2012年06月04日

『防犯心理テスト』(上甲宣之著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞10周年記念 10分間ミステリー』収録)

『防犯心理テスト』(上甲宣之著、宝島社刊『「このミステリーがすごい!」大賞10周年記念 10分間ミステリー』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『このミステリーがすごい!』大賞10周年記念特別編集!

「バチスタ」シリーズ 海堂尊から話題の『弁護士探偵物語』法坂一広まで現代人気作家大競演!

1作品10分間で読めるベスト・ショート・ミステリー集!

浅倉卓弥、海堂尊、柚月裕子、中山七里、高橋由太、七尾与史などを輩出してきたミステリー新人賞『このミステリーがすごい!』大賞。創設10周年を記念して、原稿用紙10枚の、オール書きおろしミステリーをお届けします。1編10分で楽しめてしまうベスト・ショート・ミステリー、29本! 謎解きあり、ユーモアあり、サスペンスありのお得な一冊。前述の作家をはじめ、『このミス』大賞作家が勢ぞろいです。
(宝島社公式HPより)


<感想>

『10分間ミステリー』に収録された短編です。
収録短編中では5本の指に入る作品だと思う。

ラストで明かされるあの人物の意外な正体がサプライズとなっており、良い。
正体を知ってから振り返って読むと、動機や犯行方法などに新たな感想が生まれるだろう。
その点は良く出来ている。

ただ、題材は悪くないけど、その見せ方に些か難がある感じ。
内容が分かり辛い上に、試験にした必要性が余り理解できない。
全体的にプロット段階をまとめたような荒削りの印象。

特にあの謎の図柄については犯人自身が答えを知っている以上、普通は答えない。
匿名性の確保とラストのアレにより、ひょっとしたら答えるかもしれないと思わせることは出来るが、やはり説得力に欠ける気がする。
相手が女刑事と分かっている以上、リスクは避ける筈だろう。
別方向からのアプローチの方が良かった気がする。

それと、この題材を活かすには今よりも少し長めの短編にした方が良いと思う。
さもないと、唐突の感が拭いきれない。
もう少し人物描写があれば、さらに良くなった筈だ。

改善の余地があるとはいえ、試みは面白く、なかなかの作品です。
充分に一読に耐えるでしょう。
是非、どうぞ!!

<ネタバレあらすじ>

【問題文】あなたは人気のない道を歩いています。
帰宅する為にはこの道を通らなければ帰れません。
この道には最近、通り魔が出るとの噂があります。
気をつけなければなりません。
その途中、あなたは倒れ込んだ女性を見つけました。
慌てて駆け寄るあなた。
どうやら、噂の通り魔の仕業のようです。
女性は壁の掲示板を指し示した姿勢のまま動きません。
掲示板には何桁かの数字。
と、落ちていたスマホに掲示板と同じ数字が表示されました。

さて、あなたは……

【問1】どのような行動をとりますか?

1.女性を無視して、逃げ出す。
2.周囲を警戒しつつ電話に出る。
3.警察に通報する。
4.帰宅の邪魔になっている女性に止めを刺す。

【問2】奇妙な図柄「3CC」が見えます。何か分かりますか?

ここは公民館。
実際に街を脅かす通り魔が出現したことで防犯意識が高まっていた。
そこで、地元の消防団を相手に上記のような防犯心理テストが匿名で行われたのだ。
テストを行った女性刑事は採点結果をまとめ終えると、消防団の面々に向き直った。

女性刑事はテスト結果を明かしていく。
「え〜〜〜と、流石に1の逃げ出すを選択された方は居ませんでしたね」
「とりあえず、2の方も結構いらっしゃいました。通り魔が現場に残っている可能性を考えれば正しい判断ですね」
「でも、もっと正しい判断があります。それが3です。何かあれば真っ先に通報してくださいね」

女性刑事の言葉に消防団員がワッと沸く。

「そういえば、玄道玲菜さんも3を選択されてますね。4は駄目ですよ」

玄道玲菜と呼ばれた女性は笑顔になった。
彼女はデニム生地のパンツを履いている、活動的な印象を周囲に与える装いであった。
本来、団員に女性は1人も居ない。
玲菜は元消防団長の祖父の代わりに特別に消防団に参加していた。

