2012年06月21日

『長井優介へ』(湊かなえ著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)

『長井優介へ』(湊かなえ著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

耳が悪い優介は、他人の声に反応するのにいつも三秒遅れてしまう
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

主人公・長井優介による一人称作品です。
「人生に絶望し、過去に担任教諭から手渡された毒薬を用いるべく、毒薬を隠していたタイムカプセルの開封現場に現れた主人公。だが、そこで意外な真相が明らかになり……」といったストーリー。
とりあえず、こう書けば何がどうなるのか結末まで想像出来る方も多いかと思います。
たぶん、その通りです。

そんな人間愛に溢れた作品です。
湊かなえ先生と言えば「毒の強い作品」とのイメージが強い作家さんですが、最近は人間愛を描く作風にシフトされていますね。
正直、あまり奏功している作品は多くない印象ですが、本作はそんな中でもなかなか成功している作品のように思えます。
やはり、湊かなえ先生は短編を得意とされるのかな……と再確認。流石の実力です。

ネタバレあらすじでは、かなり改変しています。
大筋こそ押さえていますが、別物に近いかも。
確認するためにも本作をチェック!!

<ネタバレあらすじ>

僕―――長井優介は昔から世の中を辛く感じていた。
それでも今まで生きて来られたのはある人の存在があったからである。
それは小学校の担任の先生。

僕は耳が悪い。人に何かを尋ねられた時でも必ず数瞬の間が空くのだ。
コレが原因で、当時、いじめっ子からイジメを受け自殺を考えていた僕に先生は「死ぬための毒薬」を渡してくれた。
「もしも、辛くなったらこれを飲みなさい。でも、それまでは必死に生きなさい」
それが先生の言葉だった。
いつでも死ねると思った僕は必死に頑張った。

だが、今、その毒薬が必要になった。
結局、人生はままならなかった。
何処へ行っても人間関係は上手く行かなかった。
当時のいじめっ子と同じような人間が現れ、僕を虐げるのだ。
このまま生きていても何になるのだろう。
僕は死を決意し、一度は手放した毒薬を欲した。

そう、一度は手放したのだ。
耐えることを覚えた僕は多少楽になり、毒薬の管理に頭を悩ませることに飽いた。
そこで、卒業記念のタイムカプセルに隠すことにした。
そのタイムカプセルが、今になって掘り出されるのだ。
これで漸く終わらせることが出来る……。

タイムカプセルの中にある毒薬を楽しみに、当時の同級生と再会した僕。
世話焼きの女子・島本や、当時の親友だった浩太と出会う。

浩太には苦い思い出があった。
あいつは親友だったにも関わらず、いじめっ子に味方して運動会の日に僕を教室に閉じ込めたのだ。
それからすぐに僕は家庭の事情で引っ越したので、実にうん十年ぶりの再会となる。
しかし、僕を裏切った相手に何の感慨も湧かなかった。

そんな僕の微妙な空気に気付いたのだろう。
当時、そのままに世話焼きな島本が間を取り持とうと会話を巡らせる。
そのうち、話題は運動会に。

僕にとっては浩太に閉じ込められた嫌な想い出しかない。
だが、意外なことに浩太が閉じ込めたのではないことが分かる。
誤って閉じ込めたのは島本だった。
先生に教室の施錠を頼まれ、中を確認せずに閉めてしまったことが原因だそうだ。

「だったら、何故、そう言ってくれなかったのか?」僕の問いに。
「説明したんだけど……」と島本。
どうやら、耳が悪かった僕はよく聞こえていなかったようだ。

だが、誤解された事に気付いていた筈の浩太まで沈黙を貫いたのは何故か?
実は、浩太は誤解を解くべく「長井優介へ」と宛てた手紙を書いていた。
だが、転校してしまった僕の手元には届いていなかったのだ。
しかし今更、事情が分かったところで僕にとっては関係ない。
欲しいのはタイムカプセルの中身……毒薬なのだ。

ところが、その中身は捨てられていた。
毒薬をそのまま管理することは危険だと考えた僕は、お菓子の缶に隠していた。
そのお菓子の缶をタイムカプセルに収めようとしたのだが、食べ物と誤解されて処分されてしまったらしい。
そんな……と脱力する僕。
だが、島本は意外な言葉を告げる。

中身を食べてしまったと言うのだ。
例のいじめっ子が勝手に食べてしまったらしい。
ところが、何事も起らなかったのだ。

つまり、先生が毒薬として渡したそれは……毒薬でもなんでも無かったのだ。
僕を奮起させる為の先生なりの嘘だった。
代わりにタイムカプセルに収められていたのは浩太の僕への手紙。

先生の優しい嘘、浩太からの手紙を読んだ僕は、改めて生き直そうと決意する。
すべては自分の気の持ちようなのだ―――エンド。

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【ドラマ】
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【その他情報】
“本の雑誌”こと「ダ・ヴィンチ」にて湊かなえ先生特集が掲載、しかも古屋兎丸先生によるコミック版「贖罪」も!!

2010年公開ミステリ系映画(「告白」、「悪人」、「インシテミル」)、DVD化続々

湊かなえ先生『贖罪』がドラマ化!!

湊かなえ先生原作『二十年後の宿題』(『往復書簡』収録)が映画化!!そこには意外なエピソードが……

「別冊 文藝春秋 2012年 07月号 [雑誌]」です!!
別冊 文藝春秋 2012年 07月号 [雑誌]




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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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