『スワン 女性秘匿捜査官・原麻希』（吉川英梨著、宝島社刊）

『スワン　女性秘匿捜査官・原麻希』（吉川英梨著、宝島社刊）ネタバレ書評（レビュー）です。

ネタバレあります、注意！！

＜あらすじ＞

人気警察小説シリーズ第2弾
大阪府警美人刑事vs.警視庁鑑識課ハラマキ
史上最悪の捜査本部誕生――

二人の子持ち刑事、原麻希のもとにテロ組織の黒幕が姿を現わす。
事態は誘拐事件、さらには謎の殺人事件へと発展するが……

背望会テロ事件から一年。警視庁鑑識課・原麻希のもとに、公安部の広田達也から「背望会リクルーターの指紋が見つかった」という連絡が入る。捜査のため奈良県に向かったふたりのもとに、新たな事件の一報が。奈良県知事選候補者が誘拐され、身代金の運び屋には麻希が指名されたというのだ。またもや背望会の仕業なのか、それとも――!? 大阪府警vs.警視庁の熾烈な捜査バトルが繰り広げられる、人気長編警察小説シリーズ第2弾。

目次：
プロローグ
チャプター1　奈良県警巡査遺体損壊事件
チャプター2　警視庁・大阪府警・奈良県警合同捜査本部誕生
チャプター3　奈良県知事選候補者身代金誘拐事件
チャプター4　全裸女性殺人遺体損壊遺棄事件
チャプター5　初めてキスした日のことを、覚えていますか？
チャプター6　民宿かねまる拳銃立てこもり事件
エピローグ

（宝島社公式HPより）

＜感想＞

シリーズには他に、前作『アゲハ　女性秘匿捜査官・原麻希』と麻希の娘・8歳の菜月が活躍する『18番テーブルの幽霊』（宝島社刊『しあわせなミステリー』収録）が存在する。
2012年7月にはシリーズ最新作『マリア　女性秘匿捜査官・原麻希』が発売された。

遂に敵は自身の身近に潜んでいることが明らかになった本作。
いや、むしろ自分自身との戦いとなりそう。
否が応にも盛り上がります。

宿敵・リクルーターは芸術家の如く犯罪をプロデュースする存在なのか？
いろいろ注目すべきポイントが出て来た点も本作の特徴。

前作同様に些か内容を盛り過ぎな気もしますが、逆にそれが味になっているようにも思えます。
やはり、エンタメ作品としてなかなかです。
一読の価値はアリ。

＜ネタバレあらすじ＞

登場人物一覧：
原麻希：主人公。フルネーム「ハラマキ」と呼ばれると怒る。
吾川：麻希とコンビを組む刑事。
櫛田：奈良県知事選に出馬した代議士。
香取：櫛田の秘書。
南条リリス：子役出身の女優。
有栖川：映画監督、リリスの夫。
加賀美：リリスの前夫。
桃子：？？？
北条リリス：？？？

アゲハ事件から1年が過ぎた。
「背望会」幹部は捕えたものの、相変わらずリクルーターの消息は掴めていなかった……。

麻希に正体がバレたことで、夫・則夫は家庭に居る時間が長くなった。
だが、7年間のブランクは大きく麻希はもちろん、健太、菜月とも何処か距離感を掴みかねているようだ。

一方で、26歳の健太はパン屋の少女に夢中。
8歳の菜月は独自の世界を持ち始め、最近は携帯電話に没頭。
何かあれば携帯を弄っている。

家庭はどうにも上手くいっていない。
麻希の悩みの種は尽きなかった。

そんなある日、麻希の元恋人で公安部の刑事である達也から連絡が入る。
「背望会」リクルーターの指紋が大阪で検出されたと言うのだ。
リクルーターは銃を一丁購入していたらしい。

指紋から身許を割り出すべく、調べた麻希だったが、出て来た結果は意外な物だった。
なんと、指紋の主は警察官だった。
しかも、既に死亡していたのである。
麻希はリクルーターの右手の指紋とされていたそれが、左手のものであったことに疑問抱く。
事実を確認するべく達也と麻希は奈良へ向かうことに。

奈良では、奇しくも県知事選挙の真っ最中。
関西州構想を唱える現職知事に対し、櫛田という新興勢力が対決を挑む構図となっていた。

早速、現地入りした麻希たち。
現地に土葬の風習があることを知った麻希は死亡したとされる警官の墓を掘り起こすことに。
遺体を見つけた麻希が目にしたものは切断された左腕であった。
リクルーターは遺体の左手の指紋を加工し、自身の右手に貼り付けていたようだ。
目的の分からないこの行為に頭を悩ませる麻希。
そんな麻希の目に、墓地の一角、花も雑草すらない其処が飛び込んで来る。
何故か、麻希はそこから目が離せないが……。

