ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
・1巻
建築家・桐生晴之は焦れていた。名を売るほどの大きな仕事ができていない現実に。最愛の女との約束、そして彼女を死に追いやった男への復讐心。激情を胸に秘め、成功を目指す晴之。だが、小樽署の元刑事・渡誠一郎が、隠し続けた彼の過去に迫る。出会うはずのない二人が追う者と追われる者になった時、それぞれの宿命が彼らを飲み込んでいく――。
・2巻
渡誠一郎は悔いていた。八年前に小樽の海に遺棄された女性の身元を割り出せなかったことを。死体が揚がったのは、愛娘が不運な事故で命を落とした場所でもあった。退官してなお消えない執念は、事件解決への僅かな手がかりから再燃する。そして、名前すらわからぬ一人の男を追い詰めていく。だが、既に誠一郎の肉体は癌に深く蝕まれていた……。
・3巻
晴之は大きなチャンスを前にしていた。金と欲と思惑が渦巻く超巨大企業「サンライズ実業」の中枢に食い込み、ホテル設計の仕事を得ようとするが、一つの事件が運命を大きく狂わせる……。
・4巻
信じた友の、命を賭した凶行。晴之の成功は、日陰に生まれ落ちた者たちの悲願に変わった。哀しみと期待を一身に背負い、悲壮な決意で道を切り開く晴之。そして、彼に対して深い理解を示しながらも執拗に追い詰めていく誠一郎。ついに二人が対峙した時、運命は優しく微笑むのか、それとも――。人が人として生きる意味を問う感動巨編、完結!
(幻冬舎公式HPより)
<感想>
「追われる者・晴之」と「追う者・誠一郎」を描いた重厚な人間ドラマです。
同時に「日陰に蒔かれた種子」と「日向に蒔かれた種子」との対立を描いた作品でもあります。
「日陰」と「日向」は、格差の象徴。
ただし、本作中でも明かされている通り、これは1つの対立軸に過ぎないことも示唆されています。
例えば、「日陰」でありながら、美里と共に過ごした晴之は「満たされていました」し、一方で「日向」である筈の葛城は「精神的に悩みを抱いて」いました。
もちろん、「日向」側である筈の茜もハンデを背負っています。
決して、単純な「日向」と「日陰」で割り切れる問題ではない―――そう感じられます。
ちなみに、ラストで登場した「美朝」はあの人と晴之の間の娘なんでしょうね。
良一と誠一郎のように、父から子へ志が受け継がれるのでしょうか。
本作中で最も良かったのは「5枚のコイン」のくだり。
あそこはグッと来ました。
「ネタバレあらすじ」でも其処は盛り込んでいますが、あくまで本作のそれまでの積み重ねがあってのアレなのであらすじでは表現しきれないなぁ。
本作は内容はもちろん、その筆致や文体が大きく作用している作品です。
当然、あらすじでは良さは伝わらないでしょう。
本作自体を読むことをオススメします。
それでも興味のある方は「ネタバレあらすじ」へお進み下さい。
ちなみに、「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように改変しているので注意!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
【晴之とその周辺】
桐生晴之:新進気鋭の天才建築家。ある秘密と野望を持つ。
江畑美里:晴之の恋人、故人。
木場浩:晴之の「KK」時代からの親友。彼の行動が晴之を苦境に……。
幸治:晴之の「KK」時代の後輩。晴之と美里のある秘密を知っている。
李京愛:晴之と美里の間柄を知る人物。晴之を愛している。
【渡家】
渡誠一郎:定年退職を迎えた元刑事。過去の未解決事件を追う。
渡鈴子:誠一郎の妻。
渡良一:誠一郎の息子、病に倒れた父に代わり晴之を追い詰める。
渡梢:幼くして死亡した誠一郎の娘。
【サンライズ実業(清家家)】
清家茜:美里に瓜二つの容姿を持った女性。サンライズ実業の後継者。晴之に惹かれる。
清家淳蔵:茜の祖父。茜を後継者として考えており、晴之を気に入る。
清家淳介:茜の兄、野心家。サンライズ実業の後継者を狙うも淳蔵から嫌われておりこれと対立する。
吹田:サンライズ実業の常務。淳介を後継者にすべく暗躍する。
堀峰:晴之の友人。晴之と茜の仲を応援する。
【その他】
周藤:建築家。晴之の師で彼の才能を妬み目の仇に。
葛城:建築家。自称・晴之のライバル。
大木:淳介が依頼した闇社会の人間。浩を疎ましく思っている。
美朝:ある人物の娘。ラストに登場する。
新進気鋭の天才建築家・桐生晴之には果たさねばならない野望があった。
それは失われた恋人・江畑美里との約束である。
晴之は日陰に蒔かれた種子であった。
