2013年08月17日

『一の悲劇』(法月綸太郎著、祥伝社刊)

『一の悲劇』(法月綸太郎著、祥伝社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

「あなたが茂(しげる)を殺したのよ」と山倉史朗(やまくらしろう)は、泣き叫ぶ冨沢路子(とみさわみちこ)の前で絶句した―。路子の一人息子茂が誘拐されたのだが、犯人は山倉の息子隆史(たかし)と、同級生の茂を間違えたらしい。非常線の中、身代金六千万を運んだ山倉が犯人との接触に失敗、茂は死体となって発見されたのだ。誰が、なぜこんな残酷なことを? やがて浮かんだ容疑者三浦には犯行当日、名探偵にして作家の法月綸太郎(のりづきりんたろう)と一緒にいた、というアリバイがあった……。本格ミステリー界期待の新鋭が贈る驚愕のドンデン返し!
(祥伝社公式HPより)


<感想>

法月綸太郎先生による「法月綸太郎シリーズ」の1作です。
シリーズには他に『雪密室』、『誰彼』、『頼子のために』、『ふたたび赤い悪夢』、『キングを探せ』などがあり、本作はシリーズ的には刊行順で4作目にあたります。

再読する機会があったので読んでみましたが、やはり面白い。
全体のバランスが非常に上手く出来ています。
本格のロジックの堅さと、展開の柔軟さを併せ持つ稀有な作品と言えるでしょう。
特に二転三転する犯人には振り回されること必至。
やっぱり、いいわ〜〜〜。
是非、読んで頂きたい作品の1つでしょう。

法月綸太郎先生と言えば『都市伝説パズル』が管理人の中で短編ベスト3に入る作家さん。
これに興味を持たれたら『法月綸太郎の功績』収録の『都市伝説パズル』も是非!!
あれも凄い!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
山倉史朗:主人公。
山倉和美:史朗の妻。
山倉隆史:史朗の息子。
冨沢耕一:茂の父。
冨沢路子:茂の母。
冨沢茂:隆史の同級生。誘拐被害者。
三浦靖史:和美の義弟。
三浦次美:和美の実妹、故人。
門脇了壱:史朗の舅、新都アドの専務。
法月警視:綸太郎の父。
久能警部:法月警視の部下。
法月綸太郎:名探偵にして作家。

広告代理店「新都アド」に勤務する山倉史朗のもとに思わぬ報が飛び込む。
息子・隆史の代わりにその同級生・冨沢茂が誘拐されたと言うのだ。
どうやら、犯人は隆史を迎えに来た茂を隆史と誤認したらしい。
当の隆史は風邪で学校を休んでいた。

茂を助けるべく身代金を用意した史朗は犯人の指示に従い取引現場へ赴く。
ところが、階段で躓き時間がかかったことで取引に失敗してしまう。
結果、茂が殺害されてしまった……。

史朗の妻である和美の妹・次美の夫・三浦が容疑者として浮上する。
三浦と山倉家は隆史を巡り確執があった。

実は、隆史は三浦と次美の間の子供。
過去、史朗と和美の間には子供が出来たが流産していた。
この流産がきっかけで和美は子供を産めない身体となってしまった。
和美はこの為に精神の均衡を崩してしまう。

ちょうど同じ頃、三浦と次美の間にも子供が出来た。
こちらは出産にまで漕ぎ着けたが、子供を産んだものの次美が死亡してしまう。

そこで、隆史とその義父・門脇了壱が計らって、三浦から隆史を譲り受けたのだ。
隆史を得た和美は精神のバランスを取り戻した。
結果として丸く収まったかに見えたが、次美を失った三浦の悲嘆は深く身を持ち崩してしまう。
さらに、そんな状態で三浦は隆史を返せと要求。
再度、了壱と計った隆史により三浦は関西圏へと追い出されていたのだが……。

ところが、容疑者とされていた三浦にはアリバイがあった。
誘拐事件発生当時、法月綸太郎と共に居たのである。
作為的なものを感じる史朗だが……。

一方、事件を伝え聞いた法月綸太郎は自身が利用された可能性に思い至る。
三浦の単独犯行ではなく、他に仲間が居たと考えたのだ。

これを聞いた史朗は家族を守るべく、和美を連れ三浦を追求しに赴く。
和美に三浦の気を惹くよう指示する史朗。
その隙に三浦宅に乗り込むが……。
ところが、史朗は三浦に襲われ意識を失ってしまう。
次に史朗が意識を取り戻したとき、三浦は何者かに殺害されていた。
しかも、部屋は閂がかけられた密室状態だったのだ。

三浦はあくまで共犯であり何者かに利用された挙句、殺害されたと推理する法月綸太郎。

矢先、茂の母・冨沢路子が隆史を連れ立て籠もってしまう。
そこで明かされる衝撃の事実。
実は茂は史朗と路子の間の子供であった。
和美が流産し子供が産めなくなった頃、史朗は路子と浮気してしまったのだ。
茂はその際の子供であった。