「ただ、倒れていた女性が実は通り魔だった……という可能性もあります。止めは論外ですが、警戒は必要ですね」

通り魔が獲物を誘き寄せる為に被害者のふりをする可能性を指摘したものだろう。
周囲から「ほぉ」と納得の声が上がった。

「では、問2。こちらは正解者は1人でした。分団長さんは何だと思われますか?」

問2は不思議な図形の問題である。
遠目で見れば「3CC」と記載されているように見えるが……。

「ひょっとして、角字紋(角紋字)ですかね?」

分団長はおそるおそる切り出す。
角字紋とは漢字を紋のように抽象化したものを指す。
これに女刑事は我が意を得たりとばかりに大きく頷いた。

「ええ、そうです。角字紋です。流石に良くご存知ですね」
「まぁ、消防団員は苗字を法被に縫い込んでいますからなぁ……」

「では、この角字紋ですが、正解したのは玄道玲菜さんお1人です。流石ですね」

匿名だった筈なのに何故か、解答者が特定されている。
本来、不思議なことだったが、褒め称えられて悪い気はしないのか、玲菜ははにかむ。

「この角字紋、実は実際の通り魔事件で用いられたものです。被害者はこれに気を取られた隙を突かれ襲われました」
「角字紋は知らない人間が見れば迷路のように見えます。被害者はついつい気を取られてしまうワケです」
「そして、この角字紋……90度角度を変えていますが、意味は玄です。そうですね、通り魔である玲菜さん」

女刑事の唐突な言葉に、玲菜の表情が凍りつく。

「そんなの読めたって不思議ではないでしょ。たまたま苗字と同じ玄だったから知ってたのよ」

玲菜の反論だが……。

「ええ、普通ならばそうでしょう。でも90度角度を変えたことで字であるかどうかすらはっきり断言できないものになっています。現に分団長さんも戸惑われました。これが玄だとすぐに分かるのは実際に使用した通り魔だけです」
「玲菜さん、あなたのお祖父さん亡くなられていますね。ご病気だったお祖父さんは路上で倒れそのまま亡くなった。当時、お祖父さんの周囲にはかなりの人が居たにも関わらず誰も助けてくれなかったと聞いています。しかも、苦しむお祖父さんを面白がって撮影する輩も居たそうですね」
「そんな人たちに復讐したかったんですね。そこで、あなたは被害者を装い路上に倒れ込んだ。助けようとした人物は見逃し、見捨てた人間だけを角字紋を用い気を逸らさせ襲撃した。さらに、この動機を誰かに知って貰いたかったので玄の角字紋を用いた……そうですね」

この言葉に玲菜は肩をがっくりと落とした。
罪を認めたのだ。
それにしても……。

「初めから、私を疑っていたのね。でも、匿名の筈なのに何故私の解答が分かったの?」
どうしても納得できないと玲菜は問う。

「テストの際に筆記用具を選んで貰いましたね。ボールペンでした。あの中に1本だけ可愛い柄のついたサインペンを混ぜておいたんです。あなたが手に取るだろうと分かってました」

すべては女刑事の計算通りだったのだ。
最後に女刑事は玲菜に向けて締め括る。

「迷路に、犯行方法、すべてが特徴的でした。でも、あなたの立場なら自然な発想ですよね。復讐方法もアレしかなかった。小学4年生である玲菜さんならば……」―――エンド。

「超再現!ミステリー」第7回「2時間スペシャル!!“謎解き4択クイズで視聴者に総額100万円大当たりスペシャル”Q1…通り魔殺人の謎美人刑事の心理テスト殺人のトリック暴く▽Q2…黒マントの殺人恋敵の女たちIQ手口名探偵が矛盾に気付く(2時間SP!!上甲宣之著・10分間ミステリー“防犯心理テスト”の謎解きを!笠井潔著・本格ミステリー小説“魔”)」(6月5日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「『このミステリーがすごい!』大賞10周年記念 10分間ミステリー (宝島社文庫)」です!!
『このミステリーがすごい!』大賞10周年記念 10分間ミステリー (宝島社文庫)



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