2012年07月10日

『マリア 女性秘匿捜査官・原麻希』(吉川英梨著、宝島社刊)

『マリア 女性秘匿捜査官・原麻希』(吉川英梨著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

人気警察小説 第3弾
史上最凶の犯罪脚本家VS子持ち刑事ハラマキ――ついにクライマックス!!

アパートの一室で発見された不審な自殺死体。
現場に残されていたゲソ痕がとある女子高とつながるが……。

『アゲハ』ドラマ化で話題!

ハラマキ、年下男に惑わされる!?自宅謹慎中の原麻希が、ひょんなことから知り合った熱血警官・原田。10も年下の彼に頼み込まれ、とある女性の不審死を調べるうちに、想像もつかなかった新事実が発覚。次々と起こる事件の鍵を握るのはなんと、女子高生チアリーダーたち!瀬戸朝香主演でドラマ化も決定した人気シリーズ第3弾。ついに宿敵リクルーターの素性が明らかに!?

目次

チャプター1 離婚式
チャプター2 ソフト闇金被害女性不審死事件
チャプター3 チアリーディング部男性コーチ撲殺事件
チャプター4 黒いマリア
チャプター5 私立名門女子高校生強姦事件
チャプター6 足立区主婦保険金詐欺事件
チャプター7 警視庁女性警察官人質立てこもり事件
チャプター8 辞令
(宝島社公式HPより)


<感想>

『女性秘匿捜査官・原麻希』シリーズ長編3作目(短編を含めれば4作目)にして最新作(2012年7月現在)。

シリーズには他に『アゲハ 女性秘匿捜査官・原麻希』、『スワン 女性秘匿捜査官・原麻希』と短編『18番テーブルの幽霊』(宝島社刊『しあわせなミステリー』収録)が存在する。

う〜〜〜ん、今回はあくまで新展開への繋ぎだった印象。
展開手法こそ前作までと同様だが、内容自体はそれに比して薄く、物語も事件とキャラの追加のみで強引に押し切った感がある。
事件の内容と麻希とに関連性が薄かった(ある親娘との対比も含め)ことも拍車をかけた。
いつにも増して心情描写中心の小説より、起こった出来事が中心の粗削りなシナリオに近いので、映像化するには映えそう。

そんな中、本作の主な目的は、次回以降に活躍するであろう新キャラの紹介と言えるだろうか。
だが、その紹介と、本作ラストにて原麻希に新たな環境が用意されたことに関しても、次作を読めば十分に理解可能であろうと思われる。
正直、本作については首を捻る出来で、シリーズファン以外は特に読まなくても良いかもしれない。
その分、次作に期待。

ただ、杞憂かもしれないが、ラストで麻希の環境が変わったことが気になる。
この環境の変化により登場キャラが急増すると思われる。
今回のラストによれば、少なくとも8人は増える筈。
おそらく、この中にリクルーター側のスパイが紛れ込んでいることなどが予測されるが、設定のみに留まるか、使い捨てのキャラとなる可能性が高い。
しかも、これにより達也の影が余計に薄くなりそうな予感。
既存キャラの活躍の場が尚更、奪われそうだが……。
此処をどう処理するかで今後のシリーズの完成度が問われそうな気がする。
内容的には、ラストで明かされたリクルーターの実名が本当に本名なのかも気になる。
これも含めて次作に注目したい。

今回もネタバレあらすじについては、理解し易いようにかなり改変したものとなっているので注意!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
<レギュラー>
原麻希:主人公。フルネームで「ハラマキ」と呼ばれることを嫌う。
健太:麻希の義理の息子。パン屋の娘に夢中。
菜月:麻希と則夫の実娘。リクルーターに次代の希望と目されている。
則夫:麻希の夫、実は凄腕。
達也:麻希の元彼氏。リクルーターを追う。
リクルーター:麻希の宿敵。黒子と眼の色素沈着が特徴。

<本作からの登場人物>
愛香:警察官で麻希の友人。
織江:警察官で麻希の友人。
原田:麻希とコンビを組む。
伊達警視正:謎の上司。
ほのか:名門女子高チアリーディング部のリーダー。
さつき:ほのかの母。
碧:ほのかの所属するチアリーディング部の仲間。
凛:ほのかの所属するチアリーディング部の仲間。
森田:ほのか、碧、凛の所属するチアリーディング部顧問。
山田:背望会の幹部。
日浦和也:???

