2012年05月18日

『アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希』(吉川英梨著、宝島社刊)

『アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希』(吉川英梨著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

35歳。ふたりの子持ち。頑固で出世に興味なし。

キレ者女捜査官、登場!

殺人現場に届いた「アゲハ」からのメッセージ。
それは連続する事件の序章に過ぎなかった――

手に汗握る長編警察小説

警視庁に勤める原麻希は、以前捜査一課に勤務していたが、手柄争いに嫌気が差し、いまは鑑識課で働きながらふたりの子供を育てていた。ある日、麻希が自宅へ戻ると、息子と娘を預かったという誘拐犯からの電話が…。犯人の指示のもと、箱根の芦ノ湖畔へと向かった麻希だが、そこには同じく息子を誘拐されたかつての自分の上司、戸倉加奈子の姿があった――。女性秘匿捜査官・原麻希が誘拐事件とテロ組織に挑む、長編警察ミステリー。

目次:
チャプター1 目黒区国会議員刺殺事件
チャプター1.5 発端――移動式遊園地連続婦女暴行事件
チャプター2 下北沢フリーライターリンチ殺人事件
チャプター2.5 犠牲――関谷事件秘匿捜査本部誕生
チャプター3 公安刑事結婚披露宴爆破テロ事件
チャプター3.5 混迷――鍵を握る男
チャプター4 中都交通高速バスジャック事件
チャプター4.5 再生――氷の残滓(ざんし)
チャプター5 警視庁鑑識課巡査部長誘拐事件 〜 Shoot the women first 〜
チャプター6 背負う女
(宝島社公式HPより)


<感想>

シリーズには他に、『スワン 女性秘匿捜査官・原麻希』と短編『18番テーブルの幽霊』(宝島社刊『しあわせなミステリー』収録)が存在。
2012年7月にはシリーズ最新作『マリア 女性秘匿捜査官・原麻希』が発売されている。

読んでみてなかなか面白い。
文章に躍動感と疾走感があって、スピーディーに読める。
ただ、家族愛をテーマにしているが、特に情感に訴えるモノが無かったのが惜しい。
それと、ミスリードが多過ぎるのも玉に瑕かな。本筋が理解しづらい。
たぶん、アレもコレも盛り込み過ぎで処理し切れていないのだと思う。
特に冒頭の殺人事件は掴みの効果しかなく、此処は省略しても良かったのではないか。
後に攪乱目的でしかなかったことも明かされているし……などなど、改善点も多い。

とはいえ、優れた点も同様に多い。
設定だけで終わる作品が多い中で、麻希の2人の子供たち(健太と菜月)がきちんとメインストーリーに絡んできている点は評価ポイント。
特に健太の活躍には目を見張った。
これも含めて、エンタメ作品としてなかなか良いと思う。
一読の価値アリ。

ちなみに、本作に登場した「背望会」のリクルーターは続編『スワン』にも登場。
どうやら、麻希にとって宿敵となりそうな相手となっている。

ネタバレあらすじについては、以上を踏まえて理解し易いようにかなり改変したものとなっているので注意!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
原麻希:主人公。フルネームで「ハラマキ」と呼ばれることを嫌う。
加奈子:麻希の元上司。
健太:麻希の義理の息子。ニートをしている。
菜月:麻希と則夫の実娘。
則夫:麻希の夫、家に寄り付かない。
達也:麻希の元彼氏。
溝口:鑑識課員。
のんちゃん:関谷事件により……。
関谷真一:過去の事件の被疑者。
是枝洋平:加奈子の現在の夫。
和也:洋平の息子。
アゲハ:「背望会」の新リーダー。
リクルーター:アゲハに協力する謎の人物。

原麻希は健太と菜月、2人の子供を持つ母親にして鑑識課員。
健太は夫の連れ子で25歳のニート。
菜月は夫との間の娘で7歳である。
現職の刑事である夫の則夫は家に寄り付かず、麻希は内心で離婚を考えていた。

矢先、「背望会」の署名と共にアゲハと名乗る謎の人物から健太と菜月を誘拐したとのメッセージが!!
「背望会」は数年前に警察により壊滅させられた急進的過激派組織の名である。
「背望会」はどうやら復活していたらしい。

助けが欲しいが、夫である則夫は海外に居て連絡が取れない。
アゲハの指示に従った麻希は1人で箱根の芦ノ湖畔へ。
ところが其処には、麻希のかつての上司であり同じく息子・和也を誘拐された加奈子が居た。
アゲハの正体は、そして狙いは何か?

