2012年06月22日

『三幕の殺意』(中町信著、東京創元社刊)

『三幕の殺意』(中町信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

昭和四十年十二月初旬。名峰、燧ヶ岳が目の前にそびえる尾瀬沼の湖畔に建つ、朝日小屋。その冬はじめての雪が降り積もる夜、離れに住む日田原聖太が頭を殴打され、殺された。山小屋には被害者に殺意を抱く複数の男女が宿泊していた。容疑者の一人でもある、刑事の津村武彦を中心に、お互いのアリバイを検証してゆくが……。叙述トリックの名手として独自の世界を築いた著者の遺作。著者あとがき=中町信/解説=戸川安宣
(東京創元社公式HPより)


<感想>

同作者による『模倣の殺意』と『天啓の殺意』の内容にも一部触れています。
極力、避けてはいますが未読の方は注意されたし!!


『模倣の殺意』『天啓の殺意』『空白の殺意』―――これら『殺意三部作』に続く4つ目の『殺意』、それこそが本作『三幕の殺意』。

……と述べておきながらも、本作『三幕の殺意』は基本『殺意三部作』とは別物にカテゴライズされると思います。
三部作とはタイプが違うんです。
三部作は作品自体に仕掛けられたトリックを楽しむタイプのものでしたが、本作はトリックよりもあの皮肉な結末を楽しむ為のものとなっているからです。
なので、『殺意三部作』より『三幕の殺意』の方が作品スケールは小さいと言えるでしょう。
ちなみに、『三幕の殺意』はあの皮肉なラストから倒叙物にした方が映えた様な気がします。

ただし、『模倣』と『天啓』は既読、『空白』は未読な管理人としては、『模倣』と『天啓』を読んでいると『三幕の殺意』はより楽しめるかなと思います。
おそらく前2作がミスリードの役割を果たしてくれると思うので。
管理人も前2作のアレがあったので、かなり警戒しつつ読みました。
それと、真犯人について扱われている内容が意外と類似性アリなのもポイント。

ただ、先程も述べましたが『殺意三部作』に比較すると小粒な印象です。
中町先生ファンは必読ですが、それ以外の方は特に必読とまでの作品とは言えないかも。

<ネタバレあらすじ>

朝日小屋に集った面々。
そんな中、日田原が殺害された。
日田原は集まった面々全員を何らかの形で脅迫しており、全員に動機が存在した。

果たして、犯人は誰か?
メンバーの1人で、自らも容疑者である刑事の津村が捜査に乗り出すことに。

日田原の日記が数ページ破り去られていることがポイントかと思われたが……。
結局、犯人は分からず仕舞いに。

そんな中、津村はミステリ小説の新人賞を受賞した神崎に自身の抱える秘密を語る。
津村の娘は実子ではなかった。
過去に日田原に預けられた子供だったのである。
だが、本人はその事実を知らず、日田原はそれをネタに津村を脅迫していた。
その記述があった為に、日記のページを破ったのも津村らしい。
突拍子の無い津村の告白に戸惑う神崎だったが……。

数日後、津村は一通の封筒を神崎に送っていた。
其処には、自身の秘密を語ったのは神崎と同じ立場であることを理解して貰う為だったと書かれていた。
真犯人は神崎だったのである。
津村は同じ立場にあった神崎を見逃すつもりだったのだ。

津村の手紙にはこうある。
神崎の動機は日田原から作品を盗作した為の口封じではないか?
そして、その作品こそが受賞作なのだろう、と。

一方、そんな事とは露知らず神崎は受賞後の未来への展望に胸を膨らませていた。
ところが、ある一冊の雑誌が彼の希望を粉々に打ち砕く。

神崎が日田原を殺害した際、奴はこう言っていた。
「お前を罠に嵌める為にあの原稿を見せたのだ」と。
そして、「あの原稿を奪ってもどうしようもない」、「事情を聞いてくれ」とも。

その理由が其処にはあった。

その雑誌には神崎が受賞した作品がそのまま掲載されていた。
そして、日田原の名も。
だが、問題は日田原が翻訳者として記されていたことにあった。
日田原は海外の作品で自身が翻訳を手がけたものを自身のオリジナルのように神崎に思い込ませたのだ。
すべては彼を破滅に追いやる為であった―――エンド。

「三幕の殺意 (創元推理文庫)」です!!
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