『スワン』事件にて、温情からとはいえ、ある人物の犯行に結果として手を貸してしまった麻希は停職3ヶ月の処分を受けていた。
今のところはこの程度だが、このままでは済まない筈……麻希は免職処分も覚悟していた。

矢先、警察官で古くからの友人である織江の離婚式に参加した麻希。
そこで同じく古くからの友人である愛香と出会う。
愛香も麻希同様に家庭を持ち、悩みを抱えていた……。

そう、麻希は悩んでいた。
主に娘・菜月のことである。
菜月が密かにリクルーターと連絡を取り合っていたことが『スワン』事件で判明したのだ。
リクルーターは「菜月こそが次代のメシアになる」と見ていた。
この事実を知った夫・則夫は菜月を保護するよう上層部に依頼。
以後、菜月には四六時中の警備がつくことになったのだが……。
菜月と麻希たちは以前からしっくり行っていなかった。
だが、このことがきっかけで菜月は更に両親と距離を置き、リクルーターを慕ってしまう。

「なんとか菜月と和解したい」と奔走する麻希だが、逆に「うざったい」と疎まれてしまう。
やることなすこと逆効果となることにジレンマを感じる麻希。

と、そんな麻希に新たな事件の報が。
あるアパートの一室で部屋の住人が不審死していたのである。
遺体は腐食し身許が判別できないほどであった。
麻希はこれを殺人事件とみて捜査を開始する。

現場付近から採取された「ゲソ痕(下足の痕跡)」が「名門女子高のチアリーディング部のもの」と繋がり聞き込みに赴く麻希。
ところが、其処でチアリーディング部顧問の森田の死体が発見されてしまう。

森田の周囲を調べたところ、チアリーディング部のリーダー・ほのかや部員の凛から「碧という部員が彼に暴行され妊娠し中絶した」との噂を聞くことに。
ところが、これが嘘だと判明する。

碧は森田と交際していた。
だが、妊娠し中絶費用が必要となった為にほのかたちに嘘を吐き費用をカンパして貰っていたのである。
碧によれば「森田と交際していたのは顧問と付き合うことがステータスだったから」とのことだが……。

これを聞いた麻希は森田殺害は碧の犯行ではないと断定する。
直後にリクルーターと思われる男が校内を出入りしていた事実を掴む。

宿敵とも言えるリクルーターの登場に驚きを隠せない麻希。
しかも、リクルーターを追う達也も捜査に絡んで来ることに。

ほのかの母親・さつきが駆け落ちし消息不明になっているとの情報も飛び込んで来た。
ほのかの担任によれば、さつきは娘の希望進路を否定し、自身の望む進路を押し付ける教育虐待を行っていた。
もしかしたら、顧問である森田と衝突しこれを殺害した為に、駆け落ちを偽装し逃亡しているのでは……。
さらに、さつきの夫も7年前に行方不明になっており、先日に死亡宣告が為されていたことも分かる。

さつき周辺にキナ臭い匂いが立ち込める中、さつきと「背望会」に関わりがあったことが判明。
「背望会」が経営する人材派遣会社にさつきが登録されていたのだ。

逮捕された「背望会」幹部・山田により、さつきに関連して保険金殺人が行われていた事実も明らかに。
さつきはほのかの教育方針を巡り、夫と対立。
ほのかの進路全てを管理すべきとし教育虐待を続けたさつきに、苛立ちを募らせた夫が暴力を奮っていたのが真相らしい。
夫に虐待されていたさつきは、リクルーターを通じて保険金殺人のプランニングを依頼していた。
どうやら、さつきは夫を殺害した後、遺体の処理をリクルーターに委ね失踪を偽装、7年後の死亡宣告で保険金を受け取っていた。

