2012年05月17日

『ともだち』(樋口有介著、中央公論新社刊)

『ともだち』(樋口有介著、中央公論新社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

幼少より剣術を叩き込まれた神子上さやか。彼女が通う高校の女子生徒が、相次いで襲われ、遂に殺人事件が。さやかは男子転校生と犯人探しを始める。
(中央公論新社公式HPより)


<感想>

「超再現!ミステリー」にて再現されるとのことで読みました。

青春ミステリもの……っぽく思われますが、一風毛色の変わったものとなっています。
なにしろ、主人公を筆頭に登場人物が一筋縄ではいかない人物ばかり。

まるで剣豪のような主人公・さやか。
天才画家と称される間宮。
財閥の令嬢・水涼。
被害者である左和子自体も「特別な存在」として認知されている。

普通の青春ミステリだと、「自身を特別だと思い込んでいる主人公たちが現実に直面しその思い込みを否定される展開」がセオリーですが、本作では「特別な人々が特別であるがゆえに、その孤独な立場に悩む」という「最後まで特別」な作品となっています。

そんな「特別な主人公たち」が「出会ったことで互いにそれを癒し合う」のですが、これが良かった。
あのラストは胸にきましたね。

ただ、この作品。
あらすじだけを羅列すると本質を伝えることは難しいと思う。
「超再現!」で何処まで再現できるか……要注目ですね。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
神子上さやか:主人公。古風剣術を体得している女子高生。
間宮:天才画家。転校生。
水涼:財閥令嬢。さやかの後輩。
左和子:美術部員。アイドル的存在。
無風斎:さやかの祖父。女好き。
小山内:無風斎の門人、刑事。さやかの父の元同僚。
藤原:学園の理事。
坂巻:美術部顧問。
飯島:学園の元教師。
梅原:医師。
青木:看護師。

神子上さやかは女子高生。
しかし、彼女は普通ではなかった。
幼くして刑事の父を殉職で失った彼女は、祖父・無風斎に剣術のイロハを叩き込まれたのだ。
今となっては、師である祖父でさえ一目置くほどの剣士となったさやか。

他流を試合を禁ずる祖父の言いつけを破ったことで、スポーツ剣道と衝突。
これをコテンパンにのしてしまったことから、校内で敬遠されるようになってしまう。

そんなある日、美術部に入部したさやかはそこで左和子と出会う。
左和子は容姿端麗、儚げな美人で学園のアイドルであった。
我知らず彼女に惹かれるさやか。
とはいえ、女性同士であるこの気持ちが叶う筈もない。

そんな左和子に近付く影が……転校生の間宮である。
間宮は飄々とした様子で左和子と接していた。
さやかは嫉妬心から間宮に良い感情を抱かない。

一方、さやかにも近付く影が……こちらは財閥の令嬢・水涼である。
自分に興味があると近付いてきた水涼にどう接していいいか戸惑うさやか。
水涼は「おね〜さま」とさやかを慕ってくる。

多少、環境が変わったものの、さやかにとって、ごくごく日常が続くかと思われたが……。

ある日、無風斎のもとにその門人でさやかの父の同僚であった刑事・小山内が訪ねて来る。
なんでも、さやかの通う学校の女子生徒が2人も立て続けに傷害事件の被害に遭ったらしい。
通り魔的犯行とみられ、ターゲットとなるのは被害者の風貌からコギャルと思われた。
小山内は、この事件についてさやかが情報を持っていないか聞きに来たのだ。
しかし、敬遠されているさやかが情報を持っている筈もない。
結局、小山内は手ぶらで帰ることに。

ところが数日後、この通り魔事件が殺人事件に発展する。
被害者は左和子、死因は扼殺であった……。

憤りを隠せないさやか。
其処へ間宮が訪ねて来る。
間宮と左和子は従兄妹同士だったのだ。
自然体で接していて当たり前である。

しかも、間宮はさやかの思いもよらぬ事実を告げる。
さやかが左和子を想っていたように、左和子もまたさやかを想っていたらしいのだ。
なおさら、やるせない気持ちに陥ったさやかは美術部の退部を顧問の坂巻に申し出る。
一方で、水涼と共に犯人を捕まえようと動き出す。

その頃、小山内は容疑者として学園の元教師・飯島に目をつける。
飯島は生徒に手を出したことが原因で学園をクビになっていたのだ。
しかも、妻子にも捨てられていた。
果たして、飯島が犯人なのか?

