ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
黒猫と付き人がバレエ「ジゼル」を鑑賞中、突然ダンサーが倒れた。五年前のバレリーナ死亡事件と繋がるようだが、黒猫は関わるなという。事件と黒猫の関係が気になる付き人は、一人調べ始めるが……
黒猫と付き人がバレエ『ジゼル』を鑑賞中、ダンサーが倒れるハプニングが発生した。
五年前にも同じ舞台、同じ演目で、バレリーナが死亡する事件が起きていた。
ガラスアーティストの塔馬から聞いた黒猫の過去と、二つに事件の関連を気にする付き人。
しかし何やら隠し事をしているらしい黒猫は、関わらないよう忠告するだけだった
仕方なく付き人は一人で事件に挑むが……
ジゼル、ガラスアート、ポオを絡め、二度の事件を結ぶ図式が見えたとき、黒猫の最終講義が始まる――。
〈運命の女〉に導かれた、黒猫の最終講義、ここに開幕!
第1回アガサ・クリスティー賞受賞作、待望の続篇刊行!
(早川書房公式HPより)
<感想>
第一回アガサ・クリスティー賞受賞作『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の続編にして初の長編です。
・『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(森晶麿著、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)
・第1回「アガサ・クリスティー賞」授賞作決定!!栄冠は『黒猫の遊歩あるいは美学講義』の頭上に!!
前作同様、幻想小説のような展開が特徴。
結論としては世界観に酔う小説だと思います。
前作では世界観を楽しむ為のハードルがかなり高かったものの、本作ではある程度緩和された印象。
素養があればより楽しめるが、無くとも理解に支障はないレベルになっている。
結果、より多くの読者を獲得し易くなっていると言える。
ただし、それに伴い幻想の含有量は低くなっており、内容はよりミステリとして純度を増している。
特に黒猫らしい展開(犯人の目的を知りながら○○する)には驚きを禁じ得ない筈。
しかも、本作の凄いところは事件が始まっていないにも拘らず、既に事件は動いており、同時に終わっていること。
これには脱帽。
前例がないワケでは無いが、この世界観だからこその独特な動機にも注目。
ネタバレあらすじについては、本作の魅力を伝えきれていません。
あらすじで興味を持たれた方は是非本書を読んでみては如何でしょうか?
<ネタバレあらすじ>
黒猫と付き人がバレエ『ジゼル』を鑑賞中、ダンサーが倒れるハプニングが発生した。
五年前にも同じ舞台、同じ演目で、バレリーナの愛美が死亡する事件が起きていた。
当時の愛美の交際相手であり、塔馬の友人であるガラスアーティストの塔馬から黒猫の過去を聞く付き人。
塔馬によれば、愛美は黒猫の過去の恋人らしい。
そして、塔馬が現在交際しているバレリーナの幾美は愛美の妹。
しかも、幾美もまた黒猫の過去の恋人らしい。
黒猫の過去を気にかけた付き人は塔馬に近付いて行く。
一方、何やら隠し事をしているらしい黒猫は、塔馬に関わらないよう忠告するが……。
ある日、塔馬に呼び出された付き人は、彼にキスされてしまう。
しかも、その現場を幾美に目撃されてしまうのだった。
遂に黒猫が事件に関わり始めたとき、それは既に終わっていた。
黒猫によれば、すべてを仕組んだのは塔馬であった。
塔馬は芸術作品を作ろうとしていたのだ。
それは自身の命を懸けた大作である。
塔馬の目的は、生ける『ジゼル』を作ることだった。
過去、塔馬は最高の『ジゼル』を目指し、愛美と交際した。
しかし、愛美の死により『ジゼル』は頓挫してしまった。
これにより、塔馬は中途半端な袋小路に放り出されてしまった。
だが、塔馬にはまだ望みがあった。
愛美の妹の幾美である。
『ジゼル』を真の『ジゼル』足らしめる為に、幾美に恋人を殺させる必要があった。
そこで、自身が幾美の恋人となった。
さらに黒猫と付き人を利用し、幾美の嫉妬心を煽った。
キスをしたのもその一環である。
その上で、幾美に自身を殺害させようとしていたのだ。
黒猫はすべてを知りつつ塔馬の狙いを果たさせようとしていたのだ。
それこそが塔馬の望みだと理解していたから。
幾美による『ジゼル』の当日。
塔馬は自身の作成したオブジェにより落命した。
犯人は……幾美である。
幾美はまさに塔馬の望んだ『ジゼル』を演じ切り逮捕された。
後に黒猫が語ったところによれば、愛美も幾美も黒猫の恋人ではなかったそうだ。
確かに誤解させるような態度を取った覚えはあるが、交際まではしていないと言う。
もちろん、塔馬もそれは知っており、付き人を自身の計画に巻き込む為に吐いた嘘だったらしい。
黒猫は海外に渡ることになった。
国内に1人残された付き人は、黒猫との関係をこれを機に明確にしておきたいと望むが……。
黒猫はのらりくらりと逃れてしまう。
黒猫との関係は曖昧なまま……。
そんなある日、塔馬から荷物が届く。
生前に届けるよう手配したようだ。
黒猫から大切な人の為にオブジェクトのミニチュアを作って届けるよう頼まれたとのことだった。
自身の死を計画していた塔馬はその約束を守っていた。
塔馬はその手紙にて語る。
「黒猫は厄介な奴だ。別れるのならば今しかない」と。
しかし、このプレゼントにより、黒猫にとって自分が特別な存在であると知った付き人は彼と共に生きることを決意するのだった―――エンド。
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