ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
《自殺か、他殺か、虚飾の女王、謎の死》――醜聞(スキャンダル)にまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家富小路公子。彼女に関わった二十七人の男女へのインタビューで浮び上がってきたのは、騙された男たちにもそれと気付かれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だった。男社会を逆手にとり、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄しながら、豪奢に悪を愉しんだ女の一生を綴る長編小説。
(新潮社公式HPより)
<感想>
あらすじだと悪女の一生を描いた作品とされていますが、管理人的には「人の抱える多面性を描いた作品」のように思われました。
公子は1代で財を為しただけに、そのやり方は尋常のものではありえません。
反発も多い筈で、その意味で悪女と評されるのももっともでしょう。
一方で、ただの悪女がそこまで財を維持し続けることも難しい筈で、結果、聖女の面も持ったミステリアスな女性が其処に居たとなるのではないでしょうか。
公的には悪人でも、家庭に戻れば善き父や母である者も居る。
逆に、公的には善人でも、家庭で暴力を奮う者もいます。
こればかりは一面だけで判断できるものではないでしょう。
そんな内容を見事に一冊の本にまとめた作品がこの『悪女について』だと思います。
とはいえ、本作はその構成を考えれば、公子が悪女であるか聖女であるかは何となく分かる作りではないでしょうか。
27人の最後に配された人物の証言を考えれば、アレこそが真実の姿かなと思われますが。
もっとも、聖女であり悪女である両方の性質を持つ者こそが母親であるとの見方も出来そうな気もします。
だって、子供にとっては聖女であっても、その子供を育てる為に悪女となる母親もいるでしょうし。
結局、男であり子供はそのミステリアスな影に惹かれるのかもしれませんね。
<ネタバレあらすじ>
1代で巨万の富を築き上げた女性実業家・富小路公子。
そんな公子がビルから転落死した。
その死は自殺か、他殺か?
謎は謎を呼び、連日マスメディアを賑わせることとなった。
公子に関わった27人の男女のインタビューが敢行された。
ある者は悪女と呼び、ある者は聖女と呼ぶ。
公子には2人の息子が居た。
長男は蛇蝎のように公子を嫌い、次男は公子を慕う。
長男は語る「母は自分を拘束しようとした」と。
そして、「支配しようとした」と。
支配欲の強い人柄ゆえに恨みも多いだろう、他殺ではないか―――長男はそう締め括る。
次男は語る「母は誤解され易い人だった」と。
そして、「純粋な人だった」と。
その純粋さゆえに虹を掴もうとして転落死したのではないか―――次男はそう締め括る。
果して、公子の真実とは何か?
それは誰にも分からない―――エンド。
【関連する記事】
- 『どこかでベートーヴェン』(中山七里著、宝島社刊)
- 『通いの軍隊』(筒井康隆著、新潮社刊『おれに関する噂』収録)
- 『クララ殺し』最終話、第6話(小林泰三著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.7..
- 『自殺予定日』(秋吉理香子著、東京創元社刊)
- 『タルタルステーキの罠』(近藤史恵著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.76 ..
- 『歯と胴』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)
- 『迷い箱』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『噂の女』(奥田英朗著、新潮社刊)
- 『追憶の轍(わだち)』(櫻田智也著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.69 F..
- 『コーイチは、高く飛んだ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)
- 『恋人たちの汀』(倉知淳著、東京創元社刊『ミステリーズ!vol.75 FEBRU..
- 『東京帝大叡古教授』(門井慶喜著、小学館刊)
- 『傍聞き』(長岡弘樹著、双葉社刊『傍聞き』収録)
- 『動機』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『動機』収録)
- 『愚行録』(貫井徳郎著、東京創元社刊)
- 『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』(笠井潔著、講談社刊『メフィスト 2016v..
- 『声』(松本清張著、新潮社刊『張込み』収録)
- 『黒い線』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
- 『図書館の殺人』(青崎有吾著、東京創元社刊)
- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)