絵画の才能に恵まれる彼だったが経済的に恵まれず、苦しんでいた。
そんな彼は社会に絶望し、過去に不良グループ「KK」を結成し在籍していた。
彼は其処でかけがえのない親友・木場浩や漁師の息子・幸治と出会う。
そして、何より大切な江畑美里とも。
美里と共に夢を抱いた晴之は画家ではなく、生活が安定するであろう建築家を目指すように。
浩が事件を起こし収監されたこともあって「KK」を解散し、2人で夢を叶えようとする。
李京愛と出会った晴之と美里。
京愛は晴之に惹かれつつ、2人の恋を応援しアクセサリーをプレゼントする。
晴之にとっては辛くとも幸せな日々であった。
だが、実際問題として夢を叶えるためにも金が必要である。
美里は晴之に自身の夢実現を託し、大学に進学させることに。
その資金はすべて美里が働いて得たものだ。
しかし、若く後ろ盾もない美里が大金を得られるような職場は限られていた。
さらに、美里は白血病を患っていた。
こうして、美里は売春クラブに所属することに。
この選択は美里の命をさらに縮めた。
クラブの客である清家淳介に麻薬を使われ、さらに身体を痛めつけられたのだ。
淳介は美里に溺れ、美里は心ならずも金の為に身体を酷使する。
結果、美里はそのまま死亡してしまう。
事情に気付いた晴之だが、既に遅かった。
晴之の腕の中で死亡した美里。
晴之は彼女の最期の言葉を果たすべく、日陰に蒔かれた種子ながら成功してみせると誓う。
さらに美里の願い通りその遺体は故郷の小樽の海に沈めた。
身許が分かる物はすべて外したが、2人の愛の証拠である李のアクセサリーだけは外せなかった。
美里が小樽の海に眠っていること―――この事実を知るのは晴之と船を借りた幸次以外にはいない。
こうして、晴之は美里の死を代償に、大学を卒業し建築家への道を得た。
大学在学中には堀峰と言う新たな親友も得た。
だが、晴之は美里の死の原因となった清家淳介を恨まずにはおれなかった。
そして、今―――晴之は復讐と夢を果たすべく淳介が専務を務めるサンライズ実業に目を向けた。
そこは堀峰の勤務先でもあり、情報も簡単に手に入れられた。
淳介と後継者を巡り争っていた茜の存在を知った晴之は彼女に近づく。
ところが、如何なる運命の悪戯か。
茜の容姿は美里に瓜二つだったのである。
定年退職した元刑事・渡誠一郎にはやり残したことがあった。
小樽の海から引き揚げられたある女性水死体事件の犯人を捕まえることである。
被害者はアクセサリー以外に身許が分かるような物を一切、身に着けておらず捜査は難航。
結局、そのまま未解決となっていた。
誠一郎は過去に同じ小樽の海で、娘の梢を失っており、梢と被害者を重ね合わせその無念を晴らしたかったのだ。
だが、肝心の手掛かりがない。
家と小樽の海を往復する日々が続く。
そんなある日、テレビに登場した李京愛というジュエリーデザイナーを見て驚くことに。
李の作成したジュエリーこそ、あの被害者が身に着けていた物と同じだったのだ。
こうして、思わぬところで手掛かりを得た誠一郎は李のもとへ。
これを皮切りに誠一郎は一歩、また一歩と晴之に近付いて行く―――。
その頃、当の晴之は新たな壁の存在に悩んでいた。
茜と接触した晴之は彼女の心を掴み、その祖父・淳蔵とも面識を得た。
淳蔵は晴之を痛く気に入り、茜との仲を取り持ってくれるまでになった。
淳蔵は淳介ではなく、茜をサンライズ実業の後継者に考えていた。
そんな茜と晴之が結婚すれば、すなわち晴之こそが後継者になれるのだ。
それは美里の夢実現への最短距離であった。
だが、これは淳介にとって好ましからざる事態であった。
当然、妨害の手を打って来る。
淳介を支持する常務の吹田は闇社会の人間を用い晴之への脅迫を開始。
同時に晴之は自身の建築の元師である周藤と、晴之のライバルを名乗る若手建築家・葛城をも敵に回すことに。
彼らの攻撃は執拗かつ陰湿であった。
荒事には慣れている晴之だが、心が弱ってしまう。
そんな彼を李京愛が支える。
李は晴之の心が自身を向いていないことを知りながら、身体だけの関係を結んでいた。
そんな晴之に新たに迫るのが誠一郎の影である。
晴之は四面楚歌の状況を迎えていた―――。
矢先、刑期を終えた浩が美里の事実を掴み、晴之に接触して来る。
浩は仇が清家淳介であると考える。
また、晴之の夢を邪魔しているのも奴だ、と。
こうして、浩は淳介を打倒すべく調べるように。
だが、この動きは淳介に掴まれてしまう。
晴之と浩の関係までは知らない淳介だが、警戒し浩を嫌う大木に排除を依頼する。
この為に、浩は自身を慕う舎弟を殺されてしまう。
激情に駆られた浩は新たな仇となった大木を殺害し、警察に追われることに。
