2012年06月24日

『心を掬う』(柚月裕子著、宝島社刊『しあわせなミステリー』収録)

『心を掬う』(柚月裕子著、宝島社刊『しあわせなミステリー』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

“人の死なない”ミステリー
心がじんわり温まる4つの物語

超恐妻家の営業マン…本当の職業は殺し屋!?―――伊坂幸太郎「BEE」より

伊坂幸太郎(第5回本屋大賞受賞/第21回山本周五郎賞受賞)、中山七里(第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞)、柚月裕子(第7回『このミステリーがすごい!』大賞受賞)、吉川英梨(第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞受賞)ら大人気作家が、“人の死なない”しあわせなミステリーをお届けします。殺し屋・兜が命がけで挑むのは……“蜂”?子供探偵・原菜月(8歳)が大活躍!あの宮沢賢治小説から飛び出したニヒルなヒーロー、人気シリーズ最新作・佐方検事も登場!

目次:
伊坂幸太郎『BEE』
中山七里『二百十日の風』
柚月裕子『心を掬う』
吉川英梨『18番テーブルの幽霊』
(宝島社公式HPより)


<感想>

佐方シリーズ最新作の短編(2012年5月現在)です。
佐方シリーズには他に『最後の証人』、『検事の本懐』がある。

『検事の本懐』については否定的な感想を持った管理人ですが、本作は良かった。

まず、扱う事件の設定自体が郵便物の盗難事件とミステリにおいては割と特殊であったこと。
これにより、前作にあった類型的な作品であるとの印象が払拭された。

次に、「○○を掬った」ことがタイトル通り「心を掬う」ことに繋がったこと。
タイトルの妙です。

何より、佐方の人柄と行動がピッタリマッチしてました。
静かに熱い男・佐方の本領発揮でしょう。

オススメです!!

<ネタバレあらすじ>

佐方のもとに郵便物の消失被害について申し出が相次いでいた。
そのいずれも普通郵便に現金が同封されていたケースだったが……。

佐方はこれを重視し、事件として取り上げることを決める。
早速、被害が集中している郵便局の担当者を呼び出すことに。

実は担当者もこの消失被害について佐方同様に危機感を抱いていた。
しかも、担当者によればこの被害は局員による盗難だと言う。
容疑者の目星もついていた。

どうやら仕分け担当の局員が犯人らしい。
彼は、経験から現金入りの普通郵便を選り分けると抜き取っていた。
そのままトイレに立つと、現金だけ奪い郵便物は水洗トイレに破棄しているようだ。
最近、被害の届け出が増加したことから、仕分け担当を見張っていたところ頻繁に離席する人間がおり事態が判明したそうだ。
しかも、容疑者は遊びに使う金が給料分を大幅に上回っていた。

これだけ分かっていれば対処も出来そうだが、本人は犯行を否定しており迂闊に動けないとのことだった。

これを聞いた佐方は、局のトイレが集合浄化槽であることを確認すると、犯行直後に浄化槽を浚ってはどうかと提案する。
この提案を受け入れた局の担当者から数日後に連絡が。

容疑者はまたも犯行を行い、佐方の提案通り浄化槽を浚ったところ、被害に遭ったと思われる郵便物が発見できたと言う。
繋ぎ合わせたところ、ある老夫婦の郵便物と判明。
孫の進学祝いにと家計をやりくりしてお祝いを送ったものだった。

その夜、佐方は事務官から5千円を借り受ける。

翌朝、佐方は担当者と示し合せ現場に乗り込む。
密かに監視すること数十分。

容疑者は……やった!!

佐方は急ぎ集合浄化槽に赴くと、自ら汚れることを顧みず中に入る。
其処にはビリビリに引き裂かれた郵便物が。
掬い上げ終えると、佐方は容疑者を呼び出す。

盗んでなどいない、破り捨てたのは自分の手紙だと言い張る容疑者だが……。

その前で、引き裂かれた郵便物をパズルのように繋ぎ合わせて行く佐方。
復元されたそれには、佐方の名前が記されていた。

佐方によれば、今朝方管轄内の郵便ポストに投函したものだと言う。
佐方は容疑者に罠をかけたのだ。

流石に追い詰められたかに見えた容疑者。
ところが、それが今日の郵便物だと証明できるのかと開き直る。

これにも落ち着き払った佐方は容疑者に財布の中身を見せるよう求める。
札の中から1万円札を選び出す佐方。
その札に意味があるのか?

周囲が注目する中、佐方は一枚の写真を取り出す。
そこには、今しがた男の財布から取り出されたものと同じ札が写っていた。
そして、その隅には今日の新聞が日付と共に写り込んでいたのである。
言い逃れられぬよう事前に用意していた物だ。

動かぬ証拠を突き付けられガックリと肩を落とす容疑者。
こうして事件は解決した。

その夜、帰宅した事務官は自宅に届いた佐方からの郵便物を発見する。
中には5千円札が入っていた。
佐方は自分に宛てて1万円、事務官に宛てて5千円と2通仕掛けていたのだ。
佐方の念の入れように感服する事務官。

後日、佐方のもとに局の担当者から手紙が届く。
被害に遭った老夫婦に謝罪をすべく訪ねた局の担当者だったが、逆に現金書留を利用しなかったことで謝罪されてしまったらしい。
手紙を届けることの重要性を痛感した担当者は分かる範囲の被害者に謝罪して回るつもりだと結んでいた―――エンド。

◆関連過去記事
『臨床真理』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『最後の証人』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『検事の本懐』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『心を掬う』を収録した「しあわせなミステリー」です!!
しあわせなミステリー




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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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