麻希と加奈子は2人が関わったある事件の容疑者を思い出す。
8年前に関谷真一が起こした事件―――それは関係者すべてに傷を残したものだった。

事の発端はこうだ。
女性の暴行事件が発生、現場は移動遊園地のお化け屋敷。
グループで入った女性を脅かしながら孤立させ、そのまま複数人で犯行に及ぶとの卑劣極まりない手口である。
手慣れた手口から余罪があると思われた。
しかも、体液など証拠も多く、事件はすぐに解決すると思われていた……あの時までは。

従業員リストから大学生・関谷たちの名前が浮上。
加奈子と麻希たちは彼らを検挙した。
だが、関谷は不敵に笑う。
「他はともかく、俺だけは絶対に罰せられない」と。

その言葉の正しさはすぐに証明された。
麻希たちの戸惑いをよそに関谷1人が釈放されたのだ。
他のメンバーは逮捕されたままである。

上層部からの圧力を感じた麻希たちは、関谷の背後関係を調べるが周囲に有力者の影はない。
一体、何が起こっているのか?

当時の麻希にとって長年に渡る恋人・達也たちの助けを得て調べる麻希だが理由が判然としない。
関谷の通う学校に「背望会」の支部があるとの噂もあったが……。
この状態に憤りを覚えた麻希の後輩“のんちゃん”は関谷の尻尾を掴むと意気込み、1人尾行を続けた。

数日後、当の“のんちゃん”が関谷に乱暴されてしまう。
“のんちゃん”は身をもって関谷の犯行を立証したのだ。
ところが、これでも関谷は逮捕されない。
これにショックを受けた“のんちゃん”は自殺してしまう。

“のんちゃん”が自殺したことで上司の加奈子の立場が危うくなる。
だが、加奈子と麻希はむしろ関谷に対する敵愾心を募らせる。
加奈子は上層部の意向を無視し、捜査を続けることに。
だが、達也は上層部に屈し、捜査から手を引いてしまう。
この達也の背信に麻希は激怒、長年の交際を解消してしまう。

しかし、肝心の捜査資料が無くなってしまう。
実は、加奈子の部下が上層部の圧力に屈し処分したのだ。
彼は加奈子たちから裏切り者とされてしまった。
これに耐えかねた加奈子の部下は自殺。
こうして、加奈子は“2人の部下を自殺させてしまった上司”として更に立場を危うくしてしまう。

しかも、当時、夫との子供を妊娠中だった加奈子は、自殺した部下の妻に恨まれ転倒させられ流産してしまうことに。
これが原因で加奈子は夫と離婚。
キャリアとしては屈辱的な北海道への左遷を受けることに。

一方、麻希は特に処分を受けることもなかった……。
しかし、恋人と上司、自身の仕事への誇りを失い悲嘆に暮れる。
そんな麻希を支えたのが、偶然、知り合った夫・原則夫だったのだ。
2人は関係を持ち、麻希が妊娠。
当初こそ反発していた則夫の息子・健太も新しい家族が増えることを喜び麻希は再婚することになったのだった。

結局、関谷は逮捕されることなく事件は終わりを迎えたのだったが……。

まさか、アゲハは関谷なのか……?
謎が謎を呼ぶ展開に、麻希は公安部に所属する達也に連絡を入れる。
「背望会」の名前を耳にした達也は驚くが、詳細を明かそうとしない。

一方でアゲハは遂に要求を明かす。
達也と新婦の結婚式に参列し、会場を爆破せよと云うのだ。
其処には高級官僚たちも多く参列している筈だが……。

加奈子は要求を呑み、麻希に協力を要請する。
加奈子の夫・洋平の頼みもあり、麻希は協力することに。
加奈子は達也こそが「背望会」から送り込まれたスパイではないかと口にするが……。

達也の結婚式会場。
爆弾を持ち込み、スイッチを手にした麻希。
ここでスイッチを押せば、麻希は確実に死亡する。
だが、子供たちを助けたい……悩む麻希の前で思わぬ事態が。

なんと!!式の参加者が突然現れた警察官に次々と逮捕されて行ったのだ。
逮捕の指揮をとるのは達也である。
そして、逮捕されたのは「背望会」のメンバーであった。

実は、達也は「背望会」のスパイのふりをしていたダブルスパイだった。
今回の検挙の為に「背望会」に協力するふりをしていたのだ。

爆弾の存在までは知らされていなかった達也に、麻希は情報と引き換えにスイッチを渡す。

達也によればリクルーターを名乗る人物にスカウトされ「背望会」の復活を知ったと云う。
なんでも、アゲハなる新リーダーが組織を統率しているらしいが……。
そう、麻希たちに要求してきた人物こそ、リーダー・アゲハだったのだ。
だが、その正体は「背望会」の幹部ですら一部にしか知られていないらしい。

矢先、今度は健太がバスジャックを起こしたの情報が飛び込んで来る。
なんでも、「背望会」の旧指導者たちを釈放せよと要求しているらしい。
加奈子は健太こそがアゲハだと断定するが、麻希には信じられない。

直後、鑑識課員の溝口が妹一家を人質にされ、アゲハに内通していたことが判明。
これに気付いた麻希により、溝口は自身が協力者であったことを告白。
達也が溝口の妹一家を保護することでこれを解放することに成功。
溝口によれば、他にも内情に詳しい者がアゲハ側に居るらしい。