自分が捕まれば、晴之の邪魔になってしまう。
思い詰めた浩は「日陰に蒔かれた種子が、日向に蒔かれた種子に打ち勝つ夢」を晴之に託す。
浩は美里の死体遺棄についても自身の犯行であり、美里を殺した淳介への恨みから殺害したと主張し、淳介を道連れに死亡することに。
一方、実は李京愛を愛してしまった葛城。
葛城自身は卑怯な手段を好ましく思っておらず、寧ろ晴之と友人になりたいとすら思っていた。
だが、その両親からの期待は大きく、プライドを捨て去ることが出来ない。
結局、自殺の道を選ぶことに。
この際、周藤の不正の証拠を晴之に託したことで、晴之は誠一郎を除くすべての障害排除に成功するのであった。
しかし、浩という親友を失い。
また、「日向に蒔かれた種子である」筈の葛城の苦悩を知った晴之は自身の手段が本当に正しかったのか悩み始める。
その頃、誠一郎は自身が余命幾許もないことを知る。
捜査に力を入れ過ぎたあまり、身体の変調を押して動いたのが原因であった。
無理をし過ぎたのだ。
入院せざるを得なくなった誠一郎は動けなくなってしまった。
そんな父の病状を知った息子・良一。
良一は妹・梢の死に責任を感じていた。
彼が目を離した隙に妹は死亡してしまったのだ。
蟠りを抱えて育った彼だが、刑事である父を尊敬し同じ職業に就いていた。
そこへ父の病気と、大木殺害事件である。
さらに、木場浩による淳介殺害に至り、良一は父の志を継ぎ捜査を始める。
木場浩が晴之と連絡をとっていた事実を確認したことから、桐生晴之を巡る江畑美里や木場浩、さらに幸次の関係を掴んだ良一は遂に晴之にまで迫る。
晴之の牙城が崩れるのも時間の問題かと思われた。
自身を取り巻く環境の激変に気付いた晴之。
美里と自分の夢が周囲を傷付けると悟った晴之は、すべてに決着を望むように。
矢先、病床の誠一郎に招かれる。
事件について問われるも、周囲への影響を考えシラを切り通そうとする晴之。
だが、誠一郎は自身の命が長くないことを告げる。
さらに、誠一郎の口からは驚きの新事実が。
過去、美里の水死体を発見した日から、被害者が何かを訴えかけてくる夢を見るようになった誠一郎。
最初は、犯人を捕まえて欲しいとのものだと思っていた。
だが、最近になって美里は「自分が悪いので、遺棄した人物を許してくれ」と謝罪していたのだと気付いたと語る。
さらに、美里の死体を引き上げたのは幸治の父であった。
つまり、美里を遺棄したと同じ漁船が美里を引き上げていたのだ。
すべては運命であったと察する晴之。
真実は明かされなければならない。
だが、これ以上、誰も傷つけてはならない。
そんな晴之に誠一郎は口で答えなくても良いのでコインの裏表で返答して欲しいと述べる。
「YES」なら「表」、「No」ならば「裏」だ。
これに素直に応じる晴之。
美里の死は殺人事件では無かった。
淳介殺害は浩の独断であった。
茜や幸次をこれ以上、巻き込まないで欲しい。
そして、最後にあなたには死なないで欲しい。
これらの問いに1つ1つコインを置く晴之。
暫くして、晴之が病室を去り、その答えを目にした誠一郎は大粒の涙を流す。
他の問いはすべて「YES」だが、最後の問いにのみ「NO」と答えていたのだ。
終幕へ向けて加速する晴之。
自身の遺産を整理すると、茜に淳蔵を通じ別れを切り出す。
さらに、幸治には美里の死体遺棄事件について「何も知らなかった」と答えるよう言い含めた。
李京愛には……別れの言葉を告げられなかった。
これだけのことをするのに、多大な時間がかかってしまった。
晴之は終焉の地として美里の眠る小樽へ向かう。
そんな晴之を待ち構える影があった、良一である。
良一は父である誠一郎が死亡したことを晴之に告げる。
そして、晴之が小樽に向かうであろうことを誠一郎が予測したことも。
尊敬されるべき人物でしたと口にする晴之。
事実、晴之を追い込んだ誠一郎だが、僅かな邂逅であったもののその心に晴之は感銘を受けていた。
良一は誠一郎からの最期の言葉を伝える。
「すべてのコインが表だったと信じています」との言葉を。
かすかに頷く晴之だったが、もはやその決意は覆せそうにもなかった。
良一はそのまま幸治に美里の遺棄について事情を確認すべく去ってしまう。
残された晴之は幸治から買い取っておいたあの漁船を駆る。
その夜、晴之は自身の身体に重石をつけると漁船に火を点け、海に飛び込んだ。
晴之は美里の眠る海に帰って行ったのであった。
数年後、堀峰は李京愛と再会した。
彼女は子供を連れていた、名は「美朝」。
李はまだ結婚していないらしい―――エンド。
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