しかも、リクルーターの特徴とされていた黒子と眼の色素沈着が変装に過ぎないことも分かる。
リクルーターに虚仮にされていたと知った達也は激怒。
追及の手を強めるが……。

台風が近づいたある日、車両を運転する麻希の前に当のリクルーターが現れる。
達也に連絡し追跡する麻希だが、混雑を利用しリクルーターは逃げ切ってしまう。
それどころか、リクルーターを追跡していた達也が事故に遭い、重傷を負ってしまうのだった……。

さつきの失踪にもリクルーターが関与しているのではないかと考えた麻希。
ほのかも関わっているに違いないと考え、これを追及するが捕まってしまう。
そこへ麻希を心配した愛香もやって来て同じく捕まることに。
此処に事態が大騒ぎに発展、ほのかは麻希と愛香を人質に立て籠もりを始める。

ほのかによれば、森田を殺害したのは彼女らしい。
教育虐待を受け続けるほのかにとって落ち着ける場所はチアリーディング部しかなかった。
チアの仲間は家族と同じだったと言う。
そこで碧を傷付けた森田を殺害したのだ。
遺体の処理はリクルーターに委ねたのだが、今回に限りリクルーターは何故か手抜きしたと憤慨するほのか。

「今回に限り」……そう、ほのかは以前にも遺体の処理をリクルーターに依頼していた。
さつきもほのかが殺していたのだ。
先日、夫の死亡宣告を受けたさつきは報酬をリクルーターに支払った。
その現場を目撃したほのかは自身を拘束した上に父親を殺害したさつきが許せなくなったらしい。
詰め寄ったところ、「君の為にお母さんはお父さんを殺したのだ」とリクルーターに告げられ、逆上。
その場でさつきを殺害していた。

「いつもいつも、私のため、私のため。息が詰まる!!」
まるで菜月のようなほのかの言葉に衝撃を受ける麻希。
リクルーターはそんなほのかの怒りを読み取り、彼女が暴発するように仕組んだのだろう。

さつきの死体は冒頭のアパート住人として処理されていた。
その手際を確認するべくほのかが赴いた為に「ゲソ痕」が残されていたのである。
さつきの処理に感心したほのかは森田についても処理を依頼していたが、どうやらリクルーターに裏切られたようだ。

やぶれかぶれになったほのかは麻希と愛香を道連れに火を点け自殺を図ろうとする。
そんなほのかに、麻希は愛香のお腹に子供がいることを伝え「彼女だけでも逃がして欲しい」と頼む。
愛香が抱えていた悩みはこの子供であった。

麻希に懇願されたほのかは愛香を逃がすことを許可する。
だが、愛香は麻希を助けようと乱闘に。
結果、ほのかが巻いたガソリンに引火してしまう。
必死の救助劇もあって、麻希、愛香、ほのか3人は命を取り留めた。
もちろん、愛香のお腹の子供も無事である。

ほのかはこうして逮捕された。
後に分かることだが、ほのかは碧や凛から嫌われていた。
ほのかの想いは、彼女たちにとって「重く、鬱陶しかった」のだそうだ。
奇しくもほのかがさつきに抱いた気持ちと同じであった。
遣る瀬無い麻希。

だが、此処で衝撃の事態に!!

ほのかは意志に反したリクルーターと以前に揉み合いとなっており、その際に彼に傷を負わせていた。
ほのか経由でリクルーターの皮膚片が採取されたのだ。
これでリクルーターの身許が分かるかもしれない……意気上がる麻希。

数日後、麻希は警視正の伊達に呼び出される。
リクルーターの身許判明を前に、いよいよ免職処分となるのか……落胆する麻希だったが、伊達は意外な言葉をかける。
麻希に捜査一課への異動を命じたのだ。
どうやら、対リクルーターの特別対策課らしい。
責任者として指名された麻希は8人の部下を用いリクルーターを追う立場となる。
そして、伊達から明かされたリクルーターの実名……その名は日浦和也。
彼こそが麻希が捕まえるべき相手であった―――エンド。

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