる酔客同士の些細なものだったが、川藤は腰の銃に手をかけていたのだ。

例えばこんなエピソードがある。
車両通行禁止の道を行く車両を発見した。
違反切符を切った川藤だったが、派出所に戻ってから様子がおかしい。
後で分かったことだが、川藤が使用した自転車の後部に積んだ書類入れに施錠し忘れていたらしい。
施錠は規則で義務付けられている。
川藤は理由をつけて鍵を掛けに行こうとしていたのだ。
確かに規則は規則だが、拳銃の取り扱いに比べれば、そこまで遵守する必要は無かった筈だった。

川藤は小心者だった。
他の職業ならば良いかもしれないが、警察官にこれは致命的だ。
臆病者ならば良かった。
臆病者ならば慎重な対応をすることで大成することもあるのだが……。

俺の思索は川藤の死亡当日にまで進む。

その日、派出所に美代子が駆け込んで来た。
田原に浮気を疑われ殺されるかもしれないと言うのだ。
開け放った窓や扉にまで警戒を募らせている。
余程、恐ろしい目に遭ったのだろう。
だが、現場で出来ることは何もない。
結局、派出所の連絡先を教え、その場は引き取らせることとなった。

その日の午後、巡回から戻った俺に留守番をしていた川藤が声をかけて来た。
目の前で道路工事をしているのだが、その監視員の1人が車の跳ね上げた石が頭に当たったことが原因で倒れたらしい。
幸い、すぐに復帰したらしいが……。

そして、その日の夜にあの事件が起こった―――。

俺は川藤の兄を訪ねた。
川藤の兄が弟の死について俺に尋ねたいことがあると呼び出したのだ。

川藤の兄は弟の死に疑問を抱いていた。
俺は疲れていたのか、本来明かすべきではない事件当時の状況について詳細に語り出した。

事件当日の夜、通報が派出所に届いた。
どうやら、田原が美代子を刃物で脅しつけているようだ。
意気込む川藤を先頭に現場へと向かった。

現場に到着した俺たちだったが、応援を待つかどうか判断に悩んだ。
だが、川藤の意見により突入に決定する。

川藤を先頭に部屋へ突入した俺たち。
不思議なことに、そのときの田原は落ち着いているように見えた。
このままならば投降するかと思えたが……。

「動くな、緑町交番だ!!」
川藤が叫んだ。

途端、田原の表情が変わった。
田原は我武者羅に包丁を振り回し、こちらへと駆け寄って来た。
それに合わせるように、何時の間に握ったものやら川藤の銃が火を噴いた。

弾は田原に命中し止まるかに思えたが、田原は驚異的な粘りを見せ川藤の首筋に斬りつけた。
田原はそのまま絶命。
川藤も「こんな筈じゃ……」と言い残し、直後に息絶えたのだった。

俺の話を聞いた川藤の兄はすべてを語った俺に対し感謝を示すと、自身もある秘密を打ち明ける。

川藤の兄によれば、川藤は警官に向かない卑怯な男だったらしい。
何かあれば、兄に「とんでもないことをした」と告げ、助けを求めていたのだそうだ。
その後は、いつも川藤に代わり兄が対応を迫られた。
学生時代に交際相手を妊娠させた際の対処、入学費用をギャンブルに注ぎ込んだ際の対処などすべてこの調子だったらしい。
その「とんでもないことをした」が今回もあったらしいのだ、川藤が死亡した当日の昼に。

その日、川藤の兄は携帯を忘れて外出していた。
帰宅してみると弟からメールが入っていた。
そこにあの文字があったのだ。
不安を覚えながらも連絡を待っていたところ、弟の死を知ったのだった。

俺はこのとき川藤の発砲の真相を理解した。
やはり、川藤は警官に向いていなかったのだ。

バーの1件でも分かる通り、川藤は銃を撃ちたがっていた。
留守番の間も銃を触っていたのだろう。
そして、誤射した。

弾は工事現場の監督員を掠めたのだろう。
川藤はさぞ慌てたに違いない。
だが、監督員はそれが銃弾と思わず、跳ね石と勘違いした。
これは川藤にとっては幸いだった。
その隙に、川藤は誤射した弾を回収した。

しかし、川藤は此処で困ってしまった。
拳銃の管理は厳重である。
弾丸1発無くしたとすれば不祥事だ。
しかも、人を掠めたとすれば大問題である。
書類箱の施錠どころの騒ぎではない。

そこで、川藤は考えた。
木を隠すには森の中、誤射の事実を隠すには正当な理由のもとでもっと発射すればいい、と。
その的として選ばれたのが田原だったのだ。

川藤は田原が事件を起こすことに期待し、田原宅に美代子の浮気を告げ口した。
しかも、相手は緑町交番の警官であると偽って。
だからこそ、緑町交番の名を聞いた田原が激情に駆られたのだ。

案の定、田原は美代子相手に事件を起こした。
通報を受けた川藤は現場に到着。
突入するよう場を動かした。
その後、庭に誤射した1発を捨てた。
的を外れたように見せるか、威嚇射撃に見せかける為である。
後は、4発撃てばそれらしく見える。

川藤は初めから田原を射殺するつもりだった。
計画通り田原に襲われたときは、内心喜んでいただろう。
此処で4発を撃ち込み、田原を射殺した。
あの瞬間、一続きの音に聞こえた銃声は実は4発だったのだ。

ところが、川藤には誤算があった。
人の執念を甘く見たのだ。
ほぼ即死だったのにも関わらず、田原は川藤の首筋に深い傷を負わせた。
川藤の「こんな筈じゃ……」は「自分が死ぬ筈ではなかった」という意味だろう。

俺は突き止めた川藤の秘密を伏せておくことにした……。

そして、現在。
俺はもうじき警察官の職を追われるだろう。
2人も部下を死なせてしまったのだから―――エンド。

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◆映画情報
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第10回本格ミステリ大賞・小説部門ノミネート作品発表!!
(追想五断章にてノミネート)

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◆米澤穂信先生の作品はこちら。



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