とはいえ、要件は済んだ。
早速、戻ろうとした麻希だが県警に呼び出されてしまう。
なんと、櫛田の誘拐事件が発生したのだ。
しかも、犯人は自らを「スワン」と名乗り、身代金の運び役に麻希を指名してきた。
さらに「スワン」は「背望会」の名まで持ち出すが……。
櫛田の秘書・香取は「櫛田を助けてくれ」と頼み込むのだった。

またも「背望会」！！
リクルーターの影を感じ取った麻希は、現地のはみ出し警官・吾川の協力を得て、この事件の捜査に乗り出す。
途端、吾川が意外な情報を持ち出す。
「スワン」に心当たりがあると言うのだ。

なんでも、現地で撮影中の映画のタイトルが「呪いのスワン」らしい。
映画監督・有栖川が彼の妻・南条リリスを主演に撮影しているこの作品。
人を利用しては殺害する稀代の悪女をモデルとした物語だった。
この悪女は自身の犯行を通報した実母をも手にかけたことで知られていた。
吾川は南条リリスこそが「スワン」ではないかと疑うが、当のリリスが行方不明になってしまう。

その後の捜査により、リリスが櫛田と不倫関係にあったことが判明。
しかも、リリスと有栖川は再婚。
リリスの前夫は加賀美というヘアメイクアーティストだった。
加賀美はリリスに強い執着を寄せており「裏切ったら顔に硫酸をかけて俺の物にしてやる」と口にしていたらしい。
この執着が仇となってリリスをストーカーし、離婚の原因となっていた。
一説によれば、これに先立ち、リリスの両親が謎の心中を遂げておりそちらにも関与しているのではないかと噂されていた……。
リリスの母親は刺殺、父親は焼死だったそうだが……。

櫛田の誘拐事件にリリスの失踪事件―――2つには関連があるのか？

遂に身代金引渡の当日が到来。
そこへリクルーターから電話が。
リクルーターは櫛田を助けたければ、自分の指示に従えと主張する。
この電話に「背望会」を騙る犯行ではないかと半信半疑だった麻希は驚く。

リクルーターは次から次へと指示を出す。
麻希はそれに振り回されることに。
最後には「東大寺の鹿の前、58番」と指定される。
58番の札が着いた鹿の前に居るとのメッセージだ。

焦る麻希。
其処へ菜月から電話が。
どうやら、則夫と喧嘩したらしい。
なんでも、菜月の携帯を則夫が盗み見てしまったらしい。
則夫に呆れる麻希だが、今は事件が先である。
結局、健太に任せてしまう。

なんとか指定された場所に辿り着いた麻希。
リクルーターは悠長に58番の鹿の写真を撮影していた。
怒りに駆られる麻希だったが、リクルーターは余裕を崩さない。
それどころか、なんやかんやと難癖をつけて来る。
最終的に身代金の受取を拒否したリクルーターは「スワンは最高の犯罪者になる」と言い残すとその場を去る。

数日後、「スワン」から「櫛田を殺害しビニールシートに包んで捨てた」との連絡が入る。
脱力感に襲われる麻希。

矢先、櫛田ではなく南条リリスと思われる遺体が発見される。
顔が判別不能になるまで殴りつけられており、首には絞められた跡が残されていた。
明らかな他殺である。

だが、口内に残された煙草のニコチンと利き手の違いから死亡したのは南条リリスではないと判断する麻希。
それを裏付けるように南条リリスと思われる遺体からは整形の痕跡が見られた。

吾川のコレクションしていたアダルトビデオから殺害されたのが南条ではなく、北条リリスという女優だと判明。
北条リリスは本名・桃子。
田舎から女優になるべく上京。
演技力があったが南条リリスに似ていた為に評価されず、東京を恨んでいた。
桃子は何度か消息不明になることがあり、数年前からプツリと行方を絶っていた。
もしや、桃子は数年前から南条リリスと入替っていたのでは……。

有栖川に確認したところ、有栖川自身も妻・リリスの入替りを認める。
個人としては今も南条リリスを愛している有栖川だが、映画監督としては類稀な演技力を誇る北条リリスが必要だったので黙認していたらしい。

さらに、南条リリスの幽霊を見たとの証言が浮上。
目撃者によれば、その顔半分がケロイド状に焼け爛れていたと言う。

これを知った麻希は加賀美のエピソードを思い出す。
本物のリリスは硫酸を浴びせられ加賀美のもとに監禁されているのではないか？

こうして加賀美が事情聴取に呼ばれたところ、意外な展開に。
加賀美がリクルーターの使用した偽の指紋を作成したことを認めたのだ。
さらに、加賀美の証言で本物の南条リリスが保護される。
加賀美の依頼で、桃子が南条リリスを演じ続けていたらしい。
やはり、死亡したリリスは桃子だったのである。