路子はその後に冨沢耕一と結婚したが、史朗を忘れられず、史朗の傍に引っ越し彼へ復縁を迫っていたのである。
史朗はこの路子の申し出を拒否していた。
路子は茂を殺害したのは家庭を守るのに邪魔になった史朗に違いないと断定。
茂の仇討ちに隆史を殺すと意気込む。
これを知った和美は倒れてしまう。

路子は錯乱状態に陥っており、史朗の言葉も耳に届かない。
と、駆け付けた法月綸太郎は耕一こそが茂殺害の犯人だと主張し耕一もこれを認める。
気の抜けた路子は隆史を解放。
だが、史朗は彼女に刺されてしまう。

病室で意識を取り戻した史朗に綸太郎は耕一は犯人ではないと教える。
耕一と打ち合わせした上で、あの場を誤魔化す為の嘘だったらしい。
つまり、依然として事件は解決していないのだ。

史朗はこれまでを振り返る。
自分は犯人ではない、これは間違いない。
そして、耕一も違うようだ。
路子も殺害する動機が無い。
だとすれば、一体誰が……。

帰宅する史朗を出迎える和美。
和美は史朗を許したと告げる。
そんな和美を愛おしく思う史朗。

ところが、史朗は法月警視と久能警部により連行されてしまう。
もちろん、茂と三浦の殺害容疑である。
と、ここで思考を整理した史朗は犯人と思しき存在に行き当たる。
証拠不十分で釈放された史朗は真っ先にその人物のもとへ。

訪れたのは、義父である門脇了壱宅である。
よくよく考えれば、三浦が従う相手などそうはいない。
そして、三浦は密室を作った。
あれは文字通り「閂」を示していたのだ。
「閂」は「門に一」で出来ている。
「門」に「一(壱)」、つまり、「門脇了壱」を指していた。
動機は、茂が史朗の息子だと知り、和美を守る為だったのだろう。
ここまで思考を進めた史朗は自身の推理を門脇了壱にぶつけ、決別を申し出る。
妻・和美とやり直す為には彼の存在は邪魔だったのだ。
それに対し、「和美には私が必要なのだ」と繰り返す了壱。
その姿に言いようのない不快を覚えた史朗は彼を捨て置き、愛する和美の待つ家へと戻る。

しかし、そこには和美ではなく法月綸太郎が待っていた。
綸太郎は悲痛な顔で真実を告げる。
和美が自殺した―――と。

和美は史朗が連行されたことに絶望し、自殺を選んでしまったのだ。
実は和美の精神は未だ均衡を崩していた。

綸太郎は続ける。
すべての犯人は和美だった―――と。

そもそも誘拐事件の発端は、風邪で休んだ隆史の代わりに茂が誘拐されたとのもの。
この前提を満たすには母親ほど適している者はいない。
いや、息子に学校を休ませることなど母親以外には出来ない。

そして、亡き次美を想っていた三浦を動かせるのも、姉妹として次美と容姿の似通った和美しかいない。
三浦のダイイング・メッセージである「閂」も、和美を指していた。
三浦は妻が次美だったことから、姉を「一美(和美)」だと思い込んでいた。
しかも、三浦にとって義姉は妻同様に旧姓の「門脇」で親しんでいる。
つまり、「門」に「一」で指し示したのは、「門脇了一(壱)」ではなく「門脇一(和)美」だったのだ。

和美は茂を誘拐すると、自宅の車のトランクに監禁した。
三浦に脅迫電話を架けさせると、頃合いを見計らって席を立ち茂を殺害した。
現場は自宅の車庫である、ものの数分とかからないだろう。
その上で、身代金を死体を乗せた車で史朗に運ばせる。
もちろん、史朗はそれとは知らない。
取引現場では三浦が待ち構えており、隙を見てトランクから茂の死体を運び出したのだ。
和美と三浦は身代金ではなく、死体をリレーしていた。

こうして、殺害に対してアリバイを持った和美。
そして、誘拐に対してアリバイを持った三浦。
互いに役割分担し、アリバイを成立させたのだった。

その後、史朗が三浦に辿り着くや、三浦を口封じに抹殺したのだ。

義父・了壱の言葉を思い出す史朗。
「和美には私が必要なのだ」とは、このことを指していたのだ。
了壱は和美を庇おうとしていたのである。
彼が必死だったのも当然だった。

綸太郎は語り続けている。
それは動機に差し掛かっていた。

和美は茂が史朗の息子であると早々に気付いていた。
同時に、史朗と路子の関係に気付き煩悶した。
自分は史朗との子供を奪われたのに、路子は史朗との子供を産んでいる。
許せない―――そんな意識がいつしか、子供を奪ったのは路子だと繋がったのだろう。
やがて「目には目を、歯には歯を」と発展した。
結果、茂は殺害されたのだ。

和美を追い詰めたのは自分だった。
そう気付いた史朗は亡き和美に謝罪する。
そして、和美の遺志を継ぐであろう息子・隆史にすべてを告げ、彼の手で裁かれる日を望むのであった―――エンド。

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コミック版もあります。
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