ある夜、小山内は繁華街で1人のコギャルを見かけて言葉を失う。
慌てて尾行すると、コギャルを追いかける影がもう1つ。

影は唐突にコギャルに襲い掛かる。
ところが、コギャルは軽やかに影をいなすと、逆に影を叩きのめしてしまう。

そう、このコギャルの正体こそ、変装したさやかであった。
水涼のアイデアで罠を張ったのだ。

捕まった襲撃犯の正体は学園の理事・藤原。
藤原は学園の風紀の乱れに心を痛めており、経営権を巡る野心もあってコギャルを襲っていたらしい。
しかし、藤原は2件の襲撃こそ認めたものの、左和子殺害は否定する。

さやかも空手五段の藤原の技量ならば、扼殺ではなく撲殺になる筈と推理。
間宮もまた、被害者のタイプが異なることから藤原の犯行に疑問を抱く。
さらに、さやかは間宮と共に訪れた左和子宅で、両親が左和子に似ていないことからその出生の秘密を疑う。

一方、飯島には左和子殺害時にアリバイが成立。
ところが、精神的に追い詰められた飯島は妻の実家に刃物を持って立て籠もり復縁を迫ると言う事件を引き起こす。
もっとも、小山内にとっては哀愁を感じさせこそすれ、特に関係なかったが……。

その頃、さやかは間宮と共に左和子を取り上げた医師・梅原のもとを訪れる。
余命幾許も無いという梅原は自身の罪を告白する。
左和子の両親は子供が出来ず、梅原にも子供が無かった。
そこで左和子の両親が体外受精を選択した際に、自身の精子を用いたらしい。
つまり、左和子は遺伝子上は梅原の娘なのだ。
もちろん、このことを左和子の両親は知らない。

しかし、梅原は左和子が可愛くて仕方が無かったそうだ。
梅原に疎遠の弟以外の身寄りがないこともあり、自身の遺産5億円を左和子に遺すつもりだったと語る。
ちなみに、梅原は婿養子先の姓で旧姓は……。
これを聞いたさやかと間宮は真犯人に気付く。

そこで、梅原の介護をしていた看護師・青木を問い詰めたところ、これを認める。
さらに、小山内にもこの事実を伝えるのだった……。

翌日、さやかは美術部を訪れる。
出迎えた坂巻に真相をぶつけるさやか。
左和子殺害犯は坂巻だったのだ。

梅原の疎遠の弟とは坂巻だった。
坂巻は梅原の遺産5億円をあてにしていたが、左和子に渡ると知り、阻止するために彼女を殺害したのだ。

青木は坂巻の元彼女。
もっとも、坂巻は兄を監視するために交際していただけであった。
用済みと判断すると過去に捨てていたらしい。
ところが、梅原に遺伝子上の娘が居り、遺産を渡そうとしていると知った青木は、坂巻への復讐心からそれを教えてしまった。
結果、坂巻が暴走し左和子を殺害してしまったのだ。

「何故、君がここまでする?」
坂巻の問いにさやかは答える。
「左和子さんとはともだちだったから」と。

この返答に爆笑する坂巻だったが、さやかの手並みを知る以上、手が出せない。
その場を逃げ去ってしまう。
敢えて追わないさやかだった。
その後の坂巻については知らない。

こうして事件は解決した。

やるせない想いを抱えるさやかに間宮と水涼が声をかける。
3人は共に打ち上げを兼ねてさやか宅に向かうことに。
この特異な3人が、この日、飲み過ぎた為に翌日の学校を休んだかどうかは誰も知らない―――エンド。

・2012年5月22日、「超再現!」されました。ネタバレ批評(レビュー)はこちら。

「超再現!ミステリー」第6回「“話題作…ともだち”空手チョップでド派手女子高生を襲う不思議犯人…出生に超秘密が(“ともだち”謎の犯人空手チョップでド派手女子高生を襲う…少女出生の秘密に犯人の影)」(5月22日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「ともだち (中公文庫)」です!!
ともだち (中公文庫)



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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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