麻希は健太が乗客全員を人質にバスジャックを行っているのではなく、乗客全員が「背望会」のメンバーで健太こそが捕まっていると推理。

「背望会」旧指導者たちの釈放が決定する中、健太に直接事情を聴く為に加奈子と共に現地へ向かう麻希。

途中、加奈子が知る筈の無い麻希のハンカチを知っていたことから疑惑が浮上。
さらに、達也に尋ねたところ、数年ほど間に加奈子に紹介された恋人とリクルーターの容姿が合致する。
そう、溝口の語っていた内情に詳しい人物……加奈子こそが当のアゲハだったのだ。

健太がアゲハの指示に従っていたのは自身の為ではなく、麻希が人質となっていたからだったのだ。

隙を見てメールで達也にアゲハの正体を教える麻希だったが、洋平に捕まってしまう。
実は加奈子の夫を名乗った洋平も「背望会」のメンバーだったのだ。
加奈子の夫ではなかったのである。
和也も加奈子の子供ではなかった……。

加奈子の狙いは、健太をアゲハとして射殺し手柄を立て出世することで内部から機構を改革することだった。
一方で、「背望会」にも活動を続けさせ、内外から変革を促すつもりだったのだ。
自身を裏切ったモノすべてに復讐するつもりなのだ。

「背望会」旧指導者たちを受け入れる加奈子。
そこへ健太たちを乗せたと思われるバスが到着する……。

中から降りて来た面々に加奈子は満足げな笑みを浮かべるが……数瞬後に凍りつく。
降りて来たのは「背望会」のメンバーではなかった。
なんと、達也とその部下たちだったのである。
隙を突かれた加奈子たちは激しい格闘の末に全員取り押さえられることに。

この逆転劇の鍵は健太が握っていた。
健太がバスに同乗していた「背望会」のメンバーを騙して投降させたのだ。
「他にもバスが存在し、1番乗りしたバスに搭乗していたメンバーしか必要とされないと聞いた」と告げたのだ。
例の披露宴の自爆騒ぎにて、アゲハへの不信感が助長されていたこともあってこれは効果覿面だったらしい。

バスが投降したことで達也が捜査員のみを乗せた偽バスを仕立てたのだ。

アゲハこと加奈子は連行される際も反省する様子もなく自身の行為を誇っていたらしい。
残念ながらリクルーターの所在は杳として知れなかった。
こうして、事件は解決した。

数日後、達也に呼び出された麻希は彼から「離婚を考えているだろう」と見抜かれてしまう。
無言で肯定する麻希に、達也は則夫の真実を教える。

実は則夫も達也と同じく公安の人間であった。
しかも、現在では最も厳しい外事課に所属しているらしい。
家に寄り付かないのも家族を巻き込まない為だろうと語る達也。

さらに驚くべき真実が明かされる。
関谷を庇っていた謎の力の正体は則夫だったのだ。
関谷は則夫が作ったスパイだった。
噂は事実で、関谷が通う大学には「背望会」の支部があったのだ。
当時、「背望会」壊滅を狙っていた則夫は関谷をスパイとして送り込んだ。
関谷真一も本名ではなく、則夫の殉職した部下からつけた名だと言う。
ところが、これを嵩に着た関谷が暴走したのが真実だと言う。
当時としては捜査は大詰めまで迫っており、庇わざるを得なかったそうだ。
以来、責任を感じた則夫はスパイを使わず自分自身が危地に赴くようになっていた。
これもまた家に寄りつけない理由の1つだろう。

では、当の関谷は今何処に?
これについても達也は答えを持っていた。

則夫は関谷事件の被害に責任を感じ、関係者を見守っていた。
特に麻希については気にかけていたらしい。
其処で麻希と出会ったのだ。
ところが、関谷は麻希に復讐するつもりだった。
則夫は関谷を咎め、揉み合う内に道路に突き飛ばしてしまった。
結果、関谷は車に轢かれ死亡してしまった。
本来なら過失致死である。
ところが、これも関谷の不祥事が明るみに出ることを恐れた上層部により揉み消されてしまった。

こうして1人則夫は罪の意識に苦しみ続けていたらしい。
ここまで語ると妻が居るからと席を立つ達也。
実は数年前に結婚していたらしい。
去り際に、秘匿事項だがと則夫の帰国予定について明かす。

則夫の事情を知った麻希はやり直そうと誓う。

健太、菜月を連れ則夫を空港へ迎えに行く麻希。
空白期間を埋めるべく、初めて則夫に「あなた」と呼びかけるのだった―――エンド。

金曜プレステージ・特別企画「女秘匿捜査官 原麻希 アゲハ 傑作原作待望のドラマ化!愛するわが子が誘拐!昔逮捕した殺人鬼が今復讐に来る!一体の焼死体から始まる全員容疑者の緊迫サスペンス開幕」(6月16日放送)ネタバレ批評(レビュー)

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