桃子殺害は、加賀美か、それともリリスの犯行か？
2人に疑いが集中するが、2人共に殺害は否定。
なんでも、桃子の死体がリリスの監禁場所付近に転がされており、加賀美は南条リリスこそが犯人ではないかと疑っていたらしい。
だが、当のリリスは顔こそ潰したが、その際には既にこと切れていたと供述する。

こうして、リリスは保護されたものの、死体遺棄により収監されることに。
有栖川は妻を待つと宣言。
これを目にした麻希は夫婦の愛を其処に確認し、則夫を想う。

さらに麻希は今回の事件の全容に気付く。
櫛田の秘書・香取を訪ねた麻希は彼こそが今回の真犯人であると断言する。

実は櫛田は誘拐事件以前に事故死していた。
櫛田には性行為の最中に自身と相手の首を絞めるとの性癖があり、その性癖が昂じて死亡してしまったのだ。
櫛田の愛人である桃子の首に絞めたような跡が残されていたのもこの為だった。

櫛田の遺体を発見した香取。
櫛田が消えれば次は自分が出馬できる……だが、地盤を継いで出馬するにはこのスキャンダルは大き過ぎた。
其処へ櫛田の愛人である桃子が現れ、彼に誘拐計画を入れ知恵した。
香取はそれに従ったが、桃子はあっさりと裏切った。
桃子の狙いは櫛田の対立候補を勝たせること。
桃子は東京を恨むあまり、関西州構想を実現させようとしていたのだ。
そこで、最大の障害となるであろう櫛田……ひいてはその地盤を継ぐ香取のスキャンダルを暴こうとしていた。
桃子の裏切りを知った香取は怒りに駆られ、桃子を殺害してしまったのだった。

では、香取と背望会リクルーターとは何処で関わったのか？
麻希は櫛田の遺体の在処に注目する。
偽指紋の為に遺体を損壊された警察官が眠っていた墓地。
其処の隅に花すら咲かない場所があった。
櫛田の遺体はビニールに包まれ遺棄された為に、何も育たなかったのだ。

香取は櫛田が憎かったワケではない。
むしろ、恩義を感じていた。
そんな香取は、時間を空けては櫛田の遺体に手を合わせていた。
ある日、リクルーターと加賀美がやって来た。
おそらく、遺体を掘り返し、腕を切断する為だったのだろう。
香取の姿を見た加賀美はその場で逃げ出したが、リクルーターは居残った。
しかも、香取の犯行を一目見て見抜いたのだ。
香取はリクルーターの底知れぬ魅力に惹かれ、彼を信頼し相談するように。
こうして、リクルーターの指示で背望会の名を使うこと、麻希を利用するアイデアが実行に移されたのである。

香取は逮捕され、櫛田の遺体も発見され、事件は解決したかに思われた。

麻希は有栖川と南条リリスを引き裂くことに心を痛め、一晩だけ夫婦水入らずの時間を作るよう働きかける。
感謝するリリスと有栖川に「良かった」と胸を撫で下ろす麻希だったが……。

ふと、リリスの手に火傷があったことを思い出す。
そういえば……リリスの両親の心中事件で父親は焼死していたような……。
一方、桃子にはリリスに成り代わる以前に消息不明の時期があった筈……。

そう、両親を殺害したのは南条リリスだったのだ。
リリスは手を大火傷した為に桃子を代役に立て、容疑を逃れていた。
両親に愛されず、金儲けの道具としか見られなかったことでリリスは両親を恨んでいたことが動機である。

リリスは自身を愛さない者を許さない。
だとすれば、夫である有栖川も危ないのでは！？

慌てて旅館に駆けつける麻希。
其処でリクルーターと遭遇する。
リクルーターを追う麻希だったが、逃げられた上に命まで助けられてしまう。
「スワンの正体は帰宅すれば分かる」と言い残し去るリクルーター。

そして、旅館内では惨劇が。
予想通り、リリスが有栖川を殺害したのだ。
凶器はリクルーターが購入していた銃である。
裏切った報いだと嘲笑うリリスの姿に、麻希は夫と自身の未来を幻視するのだった。

傷心の身を抱え自宅に戻った麻希。
夫・則夫は7年のブランクを埋められず、仕事に戻っていた。
菜月は実の父親である則夫を徹底的に嫌ったらしい。
菜月を叱る麻希はふと、その携帯の待ち受けに鹿を見つける。
その鹿には58番のタグがつけられていた。
驚く麻希は菜月を問い質す。

そして、明かされた事実。
なんと、菜月が携帯で連絡を取り合っていた相手はリクルーターだった。
すべてを察する麻希、スワンは菜月だったのだ。

呪われたスワンのモデルは、警察に告発した母親をも殺害した。
リクルーターは同様に、菜月に麻希を殺害させようとしているのだ。

仕事に逃げ、夫から逃げ、家族から逃げてしまったことがこの事態を招いたと痛感する麻希。
麻希の戦いはこれからなのである―――エンド。

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